保存修復|重合収縮応力・C-factor・ソフトスタート照射・フロアブル裏層。実験室研究を中心に文献を整理した総説(Braga, Ballester, Ferracane 2005・Dental Materials)
「収縮率の小さいレジンを選べば、収縮応力も小さい」「ソフトスタートで照射すれば応力を逃がせる」「積層充填でC-factorを下げる」——どれも一度は習った考え方です。サンパウロ大学とオレゴン健康科学大学のグループが、化学・材料・歯科の文献から、収縮応力がどう生まれ、どの対策がどこまで効くのかを整理しました。著者らは、収縮応力は多くの要因が絡み合う現象で、ひとつの数字や手技だけでは語れない、とまとめています。
①低収縮レジンなら、応力も小さい?
CR充填のあとの辺縁の白線や、接着界面のトラブル。原因の候補としてまず挙がるのが重合収縮応力です。接着した窩壁に囲まれたままレジンが縮むので、界面やその周りに力がかかります。著者らは、実験室研究(V級窩洞や接着したポーセレンインレー)で、収縮応力と辺縁の封鎖に直接の関係が示されてきたことを出発点にしています。
そこで臨床では「収縮率の小さい材料を選ぶ」「ソフトスタートでゆっくり固める」「積層充填でC-factorを下げる」「フロアブルを裏層に敷く」といった対策が語られてきました。ではそれぞれ、どこまで根拠があるのか。この総説は、その整理を試みたものです。
結論を先に言うと、著者らは収縮応力を多くの要因が絡み合う現象ととらえ、ひとつの数字や手技だけでは語れない、とまとめています。
②この論文は「応力の成り立ち」を整理した総説
柱は3つ。①体積収縮、②粘弾性(固まる途中でどれだけ流れ、どれだけ硬くなるか。重合の速さもここに関わる)、③収縮に対する拘束(接着面の割合と、窩壁のたわみやすさ)。それぞれについて、臨床の手技(照射法・充填法・裏層)との関係を論じています。
引用されている根拠の多くは、機械試験・光弾性・有限要素解析・微小漏洩試験などの実験室研究です。
③体積収縮——「収縮率が小さい=応力が小さい」ではない
総説が挙げる数値では、モノマー単体の収縮はBisGMAで5.2%、TEGDMAで12.5%。フィラーが体積の約60%を占めるハイブリッド型など一般的なコンポジットは2〜3%、無機フィラーが一般に50 vol%未満のフロアブルは最大5%です。ただし収縮率は重合率に比例して変わるので、重合率を一緒に測っていない研究同士の数字の比較は心もとない、と著者らは注意しています。
ややこしいのはここからです。フィラーを増やせば収縮は小さくなりますが、材料は硬く(弾性率が高く)なります。通常の粘度やパッカブルのレジンでは、応力はフィラー含有量に比例したという研究が複数あり、著者らはここから、収縮率の差が小さい範囲では「硬さ」が応力を左右していると読んでいます。一方で、フィラーを減らして柔らかくしたフロアブルの応力は、硬いレジンと同程度だったという研究もあり、収縮率の差が大きい範囲では収縮が勝つ、とも述べています。
希釈モノマー(TEGDMA)の比率を上げた実験用レジンでは、粘度や硬さは下がっても、重合率と収縮が増えて応力は高くなりました。著者らはここから、重合率とそれに伴う体積収縮が、最も重要な要因だろうと述べています。
④粘弾性と重合の速さ——「流れる時間」が応力を逃がす
レジンは重合の初期にはおもに流れる性質(粘性)を示し、しだいに弾性体になります。収縮と弾性率の増加だけから計算した応力は、実際に測った値よりずっと大きく出ました。その差は、硬くなる前の流動が収縮の一部を吸収しているためと説明されています。応力は重合率の高い終盤ほど速く積み上がる、という研究もそろっています。
引用された研究では、ある化学重合型レジン1種で、収縮ひずみが最終値の50%に達した時点で、応力は最大値の10%未満でした。別の研究の光重合型レジン1種では、収縮ひずみが検出されてから応力が出るまでに2秒の遅れがありました。
ところが光重合は反応が速く、比較的低い重合率のうちに数秒で硬くなると見積もられています。つまり流れる時間がほとんど残らず、収縮のほぼ全部が「硬くなってから」起きます。化学重合型の応力が光重合型より小さいのは、反応が遅いことに加え、ラジカルが少なく重合率が低くなりがちなためでもある、と著者らは述べています。
⑤定番の対策を、総説はどう見たか
ソフトスタート照射:初めの数秒を弱い光で当てる方法は、収縮ひずみを有意に減らしたという研究が複数あり、重合を遅くして応力が有意に下がったという研究もあります。しかし別の研究では、反応を大きく遅らせても応力が有意に下がるとは限りませんでした。レジンは低い重合率で硬くなるので、臨床で非現実的なほど弱い光を長く当てない限り、十分には遅くできないだろう、というのが著者らの見立てです。引用された研究での応力低減は、市販3材料で19〜30%、光弾性法の5材料で3〜7%と、材料によって幅がありました。また、連続照射でない方法で重合させた材料は、重合率が同等でもエタノールで軟化しやすかったという報告と、網目の質は重合率だけで決まるという報告があり、ここも結論が割れています。
積層充填:この手技には一部の著者が疑問を呈しています。有限要素解析・光弾性・微小漏洩の3つの研究では、少しずつ積層しても一括充填と比べて有意な応力低減や辺縁適合の改善は見られませんでした。著者らは、天然歯の修復では拘束が決定的な要因ではないか、積層で下がるC-factorでは足りないかのどちらかだろう、と述べています。
C-factor:接着面と非接着面の比で、ほぼたわまない試験装置では、大きいほど応力が大きくなりました。ところが、試験片の長軸方向の収縮を一部許す装置では逆の関係になり、同じ接着面積なら背の高い(C-factorの小さい)試験片ほど大きな力を示しました。実際の窩洞は形が複雑で応力の分布も不均一です。光弾性と微小漏洩の研究からは、C-factorは容積の近い窩洞同士を比べるときにしか当てはまらない可能性があり(根拠は学会抄録と博士論文)、容積の違う修復では界面の隙間とC-factorの相関は小さかった、と紹介されています。ちなみに、ほぼたわまない装置で測った応力は材料や条件によって4〜25 MPaで、実際の歯ではたわみで一部逃げるので過大評価だという批判がある一方、光弾性の研究では、理想的な接着を仮定すると窩洞の内側の隅角で最大23 MPaに達しうるとされ、決着はついていません。
低弾性の裏層:接着層とレジンのあいだに柔らかい層をはさみ、窩壁を「たわみやすく」する考え方です。ただし実験室での評価は一貫していません。効くかどうかは層の厚みと弾性率しだいで、1つの有限要素解析(V級窩洞のモデル)では、弾性率5 GPaの中間層が40 μmで界面のせん断応力が10%、80 μmで38%下がりました。別の研究では、無充填レジン層を40 μmから200 μmに厚くすると、試験片のC-factorによって応力が24%・30%下がり、V級窩洞の漏洩も有意に減りました。一方、フロアブル5種(曲げ弾性率4.1〜8.2 GPa)・無充填レジン(2.1 GPa)・通常のレジン(12.3 GPa)を下地にした比較では、応力の低下は22〜53%でしたが、有意だったのは無充填レジンとフロアブル1種だけで、しかもそのフロアブルは最も柔らかいものではありませんでした。
このほか、材料の構造を変えて流動を増やす試み(気泡を含ませたレジン、レジンと結合させないフィラーなど)も紹介されていますが、著者ら自身が実験段階としています。
⑥明日の臨床へ
①収縮率だけで応力は予測できない。フィラーが多く収縮の小さい材料は弾性率も高く、応力がかえって大きくなりうる。
②応力を下げるために、十分な重合率を犠牲にしない。ソフトスタートなどで重合を遅らせても応力が有意に下がるとは限らず、ある照射法が別のメーカーの材料でも効くとは限らない。
③裏層で窩壁をたわみやすくするなら、厚みと弾性率を意識する。フロアブルの中には、硬すぎてこの目的に向かないものがある。
補足(筆者の読み):この総説は、積層充填やC-factorを「応力を下げる確かな手段」としては扱っていません。ただし積層には硬化深度の確保など別の目的もあり、総説はそれらを論じていないので、「積層をやめてよい」という意味ではありません。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らによると、コンポジットレジンの重合収縮応力は、体積収縮・粘弾性(硬くなる前にどれだけ流れるか。重合の速さも関わる)・窩洞による拘束で決まり、要因どうしが絡み合うため、それぞれの寄与を個別に取り出すのは現実的でない。著者らが臨床的に見ておきたい点として挙げた結論は3つ。①フィラーが多く収縮の小さい材料は弾性率も高く、応力が大きくなりうるので、収縮率だけで応力は予測できない。②照射法で重合を遅らせても応力が有意に下がるとは限らず、効き目は材料しだいで、応力を下げるために十分な重合率を犠牲にしてはならない。③低弾性の中間層は厚みと弾性率しだいで応力を有意に下げうるが、硬すぎて向かないフロアブルもある。一方、積層充填で応力低減や辺縁適合の改善に有意差がなかったことや、C-factorが容積の近い窩洞同士でしか当てはまらない可能性は、著者らの結論ではなく、総説が紹介した個別の実験室研究の所見である。


