エンド|MOD窩洞と髄室天蓋の除去で弱くした上顎小臼歯を、コンデンサブルレジンで咬頭を覆って/覆わずに修復し、破折抵抗を健全歯と比べた抜去歯の実験(Mondelli・Ishikiriama・de Oliveira Filho・Mondelli 2009・Journal of Applied Oral Science)。30本・3群・各10本・歯軸と平行の荷重を1回かけて壊した実験室の研究で、臨床成績を調べた研究ではない
髄室の天蓋がなく、辺縁隆線も失った大きなMOD窩洞の上顎小臼歯。咬頭を残してレジンで埋めるか、咬頭を削ってレジンで覆うか。Mondelliらは2009年、抜去した上顎小臼歯30本を、健全歯・咬頭を覆わない充填・咬頭を2.0mm削ってレジンで覆った修復の3群(各10本)に分け、壊れるまで荷重をかけました。壊れたときの荷重の平均は、健全歯151.40 kgf、咬頭を覆わない充填60.54 kgf、咬頭被覆141.90 kgf。有意差があったのは、覆わない充填とほかの2群の間だけです(p<0.05)。咬頭を覆った群では、全歯で破折がレジンの中にとどまりました。抜去歯に荷重を1回かけた実験室の研究で、臨床での破折率や歯の予後を調べたものではありません。
①大きなMOD窩洞の小臼歯、咬頭を残して埋める? 削ってレジンで覆う?
上顎の小臼歯。髄室の天蓋がなくなり、近心と遠心の辺縁隆線もないMOD窩洞です。頬側と口蓋側の咬頭は残っています。このままコンポジットレジンで埋めるか。咬頭を少し削って、レジンで咬頭ごと覆うか。迷う場面です。
Mondelliらは2009年、抜去した上顎小臼歯30本を使い、「咬頭を覆わないレジン充填」と「咬頭を2.0mm削ってレジンで覆った修復」を、何も削っていない健全歯と比べました。壊れるまで荷重をかけた実験室の研究です。
・壊れたときの荷重の平均は、健全歯 151.40 kgf、咬頭を覆わない充填 60.54 kgf、咬頭を覆った修復 141.90 kgf
・咬頭を覆わない充填だけが、ほかの2群より有意に低かった(p<0.05)。健全歯と咬頭を覆った修復の間に、有意差は検出されなかった
・壊れ方は、咬頭を覆った群では全歯で破折がレジンの中にとどまり、残った歯質は折れなかった。覆わない群では、主に咬頭の基部で咬頭が折れた
・抜去歯に荷重を1回かけて壊した実験で、口の中で何年もつかを調べた研究ではない
②なぜこの実験が必要だったか
著者らは序論で、上顎小臼歯は形のうえで咬合力を受けると咬頭が折れやすいこと、根管治療で髄室の天蓋を失い、辺縁隆線が薄い、または無い歯は折れやすいことを挙げています。窩洞が大きいほど歯は弱くなる、というのが出発点です。
こうした歯は、咬頭を守るために間接修復で治すのがふつうです。一方で、接着を使った修復なら残った歯質の破折抵抗が上がる、という報告もあります。では、接着を使っても、大きな窩洞では直接法での咬頭被覆がなお必要なのか。著者らはこの仮説を確かめようとしました。
③実験の組み立て:健全歯・覆わない充填・咬頭被覆の3群
使ったのは、矯正のために抜去された健全な上顎第一・第二小臼歯30本です。10倍の拡大で見て、エナメル質に亀裂や破折のある歯は除いています。歯は金属リングの中に常温重合レジンで植え、3群(各10本)に分けました。
・A群(対照):健全歯。何も削っていない
・B群(咬頭を覆わない充填):MOD窩洞を形成し、髄室の天蓋を除去。咬頭は削らず、コンポジットレジンで充填
・C群(咬頭被覆):B群と同じ窩洞に加えて、頬側と口蓋側の咬頭を高さ2.0mm削除。同じレジンで咬頭ごと覆い、元の形に戻した
窩洞は深さ4mm。頬舌的な幅は咬頭間距離のおよそ半分で、近心と遠心のボックスも同じ幅です。髄床底にグラスアイオノマーセメントを敷き、リン酸エッチングと接着材のあと、コンデンサブルレジン(SureFil)を2.0mmずつ積層して光照射しました。C群では、削る前に採ったシリコーンの型を使って、咬頭の高さと斜面を再現しています。
行ったのは髄室の天蓋の除去までです。根管の形成や根管充填を行ったという記載は、方法にありません。
荷重は万能試験機でかけました。直径8.0mmの丸い鋼の先端を、歯軸と平行に、頬側と口蓋側の咬頭の斜面に当てています。クロスヘッド速度は0.5mm/分で、壊れるまで増やしました。比較は一元配置分散分析とTukeyの検定(有意水準5%)です。
④結果(1):咬頭を覆わない充填だけが、有意に低かった
・A群 健全歯:151.40 ± 55.32 kgf
・B群 咬頭を覆わない充填:60.54 ± 12.61 kgf
・C群 咬頭被覆:141.90 ± 30.82 kgf
・有意差があったのは、B群とほかの2群の間だけ(p<0.05)。A群とC群の間に有意差は検出されなかった
平均どうしを割り算すると、咬頭を覆わない充填は健全歯のおよそ40%、咬頭被覆はおよそ94%です。咬頭被覆は、覆わない充填のおよそ2.3倍でした(いずれも表1の平均から筆者が計算)。ニュートンに直すと、順におよそ1,485 N、594 N、1,392 Nです(1 kgf=9.80665 Nで筆者が換算)。
⑤結果(2):咬頭を覆った群では、残った歯質が折れなかった
・C群 咬頭被覆:全歯で、破折はコンデンサブルレジンの中だけに起きた。残った歯質の破折はなかった
・B群 咬頭を覆わない充填:主に咬頭の基部の高さでの咬頭破折。接着界面から始まり、根尖側3分の1へ向かっていた
C群は全歯(10本)です。B群で、どの壊れ方が何本だったかは原著に示されていません。A群(健全歯)の壊れ方も書かれていません。
⑥なぜこうなったのか(著者らの考察)
・窩洞を形成すると、咬頭は実質的に長くなる。咬合力がかかると、くさびを打ったように頬側と口蓋側の咬頭が開こうとする
・咬頭を覆ったレジンが両方の咬頭をつなぎ留め、この開きを防いだ
・強さを戻したのは接着の手順だけではなく、咬頭を守ったことも効いた
・B群で咬頭破折が見られたことは、接着界面だけではこの破折を防ぎきれない可能性を示す
過去の研究には、咬頭を覆わないレジン充填でも健全歯に近い破折抵抗が得られた、という報告があります。今回の結果はそれと合いません。著者らは、今回の窩洞が過去の研究より大きかったためだろう、と説明しています。
⑦明日の臨床へ
・コンデンサブルレジンによる咬頭被覆は、弱くなった根管治療歯を修復する「安全な選択肢かもしれない」(結論の原文は might be)
・咬頭被覆によって、破折抵抗は健全歯と同じくらいの値になった
・咬頭を削ると歯質は余分に失われる。一方で、修復物の辺縁は頬側面と口蓋側面に移る(著者らはほかの研究を引いて、接着界面を守る利点として挙げている)
・大きなMOD窩洞で天蓋もない小臼歯では、「咬頭を残して埋める」より「咬頭を削って覆う」方が、この実験では2倍以上の荷重に耐えました。歯質を残すことが、いつも歯を守るとは限らない。そう考えるきっかけになります
・調べたのは、削除量2.0mm、両方の咬頭を覆う形、レジン1製品だけです。片方の咬頭だけを覆う場合、ほかの厚み、現在のレジンのことは、この論文からは言えません
・間接修復(アンレーやクラウン)とは比べていません。「直接法でも間接修復と変わらない」とは読めません
・咬頭を削るかどうかは、残った壁の厚み、咬合、歯質の量を見て決める話です。この実験は、その判断材料の1つという位置づけです
各群は10本です。健全歯の標準偏差は55.32 kgfと大きく、平均の差(151.40と141.90で9.5 kgf)を見分けるには本数が少ない実験です。「有意差が検出されなかった」は、「同じ強さだと示された」という意味ではありません。
原著の中で、気をつけて読みたい箇所が4つあります。(1)抄録と結論は「根管治療歯」と書いていますが、方法に書かれているのは髄室の天蓋の除去までで、根管の形成や充填の記載はありません。使われたのは矯正で抜去された健全な小臼歯です。(2)結果の本文は「咬頭被覆で健全歯に近い値に戻った(p<0.05)」と書いていますが、表1ではA群とC群は同じ記号(有意差なし)です。p値そのものは示されていません。(3)B群の壊れ方は、種類ごとの本数が示されていません。結果では「主に」咬頭基部の破折、考察では「いくつかの破折」と書かれています。(4)考察は、今回の結果が有限要素解析の報告(咬頭を少なくとも1.5mm下げる)を裏づけ、臨床研究でも確かめられているようだと書いています。ただし、この実験で試した削除量は2.0mmの1通りで、臨床の話はほかの研究の引用です。
群の分け方が無作為かどうかは書かれていません。資金と利益相反についての記載も、原著に見当たりません。レジン(SureFil)と接着材(Prime & Bond NT)はDentsply社、グラスアイオノマーセメント(Vitrebond)は3M ESPE社の製品です。
それでも、同じ歯種、同じ窩洞、同じ材料で、違いを咬頭の扱いだけに絞った実験です。「大きな窩洞では、接着だけに頼らず咬頭をどう扱うかを考える」という問いを、はっきり見せてくれる1本です。
今日のひとこと
この実験が示したのは、大きなMOD窩洞で髄室の天蓋もない上顎小臼歯では、咬頭を残したレジン充填より、咬頭を2.0mm削ってレジンで覆った修復の方が、有意に高い荷重まで壊れなかったということです(壊れたときの荷重の平均は、覆わない充填60.54 kgf、咬頭被覆141.90 kgf、健全歯151.40 kgf。p<0.05)。健全歯と咬頭被覆の間に有意差は検出されませんでしたが、各群10本の実験で、「同じ強さだと示された」わけではありません。抜去歯に歯軸と平行の荷重を1回かけた実験で、くり返しの力や温度変化は与えていません。根管の形成や充填の記載もありません。臨床での破折率や修復物の寿命を調べた研究ではなく、著者らの結論も「安全な選択肢かもしれない」という控えめな表現です。筆者の読みでは、大きな窩洞で「咬頭を残すか、覆うか」を考えるときの材料になる1本です。


