保存修復|露髄させずにコンポジットレジン(CR)で修復した歯を、術前X線のう蝕の深さで分け、その後の根管治療を追った大学病院のコホート研究(Sato ほか 2021年・2020年早期公開・Journal of Oral Science)
深いう蝕を取り切って、露髄はしなかった。CRで詰めて終わりにしてよいのか、それとも数か月後に痛みが出て根管治療になるのか。東京医科歯科大学のグループは、保存修復科でCR修復した316人・507歯の診療記録を使い、術前X線で測った「う蝕の深さ(エナメル質表面から歯髄までの距離に対する割合)」と、24か月以内の根管治療との関係を調べました。根管治療になったのは全体で16歯(3.2%)。深さ80%より浅い群では408歯中2歯(0.5%)だった一方、80〜89%の群では77歯中8歯(10.4%)、90%以上の群では22歯中6歯(27.3%)でした。
①露髄しなかった深いう蝕、CRで詰めた後の歯髄は?
深いう蝕を慎重に除去して、なんとか露髄は避けられた。CRで修復して、その日は終わり。ところが数か月後に痛みが出て、結局は根管治療に。そんな経験は誰にでもあると思います。
では、どのくらい深いう蝕だと、後から根管治療になりやすいのか。この論文は、大学病院の診療記録からその目安に数字を置きます。術前X線でう蝕の深さが80%以上だった歯は、80%より浅い歯に比べて、CR修復後24か月以内の根管治療のリスクが有意に高かった。一方、深さ50%より浅いう蝕では、根管治療になった歯は1本もありませんでした。
②「深いう蝕」の線引きは、あいまいだった
MI(ミニマルインターベンション)の考え方が広まり、CRの直接修復は長期成績の報告も積み上がってきました。一方で、深いう蝕は処置後に歯髄炎の症状が出て、根管治療に進むことがあります。修復治療の「早い時期の失敗」として知られている、と著者らは引用で述べています。
ところが「深いう蝕」の定義は報告によって違います。著者らが引用した国際的な提言では、X線で象牙質の歯髄側1/3に達するもの、欧州歯内療法学会の声明では象牙質の内側1/4に達するもの、とされていました。う蝕の深さと、CR修復後に根管治療になるリスクの関係を数字で示した研究は少ない。そこで著者らは、深さを割合で測って、その関係を調べました。
③今回の研究:507歯の記録を、X線の深さで分けて追った
対象:1,396歯から、術前X線がない・CR修復をしていない・X線でう蝕が確認できない・失活歯・術中の露髄で抜髄した歯・その後来院しなかった歯などを除き、316人・507歯。
処置:48人の術者(経験2〜33年)が科の標準手順で実施。感染象牙質を除去し、う蝕検知液を使って低速回転で内層の象牙質を残し、2ステップのセルフエッチングボンド(クリアフィル SE ボンド2)とCRで修復。CRや照射器の種類はさまざま。
う蝕の深さ:術前のデジタルX線で、1人の歯科医師がう蝕の透過像を3点で測定。エナメル質表面側の端(A)から透過像の象牙質側の端(B)までの距離を、Aから歯髄の境界(C)までの距離で割った割合(AB/AC)。
評価:CR修復から24か月以内の根管治療を電子カルテで確認。深さを<80%・80〜89%・90%以上の3群に分け、カプランマイヤー法と、年齢・性別で調整したCox比例ハザードモデルで分析。
④結果:深さ80%を超えると、根管治療の割合が一気に上がった
507歯のうち、24か月以内に根管治療になったのは16歯(3.2%)でした。深さ別に見ると、80%より浅い群は408歯中2歯(0.5%)、80〜89%の群は77歯中8歯(10.4%)、90%以上の群は22歯中6歯(27.3%)。深さ50%より浅いう蝕では、根管治療になった歯はありませんでした。CRの脱離や破折は1例もなかったと記載されています。
・基準=深さ80%より浅い群
・深さ80〜89%:ハザード比 34.68(95%CI 4.23〜284.11、P<0.01)
・深さ90%以上:ハザード比 92.01(95%CI 10.36〜817.41、P<0.01)
・80〜89%の群を基準にした場合、90%以上の群との差は有意ではなかった(ハザード比 2.84、95%CI 0.90〜8.95)
・年齢・性別・保険の種類・歯種は、根管治療のリスクと関連しなかった
ハザード比の数字は大きく見えますが、基準の群で根管治療になったのは408歯中わずか2歯です。分母の出来事がこれだけ少ないと、比の値は大きく、幅も広く出ます。著者ら自身も、症例の少なさが大きなハザード比と広い信頼区間につながった可能性を認めています。読むときは「80%を境に明らかに増えた」という向きと、上の割合の数字を中心に受け取るのが安全です。
⑤ほかの研究と、どう重なるか(著者らの考察)
著者らは、今回の結果を先行研究と矛盾しないものとして位置づけています。引用された研究では、臼歯部CR修復703本のうち5年以内に根管治療が必要になったのは9本(1.3%)で、残った歯質の厚みが20%を下回るとリスクが上がったと報告されています(Opdam 2004)。象牙質の内層まで進んだう蝕を修復した臼歯308歯では、53歯(17.2%)に歯内療法の合併症がみられたという報告もあります(Schwendicke ほか 2016)。
また、残存象牙質の厚みが処置後の歯髄反応を左右する鍵らしい、という研究も引かれています(Whitworth ほか 2005)。ただしこれらはいずれも引用で、今回の研究では残存象牙質の厚みや、歯髄が反応した仕組みそのものは測っていません。
著者らは、既存の定義(象牙質の歯髄側1/3、内側1/4)とは別に、X線で深さ80%以上が根管治療のリスクが高い目安になりうると述べています。
⑥明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
・術前のX線で、う蝕の透過像が「エナメル質表面から歯髄までのどのくらいまで来ているか」を割合で見ておくと、この研究の数字と照らし合わせやすくなります。
・深さ80%以上の歯は、この研究では露髄せずに修復できても、最長2年の追跡(平均14〜17か月)のあいだに10〜27%が根管治療になっていました。修復前の説明や、経過を見るときの材料にできます。
・ただし、どう削れば(段階的除去・覆髄材の使い分けなど)防げるかは、この研究では比べていません。露髄した歯は最初から除外されているので、露髄のリスクもわかりません。
・区切り(80%・90%)は著者らが分析のために置いたもので、それぞれの深さでの「安全な境目」を検証したものではありません。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:この大学病院の記録では、術前X線でう蝕の深さが80%以上だった歯は、80%より浅い歯に比べて、CR修復後24か月以内の根管治療のリスクが有意に高かった(調整後ハザード比 80〜89%で34.68、90%以上で92.01)。ただし根管治療になったのは507歯中16歯と少なく、信頼区間は非常に広い。観察研究なので、深さと根管治療の「関連」を示したもので、どう削れば防げるかは調べていない。


