エンド|永久歯の根管治療を、1回の来院で終える群と2回以上に分ける群で比べたランダム化比較試験・準ランダム化比較試験47本(登録5805人・解析5693本の歯)を集め、抜歯・X線での失敗・術後の痛みなどをメタ分析したコクランの系統的レビュー(Mergoni・Ganim・Lodi・Figini・Gagliani・Manfredi 2022・Cochrane Database of Systematic Reviews)
根管治療を1回で終えるか、貼薬をはさんで2回以上に分けるか。Mergoni らはコクランの系統的レビュー(2022年の更新版)で、ラバーダム防湿と次亜塩素酸ナトリウムでの洗浄を行った試験47本の結果をまとめました。1年以上後のX線での失敗はリスク比0.93(95%信頼区間0.81〜1.07・13試験)で、差を示す根拠は見つかりませんでした。一方、治療開始から1週間以内の痛みは1回法で多く(リスク比1.55、1.14〜2.09・5試験)、根管充填後72時間以内の痛みや鎮痛薬の使用には差を示す根拠が見つかりませんでした。同等性を確かめる検定ではないので「同等と証明された」とまでは言えず、元の試験の多くはバイアスのリスクが高いか不明です。
①根管治療、1回で終える? 何回かに分ける?
根管治療を1回の来院で根管充填まで終えるか、貼薬をはさんで2回以上に分けるか。来院の回数は、患者さんの負担にも、チェアタイムの組み方にも直結します。「感染根管は貼薬して分けたほうが治りがよいのでは」「1回で終えると術後に痛みが出やすいのでは」と迷う場面は少なくありません。
この問いに、ランダム化比較試験(RCT)を集めて答えようとしたのが、Mergoni らによるコクランの系統的レビュー(2022年の更新版)です。2007年版・2016年版に続く3回目の版で、今回はラバーダム防湿と次亜塩素酸ナトリウムでの洗浄を行った試験だけに絞り直しています。
・永久歯の根管治療を、1回で終える群と2回以上に分ける群で比べたRCT・準RCT 47本(登録5805人、解析5693本の歯)を集めたコクランの系統的レビュー・メタ分析
・1年以上後のX線での失敗(根尖部の透過像):リスク比 0.93(95%信頼区間 0.81〜1.07・13試験)。差を示す根拠は見つからなかった(エビデンスの確実性は中等度)
・治療開始から1週間以内の痛み:リスク比 1.55(1.14〜2.09・5試験)。1回法で痛みを訴えた人の割合が高かった(確実性は中等度)
・根管充填後72時間以内の痛み・鎮痛薬の使用・腫れ・瘻孔・抜歯:いずれも差を示す根拠は見つからなかった(確実性は低い〜非常に低い)
・著者らの結論:どちらかがより有効だという根拠はない。1回法の時間と手間の利点には、術後の痛み(このレビューでは治療開始から1週間以内の痛み)がやや増える代償がありそう
・注意:このメタ分析は、2つの方法が「同等」かを確かめる検定(同等性・非劣性の検定)ではありません。「差を示す根拠が見つからなかった」は、「同等と証明された」とは別の意味です
②なぜこの研究が必要だったか
根管治療の目的は、根管の中の菌と感染した組織を取り除き、再び入らないようにすることです。著者らは、そのための考え方を2つに整理しています。1つは、器具と洗浄で減らしきれなかった菌を、来院の間に根管内に置く薬(現在いちばん使われているのは水酸化カルシウム)で減らしてから充填する方法。もう1つは、1回で充填して、残った菌から栄養と増える場所を奪う方法です。
ただ、水酸化カルシウムでも根管が無菌になるとは限らず、充填前の培養が陰性でもすべてが治るわけではない、という報告もあります(著者らが引用した研究)。来院の間の貼薬が本当に必要かどうかは、歯内療法で最も議論の多い問題の1つだ、と著者らは書いています。
2016年版の後にも、ニッケルチタンファイルでの機械的な根管形成など、今の器具・手技を使った試験が新しく出てきました。根管治療のやり方の変化で結果が変わったのかを確かめるため、改めて全体をまとめ直したのが今回の版です。
③何をどう比べたか
・研究の種類:コクランの系統的レビュー・メタ分析(Cochrane Database of Systematic Reviews 2022)。2022年4月25日までのデータベースと試験登録を、言語・年の制限なしで検索
・対象の研究:根管治療が必要な10歳以上の人(根尖が完成し、内部吸収の無い永久歯)を対象にしたRCT・準RCT。再根管治療も含む。ラバーダム防湿と次亜塩素酸ナトリウムでの洗浄を行った試験だけを採用した。この条件で、2016年版に入っていた5試験を外し、27試験を新たに加えて計47試験
・比べたもの:根管治療を1回の来院で終える(1回法) vs 2回以上に分ける(複数回法)。複数回法の間に貼薬をしたかどうかは問わず、一緒に集計した(47試験のうち、貼薬なしが11試験、水酸化カルシウムが29試験。ほかは水酸化カルシウムとクロルヘキシジンの組み合わせ、貼薬あり・なしの両群を置いた試験、抗菌薬3種のペーストなど)
・評価したもの:主要な評価項目は、根管治療の問題による抜歯と、1年以上後のX線での失敗(根尖部に透過像があるかどうか)。ほかに、術後の痛み、腫れ・フレアアップ、鎮痛薬の使用、1か月以上後の瘻孔
・まとめ方:ランダム効果モデルでリスク比(95%信頼区間)を計算し、痛みの強さは平均差で比べた。エビデンスの確実性をGRADEで評価。生活歯・失活歯、手用ファイル・ニッケルチタンファイルの機械的形成に分けた解析もした。解析の単位は歯
ここで大事なのは、解析が「どちらかが優れているか」を見る形だという点です。「この幅の中なら同じとみなす」という範囲(同等性の幅)を前もって決めて確かめる、同等性・非劣性の検定はしていません。原典の一般向けの要約(Plain language summary)には「同じように有効」という言い方がありますが、統計の結果として読めるのは「差を示す根拠が見つからなかった」までです。
④結果:主な評価項目の全体像
結果の要約表(Summary of findings)の8項目を、すべて並べます。リスク比は「1回法 ÷ 複数回法」で、1より大きければ1回法で多い、1より小さければ1回法で少ない、という向きです。
・X線での失敗:13試験・1505本でリスク比 0.93(0.81〜1.07)、試験の間のばらつき I²=0%。追跡は1年〜3年以上。バイアスのリスクが低い3試験だけに絞っても 0.98(0.84〜1.14)で、差を示す根拠は見つからなかった。失活歯だけの10試験(0.83、0.61〜1.14)、手用ファイルの6試験・ニッケルチタンファイルの6試験でも、いずれも差を示す根拠は見つかりませんでした
・抜歯:調べたのは2試験だけで、1回法209本中2本・複数回法193本中4本。確実性は非常に低く、ここから何かを言うのは難しい
・腫れ・フレアアップ(6試験・605本で出来事は12件だけ)、鎮痛薬の使用(6試験・540本)、瘻孔(5試験・650本で出来事は6件だけ)も、差を示す根拠は見つからなかった
次の図は、同じ要約表の「1000あたりの推定数」です。複数回法の値は表が想定した発生数(想定リスク)、1回法の値はそれにリスク比を掛けた推定値で、どちらも原典の表の値です。
⑤痛みは、どこから数えるかで見え方が変わる
術後の痛みは、数え始めの時点によって結果が違いました。
・治療開始から1週間以内(1回法はその治療日から、複数回法は1回目の来院から数えた1週間):5試験・638本でリスク比 1.55(1.14〜2.09)。1回法で痛みを訴えた人の割合が高く、確実性は中等度。ただし、バイアスのリスクが低い2試験(104本)だけに絞ると 1.77(0.87〜3.63)で、差を示す根拠は見つかりませんでした
・根管充填後72時間以内:12試験・1329本でリスク比 0.97(0.81〜1.16)。差を示す根拠は見つからず、試験の間のばらつきが大きい(I²=70%)。痛みの強さを100mmの目盛(VAS)にそろえた12試験・1258本でも、平均差 0.26(−4.76〜5.29)で差を示す根拠は見つからなかった
・根管充填の1週間後:9試験・1139本でリスク比 1.05(0.67〜1.67)。差を示す根拠は見つからなかった(確実性は非常に低い)
・鎮痛薬の使用:6試験・540本でリスク比 1.25(0.75〜2.09)。2016年版では1回法で多い結果でしたが、今回は差を示す根拠が見つかりませんでした。著者らは、組み合わせた試験が違うこと(6試験のうち前の版と共通なのは3試験)と、前の版でいちばん重みの大きかった1978年の試験を外したことを理由に挙げています
「治療開始から1週間以内の痛み」を分けて見ると、生活歯の2試験(316本)でリスク比 2.16(1.39〜3.36)、ニッケルチタンファイルで機械的に形成した2試験(278本)で 1.80(1.10〜2.92)と、1回法で高い結果でした。失活歯の2試験(104本)では 1.01(0.55〜1.84)、手用ファイルの3試験(360本)では 1.23(0.77〜1.98)で、差を示す根拠は見つかっていません。どれも2〜3試験ずつの小さな分け方です。
著者らは、1回法では処置の時間が長くなることや、充填による根尖周囲の組織への刺激で、急性の炎症が強くなるのかもしれないと考察しています。これはこのレビューで確かめたことではなく、考察の中の推測です。
⑥明日の臨床へ
このレビューの範囲で言えるのは、「1回で終えても2回以上に分けても、1年以上後のX線での治り方に差を示す根拠は見つからなかった」ということです。2016年版から試験の数がほぼ倍になり、ラバーダムと次亜塩素酸ナトリウムを使う試験に絞っても、この点は変わりませんでした。来院の回数は、治りやすさを理由に一律に決めるより、歯の状態・処置にかかる時間・患者さんの通いやすさなど、ほかの条件で選べる余地がある、という読み方になります。
一方で、治療開始から1週間以内の痛みは1回法で多く、特に生活歯で目立ちました。1回法を選ぶ時は「数日ほど痛むことがある」と前もって伝え、痛み止めの使い方も説明しておくと、患者さんとの行き違いを減らせそうです(ここは筆者の読みです)。どちらの進め方でも、術後12か月までの痛みや合併症をすべて防げるわけではない、と著者らも書いています。
⑦ここだけ補助線
・元の試験の質:47試験のうち、バイアスのリスクが低いと判定されたのは10試験で、17試験は高い、20試験は不明。X線での失敗と1週間以内の痛みの確実性は「中等度」、それ以外は「低い〜非常に低い」です
・まとめ方の幅:複数回法の中に、貼薬あり・なしの試験が一緒に入っています。生活歯と失活歯の両方を含み、痛みの測り方も試験ごとに違います(段階で記録した痛みは、軽い痛みも「痛みあり」に数えた)。歯を失うかどうかを調べた試験は2本だけでした
・当てはめられる範囲:41試験は大学・病院・軍の診療室で行われ、開業医で行われたのは2試験。対象は10歳以上の健康な人で、免疫の落ちた人・持病のある人・高齢者は入っていません。中国のデータベースは検索の対象に入っておらず、手で探して補ったと著者らは書いています
著者らは、患者さんがどちらを好むか、費用はどうか、病変の大きさや全身疾患など治りにくい条件の人で複数回法が有利か、を今後の研究に求めています。「1回か複数回か」を考えるときの、いま手に入るいちばんまとまった土台として読みたい1本です。
今日のひとこと
このコクランの系統的レビューでは、根管治療を1回で終えても2回以上に分けても、1年以上後のX線での失敗に差を示す根拠は見つからず、治療開始から1週間以内の痛みは1回法で多かった(根管充填後72時間以内の痛みと鎮痛薬の使用には、差を示す根拠が見つからない)。同等性を確かめた解析ではなく、元の試験の多くはバイアスのリスクが高いか不明です。「治りやすさで来院回数を決める根拠は乏しい。1回法、特に生活歯では、最初の1週間の痛みを前もって伝える」というのが、この論文に合った読み方です。


