エンド|根尖病変のある未治療の抜去歯6本(12根管)を割って、根尖2mmの根管の中を走査電子顕微鏡で観察した形態の研究(Molven 1991・Endod Dent Traumatol)
根管の細菌は、根尖孔のすぐ手前まで入り込んでいるのでしょうか。Molvenらは、歯髄が壊死し根尖病変のある永久歯6本を抜いて割り、根尖2mmの根管の中を走査電子顕微鏡(SEM)で見ました。12根管のうち10根管(83.3%)で根尖2mm以内に細菌が見え、残る2根管でも、もっと歯冠側に細菌がいました。桿菌が主体で、球菌や桿菌の小さな集落(マイクロコロニー)、「コーンコブ」様の構造、2根管ではプラークに似た多層の沈着物も見えました。ただし6本の抜去歯を形で観察した研究で、菌の種類や、治療の結果は調べていません。
①根管のいちばん奥、根尖2mmにも細菌はいる?
根管治療で一番手が届きにくいのは、根尖孔のすぐ手前です。ファイルも洗浄液も届きにくいその場所に、細菌は本当にいるのでしょうか。いるとしたら、どんな姿でいるのでしょうか。
ノルウェーのMolvenらは1991年、根尖病変のある歯を抜いて割り、根尖の根管の中を走査電子顕微鏡(SEM)で直接のぞきました。
・対象:歯髄が壊死し、エックス線写真で根尖病変が見える未治療の永久歯6本(6人。小臼歯1本・第一大臼歯5本)。根を縦に割り、根尖2mmの根管の中を観察。評価したのは12根管
・12根管のうち10根管(83.3%)で、根尖2mm以内に細菌が見えた
・残る2根管では、根尖2mm以内は組織の残りで埋まって見え、細菌は見えなかったが、もっと歯冠側には細菌がいた
・見えた細菌は桿菌が主体。球菌・スピロヘータ・糸状の細菌も見えた
・球菌や桿菌が小さな集落(マイクロコロニー)を作り、糸状の細菌に球菌が付いた「コーンコブ」様の構造も見えた。2根管では、プラークに似た多層の沈着物が根管の中に見えた
・注意:6本の抜去歯を形で観察した研究。比べる群は無く、菌の種類は分からず、治療の結果も調べていない
②なぜ「のぞく」必要があったのか
根尖性歯周炎の主な原因が根管の細菌であることは、それまでの研究で示されていました。培養の研究では、根尖部の根管に嫌気性菌が多いことも分かっていました。
ただし培養からは、どんな菌がいるかは分かっても、根管の中のどこに、どんな並び方でいるかはあまり分かりませんでした。光学顕微鏡や透過電子顕微鏡で根尖部の細菌を見た研究もありましたが、透過電子顕微鏡で見られる範囲は小さく、外科で取った標本の光学顕微鏡では細菌が見つけにくかったと、著者らは書いています。
そこで、割った根の根尖部を広く見渡せるSEMで、根尖部の根管の細菌の「景色」を写そうとしたのがこの研究です。
③どうやって見たのか
材料は、6人から抜いた永久歯6本です。小臼歯1本と第一大臼歯5本で、どれも歯髄が壊死し、エックス線写真で根尖病変が見えていました。1本で根尖部に瘻孔があり、2本では進んだ辺縁性歯周炎がありました。1本を除いて、大きなう蝕がありました。
8根は、根尖に病変が付いたまま抜けていました。この病変はかみそりで根尖孔に向けて縦に切り、根は長軸に沿って溝を掘ってから、のみで2つに割りました。標本はグルタルアルデヒドで固定し、乾燥して白金を蒸着し、SEMで観察しました。
最初の写真で根尖からの長さを測り、根尖2mmの根管の中に微生物がいるかを順に見ていきました。評価した根管は12です(6本の歯・8根から12根管になった内訳は、原典に書かれていません)。
④結果:12根管中10根管で、根尖2mm以内に細菌
12根管のうち10根管(83.3%)で、根尖2mm以内に細菌が見えました。残りの2根管では、根尖2mm以内は細菌が見られない組織で埋まっているように見えましたが、その先、もっと歯冠側の根管には細菌がいました。
見えた細菌の形と集まり方は、次のとおりです。桿菌が最も多く、まっすぐな桿菌・曲がった桿菌・球桿菌状の菌が見分けられ、糸状の細菌も見えました。球菌とスピロヘータも、細菌が見えた10根管の多くで見えました。
球菌は、桿菌の網目の中に散らばっていることもあれば、小さな集落(マイクロコロニー)を作っていることもありました。桿菌も集落を作っていました。スピロヘータは1つずつか、ほかの菌の間に数匹いる程度で、集まりは1例だけでした。
糸状の細菌のまわりに球菌が付いた「コーンコブ(トウモロコシの芯)」様の構造も、ときに見えました。分裂している細菌は、しばしば見えました。一部の標本では、桿菌・球菌・スピロヘータの表面が顆粒状の物質で覆われていました。2根管では、根管の中に多層の細菌性プラークに似た沈着物が見え、下の層の菌は厚い細胞外の基質に埋まっているように見えました。1標本では、酵母らしい細胞が1つ見えました。
⑤結果の読み方
この研究が示したのは、根尖病変のある未治療の歯では、細菌が根尖孔のすぐ手前まで入り込んでいることが多いという観察です。著者らは、透過電子顕微鏡や培養の先行研究を支える結果だと述べています。
もう1つは、根尖部の細菌がばらばらにいるだけでなく、形ごとに小さく集まり、2根管ではプラークのような層を作っていたことを写した点です。著者らは、ほぼ球菌だけ・桿菌だけ(ときにスピロヘータだけ)でできた小さなすみか(生態学的なニッチ)を、根管の中で初めて写したと書いています。
一方で、こうした並び方が病変の続きやすさに関わるかもしれない、分裂中の菌がしばしば見えたのは病変が続きやすい生活条件の表れかもしれない、という部分は著者らの考察(仮説)です。この研究は、菌の並び方と病変の経過や治療の結果との関係は調べていません。
⑥明日の臨床へ
根尖2mmは、根管形成の終末位置や洗浄の届き方が問題になる場所です。この研究は、その場所に細菌がいることが多く、集落や層になっている場合もあることを、写真で見せてくれます。
根尖部まで形成・洗浄を届かせる意味を患者さんやスタッフに説明するとき、また、作業長や洗浄の方法を考えるときの「根管の中の景色」として持っておくと役に立ちます。ただし、どの形成や洗浄の方法がこの細菌を減らせるか、治療の成績が変わるかは、この研究では分かりません。手技の選び方は、治療の結果を比べた研究で確かめる必要があります。
⑦ここだけ、冷静に補助線
・少数の抜去歯:6本(12根管)だけで、どれも抜歯に至った歯。日常の根管治療の歯全体を代表するとは限らない
・形の観察:比べる群は無く、菌の種類は分からない。形ごとの数を数えた集計も無い
・標本作りの影響:抜歯・割断・乾燥の過程で、根管の中の様子が変わった可能性は否定できない
・治療の結果は調べていない:根尖の細菌の姿と、治療の成否や病変の経過との関係は、この研究の範囲外
・原典の中の書き方の違い:12根管の内訳(6本・8根との対応)は書かれていない。球菌と桿菌の集落は、結果の本文では「よく」、抄録では「ときに」
・資金・利益相反:原典に記載は無い
それでも、「根尖の手前に細菌がいて、集まっていることもある」という景色を示した点で、今も読む価値のある1本です。
今日のひとこと
根尖病変のある抜去歯6本・12根管をSEMで見ると、10根管(83.3%)で根尖2mm以内に細菌が見え、桿菌が主体で、球菌や桿菌の小さな集落も見え、2根管ではプラークに似た多層の沈着物も見えました。散らばった菌だけでなく、根尖の近くで菌が集まった姿も写した1本です。形の観察で、例数は少なく、治療の効果は調べていません。根尖部の清掃・消毒を考えるときの「根管の中の景色」として持っておきたい研究です。


