エンド|根尖部の詰まりを防ぐパテンシー。細い器具なら根尖孔の形は保てるのか、器具の種類で差は出るのか。ステンレス製の細い3種類を比べた抜去歯の実験(Gonzalez Sanchez 2010・International Endodontic Journal)
根尖側1/3がデブリで詰まるのを防ぐパテンシー。ただ「根尖孔を傷めるのでは」という議論は以前からあります。著者らは上下顎第一大臼歯の近心頬側根管102本を34本ずつ3群に分け、パテンシー器具として#08 K-Flexファイル(A群)・#10リーマー(B群)・XFフィンガースプレッダー(C群)を使い比べました(いずれもステンレス製)。プレカーブは付けず、先端が根尖孔から1mm出るまで受動的に入れる操作を、形成の途中と最後に計3回。形成前後に根尖孔を撮影して重ね合わせると、102本中22本(22%)にトランスポーテーション(根尖孔の輪郭の変化)が見られました。内訳はA群3/34(8.8%)・B群4/34(11.8%)に対し、C群15/34(44.1%)。C群はA群・B群のどちらとも有意差あり(P=0.0025、P=0.0069)、A群とB群の間に有意差は認められませんでした(P=1.00)。溝がなく先端も切削しないスプレッダーがいちばん変形させた理由を、著者らは「おそらく」と断ったうえで断面が丸くて質量が大きく、硬いためと推測しています。
①パテンシー、「刃がないから安全」な器具で通していませんか
根管形成の途中で根尖部が削片で詰まる。それを防ぐために、細い器具を根尖孔の少し先まで通しておくパテンシー。多くの先生が日常的に行う手技です。
では、何で通すか。#08か#10のファイルか、リーマーか。あるいは、テーパーが小さく刃もないフィンガースプレッダーなら、根尖孔を削らずにすむのでは——そう考えたことはないでしょうか。
結論を先に言います。上下顎第一大臼歯の近心頬側根管102本で比べると、#08 K-Flexファイルは8.8%、#10リーマーは11.8%で根尖孔の輪郭が変わりました。一方、XFフィンガースプレッダーは44.1%。刃のない器具が、いちばん変形させていました。
②なぜパテンシーは議論になるのか
形成中に削片が根尖側1/3への道を塞ぐと、トランスポーテーション・レッジ・穿孔が起きやすくなる。細いファイル(#08か#10)を根尖狭窄部から0.5〜1mmだけ受動的に出しておけば、その詰まりを防ぎ、元の根尖孔の形を保ち、洗浄液も根尖部まで届く——これがパテンシーの考え方です。
著者らが確かめたかったのは、パテンシーに使う細い器具の種類によって、根尖孔の変形に差が出るのかという一点です。
③今回の一手:細いステンレス器具3種類を、同じ手順で3回ずつ通す
無作為に34本ずつの3群。パテンシー器具はA群=#08 K-Flexファイル、B群=#10リーマー、C群=XFフィンガースプレッダーで、いずれもステンレス製です。
使い方は3群共通。プレカーブを付けず、押し引きで先端が根尖孔から1mm出るまで受動的に入れる。これを形成の途中と最後に計3回行いました。
判定は、形成の前後に根尖孔を撮影し、Photoshopで元の輪郭(赤)と形成後の輪郭(青)を重ねる方法です。輪郭が少しでも変わっていればトランスポーテーションあり。輪郭の描き取りは、事前に較正しどの器具を使ったかを伏せた2人が共同で行い、意見が割れたときは3人目が決めました。統計はカイ二乗検定です。
④結果:スプレッダーだけが、他の2つより大きく変形させた
102本中22本(22%)にトランスポーテーションが見られました。内訳はA群(#08 K-Flex)3本(8.8%)・B群(#10リーマー)4本(11.8%)・C群(XFスプレッダー)15本(44.1%)です。
・A群とC群:有意差あり(P=0.0025)
・B群とC群:有意差あり(P=0.0069)
・A群とB群:有意差は認められず(P=1.00)
さらに原著は、A群・B群で変形が見られた例は、根尖孔の外側に向かう小さなトランスポーテーションだったと記しています。#08 K-Flexと#10リーマーでは、大半の根管で根尖孔の輪郭が変わらなかった——これが著者らの結論です。
⑤なぜ、刃のないスプレッダーが変形させたのか
XFフィンガースプレッダーは、入手できるスプレッダーの中でいちばん細いものです。先端径0.16mm・テーパー1.4%・先端は非切削で、溝(刃)もありません。ただし先端径0.16mmは、#08(0.08mm)や#10(0.10mm)より太い点には注意が要ります。著者らも当初は、テーパーが小さく溝もないので、他の2つより変形させにくいはずと予想していました。
ちなみにB群に#08ではなく#10のリーマーを選んだのは、リーマーは1mmあたりの溝の数が少ないぶん、同じ号数のKファイルより質量が小さいためだと著者らは説明しています。
少なくともこの研究では、「刃がない・テーパーが小さい」器具だから根尖孔を変形させにくい、とはならなかったということです。
また著者らは、根尖孔は多くの場合根尖の真上ではなく側方に開くため、パテンシー器具が根尖孔の片側の壁に当たって形を変えうるとも述べています。
なお著者らは、先行研究(Goldberg & Massone 2002)が#10 Kファイルの段階で33%に変形を報告していたことに触れ、今回それより低かった理由として、#08 K-Flexファイルや#10リーマーは#10 Kファイルより質量が小さいことと受動的な押し引きで入れた使い方の可能性を挙げています。
⑥明日の臨床へ
・「刃がないから」とスプレッダーで代用しない。テーパー1.4%・先端非切削でも、44.1%で根尖孔の輪郭が変わっていました。
・使い方はプレカーブなし・押し引きで受動的に、先端を根尖孔から出す量は1mm(本研究の手順)。
・本研究の手順では、パテンシーは歯冠側2/3を形成した後にだけ行っています。器具が根尖孔まで楽に届き、作業長も変わりにくいという理由です。
著者らは考察で、細い器具のわずかなオーバーは必ずしも術後疼痛につながらないという先行研究を紹介しつつ、太い器具をパテンシーに使うと根尖周囲組織の損傷やアピカルストップの破壊、感染した削片の押し出しにつながりうるとも注意を促しています。ただしこれは他の研究の紹介で、本研究で痛みや治癒を調べたわけではありません。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:#08 K-Flexファイルと#10リーマー(ステンレス)をパテンシー器具に使うと、大半の根管で根尖孔のトランスポーテーションは起きなかった。いちばん変形させたのはXFフィンガースプレッダーだった。数字で言えば、A群8.8%(3/34)・B群11.8%(4/34)に対して、C群44.1%(15/34)。C群はA群・B群のどちらとも有意差があり(P=0.0025、P=0.0069)、A群とB群の間に有意差は認められませんでした(P=1.00)。テーパー1.4%で溝がなく、先端も切削しないスプレッダーが最も変形させた——著者らは「おそらく」と断ったうえで、断面が丸いぶん質量が大きく硬いためと推測しています。パテンシーに試す価値があるのは#08 K-Flexファイルと#10リーマー。刃のないスプレッダーで代用すると、かえって根尖孔を変形させうる——この論文の持ち帰りはそこです。なおスプレッダーの先端(0.16mm)は#08・#10より太く、太さと硬さのどちらが効いたのかは分けられません。ただし抜去歯での実験で、変形の有無だけを見て量は測っておらず、パテンシーを行わない対照群もありません。臨床の痛みや治癒を見た研究ではない点は押さえておきたいところです。


