エンド|2003〜2020年に発表された臨床研究42本を統合し、初回根管治療の成功率と、それに関わる要因を調べた系統的レビュー・メタ解析(Burns 2022・International Endodontic Journal)。採用研究の約64%は、エビデンスの質が「低い」または「非常に低い」と評価されている
「根の治療は、どのくらい治るのか」。Burnsらは、2003〜2020年に発表された初回根管治療の臨床研究42本を統合しました。加重プール成功率は、根尖病変の縮小も成功に含める「ゆるい基準」で92.6%(95%信頼区間 90.5〜94.8)、病変の消失だけを成功とする「厳格な基準」で82.0%(79.3〜84.8)。手用とロータリーで有意な差はなく、術前に根尖病変がない歯は、ある歯に比べて成功のオッズ比が2.75(1.73〜4.41)でした。ただし採用研究の64.29%はエビデンスの質が「低い」「非常に低い」と評価されており、著者ら自身が、成功率が高めに出ている可能性に触れています。
①「根の治療、どのくらい治りますか?」
患者さんにそう聞かれたとき、「9割くらいです」と答える先生も、「8割くらいです」と答える先生もいると思います。どちらかが間違っているわけではありません。何を「成功」と数えるかで、数字が変わるからです。
初回根管治療(その歯にとって初めての根管治療。再根管治療は含まない)の成功率は、Ngらが2007年に大きな系統的レビューでまとめました。ただし対象は2002年までに発表された研究です。その後、NiTiロータリーファイルをはじめ、器具も材料も変わりました。
ニューヨーク大学のBurnsらは、Ngらの方法を引き継ぎ、2003〜2020年に発表された臨床研究42本を統合して数字を更新しました。この記事は、その結果を整理します。
・X線で根尖病変が小さくなっていれば成功とする「ゆるい基準」:92.6%(95%信頼区間 90.5〜94.8、21研究・2,466歯)
・根尖病変が消えたものだけを成功とする「厳格な基準」:82.0%(95%信頼区間 79.3〜84.8、39研究・7,432歯)
・手用とロータリーの比較では、成功率に有意な差はなかった(厳格な基準 p=.924、ゆるい基準 p=.133)
・術前に根尖病変がない歯は、ある歯より成績が良かった(成功のオッズ比 2.75、95%信頼区間 1.73〜4.41。厳格な基準の成功率は90.3% 対 80.3%)
・ただし、採用された42研究のうち64.29%は、エビデンスの質が「低い」または「非常に低い」と評価されている
②2つの「ものさし」で、成功率に約10ポイントの差
この総説が採用したのは、治療後12か月以上追跡し、症状(臨床所見)とX線の両方で成功を判定した研究です。X線の判定は、2通りに分けて集計されました。
・厳格な基準(strict):経過観察時に、根尖部のX線透過像がない
・ゆるい基準(loose):経過観察時に、根尖部のX線透過像が小さくなっている
・臨床的な成功は「症状がないこと」。細かい定義は個々の研究に従う
・42研究のうち18研究は、両方の基準で成功率を計算できた
基準ごとに集計した成功率には、約10ポイントの差があります(92.6−82.0=10.6。筆者の計算)。ただし、同じ歯を2つの基準で判定し直した比較ではありません。集計した研究が違い、ゆるい基準は21研究、厳格な基準は39研究で、両方を計算できたのは18研究です。個々の研究の成功率にも幅があり、ゆるい基準では73.3〜100%、厳格な基準では29.8〜97.3%でした。
Ngらの2007年のまとめ(1922〜2002年に発表された63研究)では、厳格な基準で74.7%、ゆるい基準で85.2%でした。今回はどちらも約7ポイント高い値です(厳格な基準 82.0−74.7=7.3、ゆるい基準 92.6−85.2=7.4。原著に載っている値から筆者が計算)。著者らは抄録の結論で「報告される成功率は、時代とともに改善を示している」と書いています。ただし、これは別々の総説の数字を並べた比較です(読み方は最後の補助線で触れます)。
③有意な差が出たのは「器具」ではなく「術前の根尖病変」
著者らは、成功率に関わると考えられてきた要因をいくつか調べています。はっきり差が出たのは、術前に根尖病変があったかどうかでした。
術前の病変の有無で分けた成績を報告していたのは11研究です。病変がない歯は、ある歯に比べて成功のオッズ比が2.75(95%信頼区間 1.73〜4.41)でした。
・厳格な基準の加重成功率は、病変なし90.3%(8研究・1,098歯)、病変あり80.3%(8研究・1,126歯)
・成功率どうしの比は 90.3÷80.3=約1.12(原著の表3の値から筆者が計算。原著が報告した統合リスク比ではない)
・裏返して「成功と判定されなかった割合」で見ると、病変ありが19.7%、病変なしが9.7%。病変あり÷病変なし=19.7÷9.7=約2.0(100から成功率を引いた値で、同じく筆者の計算)
・成功が8〜9割と多い場面では、オッズ比は成功率の比よりずっと大きな数字になる。2.75を、そのまま成功しやすさの倍率として読むことはできない
・ゆるい基準では、病変なし92.1%(3研究・156歯)、病変あり87.3%(3研究・125歯)
一方、器具の種類による成功率の有意な差は、認められませんでした。
42研究のうち、ロータリーを使ったのは24研究(57.1%)、手用は12研究(28.6%)、両方が4研究(9.5%)、記載なしが2研究(4.8%)です。厳格な基準の成功率は手用83.7%、ロータリー82.1%、両方83.2%で、差は有意ではありませんでした(p=.924)。ゆるい基準では手用82.9%、ロータリー93.4%と開いて見えますが、手用は2研究・205歯しかなく、95%信頼区間が65.7〜100と広く、こちらも有意ではありません(p=.133)。
著者らは、この結果を前向きに受け止めています。効率と標準化を高めるための技術の進歩は、生物学的に測った成績を犠牲にしていない、という読みです。結論では、この研究の結果は「NiTiロータリーなどの器具の進歩が、治療の成功率に影響していないことを示唆する」とまとめています。
・術者の資格:メタ回帰では、成功率への有意な影響なし(ゆるい基準 p=.135、厳格な基準 p=.256)。厳格な基準の成功率は、一般歯科医88.0%(4研究)、歯内療法専門医85.2%(16研究)、大学院生79.8%(11研究)、学部学生76%(1研究)
・著者らの注意:この項目で使えた研究の82%は、大学院生と専門医が術者だった。専門医のほうが難しい症例を診ている可能性が高く、術者別の成績を読むときは選択バイアスを考える必要がある
・追跡期間:厳格な基準では、4年以上追跡した研究が83.5%(14研究)、4年に満たない研究が80.8%(25研究)。ゆるい基準では91.5%(2研究)と92.9%(19研究)。本文に、この差の検定結果の記載は見当たらない
・治療した年代:厳格な基準で、2000年より前の治療が82.1%(8研究)、2000年以降が84.1%。著者らは「同程度」と書く
・歯冠修復:仮封か最終修復か、いつ入れたかの記載が研究ごとにばらばらで、メタ解析では影響を調べられなかった
④明日の臨床へ
・初回根管治療の成績は高く保たれており、どちらの基準で見ても、天然歯を残すための信頼できる方法である
・成績に最も強く関わるのは、術前の根尖病変のような生物学的な要因である
・この研究の結果は、NiTiロータリーなどの器具の進歩が成功率に影響していないことを示唆する(手用との比較で、統計的に有意な差なし)
・今後の研究には、成功率を「ゆるい基準」と「厳格な基準」の両方で報告すること、追跡期間をそろえること、治療後の修復の手順に合意を作ることを求めている
・患者さんに成功率を伝えるときは、ものさしを添えると誤解が減ります。たとえば「X線の影が消えるところまでを成功とすると約8割、小さくなったものも含めると約9割、という報告があります」
・術前に根尖病変がある歯では、厳格な基準の成功率は80.3%でした。病変のある歯の説明に、全体の92.6%をそのまま使うと、甘い見積もりになります
・ロータリーに替えれば成功率が上がる、という根拠は、この総説からは得られません。導入の理由は、効率や再現性など別の軸で考えることになります
・これらは研究全体の平均です。目の前の1本の歯の見通しは、根管の形、感染の状態、修復の条件で変わります
まず、材料になった研究の質です。42研究のうち、質が「高い」とされたのはランダム化試験の15研究(35.71%)で、18研究(42.86%)は「低い」、9研究(21.43%)は「非常に低い」でした。質の評価は、主に研究デザインで決まっています。
次に、成功率が高めに出ている可能性です。著者ら自身が、次の点を挙げています。抜歯や再治療になった歯を解析から除いていた研究が18本あった。再診率が50%を下回る研究が6本あった。二次元のX線写真は、CBCTに比べて根尖病変を見つけにくい。
判定にCBCTを使った研究は、42本中4本だけでした。表2の厳格な基準の成功率は、「症状+X線」で判定した36研究が84.4%、「症状+CBCT+X線」の2研究(190歯)が61.8%、「症状+CBCT」の1研究(57歯)が29.8%です。X線とCBCTの両方の成績を報告していた2研究では、CBCTでの成功率のほうが低く、この総説の解析にはX線での成績が使われています。一方で著者らは、根管充填された歯ではCBCTの診断精度が下がるという献体での研究(Kruseら 2019)も紹介しており、CBCTの数字が正解だとも言い切っていません。
三つ目に、調べられなかった要因です。根管充填の到達度と質、治療後の修復の状態は、成績に関わると考えられてきましたが、研究ごとの報告のばらつきが大きく、この総説では評価されていません。採用研究の多くは大学や病院で行われており、著者らも一般化の限界として挙げています。
四つ目に、「時代とともに改善」の読み方です。数字の上ではNgら(2007)より約7ポイント高い(筆者の計算)ものの、別々の総説の数字を並べたもので、統計的に比べた結果ではありません。この総説の中で比べると、厳格な基準の成功率は2003〜2010年に発表された研究が82.6%、2011〜2020年が81.5%で、新しいほうが高いわけではありません(ゆるい基準は90.9%と93.1%)。治療した年代で分けても82.1%と84.1%で、著者らは「同程度」としています。
研究間のばらつき(異質性)も大きく、I²は厳格な基準で92%、ゆるい基準で82%でした。
原著の中で数字が食い違う箇所もあります(厳格な基準の95%信頼区間の上限は、抄録と表2が84.8、結果の本文が84.4。Ngらのゆるい基準の値は、序論が85.2%、考察が85.3%。2000年以降の治療の研究数は、本文が23、表2が21)。この記事では、信頼区間と研究数は表2、Ngらの値は序論の記載を使いました。
資金・利益相反:資金はニューヨーク大学歯学部 歯内療法学講座。著者らは利益相反なしと申告しています。
それでも、「初回根管治療の成功率」を2020年までの研究で更新し、ゆるい基準と厳格な基準に分けて示した点に、この総説の価値があります。患者説明に使う数字の出どころとして、手元に置いておける1本です。
今日のひとこと
初回根管治療の成功率は、根尖病変の縮小も成功に含めると92.6%、病変の消失だけを成功とすると82.0%でした(2003〜2020年に発表された42研究の統合)。手用かロータリーかでは有意な差がなく、差が出たのは術前の根尖病変の有無です(成功のオッズ比2.75。厳格な基準の成功率は90.3% 対 80.3%)。ただし採用研究の約64%は質が「低い」「非常に低い」と評価され、抜歯や再治療になった歯を解析から除いた研究も18本あるため、成功率は高めに出ている可能性があります。筆者の読みでは、「成功率は何%か」より先に「何を成功と数えた数字か」を確かめるための1本です。


