エンド|作業長を根尖孔までにするか、1mm手前にするか。形成法(ステンレス手用 vs NiTiロータリー)と組み合わせて、根尖の表面だけでなく1mm・2mm内側の根管壁まで削り出して亀裂を数えた抜去歯の実験(Adorno 2010・International Endodontic Journal)
根管形成で生じる象牙質の亀裂(クラック)は、作業長を根尖孔の1mm手前にすれば防げるのでしょうか。東京医科歯科大学のグループは、まっすぐな根の下顎小臼歯70本を10本ずつ7群に分け、作業長(根尖孔まで/1mm手前)×形成法(ステンレス手用Kファイル/ProFile)で形成し、根尖の表面と、根尖を1mm・2mm削り落とした断面で亀裂を数えました。根尖の表面では作業長が効き(P=0.006)、根尖孔まで20本中11本・1mm手前20本中3本(原著Table 1の群を合算)。1mm内側では形成法が効き(P=0.035)、3本ともNiTiロータリー群。一方2mm内側では作業長・形成法とも有意差がなく、形成した4群すべてで10本中2本でした。
①作業長を1mm手前にすれば、亀裂は防げる?
作業長を根尖孔ぴったりに取るか、1mm手前で止めるか。根管治療のたびに向き合う判断です。
そこへもう1つの論点が加わります。形成の力で根尖の象牙質に生じる亀裂(クラック)です。亀裂が後の垂直歯根破折につながりうるなら、「1mm手前で止めておけば亀裂も減らせるのでは」と考えたくなります。
結論を先に言います。この抜去歯の実験では、根尖の表面の亀裂は、1mm手前で止めた群のほうが少なくなりました(根尖孔まで20本中11本、1mm手前20本中3本)。ところが根尖を2mm削り落とした内側の根管壁では、作業長も形成法も関係なく、形成した4群すべてで10本中2本に亀裂がありました。
②なぜ「内側の根管壁」を見る必要があったのか
根尖狭窄部は臨床で位置を特定しにくく、代わりに根管長測定器で見つけやすい根尖孔が目印に使われます。両者の距離は0.5〜1mmとされ、根尖孔の位置から狭窄部を推定する、というのが一般的な考え方です。
・根管形成は象牙質を削るので、歯根の強度を損ないうる
・根管の内側から生じる応力は、外表面より根管壁側で、また根尖部で高い
・ProFile .04で形成したときのトルクと摩擦は、ファイル先端かその近くに集中する
・垂直歯根破折は一瞬で起きる現象ではなく、歯根構造が徐々に失われた結果と考えられる
応力が根管壁側に集中するなら、根尖の外表面だけを見ても亀裂の全体像はつかめない。そこで本研究は、表面に加えて根尖から1mm・2mm内側の根管壁まで削り出して調べました。
③今回の一手:作業長×形成法の4群を、3つの高さで比べる
作業長の基準(CL)は、#10 Kファイルの先端が根尖孔に見えた長さ。つまりCL=根尖孔まで、CL−1mm=根尖孔の1mm手前です。
無作為に10本ずつ7群:
・A群=ステンレス製Kファイル(バランスドフォース)でステップバック・根尖孔まで
・B群=同じ方法・1mm手前
・C群=ProFile .04(NiTiロータリー・300rpm)でクラウンダウン後に根尖拡大・根尖孔まで
・D群=同じ方法・1mm手前
・対照=E群(クラウンダウンのみ・根尖孔まで)、F群(同・1mm手前)、G群(形成なし)
根尖拡大はA〜D群とも#15→20→25→30→35→40→45→60。洗浄は1%次亜塩素酸ナトリウムで、根管充填はしていません。
形成後に根尖の表面(AS)を撮影し、続いて根尖を1mm、さらにもう1mmダイヤモンドディスクで切り落として研磨し、断面を撮影しました。画像は群がわからないようにシャッフルして1名の検者が判定し、根管から始まる目に見える不連続を亀裂と数えています。統計は高さごとのロジスティック回帰です。
④結果①:根尖の表面では「作業長」が効いた
まず、対照3群(形成なし10本+#15までのクラウンダウンのみ20本)は、どの高さでも0本でした。切断・研磨の操作や、#15までの軽い形成そのものが亀裂を作った可能性は低い、ということです。
根尖の表面では、作業長が亀裂の発生に有意に影響しました(P=0.006)。原著Table 1では、根尖孔まで形成したA群6本・C群5本、1mm手前のB群2本・D群1本(各10本中)。作業長ごとに合わせると20本中11本 vs 20本中3本です。一方、この高さで形成法の影響は有意ではありませんでした(P>0.05)。
ただし、この差は内側へ行くほど見えなくなります。1mm内側では作業長の影響は有意でなく(P>0.05)、2mm内側では根尖孔まで・1mm手前とも20本中4本で同数でした。
⑤結果②:1mm内側ではNiTiだけ、2mm内側では形成した4群とも10本中2本
1mm内側の根管壁では、今度は形成法が有意に影響しました(P=0.035)。亀裂を認めたのは計3本(C群2本・D群1本)で、3本ともNiTiロータリー群。ステンレス手用のA群・B群は0本でした。この高さで作業長の影響は有意ではありません(P>0.05)。
そして2mm内側の根管壁。原著Table 1の計は8で、1mm内側より多く見られましたが、A・B・C・D群すべてが10本中2本と均等に分布し、作業長・形成法のどちらにも有意な影響はありませんでした(原著はこの高さのP値を示していません)。
「1mm手前で止めた」「浅い断面には亀裂が見えない」でも、その奥の根管壁に亀裂がないとは限らない、ということです。
⑥なぜ高さによって効く要因が変わるのか
著者らの考察を、高さごとに整理します。
・1mm内側:ロータリーNiTiは形成を終えるまでの回転数が手用より多く、力がファイル先端付近に集中するため、象牙質の欠陥が増えうる
・2mm内側:この高さで影響したのは、形成法を問わず生じる形成時の側方への力だけだった、と著者らは見ている
・内側で表面より亀裂が少なかったのは、ファイル先端を囲む象牙質の量が多いためと考えられる
・加えて、根尖孔が根管の軸からずれていると、形成中にファイルがわずかに曲がり、側方の力が当たる点に応力が集まった可能性もある
さらに著者らは、形成中にできた亀裂が、治療中にたまった内部応力の解放や、修復後の咬合力によって進展し、最終的に垂直歯根破折に至る可能性にも触れています。ただしこれは考察であり、本研究で追跡したわけではありません。
⑦明日の臨床へ
・ただし著者ら自身が「亀裂ゼロ」を保証しないと明記しています。2mm内側では、作業長にかかわらず10本中2本に亀裂がありました
・ステンレス手用とNiTiロータリーのどちらが「安全」とも言い切れない。表面では有意差なし、1mm内側ではNiTiのみ、2mm内側では同数でした
・著者らは、細い最終拡大号数は象牙質を温存し、太い号数は感染象牙質の除去と清掃に有利というトレードオフを挙げ、症例ごとに検討して治療計画を立てるべきと述べています
また著者らは、作業長の考え方の裏づけとして、根尖狭窄部を越えて形成・充填した場合に予後が最も悪いとした組織学的研究(Ricucci & Langeland 1998)も引いています。抜去歯の結果ではあるものの、作業長を根尖孔より手前に設定する理由が、亀裂という観点からも1つ加わった——そう読むのが素直だと思います。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:根管形成だけで、形成法を問わず、根尖の表面にも内側の根管壁にも亀裂が生じうる。根尖孔の1mm手前までの形成は、根尖部の亀裂を減らしうる。根尖の表面では作業長が効き(P=0.006)、根尖孔まで20本中11本・1mm手前20本中3本。1mm内側では形成法が効き(P=0.035)、3本ともNiTiロータリー群。2mm内側では作業長・形成法とも有意差なく、形成した4群すべてで10本中2本でした。対照3群(形成なし10本+#15までのクラウンダウンのみ20本)はどの高さでも0本です。「1mm手前は表面の亀裂を減らす一手。ただし内側の亀裂はゼロにならない」——この論文の持ち帰りはそこです。ただし、まっすぐな下顎小臼歯を各群10本、#60まで拡大した抜去歯の実験で、根管充填も臨床の予後も見ていません。


