保存修復|矯正のために抜いた上顎第一小臼歯10本を、健全歯→保存的MO→拡大MO→MO+髄腔開拡→MOD+髄腔開拡の順に同じ歯で削り、各段階で両咬頭の斜面を50・100・150 Nで押して咬頭間距離の増加(咬頭のたわみ)を測った実験室研究(González-López・De Haro-Gasquet・Vílchez-Díaz・Ceballos・Bravo 2006・Operative Dentistry)
MOをもう少し広げる、髄室を開ける、遠心の辺縁隆線も落としてMODにする——削るたびに、咬頭はどれだけ動きやすくなるのか。González-López らは、抜去した上顎第一小臼歯10本を同じ歯で順に削り、各段階で咬頭の斜面を押して咬頭どうしの距離が、荷重なしの健全歯のときからどれだけ広がったかを測りました。MOの幅を広げても咬頭の開きに有意差は認めませんでした。髄腔開拡を加えると150 Nのときだけ有意に大きくなり(咬頭間距離の増加の平均14.3 µm、MOは7.2・8.0 µm)、両側の辺縁隆線を失うMOD+髄腔開拡では3つの荷重すべてで大きく開きました(150 Nで平均114.4 µm)。ただし抜去歯10本・修復していない窩洞での実験で、破折や臨床の成績は調べていません。
①窩洞を広げると、咬頭はどれだけ開く?
小臼歯のMO窩洞を形成していて、「もう少し広げたい」「髄室まで開けることになった」「遠心も落としてMODにする」と、削る範囲が増えていく場面があります。削るたびに、残った頬側と口蓋側の咬頭は、噛む力でどれだけ動きやすくなるのか。
これを、同じ歯を順に削りながら咬頭どうしの距離の広がりで測ったのが、スペイン・グラナダ大学の González-López らが Operative Dentistry に出した論文(PubMedの書誌では2006年)です。
・抜去した上顎第一小臼歯10本を、健全歯→保存的MO→拡大MO→MO+髄腔開拡→MOD+髄腔開拡の順に同じ歯で削り、各段階で咬頭の斜面を50・100・150 Nで押して、荷重なしの健全歯を基準に咬頭間距離の増加を測った(窩洞は修復していない。以下の µm はこの増加の平均)
・咬頭間距離の増加は、保存的MOと拡大MOの間で、3つの荷重のどれでも有意差を認めなかった
・髄腔開拡を加えると、150 NのときだけMOより有意に大きく開いた(平均14.3 µm、保存的MO 7.2 µm・拡大MO 8.0 µm)
・両側の辺縁隆線を失うMOD+髄腔開拡では、3つの荷重すべてで有意に大きく開いた(150 Nで平均114.4 µm)
②なぜこの研究が必要だったか
著者らは序論で、う蝕・外傷・窩洞形成で歯質を失うと歯の強さが落ち、咬合力で咬頭がたわみやすくなるという先行研究を引いています。根管治療した歯は特に破折しやすいとされてきました。
ただし、何がいちばん効くのかは報告によって違いました。辺縁隆線を失うことが最も大きいとする報告がある一方、窩洞の深さ(根管治療歯では窩洞が深くなる)を重く見る報告や、根管治療の手順そのものの影響は限られるとする報告もありました。
そこで著者らは、歯ごとの形や硬さのばらつきを避けるため、1本の歯をそれ自体の基準にして、形成の段階と荷重の大きさがそれぞれ咬頭のたわみにどう効くかを、歯を壊さない方法で調べました。
③何をどう調べたか
・歯:矯正のために抜いた上顎第一小臼歯。う蝕・亀裂がなく、咬合面の形が整い、歯冠の大きさが近い10本を選んだ
・固定:アクリルレジンに垂直に植え、健康な歯槽骨の支えを模して歯根を2 mm出した
・測り方:両咬頭の頂から0.5 mm下のエナメル質に小さなガラス球を接着し、球と球の距離をデジタルノギスで測った(0.001 mm単位、各条件10回の平均)。荷重なしの健全歯での距離は平均9669 µm
・荷重:直径4.5 mmの鋼の円柱を歯の長軸と直角に置き、頬側と口蓋側の咬頭の斜面に同時に当てて、50・100・150 Nで押した(各30秒保持)。150 Nの後は15分休ませ、元の距離に戻ったことを確かめてから次の形成に進んだ
・削る順:健全歯→保存的MO→拡大MO→MO+髄腔開拡→MOD+髄腔開拡(寸法は図1)
・統計:フリードマン検定で全体を比べ、差があればウィルコクソン検定(ボンフェローニ補正)で組ごとに比べた
保存的MOは咬合面の幅が咬頭間距離の約4分の1、拡大MOは3分の1以上です。髄腔開拡の段階で窩洞の深さは2.5 mmから7 mmになり、窩底が髄室の床になります。MODでは遠心の辺縁隆線も失われ、頬側と口蓋側の咬頭は、著者らの言葉では「ほぼ孤立した」状態になります。
④結果1:150 Nでは、MOD+髄腔開拡の開きが際立った
数値は、荷重をかけていない健全歯での咬頭間距離(平均9669 µm)からの増加です。150 Nで押したとき、その増加の平均は、健全歯で2.6 µm、保存的MOで7.2 µm、拡大MOで8.0 µm、MO+髄腔開拡で14.3 µm、MOD+髄腔開拡で114.4 µmでした。
多重比較では、保存的MOと拡大MOは同じ組(有意差なし)で、どちらも健全歯より有意に大きく、MO+髄腔開拡はその2つより有意に大きく、MOD+髄腔開拡はさらに有意に大きい、という4段の並びになりました。MOD+髄腔開拡の標準偏差は53.9 µmと大きく、歯によって開き方の差が大きかったことも読み取れます。
⑤結果2:差が出る荷重は、削った段階によって違った
・50 N:健全歯と比べて有意に開いたのはMOD+髄腔開拡だけ(平均27.8 µm)。保存的MO・拡大MO・MO+髄腔開拡は平均では増えていたが、健全歯との有意差は認めなかった
・100 N:保存的MO(5.4 µm)と拡大MO(5.8 µm)は健全歯より有意に開いた。MO+髄腔開拡(10.3 µm)も健全歯より有意に開いたが、MOとの有意差は認めなかった。MOD+髄腔開拡は56.2 µm
・150 N:MO+髄腔開拡(14.3 µm)がMOより有意に大きくなった(結果1)
・削った4段階ではどれも、荷重を上げるごとに距離が有意に増えた。健全歯では、有意差は50 Nと150 Nの間だけだった
・大きく開いた条件でも、実験中に破折は起きなかった
著者らは、髄腔開拡で150 Nのたわみが「倍になった」と書いています(表2の平均では拡大MOの8.0 µmに対して14.3 µm)。また、MOD+髄腔開拡で荷重を50 Nずつ上げると、開きはおおむね倍々に増えました(27.8→56.2→114.4 µm)。
⑥結果の読み方:効いたのは「幅」より「辺縁隆線」と「髄室の上の象牙質」
著者らは結論で、歯質を削るほど、また荷重が大きいほど咬頭のたわみは有意に増え、辺縁隆線や髄室の上の象牙質といった要の構造を除いた影響は、高い荷重で特に大きかったとまとめています。そして遠心の辺縁隆線まで失うMOD+髄腔開拡で、たわみが大きく増えたとしています。
一方、咬合面の幅を2 mmから2.5 mmに広げた拡大MOでは、咬頭間距離の増加に保存的MOとの有意差を認めませんでした。著者らはこれを、峡部の幅は窩洞の深さほど歯を弱くしないという先行研究と合うと述べています。ただし、この研究では削る順が一通りで、髄腔開拡をしないMODは調べていません。MODで大きく開いたのが遠心の辺縁隆線を失ったためか、遠心側の髄室との間の象牙質を失ったためかは、この実験では分けられません。
荷重を上げるたびに開きが倍々に増えた点について、著者らは象牙質の弾性や、荷重を続けたことによる粘弾性の影響を考察していますが、これは測定ではなく考察です。
⑦明日の臨床へ
この研究は窩洞を修復していないので、修復材料の選び方や、破折・脱離の起こりやすさを直接は教えてくれません。それでも、形成の判断で次のことは意識できそうです。
・辺縁隆線と髄室の上の象牙質は、咬頭のたわみを抑える部位として残す価値がある。隣接面のう蝕を除去するとき、反対側の辺縁隆線を残せるかは一度立ち止まって考えたい
・咬合面の幅を2 mmから2.5 mmに広げた拡大MOでも、咬頭間距離の増加に保存的MOとの有意差は認めなかった。ただし10本・修復前の窩洞での結果で、差が無いことの証明ではない
・根管治療でMOD+髄腔開拡になった小臼歯は、頬側と口蓋側の咬頭がほぼ孤立し、大きく動く状態になる。著者らは考察で、根管治療した臼歯では咬頭を覆う修復が失敗を減らすとする別の研究を引いている(この研究自体は修復を比べていない)
今日のひとこと
抜去した上顎小臼歯10本を同じ歯で削り進めると、MOの幅を広げても咬頭の開きに有意差は認めず、髄腔開拡で150 Nのときに、両側の辺縁隆線を失うMOD+髄腔開拡で3つの荷重すべてに、咬頭の開きが有意に大きくなりました。著者らは、辺縁隆線と髄室の上の象牙質を歯の剛性を保つ要の構造(strategic structures)と位置づけ、それを除いた影響は高い荷重で特に大きかったとまとめています。修復していない窩洞での実験なので、「辺縁隆線と髄室の上の象牙質を残せるなら残す理由が一つ増えた。ただし修復後の破折や長期の成績はこの研究からは言えない」という程度に受け取るのが、この論文に合った読み方です。


