保存修復|う蝕のある抜去した第三大臼歯40本で、う蝕を低速のスチールラウンドバー・Er:YAGレーザー・600番の耐水研磨紙のどれかで取り、Clearfil Protect Bond(セルフエッチ)と OptiBond Solo Plus Total-Etch(エッチ&リンス)で接着して、24時間後の微小引張接着強さを比べた実験室研究(Sattabanasuk・Burrow・Shimada・Tagami 2006・Australian Dental Journal)
臨床で接着する相手は、う蝕を取ったあとに残る象牙質(う蝕影響象牙質)であることが多い。では、その取り方で接着の強さは変わるのか。Sattabanasuk らは2006年、う蝕のある抜去歯を使って調べました。Clearfil Protect Bond の接着強さの平均は、低速のスチールラウンドバーで取った面で12.2 MPa と最も低く、600番の耐水研磨紙の面で35.4 MPa、Er:YAGレーザーの面で32.5 MPa でした。OptiBond Solo Plus Total-Etch は21.3〜26.6 MPa で、取り方の間に有意差を検出しませんでした。ただし抜去歯で24時間後に測った実験室の値で、各群の試料は10個です。臨床での成績は調べていません。
①う蝕をどう取ったかで、接着の強さは変わる?
う蝕を取りきったあとの窩底は、感染した軟らかい象牙質を除いた、少し着色の残る硬い象牙質――う蝕影響象牙質――であることが多いものです。そこへ接着するとき、う蝕をバーで取ったか、レーザーで取ったかで、接着の強さは変わるのでしょうか。
これを、う蝕のある抜去歯を使って調べたのが、タイ・オーストラリア・東京医科歯科大学の Sattabanasuk・Burrow・Shimada・Tagami が2006年に Australian Dental Journal に出した論文です。
・う蝕のある抜去した第三大臼歯で、う蝕を3通りの方法で取り、2種類の接着材で接着して、24時間後の微小引張接着強さを比べた実験室研究(各群の試料10個)
・Clearfil Protect Bond(セルフエッチ)の平均は、低速のスチールラウンドバーで取った面で12.2 MPa と最も低く、Er:YAGレーザーで32.5 MPa、600番の耐水研磨紙で35.4 MPa。バーの面は、ほかの2つより有意に低かった
・OptiBond Solo Plus Total-Etch(エッチ&リンス)は21.3〜26.6 MPa で、取り方の間に有意差を検出しなかった
・2つの接着材を比べると、バーの面では OptiBond Solo Plus Total-Etch が、研磨紙の面では Clearfil Protect Bond が有意に高く、レーザーの面では有意差を検出しなかった
②なぜこの研究が必要だったか
著者らは序論で、感染した象牙質だけを取り、再石灰化し得るう蝕影響象牙質を残す考え方が広まり、接着の相手はう蝕影響象牙質になることが多いと書いています。う蝕を取る方法には、回転切削器具のバーのほか、Er:YAGレーザーも提案されていました。
引用されている先行研究の電子顕微鏡の観察では、レーザーで取った面はスミア層ができず象牙細管が開いており、スチールラウンドバーで取った面は厚いスミア層で細管が塞がれていたとされます。一方、実験室の接着の研究の多くは、600番の耐水研磨紙で面を作っていました。研磨紙の面は比較的薄いスミア層に覆われ、それが特にセルフエッチ方式に有利に働いた可能性が指摘されていました。
そこで著者らは、「接着材は取り方に関係なく同じように接着する」「2つの接着材の接着強さに差は無い」という2つの帰無仮説を立てて調べました。
③何をどう調べたか
・歯:咬合面のう蝕が、エナメル象牙境と歯髄の中間あたりまで達した抜去ヒト第三大臼歯40本(抜歯後およそ6か月以内に使用)。う蝕の取り方の3群に無作為に分けた
・取り方:①低速のコントラアングルに付けたカーボンスチールのラウンドバー(冷却は空気)②Er:YAGレーザー(Elfine 400、180mJ・2Hz、注水、非接触)③研磨機に付けた600番の耐水研磨紙(注水)
・取る目安:目視と、レーザー蛍光の装置(DIAGNOdent)の値がおよそ20に下がるまで。どの試料も、硬く、わずかに着色した象牙質の面になった
・接着材:Clearfil Protect Bond(クラレメディカル。プライマーとボンドのセルフエッチ方式)と、OptiBond Solo Plus Total-Etch(Kerr。37.5%リン酸でエッチングして水洗するエッチ&リンス方式)。どちらもメーカーの指示どおりに使い、コンポジットレジン(Clearfil AP-X)を築盛した
・測定:37℃の水に24時間置いたあと、薄片を砂時計形に削り(接着面の断面積 平均0.50mm²)、1mm/分で引っぱって微小引張接着強さを測った。各群の試料は10個で、1本の歯から1〜3枚の薄片を取った
・観察:破断面を電子顕微鏡で見て破壊の様式を面積の割合で測り、別の6本でエッチング後の面と接着界面を観察した
・統計:二元配置分散分析と LSD 検定(破壊の様式はカイ二乗検定)
④結果1:Clearfil Protect Bond は、バーの面で最も低く、研磨紙の面で最も高かった
Clearfil Protect Bond の平均は、低速のスチールラウンドバーで12.2 MPa(標準偏差3.1)、Er:YAGレーザーで32.5 MPa(7.1)、600番の耐水研磨紙で35.4 MPa(9.7)でした。バーの面は、ほかの2つの取り方より有意に低く、研磨紙とレーザーの間には有意差を検出しませんでした(p=0.386)。
OptiBond Solo Plus Total-Etch は、バーで21.3 MPa(7.5)、レーザーで26.6 MPa(9.4)、研磨紙で25.7 MPa(5.9)。取り方の間に有意差を検出しませんでした(p>0.05)。
2つの接着材を同じ取り方どうしで比べると、バーの面では OptiBond Solo Plus Total-Etch が有意に高い結果でした(抄録・考察の記述。p値の記載なし)。研磨紙の面では逆に Clearfil Protect Bond が有意に高くなりました(p=0.006)。レーザーの面では有意差を検出しませんでした(p=0.084)。二元配置分散分析では、取り方(p<0.001)と接着材(p=0.009)のどちらにも有意な差がありました。
⑤結果2:電子顕微鏡で見た、取り方ごとの面の違い
破壊の様式(接着界面での破壊・象牙質の凝集破壊・レジンの凝集破壊の面積の割合)は、群の間に有意差を検出しませんでした(表2)。著者らは、バーの面では OptiBond Solo Plus Total-Etch のほうが界面での破壊がやや少なかったと書いています。
エッチング後の面と接着界面の電子顕微鏡の観察(別の6本)では、取り方ごとに次の違いが見られました。
・スチールラウンドバー:Clearfil Protect Bond のプライマーを塗ったあとも厚いスミア層と細管のスミアプラグが残り、はっきりした樹脂含浸層は見えず、界面に隙間があった。リン酸ではスミア層とプラグが一部除かれ、約5µmの樹脂の浸み込んだ層が見えたが、多数の小さな孔があった
・Er:YAGレーザー:どちらの処理でもスミア層は無く細管は開いており、表面に微小な亀裂が見られた。どちらの接着材も面によく密着していたが、はっきり区別できる樹脂含浸層は見えなかった
・600番の耐水研磨紙:Clearfil Protect Bond のプライマーで表面のスミア層は溶け、細管のプラグは残った。約1µmの樹脂含浸層が見えた。リン酸ではスミア層もプラグも除かれ、約5µmの樹脂の浸み込んだ層が見えたが、細管の中に鉱物の結晶があった
⑥著者らの考察
著者らは、2つの帰無仮説はどちらも否定されたとし、接着材の違いに加えて、う蝕の取り方の違いも接着に影響し得ると結論しています。取り方のあとに残るスミア層とスミアプラグが、接着の成否に関わっているのではないか、という見方です。
考察では次のように説明しています。いずれも著者らの解釈で、この研究で直接確かめたものではありません。
・バーは術野を見やすくするため空気で冷やしており、その熱と回転で、削りくずが表面と細管に押し込まれたのかもしれない。Clearfil Protect Bond の弱い酸性のプライマーでは、このスミア層を通り抜けて脱灰できなかったのではないか
・研磨紙の面で Clearfil Protect Bond が高かった理由ははっきりしない。セルフエッチの接着材と歯面のカルシウムとの化学的な結合の可能性や、う蝕影響象牙質は無機質が少ないため37.5%リン酸では脱灰が深くなりすぎた可能性を挙げている
・研磨紙で作る面は均一で薄いスミア層に覆われ、臨床で作られる面とはあまり似ていない
・レーザーの面は表層の変性した層をエッチングで除けた可能性がある一方、その下のコラーゲンが熱で変性していて、樹脂含浸層が見えなかった理由になり得る
研究の限界として著者らは、削り残しの判定に目視と DIAGNOdent を使ったが、DIAGNOdent を窩洞を形成している途中の残ったう蝕の判定に使う妥当性ははっきりしていない、と書いています。
⑦明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。
・接着の実験室研究の多くが使う「600番の研磨紙の面」は、臨床でバーやレーザーで作る面とは違う:研磨紙の面の値をそのまま臨床の面に当てはめないほうがよい
・取り方の影響は接着材によって違った:OptiBond Solo Plus Total-Etch では取り方の間に有意差を検出しなかった
ただし、この研究は24時間後の接着強さを抜去歯で測ったもので、修復物の長持ちや二次う蝕などの臨床成績は調べていません。「この取り方とこの接着材の組み合わせが臨床で良い・悪い」とまでは言えないので、接着の論文を読むときに「どうやって面を作ったか」を確かめる視点として持ち帰りたい一本です。
(2)各群の試料は10個で、1本の歯から1〜3枚の薄片を取っています。各群の歯の本数は書かれておらず、同じ歯の試料どうしの似かよりは解析で考慮されていません。
(3)バーは空気で、レーザーと研磨紙は水で冷やしており、冷却の条件がそろっていません。研磨紙は臨床では使えない取り方です。
(4)接着材は研究当時の2製品だけで、ほかの製品や現在の製品に同じ結果が出るとは限りません。
(5)東京医科歯科大学の COE プログラムの助成を受けており、利益相反の記載はありません。
「う蝕の取り方という、ふだん意識しにくい条件で、接着強さの値がここまで動く」という点で面白い結果です。臨床の窩洞に近い面で調べた続報と合わせて読みたいところです。
今日のひとこと
う蝕のある抜去歯で調べると、Clearfil Protect Bond の接着強さは、低速のスチールラウンドバーで取った面で最も低く、600番の耐水研磨紙の面で最も高かった一方、OptiBond Solo Plus Total-Etch は取り方の間に有意差を検出しませんでした。著者らは、取り方によって残るスミア層の違いが接着に関わるのではないかと考えています。24時間後の実験室の値なので、「う蝕を取った面の作り方が、接着材によっては接着強さの測定値を大きく変え得る。接着の研究を読むときは面の作り方も見る」という程度に受け取るのが、この論文に合った読み方です。


