1問1答 論文 エンド

歯髄炎の急患、全部の根管まで抜髄すべき?——症状のある不可逆性歯髄炎の大臼歯66本を全部抜髄・部分抜髄・断髄に無作為に分けた試験で、7日間の痛みは3群とも有意に減り、処置時間の中央値は24分・13分・5分だった(Eren 2017)

1問1答 論文 エンド

エンド|症状のある不可逆性歯髄炎の大臼歯66本(1人1本)を、全部抜髄・部分抜髄・断髄の応急処置に22本ずつ無作為に分け、処置時間と7日間の痛み・冷温や噛んだ時の痛み・鎮痛薬の使用を比べた単施設の無作為化比較試験(Eren 2017・International Endodontic Journal)

歯髄炎の急患で、時間が限られる中、全部の根管まで抜髄するか、歯冠部の歯髄だけ取るか。Eren らは、症状のある不可逆性歯髄炎の大臼歯66本を3つの応急処置に無作為に分けて比べました。処置時間(髄腔開拡の後から)の中央値は全部抜髄24分・部分抜髄13分・断髄5分。痛みの強さ(VAS)と、冷温・噛んだ時の痛みがある人の割合は3群とも7日後までに有意に減り、冷温や噛んだ時の痛みがある人の割合の変化と鎮痛薬の使用に群間の有意差は認めませんでした。痛みの減り幅は、10区間のうち3区間だけ全部抜髄が断髄より有意に大きかった。著者は、短時間で済む断髄を忙しい診療の応急処置として勧め、その後1週間ほどで抜髄を行うのが望ましいとしています。各群22人・7日間の単施設試験で、同等性を示す設計ではありません。

論文
Assessment of alternative emergency treatments for symptomatic irreversible pulpitis: a randomized clinical trial
著者
B. Eren, E. O. Onay, M. Ungor(バシュケント大学 歯学部 歯内療法学講座・トルコ)
掲載
International Endodontic Journal 2018; 51 Suppl 3: e227–e237(2017年10月オンライン公開)
種類
単施設の無作為化比較試験(単盲検=患者は処置を知らない・術者1名は知っている)。症状のある不可逆性歯髄炎の大臼歯66本(18〜60歳・1人1本)を、全部抜髄・部分抜髄(髄腔といちばん太い根管)・断髄(歯冠部の歯髄の除去)に22本ずつ割り付け。処置時間(髄腔開拡の後から1本ごとに測定)と、患者が質問票に記録した症状(当日=麻酔が切れた時点・1・3・7日後の痛み(VAS)と冷温や噛んだ時の痛みの有無)と鎮痛薬の服用(当日の麻酔が切れた後から7日目まで毎日)を比べた。脱落なし
資金・利益相反
バシュケント大学研究基金の支援(ISRCTN14290358 に登録)。著者は利益相反なしと明記
PMID
28857203

①歯髄炎の急患、その場で全部の根管まで抜髄すべき?

「ズキズキして眠れない」と飛び込んできた大臼歯の急患。予約の合間に、全部の根管を拡大して貼薬までやり切るか、まず歯冠部の歯髄だけ取って痛みを止めるか。迷った経験のある先生は多いと思います。

この場面を無作為化比較試験で比べたのが、トルコ・バシュケント大学の Eren らの研究です(International Endodontic Journal・2017年にオンライン公開、誌面は2018年)。症状のある不可逆性歯髄炎の大臼歯66本を、全部抜髄・部分抜髄・断髄の3つの応急処置に分け、7日間の症状を追いました。

結論を先に書きます。
・症状のある不可逆性歯髄炎の大臼歯66本(1人1本)を、全部抜髄・部分抜髄・断髄に22本ずつ無作為に分けた単施設の無作為化比較試験(術者1名・患者は自分の処置を知らされない)
・処置時間(髄腔開拡の後から)の中央値は、全部抜髄24分・部分抜髄13分・断髄5分で、3群は互いに有意に異なった
・7日間の症状:痛みの強さ(VAS)と、冷温・噛んだ時の痛みがある人の割合は、3群とも術前から7日後までに有意に減った。痛みの減り幅は、10区間のうち3区間(当日→7日後・1日後→3日後・1日後→7日後)だけ、全部抜髄が断髄より有意に大きかった。冷温や噛んだ時の痛みがある人の割合の変化と、鎮痛薬の使用には、群間の有意差を認めなかった
・著者の結論:3つの処置は症状を和らげる点で同程度で、時間が短く簡単な断髄は、忙しい診療の応急処置として選んでよい。考察では、断髄の後は1週間ほどで抜髄を行うのが望ましいとしている
・注意:同等性を示すために設計された試験ではなく、各群22人・追跡は7日間。ここでの断髄は、根管治療を後日行う前提の応急処置(歯冠部の歯髄を除いて綿球と仮封材で閉じる)で、長期の歯髄保存を目指す断髄の成績は調べていない

②なぜこの研究が必要だったか

著者の整理では、不可逆性歯髄炎の応急処置の理想形は、原因(う蝕や不良な修復物)を除き、抜髄して電気的根管長測定で確かめた長さまで根管を清掃し、水酸化カルシウムを貼薬して仮封すること、とされてきました。

一方で急患は予定外の来院で、処置にかけられる時間が限られ、術者の技量にも差があります。そこで、複根歯の応急処置として、歯冠部の歯髄だけを除く断髄や、いちばん太い根管だけ歯髄を除く部分抜髄も勧められてきました。断髄が痛みをよく和らげるという報告もありましたが、著者によれば、不可逆性歯髄炎の痛みに対する断髄の効果を確かめた無作為化比較試験はありませんでした。この研究の目的は、部分抜髄と断髄の効果を全部抜髄と比べることでした。

③何をどう比べたか

・研究の種類:単施設の無作為化比較試験(CONSORTに沿って報告・ISRCTNに登録)。患者は自分の処置を知らされず、術者は知っていた(単盲検)
・対象:バシュケント大学の歯内療法科に強い痛みで紹介された18〜60歳の患者66人の上下の大臼歯66本(1人1本)。症状のある不可逆性歯髄炎(症状のある根尖性歯周炎を伴う例を含み、各群77〜86%)。冷刺激と電気歯髄診に反応し、髄腔を開けた時に出血があることで、歯髄が生きていることを確かめた。中等度以上の歯周炎・破折・吸収・根管の石灰化・修復できない歯、来院前12時間の鎮痛薬の服用などは除外
・割り付け:乱数で作った順番を不透明な封筒に入れ、処置の直前に患者が封筒を選んだ
・共通の手順:同じ術者1名が、4%アルチカイン(上顎は浸潤麻酔、下顎は下歯槽神経ブロック)で麻酔し、う蝕と不良な修復物を除いて髄腔を開け、ラバーダム防湿
・全部抜髄(22本):すべての根管の歯髄を除き、根管長を確かめて拡大・2.5%次亜塩素酸ナトリウムで洗浄し、水酸化カルシウムを貼薬。乾いた綿球と仮封材(IRM)で閉じる
・部分抜髄(22本):髄腔といちばん太い根管(上顎は口蓋根、下顎は遠心根)だけ同じ手順で処置し、ほかの根管は触らない
・断髄(22本):歯冠部の歯髄をキュレットで除き、乾いた綿球で軽く押さえて止血。乾いた綿球を置き、酸化亜鉛ユージノールセメントで仮封
・処置の後:全員にイブプロフェン600mgを処方。患者が質問票に、麻酔が切れた時点(当日)と1・3・7日後の痛み(VAS 0〜10)・噛んだ時の痛み・冷温の痛み(あり・なし)と、鎮痛薬の服用(当日の麻酔が切れた後から7日目まで毎日)を記録。全員、研究期間の後に根管治療を完了する予定とされた

④結果:処置時間は24分・13分・5分

3群の年齢・性別・上下の歯・根尖性歯周炎を伴う割合に、有意な差はありませんでした。66人全員が7日間の記録を終え、脱落はありませんでした。

0 10分 20分 30分 処置時間の中央値(分) 24分 13分 5分 全部抜髄(範囲15〜30分) 部分抜髄(範囲8〜16分) 断髄(範囲4〜7分) 原典の表1。髄腔開拡が終わった時点から測った処置時間。各群22人。3群の中央値は互いに有意に異なった(すべてP<0.001)
図1 処置時間の中央値(原典の表1・各群22人)

処置時間の中央値は、全部抜髄24分(範囲15〜30分)、部分抜髄13分(8〜16分)、断髄5分(4〜7分)で、3群は互いに有意に異なりました。

⑤結果:7日間の痛みは、3群とも有意に減った

痛みの強さ(VAS)と、冷温・噛んだ時の痛みがある人の割合は、3群とも術前から7日後までに有意に減りました。7日のあいだに、痛みで救急の処置を求めて戻ってきた患者は1人もいませんでした。

痛みの減り幅を、時点の区間ごとに比べたのが次の表です。

表2 痛み(VAS 0〜10)の減り幅の中央値(範囲)。原典の表2の全10区間 区間 全部抜髄 部分抜髄 断髄 P値 術前→当日 -1.5(-9〜2) -4(-8〜1) -6(-10〜3) 0.017 術前→1日後 -4(-9〜2) -6(-9〜1) -7(-10〜0) 0.066 術前→3日後 -7(-10〜0) -7(-10〜1) -7(-10〜2) 0.707 術前→7日後 -8(-10〜2) -7.5(-10〜1) -7(-10〜1) 0.046 当日→1日後 -2(-8〜2) -1.5(-7〜2) -1(-8〜2) 0.450 当日→3日後 -3.5(-10〜2) -2(-8〜1) -1(-8〜4) 0.020 当日→7日後 -5.5(-10〜0) -3(-8〜4) -1(-8〜9) <0.001* 1日後→3日後 -1.5(-6〜0) 0(-6〜2) 0(-3〜4) <0.001* 1日後→7日後 -2.5(-8〜0) -1.5(-7〜2) 0(-6〜10) <0.001* 3日後→7日後 -1(-6〜2) 0(-5〜3) 0(-8〜6) 0.010 マイナスは痛みが減ったことを示す。各群22人。当日=麻酔が切れた時点 *印の3区間だけ、全部抜髄と断髄の間に有意差の印が付いた(全部抜髄のほうが減り幅が大きい。P<0.001)。部分抜 髄はどの区間でもほかの群と差の印が付いていない P値は3群を比べた検定(Kruskal-Wallis・Bonferroniの補正)。*の無い区間は、原典の印と本文で群間差を認めな かった区間 術前の痛みの中央値は3群とも約8(原典の図2から読み取り)。断髄の群は当日の時点で大きく減っていたため、当日 や1日後を起点にした減り幅は小さくなりやすい(筆者の読み)

群の中で最初に痛みが有意に減ったのは、断髄と部分抜髄では麻酔が切れた当日、全部抜髄では1日後でした。術前から当日までの減り幅の中央値は、全部抜髄1.5・部分抜髄4・断髄6でしたが、この区間の群間差は補正後に有意ではありませんでした。

群間で有意差が出たのは、当日→7日後・1日後→3日後・1日後→7日後の3区間で、いずれも全部抜髄のほうが断髄より痛みの減り幅が大きかったという向きです。著者は、根管まで処置し切る全部抜髄なら時間とともに痛みがよく引くのは意外ではない、としています。ただ、断髄の群は当日の時点ですでに大きく減っていたので、当日や1日後を起点にした減り幅は小さくなりやすい点も、合わせて読みたいところです(ここは筆者の読みです)。部分抜髄は、どの区間でもほかの群との差を認めませんでした。

⑥冷温の痛み・噛んだ時の痛み・鎮痛薬

・冷温の痛み:群の中で最初に有意に減ったのは、全部抜髄と断髄が当日、部分抜髄が1日後。痛みがある人の割合の変化に、群間の有意差は認めませんでした
・噛んだ時の痛み:群の中で最初に有意に減ったのは、断髄が1日後、全部抜髄と部分抜髄は7日後でした。痛みがある人の割合の変化に、群間の有意差は認めませんでした。著者は、根管の奥まで器具を入れる処置は根尖周囲に影響しやすく、噛んだ時の痛みが引くのが遅れたのかもしれない、と考察しています(推測です)
・鎮痛薬:7日間の使用に群間の有意差は認めませんでした(次の表)

表3 7日間の鎮痛薬(イブプロフェン600mg)の使用。原典の表3の全行 全部抜髄 部分抜髄 断髄 P値 7日間に鎮痛薬を飲まなかった人 7人(31.8%) 11人(50.0%) 12人(54.5%) 0.277 1錠以上飲んだ人 15人(68.2%) 11人(50.0%) 10人(45.5%) 1人あたりの錠数 中央値(範囲) 1(0〜9) 0.5(0〜11) 0(0〜9) 0.365 各群22人。処置後に全員へイブプロフェン600mgを処方し、麻酔が切れた時点から7日間の服用を患者が記録 群間に有意差は無かった(割合はカイ二乗検定、錠数はKruskal-Wallis検定)

著者は考察で、断髄の群は統計的な差は無いものの5日目を過ぎてから鎮痛薬を飲む人が増える傾向があったとして、応急の断髄の後は、1週間ほどで抜髄を行うのが望ましいと書いています。

⑦明日の臨床へ

この研究の範囲で言えるのは、「症状のある不可逆性歯髄炎の大臼歯の応急処置で、歯冠部の歯髄を除くだけの断髄(中央値5分)でも、全部抜髄(中央値24分)と同じく、7日間で痛みは有意に減り、冷温や噛んだ時の痛みがある人の割合の変化と鎮痛薬の使用にも群間差を認めなかった」ということです。

急患で時間が取れない時は、まず断髄で痛みを止め、後日あらためて根管治療に入る、という段取りの裏付けの1つになります(ここは筆者の読みです)。その場合も、著者のいう「1週間ほどで抜髄」を目安に、次の予約を早めに取っておきたいところです。一方で、この研究の断髄は根管治療までのつなぎで、MTAなどで歯髄を残す断髄の長期成績を調べたものではありません。また、全部抜髄の群のほうが、断髄の群より当日以降の痛みの減り幅が有意に大きかった区間(10区間のうち3区間)もありました(部分抜髄はどの区間でも差を認めていません)。

⑧ここだけ補助線

急患の現場の迷いに、無作為化比較試験で答えた貴重な1本です。読むときの注意点を3つだけ。
・規模と設計:単施設・術者1名(処置を知った上で施術)、各群22人。人数は痛みの差1.6点を見つける計算で決められていて、3つの処置が「同等」であることを示すための試験ではありません
・測ったもの:患者が記入した7日間の痛み・冷温や噛んだ時の痛みの有無・鎮痛薬の服用です。その後の根管治療の成績や歯の予後は調べていません
・対象:歯髄が生きている大臼歯で、中等度以上の歯周炎などは除外。手元の原典は受理原稿の版(誌面の最終版ではない)です
「急患の歯髄炎は、まず断髄で止めて、早めに根管治療へ」という段取りを考えるときの、土台になる研究です。

今日のひとこと

症状のある不可逆性歯髄炎の大臼歯の応急処置で、歯冠部の歯髄だけを除く断髄(中央値5分)でも、全部抜髄(中央値24分)と同じく7日間で痛みは有意に減り、冷温や噛んだ時の痛みがある人の割合の変化と鎮痛薬の使用に群間差を認めませんでした。痛みの減り幅は10区間のうち3区間で全部抜髄のほうが断髄より有意に大きく、各群22人・7日間の試験です。急患では断髄で痛みを止め、1週間ほどで根管治療へつなぐ、という段取りを考える土台になる1本です。

Eren B, Onay EO, Ungor M. Assessment of alternative emergency treatments for symptomatic irreversible pulpitis: a randomized clinical trial. Int Endod J. 2018;51 Suppl 3:e227-e237. doi: 10.1111/iej.12851. Epub 2017 Oct 16. PMID: 28857203
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。