1問1答 論文 エンド

可逆性歯髄炎の間接覆髄、ビオデンティンとグラスアイオノマーで1年後の成績は変わる?——深いう蝕の歯72本の無作為化比較試験で、12か月の臨床的成功率はどちらも83.3%(著者の報告値。分母は書かれておらず、解析本数とは合わない)で差は検出されず、デンタルX線で根尖が正常な歯(治療前にCBCTを撮った60本)の51.6%にCBCTで透過像が見えた(Hashem 2015)

1問1答 論文 エンド

エンド|可逆性歯髄炎の症状がある深いう蝕の歯72本(53人)を、ビオデンティンとグラスアイオノマー(Fuji IX)での間接覆髄に無作為に割り付け、12か月の臨床成績とCBCT・デンタルX線の根尖部の変化を比べた無作為化比較試験(Hashem 2015・Journal of Dental Research)

深いう蝕で可逆性歯髄炎と診断した歯に間接覆髄をするとき、ケイ酸カルシウム系のビオデンティンと従来のグラスアイオノマーで、1年後の成績は変わるのでしょうか。Hashem らは歯72本を2つの材料に無作為に割り付け、12か月追いました。臨床的成功率はどちらも83.3%(各群6歯が失活。著者の報告値で、分母は書かれておらず解析66本とは合わない)で、材料による差は検出されませんでした。一方、デンタルX線で根尖に変化が無い歯だけを選んだのに、治療前のCBCT(60本)では51.6%に根尖部の透過像(26.6%は病変)が見え、治療前の症状が強い歯と、CBCTで病変があった歯では、失活・失敗が多く見られました。CBCTで治った・治りつつある病変はビオデンティンの歯に多く見られましたが、例数が少なく、症状の強い歯がFuji IX群に偏り、本文の割合と表の本数も合わない副次的な所見で、著者らも慎重な解釈を求めています。

論文
Clinical and Radiographic Assessment of the Efficacy of Calcium Silicate Indirect Pulp Capping: A Randomized Controlled Clinical Trial
著者
D. Hashem, F. Mannocci, S. Patel, A. Manoharan, J.E. Brown, T.F. Watson, A. Banerjee(ロンドン大学キングス・カレッジ歯学研究所)
掲載
Journal of Dental Research 2015; 94(4): 562–568
種類
単盲検・2群の無作為化比較試験(ClinicalTrials.gov NCT02201641)。可逆性歯髄炎の症状があり、デンタルX線で根尖に変化の無い深いう蝕の歯72本(53人)を、ビオデンティン36本とFuji IX 36本に割り付けて間接覆髄。術者1人。12か月追跡(臨床の解析66本、画像の比較52本)
資金・利益相反
ウェルカム・トラスト、英国国立衛生研究所(NIHR)の生物医学研究センター、在英サウジアラビア文化事務所の支援。利益相反は無いと記載。材料はビオデンティン(Septodont)とFuji IX GP(GC)
PMID
25710953

①可逆性歯髄炎の間接覆髄、材料で1年後の成績は変わる?

深いう蝕。冷たいものがしみるけれど、すぐ治まる。デンタルX線では根尖に変化が無い。「可逆性歯髄炎」と診断して、感染象牙質だけを除き、歯髄に近い象牙質を残して覆う。間接覆髄(IPC)は、日々の診療でよく出会う場面です。

では、そのとき残した象牙質の上に置く材料は、ケイ酸カルシウム系のビオデンティンと、従来のグラスアイオノマーセメント(GIC)で、1年後の成績が変わるのでしょうか。そして、デンタルX線で「根尖は正常」と見た歯は、本当に正常なのでしょうか。

この2つを同時に調べたのが、ロンドン大学キングス・カレッジの Hashem らによる2015年の無作為化比較試験です。

結論を先に書きます。
・可逆性歯髄炎の症状がある深いう蝕の歯72本(53人)を、ビオデンティンとGIC(Fuji IX)に36本ずつ無作為に割り付けた無作為化比較試験(12か月追跡)
・臨床の結果:12か月の臨床的成功率はどちらも83.3%(各群6歯が失活。P=0.91。著者の報告値で、分母は書かれておらず解析66本とは合わない)。材料による差は検出されなかった
・CBCTで見ると:デンタルX線で根尖に変化が無い歯だけを選んだのに、治療前のCBCT(60本)では51.6%に根尖部の透過像(歯根膜腔の拡大を含む)、26.6%に病変が見えた
・予後との関連:治療前の症状が強い歯で失活が多く(P=0.007)、治療前にCBCTで病変があった歯の失敗率は63%、無かった歯は16%(P=0.02)
・材料とCBCTの所見:CBCTで治った・治りつつある病変の多くはビオデンティン、新しく出た・大きくなった病変の多くはFuji IXの歯だった(P=0.02)。ただし少数例の副次的な所見で、症状の強い歯がFuji IX群に偏り、本文の割合と表の本数も合わない(著者も慎重な解釈を求めている)

②なぜこの研究が必要だったか

著者らはまず、歯髄の炎症の程度を臨床で客観的に測る確かな方法は無い、と書いています。可逆性か不可逆性かの判断は、患者さんの訴え、歯髄診、X線写真に頼っているのが現状です。

間接覆髄の材料では、ビオデンティンは覆髄にも仮の修復にも使え、象牙質の橋の形成を促すと報告されてきました。一方、GICは露髄の無い窩洞の裏層や象牙質の置き換えに使われ、Fuji IXはフッ素やストロンチウムを出してう蝕象牙質の再石灰化に関わるとされています(いずれも著者が引用した研究)。著者らによると、間接覆髄でこの2つを比べた無作為化比較試験はまだありませんでした。

もう1つの問いは画像です。CBCTは、根管治療が必要になった歯の根尖部の透過像をデンタルX線より鋭敏に見つけると報告されていました。しかし、可逆性歯髄炎と診断した歯に低侵襲の処置をした後、根尖部の変化をCBCTで経時的に追った研究は無かった、というのが著者らの問題意識です。

③何をどう調べたか

・研究の種類:単盲検・2群の無作為化比較試験(CONSORTに沿って報告。ClinicalTrials.gov NCT02201641)。単位は歯で、窩洞の大きさを考慮して割り付けた
・対象:18歳以上。デンタルX線で象牙質の4分の3以上に達する深いう蝕があり、可逆性歯髄炎の症状があり、歯髄診に反応し、デンタルX線で根尖に変化が無い歯。不可逆性歯髄炎の症状・瘻孔や腫れ・動揺や打診痛のある歯は除外。処置中に露髄した歯は試験から外した
・処置:術者1人。局所麻酔とラバーダムの下で、表層の軟らかい感染象牙質をラウンドバーと手用器具で除き、深い部分は化学的・機械的にう蝕を除く薬剤(Carisolv)と手用器具で除去。これ以上除くと露髄する位置の象牙質は残した。そのうえでビオデンティンかFuji IXを置き、1か月後にコンポジットレジンで最終修復(可能な歯はクローズドサンドイッチ)
・評価:1・6・12か月に臨床診査。治療前(T0)と12か月後(T12)にデンタルX線と小照射野のCBCTを撮影。治療前のCBCTは診断に偏りが出ないよう、その時点では評価しなかった
・画像の判定:経験のある歯内療法医2人の合議。どちらがT0かT12かを伏せて見比べた。透過像=歯根膜腔の拡大(隣の健全歯の歯根膜腔の幅の2倍未満)と病変(同じく2倍以上)
・例数の設計:失敗率を1%と22%と見込み、その差を検出力80%で見つけられるよう、脱落10%を見込んで72本とした

④結果:1年の臨床的成功率はどちらも83.3%

53人(女性21人・男性32人、18〜76歳、中央値28歳)に72本の修復が行われ、85%は大臼歯でした。5人6本が受診せず脱落し、臨床の解析は66本です。

表1 間接覆髄から12か月の臨床の結果(原典の本文と表2Aから) 比べたもの 群 12か月の結果 検定 材料 ビオデンティン 83.3%(6歯が失活) P=0.91 Fuji IX(GIC) 83.3%(6歯が失活) 治療前の症状 軽い 失活4歯(本文 9.75%) P=0.007 強い 失活8歯(本文 32%) 治療前のCBCTの根尖病変 あり 失敗率 63% P=0.02 なし 失敗率 16% 無作為化比較試験。可逆性歯髄炎の症状がある深いう蝕の歯72本(53人)を、ビオデンティンとFuji IXに36本ず つ割り付けた。脱落を除く解析は66本 臨床的成功=冷刺激・電気の歯髄診に反応し、自発痛・打診痛・瘻孔・腫れ・異常な動揺が無く、デンタルX線で根 尖部の透過像が無いこと 83.3%は著者の報告値。1−6÷36=83.3%(各群の登録36本)とは一致するが、解析66本(群ごとに31本・35本) で割ると一致しない(筆者の検算) 症状の軽い・強いの割合は本文の値。表2Aの本数(軽い39本・強い27本)で割ると約10%・約30%で、本文の分母と 一致しない CBCTの病変の有無で分けた「失敗率」は、原典にこの比較での失敗の定義と分母の記載が無い。症状の強さは材料 の割り付けで考慮されておらず、強い症状はFuji IX群に多かった(17本対10本)

12か月の時点で、著者らが報告したビオデンティンとFuji IXの臨床的成功率はどちらも83.3%でした(解析は66本で、表2Aの群ごとの本数は31本と35本。83.3%がどの本数で計算されたかは原典に書かれていません)。失活したのは12歯で、各群6歯です。材料と歯髄の生活反応の関連に有意差は無く(P=0.91)、窩洞の大きさ(P=0.41)、性別(P=0.33)、年齢(P=0.99)とも関連は検出されませんでした。

関連が見られたのは治療前の症状の強さです(P=0.007)。しみる痛みが15〜20秒以内に自然に治まる「軽い」歯では4歯(本文では9.75%)、数分以上続き鎮痛薬が要る「強い」歯では8歯(本文では32%)が12か月までに失活しました。なお、症状の強い歯はFuji IX群に17本、ビオデンティン群に10本と偏っていました。

⑤結果:デンタルで正常な歯の約半数に、CBCTで透過像

画像は、T0とT12の両方がそろった52本で比べました(6本はT0もT12もCBCTが無く、8本はT12のCBCTが無い)。

表2 CBCTとデンタルX線で見た根尖部(原典の表2Bの全行) 所見 CBCT T0 CBCT T12 デンタル T0 デンタル T12 健全 29(48.3) 34(65.4) 60(100) 47(90.4) 透過像(拡大+病変) 31(51.6) 18(34.6) 0(0) 5(9.6) うち病変 16(26.6) 9(17.3) 0(0) 2(3.8) 治りつつある・治った透過像 — 9(17.3) — 0(0) 新しい・大きくなった透過像 — 16(30.8) — 5(9.6) 治りつつある・治った病変 — 6(11.5) — 0(0) 新しい・大きくなった病変 — 9(17.3) — 2(3.8) 値は歯の本数(%)。T0=治療前(60本)、T12=12か月後(52本)。脱落と撮影の無い歯は除く 透過像=歯根膜腔の拡大(隣の健全歯の歯根膜腔の幅の2倍未満)と病変(同じく2倍以上)の両方。病変はその一 部 デンタルX線で根尖に変化が無いことが参加の条件だったので、デンタルT0は全歯が健全になる 判定は経験のある歯内療法医2人の合議。基準は CBCT で、組織での確認はしていない。CBCT と デンタルの差は P=0.0069(抄録の値)

参加の条件が「デンタルX線で根尖に変化が無い」だったので、治療前のデンタルX線は全歯が健全です。ところが、治療前にCBCTを撮った60本で見ると、51.6%に根尖部の透過像があり、26.6%は病変(隣の健全歯の歯根膜腔の幅の2倍以上)でした。

12か月後に健全と判定されたのは、CBCTで65.4%、デンタルX線で90.4%。新しく出た・大きくなった透過像はCBCTで30.8%、デンタルX線で9.6%、治りつつある・治った透過像はCBCTで17.3%、デンタルX線で0%でした。CBCTはデンタルX線より根尖部の変化を有意に多く検出しました(抄録の値でP=0.0069)。CBCTを基準にすると、デンタルX線の感度は0.24、特異度は1、陽性的中率は1、陰性的中率は0.63、正診率は0.66でした(原典の表3の全項目)。

そして、治療前にCBCTで病変があった歯の失敗率は63%、無かった歯は16%でした(P=0.02)。ただし、この比較での「失敗」の定義と分母は、原典に書かれていません。

材料との関係では、CBCTで治りつつある・治った病変のある歯の71%がビオデンティン、新しく出た・大きくなった病変のある歯の88%がFuji IXでした(P=0.02)。著者らは、ビオデンティンのケイ素イオンの放出や高いアルカリ性、TGF-β1を介した修復象牙質の形成などで説明できるかもしれないとしつつ、例数が少ないので慎重に解釈すべきだと書いています。

⑥結果の読み方

この試験の第1の評価項目は「12か月で歯髄の生活反応を保てたか」です。この点で、ビオデンティンとFuji IXの間に差は検出されませんでした。著者らの結論も「臨床では差が無いという帰無仮説は受け入れられた(X線の所見では棄却)」です。ただし、差を検出しなかったことは、2つの材料が同等だと証明したことではありません。例数は失敗率1%対22%という大きな差を見込んで設計されており、実際には両群とも6歯ずつが失活しました。

CBCTで見えた材料による違いは、副次的な所見です。病変のある歯はもともと少なく(T0で16本)、症状の強い歯がFuji IX群に多かったうえ、71%・88%は、表2Aの本数から計算した割合とも一致しません。ビオデンティンが根尖部の治癒を促したと読める結果ではなく、著者らも「さらに研究が必要」としています。ビオデンティンについて挙げられた機序は、著者らが引用した基礎研究にもとづく説明で、この試験で確かめたものではありません。

もう1つの読みどころは、可逆性歯髄炎と診断した歯の根尖です。著者らは、早い段階の根尖部の変化は歯髄全体の壊死を意味するとは限らないとして、歯根膜腔の拡大のような小さな変化だけで、間接覆髄などの歯髄を残す処置を禁忌と考えなくてよいと考察しています。

⑦明日の臨床へ

この試験の範囲で言えるのは、「可逆性歯髄炎の症状がある深いう蝕で、う蝕を選択的に除いて間接覆髄した場合、ビオデンティンとFuji IXの12か月の臨床的成功率はどちらも83.3%(著者の報告値。分母は書かれていない)で、差は検出されなかった」ということです。材料の選択より先に目を向けたいのは、治療前の症状の強さです。症状が強い歯で、1年以内の失活が多く見られました。

また、デンタルX線で根尖が正常に見えても、治療前に撮ったCBCT(60本)では約半数に透過像が写っていました。治療前の説明では「選択的にう蝕を除いて覆っても、1年以内に失活することがある処置」と伝えておくのが現実的かもしれません(ここは筆者の読みです)。一方で、著者らは考察で、歯髄を残す処置か根管治療かを決めるためにCBCTを日常的に撮ることは勧められず、徴候や症状が食い違うときに診断の助けとして使う、という欧州歯内療法学会の見解を引いています。CBCTを撮るかどうかは、被ばくと得られる情報を比べて決めることになります(ここも筆者の読みです)。

⑧ここだけ補助線

間接覆髄で材料を比べ、CBCTで根尖も追った、実臨床に近い貴重な試験です。読むときの注意点を3つだけ。
・規模と期間:72本・12か月で、例数は失敗率1%対22%という大きな差を見込んだ設計です。小さな差を見分ける力は限られ、長期の成績はまだ分かりません(著者らも長期の追跡を続けているとしています)
・数字の分母:成功率83.3%は、解析66本(群ごとに31本と35本)で割った値と一致しません(各群の登録36本で割ると一致)。症状別の9.75%・32%と材料別の71%・88%は表2Aの本数から計算した割合と合わず、失敗率63%・16%は失敗の定義と分母が書かれていません
・CBCTの意味:CBCTを基準にしたのは組織での確認ができないためで、CBCTの透過像の判定は検者間の一致度(κ0.53)も中程度です。歯根膜腔のわずかな拡大が病気か個人差かは見分けにくい、と著者らも書いています
資金はウェルカム・トラスト、英国国立衛生研究所(NIHR)の生物医学研究センター、在英サウジアラビア文化事務所で、利益相反は無いと記載されています。「深いう蝕の可逆性歯髄炎は、材料より症状と根尖の状態を見る」という視点をくれる1本です。

今日のひとこと

可逆性歯髄炎の症状がある深いう蝕に間接覆髄した無作為化比較試験で、ビオデンティンとFuji IXの12か月の臨床的成功率はどちらも83.3%(著者の報告値)で、材料による差は検出されませんでした(83.3%の分母は書かれておらず、解析本数とは合いません)。成績と関連したのは治療前の症状の強さで、デンタルX線で正常に見えた根尖も、治療前に撮ったCBCT(60本)では約半数に透過像がありました。72本・1年の試験で、材料の優劣よりも「症状と根尖の状態を見る」ことを教えてくれる1本です。

Hashem D, Mannocci F, Patel S, Manoharan A, Brown JE, Watson TF, Banerjee A. Clinical and radiographic assessment of the efficacy of calcium silicate indirect pulp capping: a randomized controlled clinical trial. J Dent Res. 2015;94(4):562-568. doi: 10.1177/0022034515571415. PMID: 25710953
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。