保存修復|長さ200〜300 μmの短いガラス繊維を混ぜた試作フロアブルレジンを、市販のバルクフィル・フロアブル4製品と並べ、破壊靭性・曲げ強さ・硬化深さ・収縮・吸水・すり減りを測った実験室研究(Lassila ほか 2019・Odontology)
臼歯の深い窩洞を、バルクフィルのフロアブルで一気に埋める。手軽ですが、咬合力のかかる場所で「割れ」に耐えられるのかは気になるところです。トゥルク大学と、GCグループのStick Tech社の研究者らは、短いガラス繊維を混ぜた試作のフロアブルレジン(SFRC)を、市販のバルクフィル・フロアブル4製品と実験室で比べました。試作品の破壊靭性(き裂の広がりにくさ)は2.8 MPa·m1/2で、市販4製品(1.2〜1.6)すべてより有意に高い値でした。一方で、曲げ強さでは市販4と有意差がなく、体積収縮では市販1より有意に大きい結果でした。
①深い窩洞をフロアブルで埋めて、割れない?
臼歯の深い窩洞。バルクフィルのフロアブルなら4 mmの厚みまで一度に詰められる、とメーカーはうたっています。操作は楽です。でも、咬合力のかかる場所で「割れ」に耐えられるのかは、また別の話です。
この論文の答えはこうです。短いガラス繊維を混ぜた試作フロアブルは、市販のバルクフィル・フロアブル4製品より、破壊靭性(き裂の広がりにくさ)が有意に高かった。ただし試験片を使った実験室の結果で、曲げ強さでは市販4と有意差がなく、体積収縮では市販1より有意に大きい結果でした。
②なぜ「割れにくさ」を測るのか
著者らは文献を引きながら、臼歯部のコンポジット修復がうまくいかない主な原因として、修復物本体や辺縁の破折と重合収縮を挙げています。割れへの強さを見る基本の物性が、曲げ強さと破壊靭性です。破壊靭性が高い材料は、き裂ができにくく、できても広がりにくいとされます。
一方で、バルクフィル・フロアブルの物性については、従来型と同等以上とする報告と、4 mmの厚みでは重合や強さが落ちるとする報告があり、結果がまちまちだと著者らは述べています。
ガラス繊維で補強したレジン(FRC)には、繊維の束を帯状のまま使う長繊維タイプと、短く切った繊維をレジンに混ぜ込む短繊維タイプがあります。今回扱うのは後者です。流れるフロアブルに、短いガラス繊維をランダムな向きで混ぜた試作品で、著者らによると、生活歯・失活歯の臼歯の大きな窩洞で象牙質を置き換える材料として想定されています。
③今回の実験:試作1種と市販4種を、ISO規格で並べた
試作品の中身:長さ200〜300 μm・直径7 μmの短いガラス繊維と、バリウムガラスのフィラー(合わせて70 wt%)。
測ったもの:破壊靭性(切り込みを入れた棒の3点曲げ・各6本)、曲げ強さと曲げ弾性率(2×2×25 mmの棒・各8本)。どちらも37℃で48時間、乾燥状態で保管してから試験。ほかに硬化深さ(高さ10 mmの型・各3本)、重合率(FTIR・厚さ1.5 mm)、体積収縮(密度から算出)、吸水(水中36日・各7本)、すり減り(咀嚼シミュレーター15,000回・2 kgの荷重・試験片2個(摩耗痕はn=6と記載))。
統計:分散分析とTukeyの多重比較(有意水準0.05)。
④結果:破壊靭性だけは、はっきり抜けていた
試作品は2.8で、市販4製品の1.2〜1.6を上回り、4製品すべてと有意差がありました。市販品の中では、市販1(SDR・1.6)がほかの3製品より有意に高い値でした。
曲げ強さも、試作品が146.5 MPaで平均値はいちばん高い値でした。ただし表2の有意差の記号では、市販4(Estelite・133 MPa)とは有意差なし。市販1・2(120・122 MPa)と市販3(97 MPa)とは有意差がありました。曲げ弾性率は、試作品が9 GPaで、市販4製品(3.5〜5.8 GPa)すべてより有意に高い値でした。
すり減りは、試作品(18.2 μm)と市販3(19 μm)が、ほかの3製品(31.3〜35 μm)より有意に浅い値でした。著者らは、繊維を混ぜてもすり減りは悪化しなかったと考察しています(ただし、繊維を抜いた同じ組成の材料との比較はしていません)。
・硬化深さ:試作品5 mm、市販1・3・4は4.8〜4.9 mm、市販2は4 mm(表に有意差の記号なし)
・重合率:最も高いのは市販4の63.9%で、試作品62.8%とは有意差なし。最も低いのは市販2の55.7%
・体積収縮:試作品3.3%は、最も小さい市販1(2.9%)より有意に大きく、ほかの3製品(3.4〜3.6%)とは有意差なし
・吸水(36日):最も少ないのは市販3の0.4%、次いで試作品0.5%、最も多いのは市販4の1.1%(表に有意差の記号なし)
⑤なぜ繊維で割れにくくなるのか(著者らの説明)
著者らは、短い繊維がき裂の進路をそらし、き裂をまたいで橋渡しし、開こうとする力に抵抗すると説明しています。破断面のSEMでは、ランダムな向きの繊維がレジンから引き抜かれた跡が見られました。一気に割れるのではなく、粘りながら壊れる、という読みです。
繊維がきちんと働くには、直径に対して長さが十分あることと、繊維とレジンがよく接着していることが大切だと著者らは述べます。今回の繊維は長さと直径の比が30を超えており、SEMでは繊維がレジンによく濡れていた。これを補強効果の理由に挙げています。
一方、フィラーの量と物性はきれいに比例しませんでした。フィラーの体積割合が44%と少ない市販1が、46%・56%の市販3・4より破壊靭性が高かった。著者らは、フィラーとレジンの接着やモノマーの構成など、量以外の要因も効くと考察しています。
すり減りについては、摩耗面のSEMで、繊維が引き抜かれて穴になるのではなく、細かく割れてレジンと一緒に研磨されたように見えた、と報告しています。
⑥明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
・市販4製品すべてより有意に高かったのは、破壊靭性と曲げ弾性率です。曲げ強さは市販4と有意差がなく、体積収縮は市販1より有意に大きく、重合率は市販4と有意差がありませんでした。「繊維入りなら全部の物性が上」とは読めません。
・大きな窩洞で象牙質を置き換える材料という位置づけなので、割れが気になる深い臼歯窩洞で検討する材料、というのが論文から言える範囲です。ただしこれは象牙質の置き換えを想定した試作材料で、市販品にそのまま当てはまるかはこの論文からは分かりません。上に別のレジンを重ねるかといった使い方は、この研究では調べていません。
・市販バルクフィル・フロアブルの間でも、曲げ強さ97〜133 MPa、摩耗深さ19〜35 μmと幅がありました。製品を選ぶときは、項目ごとに数値を見る視点が役立ちます。
ただしこれは試験片の短期の物性で、実際の修復物が割れにくいか、長持ちするかは示されていません。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:この実験室研究の範囲では、市販のバルクフィル・フロアブルは製品ごとに物性が異なり、短いガラス繊維を混ぜた試作フロアブル(SFRC)は、市販4製品より破壊靭性が有意に高かった(2.8 対 1.2〜1.6 MPa·m1/2)。著者らは、強い咬合力がかかる部位での性能向上を示唆するとしつつ、新しい材料の初めてのデータであり、さらなる実験室研究と長期の臨床研究で確かめる必要があると述べている。


