エンド|上顎第一大臼歯の近心頬側根(MB根)は、2本目の根管(MB2)を見落としやすい根。初回の根管治療をマイクロスコープ下で行ったかどうかで、再治療時点のMB根の根尖病変に差があるのかを、再治療に紹介された歯のカルテとX線からさかのぼって調べた後ろ向き研究(Khalighinejad 2017・Journal of Endodontics)
上顎第一大臼歯のMB根には、2本目の根管(MB2)があることが多い。マイクロスコープを使えば見つけやすい——ここまでは多くの先生が実感しているところです。では、マイクロの有無は治療の成績にまで表れるのか。著者らは、根管治療のあと根尖病変が出て再治療に紹介された上顎第一大臼歯195本を集め、初回治療がマイクロあり(大学の歯内療法科・83本)かマイクロなし(一般歯科医・112本)かで分けて比べました。再治療の時点でMB根に病変があったのは、マイクロあり26%・マイクロなし73%。年齢・性別・MB2の治療の有無をそろえた調整オッズ比は3.1(95%信頼区間 1.79〜8.43)でした。さらにMB2の見落としと病変の関連は、マイクロなしの群でだけ有意(オッズ比5.1)。ただし対象は全員が「治療がうまくいかなかった歯」で、マイクロの有無は術者の経験の違いと重なっています。
①上顎6番のMB根、マイクロの有無は「結果」にまで出る?
上顎第一大臼歯の根管治療。近心頬側根(MB根)の2本目の根管(MB2)を探して、髄床底をじっと見る——あの時間に「マイクロがあれば」と思ったことのある先生は多いと思います。
マイクロスコープでMB2が見つけやすくなることは、これまでもよく言われてきました。でも、それが治療の成績(根尖病変が出るかどうか)にまで表れるのかは、実はきちんと調べられていませんでした。
結論を先に言います。再治療に紹介された上顎第一大臼歯195本で、再治療の時点でMB根に病変があったのは、初回治療がマイクロあり26%・マイクロなし73%。年齢・性別・MB2の治療の有無をそろえた調整オッズ比は3.1でした。
②「マイクロで成績が変わる」は、まだ証明されていなかった
米国歯内療法学会(AAE)は、歯内療法医がマイクロの利点を学び、診療に取り入れることを勧めています。上顎第一大臼歯の多くはMB根に2根管を持つので、マイクロを使った治療のために専門医への紹介を考えるべき、という記載もあります。
ところが、2015年のコクランのシステマティックレビューは、マイクロが根管治療の治癒に与える影響を調べた研究は1本も無いと報告していました。
・専門医がマイクロ下で治療した大臼歯は、マイクロを使わない一般歯科医の治療より10年後の生存率が高い(横断研究)
・初回治療と再治療とで、治療されていたMB2の頻度が違う=MB2の見落としが予後を悪くしているのでは(横断研究)
ただしどれも、術前の診断・根管充填の質・修復の時期や質・全身疾患といった成績を左右するほかの要因をそろえていませんでした。
そこで著者らは、条件をできるだけそろえたうえで、根管が複雑なMB根に絞ってマイクロの影響を見ようとしました。複雑な根ほど、マイクロの差がはっきり出るはずだという考えです。
③今回の一手:再治療に紹介された歯を、初回治療の条件をそろえて比べる
・18〜75歳で全身状態が良好(ASA IまたはII)
・初回治療の前は不可逆性歯髄炎・根尖部は正常と診断されていた
・初回の根管充填の質が良好(X線の根尖から0〜2mm以内・空隙なし)
・適合の良い冠が入っていた。歯周ポケット5mm未満、亀裂・穿孔・破折ファイル・歯根破折の疑いなし
・再治療の時点で、どれか1根以上に根尖病変がある(X線でPAI 3以上)
残った195本(1人1本)を、初回治療がマイクロあり(大学の歯内療法科・83本)とマイクロなし(一般歯科医・112本)に分けました。
見たのは2つです。初回治療でMB2が見つかり治療されていたか(再治療の際にマイクロで確認)と、再治療前のX線でMB根に病変があるか。X線の判定は、どちらの群かを知らされていない2人が行い、一致度(κ)は0.82でした。
なお、群の間で年齢・性別に有意差はありませんでした。一方、初回治療から再治療までの期間は、マイクロあり5.5年・マイクロなし2.6年と差がありました。
④結果①:MB2を見つけていた歯は62%対19%、MB根の病変は26%対73%
初回治療でMB2を見つけて治療していたのは、マイクロあり群で62%(83本中51本)、マイクロなし群で19%(112本中21本)でした。
そして再治療の時点でMB根に病変があったのは、マイクロあり群26%(21本)に対し、マイクロなし群73%(82本)。割合の比にすると約2.8です(表2の割合73%÷26%から計算)。
⑤結果②:条件をそろえてもオッズ比3.1、MB2の見落としが響いたのはマイクロなし群
年齢・性別・MB2の治療の有無をそろえたロジスティック回帰では、初回治療がマイクロなしだと、再治療時にMB根の病変があるオッズ比3.1(95%信頼区間 1.79〜8.43、P=.01)でした。MB2を見落としていたことも、オッズ比2.04(1.43〜5.65、P=.021)で病変と関連していました。年齢・性別は関連しませんでした。
次に、群ごとに分けてMB2の見落としを見ると、マイクロなし群ではオッズ比5.1(3.21〜8.78、P=.02)と強く関連。一方、マイクロあり群ではオッズ比1.45(P=.12)で有意差なしでした。
⑥なぜMB根だけに差が出たのか
遠心頬側根と口蓋根は、たいてい1根管で、入口も見つけやすい根です。マイクロがあってもなくても、治療の中身に大きな差が出にくい(この段落と次の段落の解剖の話は、原著ではなく一般的な知識からの筆者の補足です)。
MB根は違います。MB2の入口は小さく、象牙質に覆われていることも多い。拡大と照明があるかどうかで、見つかるかどうか——つまり感染した根管を触れたかどうかが分かれます。見落とされたMB2に感染が残れば、それがMB根の根尖病変につながりうる——著者らが原著Fig. 1で描いた「マイクロ→MB2の治療→MB根の病変」という流れは、こう読むと腑に落ちます。
ただし、この研究で比べたのは「マイクロの有無」だけではありません。マイクロあり群は大学の歯内療法科、マイクロなし群は一般歯科医の治療でした。拡大視野の効果と、術者の経験・研修の効果は、この研究では切り分けられていません。著者らも結論で、マイクロと並べて「高度な研修」を挙げています。
⑦明日の臨床へ
・MB2が見つからないときは、拡大視野で確かめる。差が出たのは根管が複雑なMB根だけだった。
・自分の設備や経験では難しいと感じたら、紹介も選択肢。著者らは、歯科医師が自分の限界を見極める教育が成績を上げられる可能性があるとまとめている。
・数字は再治療に紹介された歯どうしの比較。「マイクロなしで治療すると73%に病変が出る」という意味ではない。
再治療で上顎6番を開けたとき、手つかずのMB2が出てくる——そんな経験のある先生には、うなずける結果だと思います。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
再治療に紹介された上顎第一大臼歯195本で、再治療時にMB根の病変があったのは、初回治療がマイクロあり26%・マイクロなし73%。年齢・性別・MB2の治療をそろえた調整オッズ比は3.1(95%信頼区間 1.79〜8.43)でした。MB2の見落としと病変の関連は、マイクロなし群でオッズ比5.1、マイクロあり群では有意差なし。遠心頬側根・口蓋根の病変はマイクロの有無と関連しませんでした。「根管が複雑なMB根ほど、拡大視野の差が出やすい」ことを示唆する結果です。ただし対象は全員「うまくいかなかった歯」で、マイクロの有無は専門の歯内療法科か一般歯科医かという術者の違いとも重なっています。マイクロを使えば成績が上がると言い切るには、前向きの研究が必要です。


