エンド|根尖性歯周炎のある根未完成の下顎第一大臼歯(9歳男児)に、遠心根は血餅+多血小板血漿(PRP)、近心根は血餅だけでリバスキュラリゼーションを行い、2年1か月後に破折で抜歯した歯の根管の中を組織で調べた症例報告(Martin 2013・Journal of Endodontics)
根未完成歯のリバスキュラリゼーションは、根管に出血させて組織を呼び込む治療です。では、うまくいった歯の根管の中には何ができているのか。Martin・Ricucci らは、治療から2年1か月後に破折で抜歯になった大臼歯1本を、根ごと薄く切って調べました。根尖病変は治り、症状も無かった一方で、根管の中にできていたのはセメント質や骨に似た硬組織と炎症の無い線維性結合組織で、象牙芽細胞様の細胞が並ぶ歯髄様組織は、PRPを入れた遠心根にも入れなかった近心根にも見られませんでした。患者1人・歯1本の症例報告で、PRPの有無は根ごとに違うだけの比較です。
①リバスキュラリゼーションで根管にできるのは、歯髄?
根未完成の永久歯で歯髄が壊死し、根尖性歯周炎まで起きている。アペキシフィケーションにするか、根管に出血を起こさせて組織を呼び込む「リバスキュラリゼーション(リバイタリゼーション)」にするか。後者を選んで、根尖病変が治り、症状も消えたとき、根管の中には何ができているのでしょうか。
この問いに、ヒトの歯の組織標本で答えたのが、Martin・Ricucci らによる2013年の症例報告です。リバスキュラリゼーションから2年1か月後に破折で抜歯になった下顎第一大臼歯を、根ごと薄く切って顕微鏡で調べました。遠心根には血餅に多血小板血漿(PRP)を加え、近心根は血餅だけでした。
・9歳男児の根未完成の下顎右側第一大臼歯(歯髄壊死と症状のある根尖性歯周炎)1本の症例報告。遠心根は血餅+PRP、近心根は血餅だけ
・臨床:根尖病変は治り(近心根の歯根膜腔がわずかに広いだけ)、症状も無く、著者は歯内療法としては成功と判断した
・組織:2年1か月後に破折で抜歯。根管の中にできていたのは、セメント質や骨に似た硬組織(セメント質様/類骨様組織)と、炎症の無い線維性結合組織だった
・歯髄様組織は無かった:象牙芽細胞様の細胞が並ぶ「歯髄らしい組織」は、遠心根(PRPあり)にも近心根(PRPなし)にも見られなかった。両根の組織像は似ていた
・注意:歯1本・1人の観察で、PRPの有無は根ごとに違うだけの比較。PRPの効果を確かめた研究ではない
②なぜこの症例が貴重だったか
著者の整理では、根尖性歯周炎のある根未完成歯は、従来アペキシフィケーションで根尖を閉じてから根管充填するのが一般的でした。そこへ、抗菌薬のペーストで根管を消毒したあと根尖から出血させる方法で、根管壁が厚くなり、根の発育が続き、歯髄の生活反応が戻ったという報告が出て、リバスキュラリゼーションが広がりました(著者が引用した症例報告や症例集積)。
根管に出血させる狙いは、血餅を足場にして、根尖側から前駆細胞(根尖乳頭の細胞かもしれない)を根管に呼び込むことだと考えられています。最近は、血餅の代わりに成長因子の多いPRPを足場に使う報告も出ていました。
著者は、根尖性歯周炎のある根未完成歯のリバスキュラリゼーション後に根管の中に何ができるのかは、ヒトでは組織の報告が無く分かっていない、としています。一方で序論では、根尖が開いた歯髄壊死の歯にPRPを使い、14か月後に根管から取り出した組織が、象牙芽細胞や典型的な歯髄の構造は無いものの、生きた歯髄様の結合組織だったというヒトの報告(Torabinejad と Faras、著者が引用した研究)も紹介しています。動物(イヌ)の研究では、根管にできたのはセメント質様/類骨様の組織と歯根膜様の組織で、歯髄様組織は見られなかったと報告されていました(著者が引用した研究)。この症例は、ヒトの歯で、しかも1本の歯の中でPRPあり・なしの根を並べて組織を見られた、まれな機会でした。
③どんな症例で、何をしたか
・研究の種類:症例報告(Journal of Endodontics 2013)。患者1人・歯1本
・患者と歯:9歳男児、下顎右側第一大臼歯。咬むと痛む。咬合面に大きなう蝕、温度診・電気歯髄診に反応なし、打診痛あり。エックス線写真で近心根・遠心根の両方に大きな根尖部透過像、根尖は未完成(遠心根は根尖の吸収も否定できなかった)。診断は歯髄壊死と症状のある根尖性歯周炎
・1回目:まず麻酔なしで根管を探ると、近心根管の中央〜根尖側1/3で痛みがあり、根尖側に生きた組織が残っていた(遠心根管は根尖まで痛みなし)。麻酔後、遠心根管を#40、近心根管を#30まで形成し、5.25%次亜塩素酸ナトリウム10mLで洗浄、3種の抗菌薬ペースト(シプロフロキサシン・メトロニダゾール・ミノサイクリン)を根尖側に置いた
・2回目:4週後の予定が、来院は5か月後。症状はなく、根尖部透過像はかなり小さくなっていた。血管収縮薬なしの麻酔で、ペーストを洗い流し、根尖孔の外までファイルを入れて出血させ、髄床底まで血液を満たした。遠心根管には自己血から作ったPRPを約0.5mL注入(近心根管は細すぎて入れられなかった)。その上に白色MTA、湿綿球、仮封。1か月後に接着性のコンポジットレジンで修復
・組織の調べ方:抜歯した歯を脱灰し、近心根・遠心根をそれぞれ縦に2つに割って、4〜5μmの連続切片を作り、5枚に1枚をヘマトキシリン・エオジン染色して光学顕微鏡で観察
④臨床の経過:病変は治り、症状も無かった
術後7か月で根尖病変の治りはさらに進み、14か月では近心根に小さな透過像が残るものの、症状はありませんでした。2年1か月後、歯冠部が動くと訴えて来院。舌側咬頭が斜めに破折し、破折線は歯槽骨頂の高さまで達していました。このときのエックス線写真では、根尖病変は治っており、近心根の周りの歯根膜腔がわずかに広いだけでした。遠心根管は硬組織で埋まったように見え、近心根管も狭くなっていました。
歯周外科と全部被覆冠で残す選択肢も説明されましたが、両親は抜歯を選びました。抜いた歯の根尖には、近心根・遠心根とも軟組織が付いていました。著者は、根尖性歯周炎が治り、臨床症状も無いことから、この症例の歯内療法は成功だったと判断しています。
⑤結果:根管の中にできていたもの
近心根・遠心根とも、MTAの直下までの根管の中に、不規則な硬組織ができていました(近心根では、切片によって線維性結合組織が占める部分もありました)。
・遠心根(血餅+PRP):連続切片のすべてで、根尖側の根管全体を硬組織が占めていました。この硬組織はセメント質様/類骨様の組織で、小腔にセメント細胞様・骨細胞様の細胞がわずかに入っていました。硬組織の中の不規則なすき間には、血管を含む生きた結合組織か、壊死した組織片と象牙質の削りくずがありました。根管壁に並ぶ象牙芽細胞様の細胞は無く、元の象牙質と新しい硬組織が直接つながっていました。根尖孔の部分は、象牙質の壁をセメント質様の層が覆い、炎症の無い線維性結合組織が根尖孔を満たしていました
・近心根(血餅だけ):一部の切片では、根尖側の根管を有細胞セメント質の性質をもつ硬組織が埋めていました。別の切片では、根管壁にセメント質様の組織が付いて内腔が狭くなり、線維性結合組織がMTAの直下まで続いていました。根尖孔の少し手前の一部の切片では、炎症の無い結合組織に囲まれた異栄養性石灰化(壊死した組織片と象牙質の削りくずを含む)も見られました
・根尖:どちらの根も根尖はよく形成されていましたが、ヘルトヴィッヒ上皮鞘のような細胞は見られませんでした
・遠心根の根尖に付いていた軟組織:散在する慢性炎症細胞を伴う線維性組織で、異物を取り込んだマクロファージや多核の異物巨細胞が見られました。著者は、器具で根尖の外へ押し出された象牙質の削りくずなどが異物になった可能性を挙げています
象牙芽細胞様の細胞が象牙質様の硬組織に沿って並ぶ「歯髄様組織」は、どちらの根にも見られませんでした。PRPを入れた遠心根と入れなかった近心根の組織は、互いに似ていて、イヌの研究で報告された組織とも似ていた、と著者は書いています。
⑥結果の読み方:著者の考察
著者は考察で、この症例ではPRPを血餅に加えても歯髄組織の再生を促したようには見えなかった、と述べています。根尖側の線維性結合組織は炎症が無く、歯根膜が根管の中へ伸びたもののように見え、根管の中のセメント質様/類骨様組織は、歯根膜の幹細胞から分化したセメント芽細胞や骨芽細胞が作ったのかもしれない、と考えています(ここは著者の推測で、細胞の由来を確かめたわけではありません)。また、有細胞セメント質と緻密な骨は組織像だけでは見分けにくいことがある、とも書いています。
著者は、組織が傷ついたあとの理想は「再生」だが、生後の創傷治癒で普通に起こるのは「修復」だ、と整理しています。そのうえで、根未完成で歯髄壊死と根尖性歯周炎のある歯では、根管を人工の材料やガッタパーチャとシーラーで置き換えるより、生きた組織で修復される方が良い、という立場をとっています(著者の見解)。アペキシフィケーションとの長期の比較は、これから調べる必要があるとしています。
⑦明日の臨床へ
この症例の範囲で言えるのは、「根尖性歯周炎のある根未完成の大臼歯1本で、リバスキュラリゼーションの後、病変は治り症状も無かったが、2年1か月後の根管の中は、象牙芽細胞様の細胞が並ぶ歯髄様組織ではなく、セメント質や骨に似た硬組織と線維性結合組織だった。PRPを入れた根も入れなかった根も同じような組織だった」ということです。
読み方としては、エックス線写真で根管が狭くなった・根管が埋まって見えたことを、そのまま「歯髄が再生した」と読まない、ということになります(ここは筆者の読みです)。患者さんや保護者にリバスキュラリゼーションを説明するときも、「歯髄が元に戻る治療」ではなく、「根管の中に生きた組織ができることを目指す治療で、その組織は歯髄と同じとは限らない」と伝える方が、この症例の所見に合っています(ここも筆者の読みです)。一方で、この報告は歯1本の観察で、歯の長期の保存や破折のしやすさ、アペキシフィケーションとの成績の違い、PRPの効果は調べていません。
⑧ここだけ補助線
・規模:患者1人・歯1本の症例報告です。ほかの歯・ほかの患者でも同じ組織になるかは分かりません
・PRPの比較:PRPの有無は、同じ歯の遠心根と近心根で違うだけです。2つの根は、根管の太さ・形成の号数・1回目の時点で根尖側に生きた組織が残っていたか(近心根管には残っていた)も違い、PRPの効果を確かめる比較にはなっていません
・時期と方法:観察は2年1か月後の1時点、ヘマトキシリン・エオジン染色の光学顕微鏡像で、細胞の由来を調べる染色などはしていません
リバスキュラリゼーションの「成功」と「歯髄の再生」を分けて考えるきっかけになる、記憶しておきたい1本です。
今日のひとこと
根尖性歯周炎のある根未完成の大臼歯1本で、リバスキュラリゼーションの後、根尖病変は治り症状も無かったのに、2年1か月後の根管の中は、セメント質や骨に似た硬組織と線維性結合組織で、象牙芽細胞様の細胞が並ぶ歯髄様組織ではありませんでした。PRPを入れた根も入れなかった根も、似た組織でした。臨床的な「成功」と「歯髄の再生」を分けて考えるきっかけになる1例です。歯1本の観察で、PRPの効果を確かめた研究ではありません。


