保存修復|イットリア3・4・5mol%のジルコニア3種は透明感・曲げ強さ・き裂の進みにくさを測り、二ケイ酸リチウムは透明感とき裂の進みにくさを測って比べた実験室研究(二ケイ酸リチウムの曲げ強さは他研究の値)(Zhang ほか 2019・Acta Biomaterialia)
一体型修復で選ばれる「透けるジルコニア」。透明感を上げるためにイットリアを増やすと、強さはどこまで犠牲になるのか。フランス・ドイツ・ベルギーのグループは、イットリア3・4・5mol%のジルコニア(3Y・4Y・5Y)を同じ条件で焼き、二ケイ酸リチウムと並べて透明感・曲げ強さ・き裂の進みにくさを比べました(曲げ強さを測ったのはジルコニア3種のみで、二ケイ酸リチウムは他研究の値を参照)。結果は、5Yは透明感が高いぶん曲げ強さが下がり、ばらつきも大きかった一方、4Yは3Yより透けやすく、平均の曲げ強さには3Yと有意差がありませんでした。
①透けるジルコニア、そのぶん弱い?
前歯部やシェードの難しい症例で、「透けるジルコニア」を選ぶ場面が増えました。ただ頭のどこかに、「透明感を上げたジルコニアは、そのぶん割れやすいのでは」という不安が残ります。
この論文は、その不安を数字で分解しています。実験室で板や棒の試料を測ったところ、5Yは透明感が高いぶん曲げ強さが下がり、ばらつきも大きかった。一方で4Yは、3Yより透けやすいのに、平均の曲げ強さは3Yと有意差がありませんでした。「イットリアを増やすほど必ず弱くなる」とは限らなかった、というのが著者らの指摘です。
②強さと透明感は、なぜ両立しにくいのか
従来の3Yジルコニア(イットリア3mol%)は強い一方、光を通しにくい材料です。著者らの説明では、結晶の粒の境目で光が散乱するためで、以前は前装陶材を重ねて見た目を補っていました。
一体型(モノリシック)の修復が広がるにつれ、イットリアを増やして透明感を上げたジルコニアが次々に登場しました。イットリアを増やすと、光を散乱しにくい立方晶が増えて透けやすくなります。その代わり、き裂の先で結晶が変わってき裂を止める仕組み(相変態強化)が弱まります。そのため、イットリアの多いジルコニアは力のかかりにくい部位に限られる、とする先行研究を著者らは引用しています。
もう1つ著者らが問題にしたのは、「長くもつか」です。口の中の湿気や繰り返しの咬合力で、小さなき裂が時間をかけてゆっくり伸びる現象(ゆっくり進むき裂)が、セラミックの長期の耐久性を左右します。ところが新しい透けるジルコニアで、ここを詳しく調べた研究は少なかったと著者らは述べています。
③今回の実験:3Y・4Y・5Yを同じ条件でそろえて比べた
比較対照:二ケイ酸リチウム(IPS e.max CAD HT)。
評価:①透明感(厚さ0.5mmと1.0mmのコントラスト比・各6試料)②4点曲げ強さ(各20本)とワイブル係数(強さのばらつき)(ジルコニアのみ。二ケイ酸リチウムは他研究の値)③破壊じん性と、ゆっくり進むき裂への抵抗(空気中で、静的な荷重と10Hzの繰り返し荷重)④結晶の種類と粒の大きさ。
試料の形:研磨した円板・棒・板。冠の形では試験していない。
④結果1:イットリアが多いほど透けやすかった
厚さ0.5mmのコントラスト比は、3Y 0.54 → 4Y 0.47 → 5Y 0.36 と下がり、イットリアが多いほど透けやすくなりました(4群すべてに有意差)。ただし同じ厚さでは、二ケイ酸リチウム(0.28)がどのジルコニアよりも透けやすいままでした。
結晶の分析では、立方晶の割合が3Y 13%・4Y 37%・5Y 58%(表1)と、イットリアとともに増えていました。
⑤結果2:4Yは3Yと有意差がなく、5Yは強さが下がった
平均の4点曲げ強さは、3Y 908 MPa、4Y 928 MPaで、3Yと4Yに有意差はありませんでした。5Yは534 MPaと有意に低い値でした。
二ケイ酸リチウムの462 MPaは、ブロックが短くこの研究では同じ試験ができなかったため、同じ方法で寸法の小さい試料を測った別の研究(Wendler ほか 2017)の値を載せたものです。統計的な比較はしていません。著者らは、別の研究で5Yと二ケイ酸リチウムの2軸曲げ強さに有意差がなかったことも引き、両者の曲げ強さは同程度か、差はわずかだろうと述べています。
見逃せないのがばらつきです。強さのばらつきの小ささを表すワイブル係数(高いほど揃っている)は、3Y 9.2 → 4Y 6.3 → 5Y 4.9と下がりました。4Yは平均こそ3Yと有意差がありませんでしたが、強さの揃い方では3Yに及ばず、5Yはさらに低い値でした。ただしワイブル係数の差は統計的に検定されておらず、各20本からの推定値です。表2に載った二ケイ酸リチウムのワイブル係数は10.0(Wendler ほか 2017 の値)で、著者らは結論で、破壊じん性が同程度の5Yより二ケイ酸リチウムのほうが強さが揃っていたと述べています。
⑥結果3:ゆっくり進むき裂への抵抗は、ジルコニア3種が上回った
破壊じん性(KIC)は3Y 5.0、4Y 4.0、5Y 3.3、二ケイ酸リチウム3.1 MPa·m½。き裂が進み始める下限の値(KI0)も、イットリアが増えるほど低くなりました。
一方で、き裂の伸び方の傾き(n値)はジルコニア3種とも約30でほぼ同じで、二ケイ酸リチウム(15.8)より高い値でした。著者らはこれを、「ジルコニア3種は、ゆっくり進むき裂への感受性が互いに似ていて、二ケイ酸リチウムより抵抗が高い」と読んでいます。二ケイ酸リチウムのKI0(1.1)は、破壊じん性の近い5Y(1.5)より約30%低い値でした。
繰り返し荷重は、ジルコニア3種のき裂への抵抗を「明らかに低下させた」と著者らは表現しています(この比較に統計検定の報告はありません)。ただしKI0の低下は著者らの見積もりで約5%(表3の値では5〜7%程度)と小さなものでした。なお、繰り返し荷重の値は荷重の最大値で求めたもので、静的荷重の値と単純に比べて劣化の大きさを決めることはできない、と著者らは注意しています。
⑦なぜ5Yは弱く、4Yは強さを保てたのか(著者らの推察)
き裂の周囲を電子顕微鏡で見ると、3Yではき裂に沿って1〜2粒ぶんの結晶が変わっていて、き裂の開きを抑える様子が観察されました。4Yも同様でしたが、変わった粒は少なめでした。5Yでは結晶の変化が見られませんでした。イットリアが増えるほど、き裂を止める仕組みが働きにくくなったと著者らは説明しています。
では、なぜ4Yは3Yと同じ曲げ強さを出せたのか。著者らは、4Yの加工上の欠陥が小さく、組織が細かいことを理由に挙げています。計算上、破壊の起点となる欠陥の大きさは4Yで13〜9μm、3Yで20〜17μm、5Yで26〜17μmでした。一方で、き裂への抵抗が落ちたぶん欠陥の影響を受けやすくなり、それが強さのばらつき(ワイブル係数の低さ)として表れた、というのが著者らの読みです。
⑧明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
・「透けるジルコニア」とひとまとめにせず、イットリアが何mol%かを確かめる視点が持てます。この研究の範囲では、4Yと5Yで曲げ強さの結果が大きく違いました。
・材料を比べるときは、平均の曲げ強さだけでなくばらつき(ワイブル係数)も見ておくと、カタログの数字の読み方が変わります。
・どの部位・どの厚みまで使えるかは、この研究では調べていません。冠の形での破折試験や臨床研究、メーカーの適応を合わせて判断するのが安全です。
⑨ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:イットリアを増やすと破壊じん性とき裂が進み始める下限の値は下がるが、透明感の高い4Y・5Yは、3Yと二ケイ酸リチウムの間を埋める一体型修復の有望な材料だった。ただし強さのばらつき(ワイブル係数の低さ)には信頼性の面で注意が要り、二ケイ酸リチウム(ワイブル係数は他の研究の値)は破壊じん性が同程度の5Yより強さが揃っていた。ゆっくり進むき裂への抵抗は、ジルコニア3種とも二ケイ酸リチウムより高く、繰り返し荷重はき裂への抵抗を明らかに低下させたが(統計検定の報告はない)、KI0の低下は著者らの見積もりで約5%と小さかった。いずれも研磨した板や棒を空気中で試験した実験室の結果で、冠の形・口の中の環境での成績は調べていない。


