エンド|抜いたばかりの単根管のヒトの歯(計39本=群の本数24・10・5本を筆者が合計)を#25・#40・#60まで拡大し、根尖をワックスで封じて造影剤で満たしたうえで、生理食塩液を針で1回流し、造影剤がどこまで流れたかをX線写真で見た実験室研究(Ram 1977・Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology)
根管洗浄では液の種類や量、勢いに目が向きがちです。では、根管がまだ細いうちに洗った液は、根尖の近くまで入れ替わっているのでしょうか。Ram は1977年の論文で、抜去歯の根管を造影剤で満たし、生理食塩液5 mLで1回洗ったあとにどこまで流れたかをX線写真で見ました(針は可能な場合に根管の歯冠側3分の1に置いた)。#25まで拡大した24本では22本で根尖側の半分の造影剤が動かずに残り、#40では10本中8本、#60では5本中5本で造影剤が全部流れました。#25の歯に時間と圧を上げて10 mLを追加しても、洗えた範囲は2 mm延びただけでした(著者の記述)。抜去歯の模型の実験で、検定や判定基準の記載は無く、汚れや細菌が取れたかや治療の成績は調べていません。
①根管が細いままでも、洗浄液は根尖まで届いている?
根管洗浄というと、液の種類や濃度、量、勢いに目が向きがちです。では、根管がまだ細いうちに洗った液は、根尖の近くまで本当に入れ替わっているのでしょうか。
この問いを、抜去歯の根管に造影剤を満たし、洗浄でそれがどこまで流れるかをX線写真で見るという方法で確かめたのが、Ram が1977年に Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology に出した実験室研究です。
・抜いたばかりの単根管のヒトの歯を、#25(24本)・#40(10本)・#60(5本)まで拡大し(計39本は筆者の合計)、根尖をワックスで封じて根管を造影剤で満たしたうえで、生理食塩液5 mLで1回洗った実験室研究。針は、可能な場合に根管の歯冠側3分の1にゆるく置いた
・#25では24本中22本で、根尖側の半分の造影剤が動かずに残った
・#40では10本中8本、#60では5本中5本で、造影剤が全部流れた
・#25の歯に時間と圧を上げて10 mLを追加しても、洗えた範囲は2 mm延びただけで、結果は大きくは変わらなかった(著者の記述。検定の記載なし)
・著者の結論は「この条件では、洗浄の結果をいちばん左右したのは根管の太さ。少なくとも#40まで拡大しないと、洗浄は安定して効かないことがある」
②なぜこの実験が必要だったか
著者は序論で、根管治療の大きな狙いの1つは根管の無菌化で、それは主に器具での拡大と洗浄で行われると書いています。消毒薬などの役割には議論がある、とも述べています(いずれも引用文献つき)。
そこで著者は、(1)いま一般的な洗浄のやり方で、根管の中全体に液が行き渡るのか、(2)行き渡るには何が必要か、を調べようとしました。具体的な狙いは、液が根尖まで入るのに必要な、根管の最小の太さを見つけることです。
③何をどう調べたか
・歯:抜いたばかりの単根管のヒトの歯。群の本数(24・10・5本)を足すと39本(筆者の合計。歯の種類の記載は無い)。もとは#10か#15のファイルが入る程度の、非常に細い根管
・拡大:歯冠を髄室の天井まで削り、ファイルとリーマー、15% EDTA を使っていつもどおりに拡大。拡大中は水と次亜塩素酸ナトリウム(Clorox、5.25%)で別々に、何度も洗った。Ⅰ群24本は#25、Ⅱ群10本は#40、Ⅲ群5本は#60まで拡大
・造影剤で満たす:根尖をワックスで二重に封じ、ファイルで根尖のワックスに孔を開けて根管を上下とも開けたうえで、造影剤(Hy-Paque 50%。水に近い粘り)で満たし、根尖を押して孔を閉じ直した。ここでX線写真を撮った
・洗浄:生理食塩液5 mLを1回。25ゲージの針は、可能な場合に根管の歯冠側3分の1にゆるく置いた(全例の針の位置は書かれていない)。液は滑車で吊るした容器から流し、容器の高さで圧を、クリップで時間を調節した。圧は臨床で加える程度とほぼ同じとしている。洗浄後にもう一度X線写真を撮った
・追加の洗浄:Ⅰ群(#25)だけ、容器の高さを2倍にした高い圧で、生理食塩液10 mLをもう一度流した
造影剤がどこまで流れたかの判定基準や、誰がどう読んだかは書かれていません。群どうしの検定もありません。測ったのは「造影剤が流れたか」で、削りかすや細菌が取れたかではありません。
④結果:#25では根尖側の半分が残り、#40・#60では多くの歯で全部流れた
3群とも、洗浄の前には根管全体が造影剤で満たされていました。生理食塩液5 mLで1回洗ったあとの結果を、原著の結果の節の記載どおりに表にまとめました。
#25まで拡大した24本では、22本で根尖側の半分の造影剤が動かずに残りました。著者はこれを「#25の太さまでしか拡大していないと、洗浄の効き目はわずかだった」と読んでいます。
一方、#40まで拡大した10本では8本で、#60まで拡大した5本では5本すべてで、造影剤が全部流れました。なお、#25の残り2本と#40の残り2本がどうだったかは書かれていません。
⑤時間と圧を上げても、届いたのは2 mm先まで
#25の24本には、容器の高さを2倍にした高い圧(著者は「臨床でふつう使うより上」と書いています)で、生理食塩液10 mLを追加で流しました。根尖側へ洗えた範囲はさらに2 mm延びましたが、結果は大きくは変わらなかったと著者は書いています(検定の記載は無いので、統計で差がないと確かめたわけではありません)。
著者は考察で、別の研究を引きながら、圧を上げても根尖孔から押し出すだけで洗浄の効き目は増えない、細い針のほうが根管の奥まで入るので入れ替わりがよくなると期待される、と述べています。いずれもこの実験で針の太さや深さを変えて確かめたものではありません。
⑥「液の種類より太さ」は、この実験では比べていない
抄録の最後と考察の最後には「汚れの除去は、液の種類より根管の太さによるようだ」という一文があります。ただし考察では、この文は別の研究(Baker ら 1975)を引いたものです。この実験で洗浄に使ったのは生理食塩液だけで、液の種類は比べていません。また、見ていたのは造影剤で、汚れ(削りかす)そのものではありません。
この実験から言えるのは、「針を(可能な場合)歯冠側3分の1に置いて重力で流す条件では、根管が#25のままだと造影剤が根尖側の半分に残りやすく、#40以上では多くの歯で全部流れた」というところまでです。
⑦明日の臨床へ:液や圧を変える前に、根管の太さを見直す
洗浄で根尖側まで液を入れ替えたいとき、液を強くする・量を増やす・勢いを上げる前に、その根管がどこまで拡大されているかを見直すきっかけになる一本です(ここは筆者の読みです)。この実験では、#25の歯だけに時間と圧を上げて10 mLを追加しても、洗えた範囲は2 mm延びただけでした。
ただし、これは抜去歯で根尖を封じ、造影剤の流れをX線で見た模型の結果です。針は可能な場合に歯冠側3分の1に置く手順だけで、針を根尖近くまで入れた場合や、液を動かす補助を使った場合は調べていません。対象は単根管の歯で、歯の種類や根管の曲がりの記載はありません。「#40まで拡大すれば治療の成績がよくなる」ことを示した研究ではない点も頭に置いておきたいところです。
(2)測ったもの:水に近い粘りの造影剤がX線写真で流れたかを見たもので、削りかす・スミヤー層・細菌が取れたかや、治療の成績は調べていません。根尖はワックスで封じてありました。
(3)判定と統計:判定の基準・読んだ人・検定は書かれていません。#25の追加洗浄の「大きくは変わらなかった」も著者の記述です。
(4)条件が1つ:洗浄液は生理食塩液だけ、針は可能な場合に歯冠側3分の1に置く手順だけで、深さを変えた比較はありません。「液の種類より太さ」は別の研究を引いた著者の考察です。
(5)時代:1977年の報告で、その後の針や洗浄の補助、拡大の器具は反映していません。資金と利益相反の記載はありません。
それでも「細いまま洗っても根尖側は入れ替わりにくい」ことを、造影剤で目に見える形にした古典として、拡大と洗浄の関係を考える入口になる一本です。
今日のひとこと
抜去歯の根管を造影剤で満たして生理食塩液で1回洗うと、#25まで拡大した24本では22本で根尖側の半分が残り、#40の10本中8本と#60の5本中5本では全部流れました。#25の歯だけに時間と圧を上げて10 mLを追加しても、洗えた範囲は2 mm延びただけ。液や勢いを変える前に、根管の太さを見直すきっかけになる古典です。ただし造影剤の流れを見た小さな模型の実験で、液の種類や針の深さは比べておらず、治療の成績も調べていません。


