エンド|2か所で曲がるS字の根管を、1本で仕上げる単一ファイル3種(Reciproc・WaveOne GOLD・HyFlex EDM)で形成したとき、削り方と根管の乱れに差が出るかを、樹脂のS字模型で比べた実験研究(Özyürek 2017・Journal of Endodontics)
S字に曲がった根管は、1本のファイルで仕上げる単一ファイル法でも削りすぎやレッジが起きやすい場面です。著者らは、S字の樹脂模型(Endo Training Block-S)60本をReciproc R25・WaveOne GOLD Primary・HyFlex EDM OneFileに20本ずつ無作為に割り付けて形成し、形成前後の写真を重ねて根尖側から1mm間隔の11か所で根管の幅を測りました。結果、Reciprocはすべての測定点で他の2種より幅が大きく(たとえば根尖側の曲がりの測定点3で0.57mm、WaveOne GOLD 0.44mm、HyFlex EDM 0.42mm)、WaveOne GOLDとHyFlex EDMの間には差が見られませんでした。根管の乱れはReciprocで20本中2本(デンジャーゾーン形成1本・レッジ1本)、他の2種は0本でしたが、本数が少なく差の検定はされていません。ファイル破折はどの群も0本でした。ただし樹脂模型での実験で、3種はテーパー(.08・.07・可変)も合金も違うため、差の原因を1つに絞れる研究ではありません。
①S字の根管、1本仕上げならどのファイルでも同じ?
根尖側と歯冠側の2か所で曲がるS字の根管。ファイルが曲がりに沿いきれないと、外湾側を削りすぎたり、途中にレッジを作ったりしやすい場面です。
いまは1本で作業長まで仕上げる単一ファイル法の選択肢が増えました。では、S字の根管でどのファイルを選ぶかによって、削れ方は変わるのか——これがこの研究の問いです。
結論を先に言います。樹脂のS字模型では、WaveOne GOLDとHyFlex EDMは、Reciprocより形成後の根管の幅が全11測定点で小さく、2種の間には差が見られませんでした。根管の乱れ(デンジャーゾーン形成・レッジ)はReciprocで20本中2本、他の2種は0本でした(本数が少なく、差の検定はされていません)。
②なぜ「合金」と「断面」が気になるのか
NiTiファイルはしなやかで、曲がった根管でも元の形を保ちやすい道具です。一方で、細く曲がった根管では繰り返し曲げによる破折が心配になります。そこで、往復運動で使う単一ファイル(WaveOne・Reciproc)が広まりました。どちらも熱処理した合金M-Wireで作られています。
その後、2つの新しいファイルが登場しました。
・HyFlex EDM:放電加工(EDM)で作るファイル。コントロールドメモリー合金で、テーパーは部位ごとに変わり、断面も根尖側1/3は四角形、中央は台形、歯冠側はほぼ三角形と3段階に変わります。回転運動で使います。
著者らが調べた範囲では、この2つの形成能を抜去歯や模型で調べた研究はまだ無かった。そこで、形の条件をそろえやすい樹脂のS字模型で、Reciprocと並べて比べました。
③今回の一手:S字の樹脂模型60本を、3種で20本ずつ形成
・Reciproc R25(25/.08=テーパー8%):往復運動(RECIPROC ALLモード)
・WaveOne GOLD Primary(25/.07=テーパー7%):往復運動(WAVEONE ALLモード)
・HyFlex EDM OneFile(先端25・テーパー可変):回転(500rpm・2.5Ncm)
どれも先端径は0.25mmで、作業長まで形成。施術は経験のある歯内療法専門医1人、1本ごとに新しいファイル、洗浄は蒸留水で計20mL。
評価は写真の重ね合わせです。形成前に根管を黒、形成後に赤のインクで染めてそれぞれ撮影し、2枚を重ねた画像で、根尖側から1mm間隔の11か所について内湾側・外湾側の削れた量(計22か所)と根管の幅を測りました。測定点0〜3が根尖側の湾曲、4〜7が歯冠側の湾曲、8〜10が歯冠側の直線部です。あわせて、ファイル破折とレッジなどの乱れを記録しています。
④結果①:Reciprocは全測定点で幅が大きかった
形成後の根管の幅は、11か所すべてでReciprocが他の2種より有意に大きくなりました(P<.05)。たとえば根尖側の曲がりの測定点3では、Reciproc 0.57mm、WaveOne GOLD 0.44mm、HyFlex EDM 0.42mm。歯冠側の曲がりの測定点5では0.75mm、0.58mm、0.57mmでした。いちばん根尖側の測定点0でも0.35mm対0.30mm・0.30mmです。
一方、WaveOne GOLDとHyFlex EDMの間には、どの測定点でも有意差がありませんでした。削れたレジンの量で見ても同じで、根尖側・中央・歯冠側のどの区間でもReciprocが多く削り、残る2種の間に差はありませんでした。
⑤結果②:乱れはReciprocで2本、破折は0本
ファイルの破折はどの群でも起きませんでした。根管の乱れはWaveOne GOLDとHyFlex EDMでは0本、Reciprocで20本中2本(デンジャーゾーン形成1本、レッジ1本)です。この本数の差については、検定の結果は示されていません。
⑥なぜ差が出たのか:著者らの見立て
著者らは、理由を3つ挙げています。
1つ目は合金のしなやかさ。熱処理した合金(GOLD合金・コントロールドメモリー合金)のファイルは柔らかく、曲がった根管の元の形に沿いやすいと考えています。Reciprocで起きた乱れについても、ファイルが根管の中で自分のまっすぐな形に戻ろうとする性質のためと推測しています。
2つ目は断面の形。ReciprocはS字の断面、WaveOne GOLDとHyFlex EDMはほぼ四角形に近い断面で、著者らは後者のほうが曲がった根管を扱いやすいと述べています。
3つ目はテーパー。先端径は3種とも0.25mmでも、Reciprocは.08と最も大きい(WaveOne GOLDは.07、HyFlex EDMは可変)。全測定点で幅が大きかったのは、このテーパーの大きさのためと著者らは考えています。
つまり今回の差は、合金・断面・テーパーの違いが重なった結果で、どれか1つの効果とは言い切れません。
⑦明日の臨床へ
・2か所で曲がる根管を1本で仕上げるなら、テーパーの大きさとしなやかさ(合金)を意識して選ぶのは1つの考え方。
・WaveOne GOLDとHyFlex EDMの間では、この研究で差は見られなかった。
・どのファイルでも破折は0本だったが、それは樹脂模型で新品を1本ずつ使った条件での話。
・数字は樹脂模型の結果。天然歯での削れ方や治療成績をそのまま示すものではない。
著者ら自身も、この差の臨床的な意味には議論の余地があり、天然歯では形成の効率が違いうると書いています。そのうえで、ファイルごとの削り方の癖を知っておくことが、解剖学的に難しい根管に向き合う助けになる、という位置づけです。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
S字の樹脂模型では、WaveOne GOLDとHyFlex EDMはReciprocより形成後の根管の幅が全11測定点で小さく(測定点3で0.44mm・0.42mm 対 0.57mm)、2種の間には差が見られませんでした。根管の乱れはReciprocで20本中2本、他の2種は0本(本数が少なく差の検定はされていません)、破折はどの群も0本です。著者らは、熱処理した合金のしなやかさと断面形状に加え、Reciprocのテーパー(.08)が大きいことも幅の差の一因と考えています。S字の模型では「どれだけ削るか」がファイルで変わった——ただし樹脂模型での結果で、天然歯での成績を見た研究ではありません。


