う蝕の視診基準がバラバラだった問題に対し、ICDAS委員会の著者らが、ICDASの成り立ち・検査の条件・コードの定義・抜去歯などでの検証をまとめた総説章(Topping & Pitts 2009・Monographs in Oral Science)
「初期う蝕をどこから記録するか」は、研究でも疫学調査でも診療所でも、長く基準が揃っていませんでした。同じ人を診ても、基準を少し変えるだけで有病率が大きく変わってしまう。そこで世界のカリオロジー研究者が集まって作ったのが、目で見てう蝕を7段階に分けるICDASです。開発に関わった英国ダンディー大学の著者らが、その中身と根拠をまとめた章を読みます。
①「初期う蝕」、どこから数えるかがバラバラだった
1951年、Backer-Dirksらは「う蝕研究の最大のつまずきは、う蝕の発生を正確に見積もれないことだ」と書きました。著者らは、この問題は今も大きいと述べています。
理由は、基準の多さです。WHOの「Basic Methods」のように象牙質のレベルでしかう蝕を数えない方式が広く使われる一方、窩洞のない病変まで記録する方式も遅くとも1966年にはありました。Pitts & Fyffeは香港のデータで、同じ人たちを診ても検出の閾値を少し変えるだけで、報告される有病率が大きく変わることを示しています。カナダのIsmailらの研究でも、窩洞のない病変を除く閾値では、かなりの割合のう蝕が見過ごされていました。
2002年の国際コンセンサス会議(ICW-CCT、23か国95人)は、「窩洞のある病変だけを記録する臨床試験は時代遅れになりつつある」とまとめました。同じ会議のためのIsmailの系統的レビューは、当時の視診基準の多くがあいまいで、病気の段階を測れていないと結論しています。
②既存の基準の「いいとこ取り」で作られたICDAS
開発の流れ: 2002年4月、PittsとIsmailを共同議長にダンディーで中心グループが発足。既存の基準をすべて見直して「ICDAS I」を提案し、2003年3月にボルチモアで世界のカリオロジー研究者65人が検討して「ICDAS II」になった。その後、欧州・北米・南米で11回の公式ワークショップが開かれている。
使われ方: 診療・臨床研究・疫学・教育の4領域。例として、2005年のアイスランドの小児調査や、欧州の口腔保健指標づくりの試行(2008年、10か国、146人の歯科医が3,000人近くを診査。ICDASの使用や受け入れに大きな問題はなかったと報告)が挙げられている。
③検査の条件——清掃してから、乾かして、目で見る
健全なエナメル質は半透明です。脱灰が再石灰化を上回ると、表層下の微細な孔が増えて光の屈折が変わります。最初の変化は、歯面を短時間乾燥させたときにだけ見える。脱灰が進むと、唾液で濡れたままでも見えるようになります。だからICDASでは圧縮空気での乾燥が基本条件で、乾燥の目安は約5秒とされています。
もう1つの必須条件がプラークの除去です。う蝕はプラークが停滞する場所にでき、プラークに隠れて見えないためです。著者らは、検査前に歯ブラシか研磨カップで清掃し、隣接面はフロスを通すことを勧めています。
検査はほぼ視診だけで行い、ボールエンドの探針で残ったプラークを除き、表面の形や小さな窩洞をそっと確かめます。著者らは、鋭い探針は正確さを上げず、初期病変を覆うエナメル質を傷つけうるので必要ない、としています(引用している研究による)。
診療室の外で圧縮空気が使えない場合は、最初期の病変を見落とすので閾値そのものが変わる。その場合は報告に明記すべきで、清掃だけは妥協しない、とも述べています。
④2桁で記録する——1桁目が修復、2桁目がう蝕
ICDASのコードは2桁です。1桁目は修復・シーラントの状態(0=修復もシーラントもなし、1=部分的なシーラント、2=完全なシーラント、3=歯冠色の修復、4=アマルガム、5=既製金属冠、6=陶材・金・金属冠やベニア、7=脱落・破折した修復、8=仮封)。2桁目がう蝕の重症度0〜6です。
見分けの細かいルールも決められています。
- コード1の多くは乾燥して初めて見えるが、裂溝の底に限った着色を拾ったものは濡れたままでも見える。
- ほぼすべての小窩裂溝が左右対称に着色しているなら、食べ物による着色とみてコード0。
- 修復物の辺縁の着色だけで、ほかにう蝕の徴候がなければ0。0.5 mm未満の隙間でも、脱灰と一致する白濁や変色を伴えば3、0.5 mmより大きく象牙質が見えれば5。
- コード4はう蝕が始まった面にだけ付ける。隣接面の大きな病変の影が咬合面から透けて見えても、咬合面には4を付けない。
⑤見た目の段階は、切片で見た深さと対応したか
著者らがまず紹介するのは、2002年8月の開発ワークショップのデータです。20人の参加者が抜去歯57本の咬合面を判定し、全員の合意を臨床判定としました。その後、歯を切断して10倍の拡大で脱灰の深さを採点しています。
象牙質に及んでいた割合は、コード0で0%(2本)、1で9%(11本)、2で50%(18本)、3で88%(8本)、4で77%(13本)、5+6で100%(5本)でした。3と4の並びだけが逆になっています。著者らは、このデータが、ICDAS IIでコード3と4を入れ替えて段階を順に並べる判断を支持したと述べています(歯数がTable 2と同じTable 3の表題が「ICDAS-I」で、本文も「original codes 3 and 4 (ICDAS I)」と書いているので、表の番号は開発時の版です)。入れ替えたのですから、開発時の3は今の4(象牙質の影)で88%、開発時の4は今の3(エナメル質の崩壊)で77%にあたり、今の番号で並べると3=77%、4=88%と段階どおりに上がります。
コード0か1に比べて象牙質う蝕である尤度比(Table 3)は、コード2で6.5、3で11.4、4で10.0、5+6で13.0でした(開発時の番号。今の番号では3=10.0、4=11.4にあたり、著者らは入れ替え後のICDAS IIが深さの順に並ぶことを示すとしています)。著者らはこれを、心筋梗塞を疑うときの心電図のST上昇(尤度比11.2)などと比べて「比較的高い」と表現しています。
ほかに紹介されている研究を、研究ごとに並べます(いずれも原著の章が引用しているもの)。
- Ekstrandら(ICDAS I、抜去臼歯・小臼歯):組織学的な深さとの相関係数は咬合面0.93・平滑面0.95・隣接面0.94(2人目の検者で0.87・0.96・0.92)。検者内のκは0.87、検者間は約0.80。
- Jablonski-Momeniら(抜去歯100本の咬合面、歯科医4人):検者間・検者内の重み付きκは0.62〜0.83。組織の深さとの相関は0.43〜0.72(著者らは中等度〜強いと表現)。エナメル質を含む閾値で特異度0.74〜0.91・感度0.59〜0.73、象牙質の閾値で特異度0.82〜0.94・感度0.48〜0.83。
- Shoaibら(抜去した乳臼歯112本、検者3人、学会抄録):検者内κ 0.72〜0.85、検者間κ 0.60〜0.80(2つの判定の閾値を合わせた範囲)。
- Martignonら(永久歯・乳歯の隣接面、学会抄録):検者内κ 0.86(永久歯)・0.92(乳歯)、組織との相関係数0.87・0.92。
- Ismailら(米国デトロイトの調査、1週間訓練した一般歯科医):検者間κ 0.74〜0.88、主な検者2人の検者内κは約0.78。ただし土曜だけ勤務した検者は0.50で、修復物・シーラント周囲のう蝕では検者間κが0.33の検者もいた。
⑥修復物の周りと根面は、まだ根拠が薄い
修復物・シーラント周囲のう蝕は、一次う蝕と同じ考え方を当てはめていますが、著者らは「その科学的根拠は確立していない」と明記しています。多くは実験室の研究で、それでも見た目と組織の相関は低いものが多かった。辺縁の変色の判定は検者間κ 0.49(中等度)にとどまり、アマルガムの色で歯が灰色や青に見えることもあります。著者らは、影がう蝕と統計的に有意に関連するという研究が多い一方で、灰色の変色や影だけで象牙質う蝕とすると、病気を多く見積もりすぎるおそれがあるとしています。
根面う蝕について、NIHのコンセンサス会議のための系統的レビューは、臨床の診断基準の妥当性を示す根拠は「不十分」と結論しています(組織で確かめた研究だけに絞ったため、多くの文献が除かれた、と著者らは注記)。ICDASでは、色・質感・つや・そっと触ったときの硬さ・窩洞の5点を見て、根面ごとにE(見えない)・0(健全)・1(境界明瞭な変色、欠損0.5 mm未満)・2(欠損0.5 mm以上)で記録し、探針は鋭いものではなくCPIプローブを使います。色は活動性の信頼できる指標ではないことも示されている、としています。
著者らは、この2つの領域を今後の研究の最優先課題に挙げています。
⑦明日の臨床へ
②約5秒、乾かして白濁を探す。濡れたままでは、最初期の白濁(コード1)の多くは見えない。乾燥なしで診たら「閾値が違う」と自覚しておく。
③鋭い探針で押し込まない。ボールエンドの探針で表面をなでて、形と小さな窩洞を確かめる。著者らは、鋭い探針は正確さを上げずエナメル質を傷つけうるとし、その使用が今も残ることを普及の課題に挙げている。
④同じ物差しで記録し、時間で比べる。著者らは、7段階の記録で予防の効果を経過で追えること、ICDASを使った臨床家が患者さんへの説明に役立つと感じていることを紹介している(後者は臨床家の経験としての紹介)。
⑤コードだけで処置は決まらない。著者らも、検出コードだけでは管理の計画に必要な情報はそろわず、活動性やリスクの評価が別に要るとしている。修復物の辺縁の影は、多く見積もりやすい点に注意。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
ICDASは、歯面を清掃し、約5秒の乾燥で見た目を確かめ、鋭い探針ではなくボールエンドの探針を補助に使って、う蝕を0(健全)〜6(象牙質が見える広い窩洞)の7段階で記録する基準である。開発時のワークショップで抜去歯57本の咬合面を判定して切片と照らすと、象牙質に及んでいた割合はコード0で0%、1で9%、2で50%、3で88%、4で77%、5+6で100%だった(開発時の版の番号。著者らは、この結果がコード3と4を入れ替えて段階を順番に並べ直す判断を支持したと述べており、今の番号では3=エナメル質の崩壊が77%、4=象牙質の影が88%にあたる)。ただし各コードの歯は2〜18本と少なく、検証の多くは抜去歯での研究で、著者ら自身がICDASを作った委員会の立場である。修復物周囲と根面のう蝕については、著者らも根拠はまだ乏しいとしている。


