タックキュアの有無で合着用セメントのビッカース硬さプロファイルを比較した実験研究(Stegall 2017・J Adhes Dent)
ベニアやクラウンを合着するとき、数秒だけ光を当てて半ゲル状にし、余剰セメントをするりと取る——タックキュア。手技としては当たり前になりましたが、途中で一度光を止めることが最終的な硬化を邪魔しないのか、はっきり確かめた研究はありませんでした。3タイプ7製品を深さ7mmまで測った結果は、多くの人が心配していた方向とは逆でした。
①「数秒だけ当てる」あの一手は、安全なのか
ベニアを圧接し、はみ出したセメントを見て、ライトを2〜3秒だけ当てる。半ゲル状になったところをエキスプローラーで一気に剥がす——タックキュアです。
昔のリン酸亜鉛セメントは硬化後でも簡単に落とせました。ところが今のグラスアイオノマーやレジン系セメントはセラミックにも接着するので、硬化してからでは撤去がひどく面倒になる。だからこの手技が広まりました。
ただ、頭のどこかに引っかかりが残ります。途中で一度光を止めて、2分ほど余剰セメントを取ってから、あらためて本照射する。この「中断」が、最終的な重合を妨げていないか。
理屈上の心配には根拠があります。光照射を中断すると、架橋密度の低い比較的直線的なポリマー構造ができ、軟化しやすくなるという指摘があるからです。一方で、同じ重合度に達するなら中断は機械的性質に影響しないという報告もある。結論が割れているのは、光の強さ・中断の長さ・回数といった条件に左右されるためだと考えられてきました。
そして、これまで調べられていたのはデュアルキュア型の「表面硬さ」だけ。深さ方向の重合度と機械的性質がどうなるかは、未検討のままでした。
②7mmの深さまで、硬さを刻んで測る
硬さを指標に選んだ理由もはっきりしています。硬さは機械的性質そのものであると同時に、重合度とよく相関するからです。
深さ7mmまで測ったのは学術的興味からではありません。臨床のセメント厚は、余剰分まで含めると大きくばらつく——CAD/CAMクラウンやベニアではもちろん、ファイバーポストの合着では6mmを超えると報告されている。インレー・アンレーでも、光が当たる辺縁から数ミリ奥までセメントが伸びています。
③結果——心配していた方向とは逆だった
まず全体像。デュアルキュア型と光重合型は、深くなるほど硬さが有意に低下しました(p=0.0001)。自己重合型RMGIは、深さによる低下がありませんでした——自己重合材料として当然の挙動です。
そのうえで、タックキュアの影響はこうでした。
デュアルキュア型レジンセメント。深さ全体で硬さが上がった。表面あるいは表面近くでは有意に高くなっています。これは重合度が深さ全体で高くなったことを意味します。従来の研究では「表面硬さには有意な影響なし」とされていましたが、リライエックス ユニセム2のプロファイルは、表面の値が同じでも、表面より下では有意に違いうることを示しました。
光重合型ベニア用セメント。深部ではわずかに上がったが、表層(1mmまで)では下がった。ここだけが唯一の不利です。
自己重合型RMGI。影響なし。1製品はタックキュアでわずかに硬くなったように見えましたが、有意ではありませんでした。
ちなみに予備実験では、タックキュア直後のセメント表面硬さは、最終硬さの34〜75%か、測定できないほど軟らかい状態でした。半ゲルという言葉どおりです。
④なぜ表層だけが下がったのか
著者らの説明はこうです。光の強さは、表層でいつも最も高い。そして高強度・短時間の照射は、低強度・長時間より重合度を下げることが示されています。理由として推測されているのは、高い光強度が速い開始反応を招き、ラジカルが高濃度で発生して互いに反応し、重合が早期に停止してしまうという機序です。
この研究のタックキュアはVALOのハイパワーモード(2127 mW/cm²)で行われました。メーカーがタックキュア用に指定しているモードだからです。つまりいちばん光が強く当たる表層に、いちばん強い光を短時間だけ浴びせた——それが表層の硬さ低下として現れた、と。
だから著者らは、こう続けます。「より低い光強度でタックキュアを行っていれば、観察された表層の硬さ低下は避けられただろう」。
一方で深部については、著者らは因果を説明せず、単に「タックキュアがもたらす追加の光照射から利益を受けた」と書いています。そしてここから、この論文でいちばん実務に効く一文が導かれます。
もうひとつ、面白い考察があります。RMGI合着用セメントの公表されている成分には光開始剤が挙げられていないのに、メーカーはタックキュアを勧めている。硬さは変わらないのに、なぜ余剰セメントが取りやすくなるのか。著者らの推測は「光ではなく、照射器が出す熱」です。LEDを含むほとんどの照射器は照射面を温め、温度が上がれば重合反応は加速する。実際、グラスアイオノマーセメントの微小硬さは温度が上がると上昇することが示されています。
⑤明日の臨床へ
タックキュアは、続けてよい手技です。7製品を深さ方向まで測って、最終硬化を損なう証拠は出ませんでした。著者らの結論も「光重合型ベニア用セメントで表面硬さのわずかな低下が起こりうるものの、3タイプ全体への影響は有意でないか、硬化深さのわずかな増加にとどまった」です。
唯一の不利だった「表層の硬さ低下」についても、著者らは自分で答えを出しています。その軟らかい層は、余剰セメントの清掃の過程でどのみち取り除かれる見込みが高い——だから「タックキュアは、クラウン合着後の清掃を簡略化し迅速にするための良い選択肢である」と結ばれています。
そのうえで、3つの持ち帰りがあります。
①気になるなら、ベニア用の光重合型セメントではタックキュアの光を弱める。照射器に低出力モードがあるなら、タックキュアはそちらで。ライトを少し離す、という手もあります。ただし上に書いたとおり、著者ら自身はこの低下を臨床的な問題とは見ていません。あくまで「弱い光でも清掃はできるのだから、わざわざ最強で当てなくてもよい」という程度の話です。
②デュアルキュア型は「光が要る」。この研究では、デュアルキュア型もまた深くなるほど硬さが有意に下がりました。デュアルキュア型が光なしでは十分に硬化しないことは複数の研究で指摘されています。「デュアルだから深いところも自然に固まる」と考えないほうが安全です。ちなみに2製品のうちマキシセム エリートのほうが深部の硬さが高く、自己重合成分がより効率的だと示唆されています。
③照射時間は推奨値ぴったりで止めない。2〜5秒の追加でも硬さが上がったのですから、推奨秒数は下限と考えて、余裕を持って当てる。とくにセメント層が厚くなる場所——ファイバーポスト、CAD/CAMクラウンの深いマージン、インレーの内側——では効いてきます。
そして自己重合型RMGIでは、タックキュアの効果は「熱」かもしれないと知っておくと、うまくいかないときの手当てが変わります。硬さには影響しないので、撤去しやすくするためだけに数秒当てるのは合理的な使い方です。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
タックキュアは最終硬化を損なわない。デュアルキュア型はむしろ深さ全体で硬さが上がり、自己重合型RMGIは影響を受けなかった。唯一わずかに下がったのは、光重合型ベニア用セメントの表層1mmまで——著者らはその低下を「余剰セメントの清掃で取り除かれる見込みの層」と位置づけ、原因も「光が強すぎたのではないか」という推測にとどめている。むしろ持ち帰るべきは、わずか2〜5秒の追加で硬さが上がった事実のほう。メーカー推奨の照射時間は最適値ではなく最低ラインである。


