エンド|下顎の近心傾斜・水平の埋伏智歯を抜くために撮ったCBCTを後ろ向きに見直し、隣の第二大臼歯の遠心面に外部吸収(ERR)があるかを数え、年齢・性別・埋伏の深さとの関連を調べた研究(Wang 2017・Clinical Oral Investigations)
下顎の埋伏智歯が手前の第二大臼歯の根を少しずつ吸収していく外部吸収は、症状が出にくく、気づいた時には歯髄まで届いていることもあります。Wang らは、近心傾斜・水平の埋伏智歯を抜歯した216人の抜歯前CBCTを見直しました。第二大臼歯の遠心面に外部吸収が見つかったのは、362本中73本(20.17%)。多変量解析では、35歳以上(16〜24歳と比べ、性別・埋伏の深さと一緒に調整したオッズ比2.47、95%信頼区間1.21–5.04。割合は27.8%対14.6%で、粗有病率比は約1.9=表4の本数から筆者が計算)が外部吸収の多さと関連し、埋伏の深さはClass Bの方がClass Aより少なかった(Class Aと比べ、性別・年齢と一緒に調整したオッズ比0.41、95%信頼区間0.19–0.86。割合は16.1%対29.8%で、粗有病率比は約0.54=同じく筆者が計算)。見つかった73本の多くは軽度でしたが、9本は歯髄まで達していました。ひとつの大学病院で抜歯を受けた人だけを、CBCTの読影だけで数えた横断的なデータで、抜歯して吸収を防げるかは調べていません。
①近心傾斜・水平の埋伏智歯、手前の第二大臼歯の根は大丈夫?
下顎の埋伏智歯を抜くかどうか。智歯周囲炎や第二大臼歯の遠心のう蝕は話題になりますが、もうひとつ見落としやすいのが、埋伏智歯に押された第二大臼歯の根の外部吸収です。症状が出にくく、歯髄炎や根尖の炎症が起きるまで気づかれにくい、と著者は書いています。
では、近心傾斜や水平の埋伏智歯がある人の第二大臼歯を、CBCTでよく見ると、どのくらい外部吸収が見つかるのか。中国・南京医科大学の Wang らが、抜歯前のCBCTを見直して数えました。
・下顎の近心傾斜・水平の埋伏智歯を抜いた216人・362本の抜歯前CBCTを見直した、後ろ向きの観察研究
・見つかった割合:第二大臼歯の遠心面に外部吸収が見つかったのは、362本中73本(20.17%)
・年齢:35歳以上の人の歯で多かった(27.8%。16〜24歳は14.6%)。16〜24歳を基準に、性別・埋伏の深さと一緒に調整したオッズ比は2.47(95%信頼区間1.21–5.04)。割合の比(粗有病率比)は約1.9(表4の本数から筆者が計算)
・埋伏の深さ:Class B(中間の深さ)はClass A(浅い)より少なかった(16.1%対29.8%、Class Aを基準に調整したオッズ比0.41、95%信頼区間0.19–0.86、粗有病率比 約0.54=筆者が計算)。Class C(深い)とClass Aの差は有意ではなかった
・程度:73本のうち軽度55本・中等度9本・重度(歯髄が露出)9本
・注意:ひとつの大学病院で抜歯を受けた人だけを、CBCTの読影だけで数えた横断的なデータ。抜いた歯での確認はしておらず、抜歯で吸収を防げるかも調べていない
②なぜこの研究が必要だったか
外部吸収は、歯の根の外側から歯質が失われていくもので、炎症や機械的な圧力で起こると考えられています。著者の整理では、埋伏した下顎智歯による第二大臼歯の遠心の圧迫吸収は、これまでの報告で0.3〜24.2%と幅がありました(著者が引用した研究)。
幅が大きい理由のひとつは、診断がX線写真に頼っていることです。デンタルやパノラマは2次元で、重なりや歪みがあり、根の遠心面の小さな吸収は見落としやすい。同じ患者群でパノラマでは5.31%、CBCTでは22.88%だったという報告もあります(著者が引用した研究)。ただ、CBCTで多くの患者を数え、どんな人で多いのかを調べた研究はまだ少ない、というのが著者の問題意識でした。
③何をどう調べたか
・研究の種類:後ろ向きの観察研究(原典は retrospective cohort study と記載。実際には抜歯前の1回のCBCTを見た横断的なデータ)
・対象:2014〜2015年に南京医科大学の口腔顎顔面外科で下顎智歯の抜歯を受けた544人を記録から洗い出し、CBCTが無い・智歯の根が3分の2未満などの328人を除いた216人(平均30.45歳、16〜71歳)。近心傾斜または水平の埋伏智歯(Winter分類)だけを対象にし、嚢胞や腫瘍がある智歯、第二大臼歯に広いう蝕・冠・遠心の充填・根管治療があるもの、垂直の埋伏などの54側をさらに除いて、解析は362本
・見方:抜歯前のCBCT(NewTom)を3方向の断面で、経験のある2人が別々に読影。外部吸収=第二大臼歯の根の遠心面に、はっきりした歯質の欠損があるもの。いびつな透過像で、第二大臼歯と智歯の歯冠の間にすき間があるものはう蝕と判定して区別した
・読影の一致:同じ人が10人分を3週間あけて読み直した一致度κ=0.8546、2人の間の一致度κ=0.8832
・記録したこと:外部吸収の有無、部位(根の歯頸側・中央・根尖側の3分の1)、程度(軽度・中等度・重度)、埋伏の深さ(Pell-Gregory分類のClass A・B・C)、年齢・性別・左右
・統計:カイ二乗検定と、性別・年齢・埋伏の深さを一緒に入れたロジスティック回帰
④結果:5本に1本で外部吸収が見つかった
362本の第二大臼歯のうち、遠心面に外部吸収が見つかったのは73本(20.17%)でした。年齢と埋伏の深さで分けると、次のとおりです。
年齢では、35歳以上の人の歯で27.8%と多く、16〜24歳では14.6%でした(粗有病率比 約1.9。表4の本数27/97と19/130から筆者が計算。下の調整済みオッズ比とは別の比較)。
埋伏の深さでは、Class Aが29.8%、Class Cが24.5%、Class Bが16.1%でした。浅い・深いが多く、中間が少ないという並びで、深いほど多いという一直線の関係ではありませんでした。
性別・年齢・埋伏の深さを一緒に入れたロジスティック回帰の結果が次の表です。
35歳以上は16〜24歳と比べて調整済みオッズ比2.47(95%信頼区間1.21–5.04)、Class BはClass Aと比べて調整済みオッズ比0.41(同0.19–0.86)でした。25〜34歳、女性、Class C の値は有意ではありませんでした。外部吸収が5本に1本見つかる対象なので、同じ2群の割合から計算した粗いオッズ比は、割合の比より1から離れて出ます(35歳以上:粗オッズ比2.25に対し粗有病率比 約1.9。Class B:粗オッズ比0.45に対し粗有病率比 約0.54。粗有病率比は表4の本数27/97と19/130、35/217と14/47から筆者が計算)。調整済みオッズ比はほかの因子も一緒に調整した値なので、この比べ方だけでは割合の比との違いを説明できません。
⑤結果:どこに、どのくらい
見つかった73本のうち、軽度が55本、中等度が9本、重度(歯髄が露出)が9本でした。部位は歯頸側3分の1が32本、中央3分の1が30本、根尖側3分の1が11本。程度と埋伏の深さ、程度と部位の間には、有意な関連は見られませんでした。
著者は、外部吸収の大部分は、第二大臼歯の根の面と智歯の歯冠が接している所にあった、と書いています。
⑥結果の読み方
著者は、35歳以上で多かったことを「埋伏智歯は根ができた後も萌出しようとする動きを続け、第二大臼歯を押し続けるので、吸収は年月とともに進む過程なのだろう」と説明しています。近心傾斜・水平の埋伏は第二大臼歯との接触面が広く、圧迫吸収が起こりやすい、とも考えています。ただし、この研究は1回のCBCTを見た横断的なデータで、同じ歯の吸収が年齢とともに進むのを追ったものではありません。ここは著者の考えです。
見つかった割合20.17%は、同じくCBCTを使った先行研究の49.43%(上下の近心傾斜の智歯)より低く、著者は対象の選び方や人数の違いを理由に挙げています。どの集団を、どんな基準で数えるかで、割合は大きく変わりうる数字です。
⑦明日の臨床へ
この研究の範囲で言えるのは、「抜歯を受けに大学病院へ来た、近心傾斜・水平の埋伏智歯の第二大臼歯をCBCTで見ると、約5本に1本で遠心面に外部吸収が見つかり、35歳以上の人で多かった」ということです。
読み方としては、近心傾斜・水平の埋伏智歯が第二大臼歯に接している人、とくに年齢が高めの人では、第二大臼歯の遠心面の根を意識して画像を読む、ということになります(ここは筆者の読みです)。著者は、外部吸収がX線写真で確かめられた時は智歯の抜歯が勧められ、第二大臼歯と埋伏智歯の直接の接触が見えた時は外部吸収を見逃さず、経過観察か予防的な抜歯を考えてよい(とくに35歳以上で近心傾斜・水平の埋伏)、と述べています。一方で、症状の無い埋伏智歯の予防的抜歯を正当化する十分な根拠はまだ無い、とも書いています。この研究は抜歯した後の第二大臼歯の経過や、抜歯で吸収を防げるかは調べていないので、抜くかどうかは、抜歯の合併症も含めて患者さんと相談して決める話です。
⑧ここだけ補助線
・対象:ひとつの大学病院で、抜歯を受けた人だけを後ろ向きに集めています。CBCTを撮った人に限られ、544人から216人に絞られているので、一般の人の割合とは違いうる数字です
・判定:外部吸収はCBCTの読影だけで判定し、抜いた歯や組織では確かめていません。う蝕との見分けにも誤りが入りうる、と著者は書いています
・数え方:分析の単位は歯で、216人から362本を数えているので、多くの人は左右2本が入っています。同じ人の左右の歯をどう扱ったかは原典に書かれていません。また原典の中で、外部吸収のあった人数(50人と内訳の60人)や、考察の対象人数(211人・356本)が結果と合わない所があり、記事では結果の節と表の数字を使いました
同じ集団を時間を追って見る研究が出れば、「年齢とともに進む」が確かめられます。埋伏智歯の扱いを考える材料の1本として読みたい論文です。
今日のひとこと
近心傾斜・水平の埋伏智歯を抜く前のCBCTを見直すと、隣の第二大臼歯の遠心面に外部吸収が見つかったのは362本中73本(20.17%)で、35歳以上の人の歯で多く、埋伏の深さはClass B(中間の深さ)の歯がClass A(浅い)より少なくなっていました。73本のうち9本は歯髄まで達していました。ひとつの大学病院で抜歯を受けた人を、CBCTの読影だけで数えた横断的なデータで、抜歯で吸収を防げるかは調べていません。埋伏智歯が第二大臼歯に接している時、遠心面の根をCBCTなどで確かめる意味を考えさせる1本です。


