保存修復|市販の短繊維強化コンポジットレジン(SFRC)5製品と従来型CR1製品の、靭性・曲げ強さ・重合収縮応力・摩耗・CR冠の破折荷重を並べて比べた実験室研究(Garoushi ほか 2024・BMC Oral Health)
「ファイバー入り」と書いてあれば、どの短繊維強化CR(SFRC)でも割れにくいのか。フィンランド・トゥルク大学のグループは、市販のSFRC5製品(Alert、Fibrafill Flow、Fibrafill Dentin、everX Flow、everX Posterior)と従来型CR(Essentia Universal)を、ISO規格に沿った試験片と、CRだけで作った下顎大臼歯の冠で比べました。破壊靭性はeverX Flow 2.8・everX Posterior 2.6 MPa·m½に対し、Fibrafill 2製品は1.1〜1.2で従来型CR(1.1)と有意差がありませんでした。冠の破折荷重もeverX 2製品(3,870N・3,560N)が他の4製品(1,908〜2,404N)より有意に高い一方、重合収縮応力はeverX Flowが5.3 MPaで最も高い値でした。同じ「SFRC」でも、繊維の長さや太さで性質が大きく違う、というのが著者らの結論です。
①「ファイバー入り」なら、どれでも同じ?
大きく崩れた臼歯の窩洞。象牙質の代わりに短繊維強化CR(SFRC)を入れて、表層を従来型CRで覆う。この使い方が広がる中で、SFRCの製品も増えてきました。では、どの製品を選んでも「割れにくさ」は同じなのでしょうか。
この論文は、市販の5製品を同じ試験で並べました。答えは「同じではなかった」。破壊靭性とCRだけで作った冠の破折荷重は、everX FlowとeverX Posteriorが高く、Fibrafill 2製品の破壊靭性は従来型CRと有意差がありませんでした。そして、靭性が高い側のeverX Flowは、重合収縮応力も最も高いという別の顔を見せました。
②なぜ製品ごとに比べる必要があるのか
従来型CRは、大きな窩洞で強い力がかかる場面では「靭性(ひびが進むのに抵抗する力)が足りない」ことが弱点とされてきました。そこで短い繊維を混ぜたSFRCが登場し、ひびの進行を止めやすいとうたわれています。
ただし著者らは、SFRCの性質は繊維の長さ・太さ・向き・量、樹脂との結合で大きく変わると先行研究を引いて整理しています。2022年には新しいSFRC(Fibrafill)も発売され、新製品が次々に出る中で、臨床家が選ぶ手がかりになる比較データが少ない、というのが研究の動機です。
③今回の実験:6材料を同じ物差しで
試験片の試験:曲げ強さ・曲げ弾性率(ISO 4049・各8本)、破壊靭性(切り欠きを入れた試験片・各6本)、重合率(FTIR・6回)、2体摩耗(咀嚼シミュレーター15,000回・各材料2個)、重合収縮応力(テンシロメーター・6回)。
冠の試験:各材料だけで、下顎第一大臼歯の形の冠を型に積んで作り(各8個・歯は使っていない)、1mm/分で押して割れた荷重(N)を記録。割れ方も観察。
微細構造:電子顕微鏡で繊維の太さ・長さを観察。
統計:一元配置分散分析とTukey法。
④結果:割れにくさはeverX 2製品、収縮応力はeverX Flowが最高
破壊靭性は、everX Flowが2.8、everX Posteriorが2.6 MPa·m½。一方でFibrafill Flowは1.1、Fibrafill Dentinは1.2で、従来型CRのEssentia(1.1)と有意差がありませんでした。Alertは1.7でその中間です。Alertの破壊靭性は従来型CRやFibrafill 2製品より有意に高いものの、everX 2製品よりは有意に低い値でした。表2の上付き文字を見ると、everX FlowとeverX Posteriorの間は有意差がありません。
CRだけで作った冠でも同じ傾向でした。everX Flow 3,870±260N、everX Posterior 3,560±523Nは、他の4材料(1,908〜2,404N)より有意に高く、everX 2製品の間は有意差なし。Alert・Fibrafillの冠は従来型CRと有意差がありませんでした。割れ方も、everX 2製品の冠は主にひびが入る割れ方で、他の4材料は主に「粉砕するような割れ方」でした。
ここで話が単純ではなくなります。重合収縮応力はeverX Flowが5.3 MPaで、他のすべての材料より有意に高い値でした。他のSFRC4製品は3.2〜3.9 MPaで互いに有意差がなく、従来型CRのEssentia(2.5 MPa)は、SFRCのどれよりも有意に低い値でした。
・曲げ強さ:everX Flow 147 MPaが最も高く、Fibrafill Flow 92・Fibrafill Dentin 98 MPaが数値では最も低いが、従来型CR(121 MPa)・Alert(118 MPa)・everX Posterior(120 MPa)とは有意差なし
・摩耗の深さ:everX Flow 20.4μmが最も浅いが、従来型CR(24.5μm)とは有意差なし。Fibrafill Dentinは35.3μm(表2。本文では35.2)で数値は最も深いが、everX Flow以外(Alert・Fibrafill Flow・everX Posterior・従来型CR)とは有意差なし
・重合率:従来型CR 42.1%が最も低く、SFRCは53.2〜62.8%
⑤なぜ差が出たのか(著者らの説明)
著者らが挙げるのは、繊維の寸法です。繊維が補強として働くには、ある長さ(臨界繊維長)以上で、長さと太さの比がある範囲に入っている必要がある、と引用研究で説明しています。電子顕微鏡では、Alertの繊維は太さ7μm・長さ20〜60μm、Fibrafillの繊維は太さ0.3〜1.5μm・長さ10〜50μmと細く短く、Fibrafillでは細い繊維が束になった部分も見えました。著者らは、この束が弱点になった可能性を挙げています。everX Flowは太さ6μm・長さ200〜300μm、everX Posteriorは太さ17μmで長い繊維と、引用で説明されています。
everX Flowの収縮応力が高い理由について、著者らは「硬さ(弾性率)と重合率が高く、架橋が密になるためかもしれない」と推察しています。一方で、繊維がランダムな向きに入っていると窩壁に沿った収縮を抑えうる、SFRCはMOD窩洞で収縮応力によるひびを減らしたという研究もある、とも引用しています。この研究の収縮応力は、硬い棒の間で測る方法で、窩洞や歯での値ではありません。著者ら自身も、臨床の条件で収縮応力は決められないと書いています。
⑥明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
・「ファイバー入り」というくくりだけで、割れにくさを期待しないほうがよさそうです。この研究では、破壊靭性とCR冠の破折荷重の両方で従来型CRを有意に上回ったのは、everX 2製品でした(Alertは破壊靭性だけ有意に上回り、冠の破折荷重は有意差なし)。
・一方でeverX Flowの収縮応力は、この測定法ではいちばん高い値でした。窩洞の中でこの差が接着やひびにどう響くかは、この研究では調べていません。
・著者らは摩耗の結果から「everX Flowは被覆なしでも幅広く使えるかもしれない」と述べつつ、everX 2製品の製造元(GC)の指示は、象牙質の代わりの土台として使い、表面を1〜2mmの従来型CRで覆う使い方だとも書いています。露出させる使い方の臨床的な裏付けは、この研究にはありません。
・製品選びの目安にはなりますが、臨床での生存率や破折率の差は示されていません。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:この比較の範囲では、市販のSFRCどうしで性質に有意な差があり、従来型CRと同程度の製品もあれば、上回る製品もあった。破壊靭性とCR冠の破折荷重はeverX FlowとeverX Posteriorが高く(2製品の間は有意差なし)、Fibrafill 2製品の破壊靭性は従来型CRと有意差がなかった。一方、重合収縮応力はeverX Flowが5.3 MPaで最も高かった。ただし試験片と、歯を使わないCR冠を1回押して割る実験室の結果で、臨床での破折率は調べていない。著者2名はeverXの製造元GCのグループ企業と関係がある。


