1問1答 論文 エンド

不可逆性歯髄炎と臨床診断した成人の大臼歯、部分断髄で残せる?——露髄部を2〜3mm除去して止血できた50本をMTAか水酸化カルシウムに無作為に割り付けた試験で、2年後の成功はMTA 85%・水酸化カルシウム 43%だった(Taha 2017)

1問1答 論文 エンド

エンド|不可逆性歯髄炎に一致する症状のある成人の大臼歯で、露髄部の歯髄を2〜3mm除去して止血できた50本を、MTAか水酸化カルシウム(Dycal)に無作為に割り付け、2年まで追った無作為化比較試験(Taha 2017・Journal of Endodontics)

長引く強い自発痛があり、冷刺激試験でその痛みが再現される深いう蝕の大臼歯。露髄したら抜髄、と考えることが多い場面です。Taha らは、こうした成人の大臼歯で露髄部の歯髄だけを2〜3mm除去する部分断髄を行い、止血できた50本を、覆う材料でMTAと水酸化カルシウムに無作為に分けて比べました。2年後に臨床とX線の基準をともに満たした成功の割合は、MTA 85%(26本中22本)、水酸化カルシウム 43%(23本中10本)で、この差は統計的に有意でした。1年の時点(83%対55%)では有意差は検出されず、水酸化カルシウムは時間とともに成功の割合が下がりました。診断は症状による臨床診断で、止血できなかった歯は最初から除いた、1施設・50本・2年の結果です。

論文
Partial Pulpotomy in Mature Permanent Teeth with Clinical Signs Indicative of Irreversible Pulpitis: A Randomized Clinical Trial
著者
Nessrin A. Taha, Mohammad A. Khazali(ヨルダン科学技術大学 歯学部 保存修復学講座)
掲載
Journal of Endodontics 2017; 43(9): 1417–1421
種類
無作為化比較試験(1施設・大学院のエンド外来)。20〜52歳の50人50本の大臼歯。不可逆性歯髄炎に一致する症状(長引く強い自発痛が冷刺激試験で再現)の臨床診断。露髄部の歯髄を2〜3mm除去し、止血できた歯をコイン投げでMTA 27本・水酸化カルシウム 23本へ。6か月・1年・2年に臨床とX線で評価(解析49本)
資金・利益相反
資金はヨルダン科学技術大学の研究部(助成番号 218/2014)。著者らは利益相反は無いとしている。使った材料は White ProRoot MTA(Dentsply)と Dycal(Dentsply Caulk)
PMID
28673494

①不可逆性歯髄炎と診断した大臼歯、部分断髄で残せる?

深いう蝕で、冷たい物で長引く強い痛みや自発痛がある。削ってみると露髄した。「不可逆性歯髄炎だから抜髄」——そう判断する場面は多いはずです。

では、症状のある成人の大臼歯でも、露髄部の歯髄だけを少し除去して残す「部分断髄」は選択肢になるのでしょうか。ヨルダン科学技術大学の Taha らは、この問いを無作為化比較試験で確かめ、覆う材料をMTAと水酸化カルシウムで比べました。

結論を先に書きます。
・不可逆性歯髄炎と臨床診断した成人(20〜52歳)の大臼歯で、露髄部の歯髄を2〜3mm除去して止血できた50本を、MTAか水酸化カルシウム(Dycal)に無作為に割り付けた試験
・2年後の成功:MTA 85%(26本中22本)、水酸化カルシウム 43%(23本中10本)。この差は統計的に有意だった(P=.006)
・途中の時点:6か月は84%対62%(P=.10)、1年は83%対55%(P=.052)で、どちらも有意差は検出されなかった。水酸化カルシウムは時間とともに成功の割合が下がり、MTAは2年までほぼ同じだった
・注意:診断は症状と冷刺激試験による臨床診断で、組織は見ていない。止血できなかった歯と一部壊死の歯は最初から除いている。1施設・50本・2年の結果

②なぜこれまでは抜髄だったのか

著者らの整理では、歯髄の炎症の程度は、従来は症状から推し量られてきました。症状が軽ければ可逆性歯髄炎、露髄があり症状が強ければ不可逆性歯髄炎で、刺激を除いても歯髄は元に戻りにくいため根管治療が適応、という考え方です。

一方で、成熟歯でも露髄した歯髄が回復しうること、自発痛や強い痛みがあっても歯髄が修復できないとは限らないことを示す報告が出てきました(著者が引用した研究)。そのような歯では、露髄部を覆うだけの直接覆髄より、炎症の強い表層を除く部分断髄や断髄がよいとされ、除去した後に出血を止められるかが成否の分かれ目と考えられています。

覆う材料は、かつては水酸化カルシウムが主流でした。MTAは溶けにくく、より厚く均一な象牙質の橋を作るとする報告があります(著者が引用した研究)。ただ、症状のある成熟歯の部分断髄で、2つの材料を比べた無作為化比較試験は無かった、というのが著者らの問題意識です。

③今回の試験:止血できた歯だけを無作為に割り付けた

対象は、2014年6〜10月の4か月間に大学院のエンド外来へ紹介された、症状のある深いう蝕の大臼歯です。61人61本を診て、条件に合う50人50本(1人1本)を組み入れました。

  • 組み入れ:20歳以上・治療に影響する既往歴なし・う蝕が象牙質の3分の2以上・冷刺激試験に反応あり・修復可能・歯周ポケットと動揺は正常範囲・瘻孔や腫脹なし。歯根が完成していない歯は除外
  • 診断:全例で、長引く強い自発痛の既往があり、その痛みが冷刺激試験で再現された(不可逆性歯髄炎に一致する臨床診断)
  • 処置:局所麻酔・ラバーダム防湿、歯面を5.25%次亜塩素酸ナトリウムで清拭してからう蝕を除去。露髄部の歯髄を滅菌ラウンドバーで2〜3mm除去し、2.5%次亜塩素酸ナトリウムを含ませた綿球で2〜3分圧接(必要ならもう2〜3分)して止血
  • 割り付け:止血を確認してから、研究に関わらない歯科助手のコイン投げでMTA(White ProRoot MTA)27本か水酸化カルシウム(Dycal)23本へ
  • MTA群:MTAを厚さ3mmで置き、湿綿球とIRMで1週間仮封。2回目にMTAの硬化を確かめ、グラスアイオノマー系ライナー(Vitrebond)を置いてアマルガムかコンポジットレジンで修復
  • 水酸化カルシウム群:Dycalの上にすぐVitrebondを置き、同じ日に最終修復
  • 評価:6か月・1年・2年(25〜28か月)。自発痛や不快感が無い(処置後の最初の数日を除く)・咀嚼や食事で痛みが無い・冷刺激試験(Endo Ice)に反応あり・打診痛と触診痛が無い・動揺が正常・腫脹や瘻孔が無い、の臨床の基準と、X線で根管内外の病変や内部吸収・歯根吸収が無くPAIが3未満、の両方を満たせば成功。X線は、覆った材料を隠して専門医が判定した

除外された11本の内訳は、一部が壊死していた5本と、6分以内に止血できなかった6本です。つまり結果は、「症状は強いが、除去後に止血できた歯」についてのものです。

④結果:2年後の成功はMTA 85%、水酸化カルシウム 43%

MTA群の1人は一度も来院せず解析から外れ、解析はMTA 26本・水酸化カルシウム 23本の49本でした。著者らは来院率を90%以上と書いていますが、結果の本文では1年の時点で来院の対象37人のうち来院したのは32人でした。

0 30% 60% 90% 成功の割合(%) 84% 83% 85% 62% 55% 43% MTA 水酸化カルシウム 6か月 1年 2年
図1 部分断髄の各時点の成功の割合(原典の表3)。各群の棒は左から6か月・1年・2年。無作為化比較試験・成人の大臼歯(解析49本)。割合は 成功÷(失敗+成功)で、MTA 21/25・20/24・22/26、水酸化カルシウム 13/21・11/20・10/23。2年の差だけが統計的に有意だった(Fisherの正確確率検定)。

失敗は早い時期に集中しました。処置直後に強い自発痛が続いて根管治療に移ったのが4本(MTA 1本・水酸化カルシウム 3本)。6か月までにさらに8本が失敗し、4本は3か月後に痛みが出て根管治療、残る4本は症状は無いものの冷刺激試験に反応せず、X線で新しい根尖の透過像が出ていました。

その後の失敗は水酸化カルシウム群だけでした。1年で1本(咬合時痛と根尖の透過像)、2年でさらに4本(強い痛みで一般歯科医が根管治療を始めた3本と、歯と修復物の破折で抜歯へ紹介された1本)。MTA群の失敗は、6か月までの4本のままでした。

表3 部分断髄の成績(原典の表3の全行) 時点 MTA 失敗 MTA 成功 水酸化Ca 失敗 水酸化Ca 成功 P値 6か月 4本 21本(84%) 8本 13本(62%) .10 1年 4本 20本(83%) 9本 11本(55%) .052 2年 4本 22本(85%) 13本 10本(43%) .006 失敗の本数は、本文の経過と照らすとその時点までの累計と読める(筆者の読み)。成功の割合(%)は 成功÷(失敗 +成功)で、原典の%と一致する(筆者の検算) P値は各時点のMTAと水酸化カルシウムの比較(Fisherの正確確率検定)。有意だったのは2年(P=.006)だけ 部分断髄(露髄部の歯髄を2〜3mm除去)の無作為化比較試験。不可逆性歯髄炎と臨床診断した成人の大臼歯で、止血 できた50本を割り付け(解析49本)。水酸化Ca=水酸化カルシウム(Dycal)
図2 原典の表3の全行。失敗の本数は、本文の経過と照らすとその時点までの累計と読める(筆者の読み)。成功の割合は 成功÷(失敗+成功)。

2年の成功の割合の比(MTA÷水酸化カルシウム)は約1.9です(表3の 22/26 と 10/23 から筆者が計算)。性別による差は検出されませんでした(女性 61.5%・男性 69.6%、P=.764)。経過観察のX線では象牙質の橋ははっきり確認できず、歯冠の目立った変色も見られませんでした。

⑤結果の読み方

この試験が示したのは、「不可逆性歯髄炎に一致する症状があっても、除去後に止血できた成人の大臼歯では、MTAで部分断髄した歯の85%が2年後も成功の基準を満たした」ということです。臨床の診断名が、必ずしも歯髄全体が回復できない状態を意味しないことと矛盾しません。ただし、この試験は組織を調べていないので、歯髄の炎症がどこまで及んでいたかは分かりません。

水酸化カルシウム群は、6か月62%→1年55%→2年43%と、時間がたつほど成功の割合が下がりました。著者らは、水酸化カルシウムの直接覆髄でも時間とともに成績が下がる報告があり、同じ傾向だと述べています。下がった理由をこの試験が確かめたわけではありません。

また著者らは、同じ著者による以前のMTA全部断髄の研究より成功の割合が低かったことに触れ、その研究には13〜20歳の患者が含まれていたことと、全部断髄では炎症のある歯髄をより多く除くことが関係しうると考えています(著者の推測)。

⑥明日の臨床へ

症状のある露髄でも、すぐに抜髄と決めず、「除去して止血できるか」を見てから決めるという選択肢が見えてきます。この試験の手順をそのまま書くと、ラバーダム防湿、次亜塩素酸ナトリウムでの清拭、露髄部の歯髄を2〜3mm除去、2.5%次亜塩素酸ナトリウムの綿球で2〜3分ずつ(最大で約6分)止血、MTAを3mm、そして封鎖のよい修復です。止血できない歯は、この試験でも根管治療に回しています。歯髄が一部壊死していた歯は、割り付けの前に除外されています。

覆う材料は、この試験ではMTAが2年まで成績を保ち、水酸化カルシウム(Dycal)は2年で半数以上が失敗しました。著者らは、こうした歯に水酸化カルシウムは適した代わりにならないと結論しています。

患者さんへの説明では、MTAでも2年で26本中4本(約15%。筆者が計算)が失敗し、その多くは最初の6か月に起きたことを伝えておくとよさそうです。失敗には、痛みが無いまま冷刺激試験に反応しなくなり、X線で根尖に透過像が出た歯も含まれていました。症状だけでなく、冷刺激試験とX線で経過を追う前提の治療と考えておきたいところです。また、この試験のMTA群は1週間の仮封をはさむ2回法だったので、来院回数も含めて説明が要りそうです(ここまで筆者の読み)。

⑦ここだけ補助線

とても臨床に響く結果です。ただし読むときは次の点だけ押さえておきたいところです。
・規模と場:1施設・50本(解析49本)・1人の大学院生が専門医の指導下で処置。成人の大臼歯だけで、追跡は2年(著者らは5年まで追跡予定としている)
・診断:不可逆性歯髄炎は症状と冷刺激試験による臨床診断で、組織での確認は無い。止血できなかった歯・一部壊死の歯は割り付け前に除いた
・群の手順の違い:MTA群は1週間仮封してから修復する2回法、水酸化カルシウム群は同じ日に修復。材料の違いだけでなく手順の違いも結果に混ざりうる
・評価の盲検:X線の判定者は材料を知らなかったが、臨床の評価者が盲検だったかは書かれていない。割り付けはコイン投げ
・統計:時点ごとのFisherの正確確率検定だけで、1年の差(P=.052)は有意ではなかった
2年でMTA 85%という数字は、症状のある成人の大臼歯でも歯髄を残す道があることを示す、心強い1本です。より大きな試験と長期の追跡での確認が楽しみです。

今日のひとこと

不可逆性歯髄炎と臨床診断した成人の大臼歯でも、露髄部の歯髄を2〜3mm除去して止血できた歯では、MTAで部分断髄した歯の85%が2年後も成功の基準を満たし、水酸化カルシウムの43%を上回りました。症状があるから即抜髄、ではなく、除去して止血できるかを見てから決める道があります。ただし組織での診断は無く、止血できなかった歯は除いた、1施設・50本・2年の結果です。

Taha NA, Khazali MA. Partial Pulpotomy in Mature Permanent Teeth with Clinical Signs Indicative of Irreversible Pulpitis: A Randomized Clinical Trial. J Endod. 2017;43(9):1417-1421. doi: 10.1016/j.joen.2017.03.033. PMID: 28673494
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。