1問1答 論文 虫歯

むし歯が減ったのは、削る基準が変わったから?——修復中心から「疾患のコントロール」中心へ、歯科医療の仕組みの作り直しを求めた提言(総説・意見論文。根拠の一つはデンマーク1市の対照のない事例)

1問1答 論文 虫歯

カリオロジーの第一人者Fejerskovらが、う蝕の減少は歯科医師の「削る判断」の変化による部分が大きいと論じ、デンマーク・オッダー市の公的歯科サービスの事例を示して、歯科医療の担い手と仕組みの再設計を提言した総説(Journal of Oral Rehabilitation 2013)

先進国の多くで、う蝕は大きく減りました。歯科の側は「フッ化物と予防のおかげ」と考えがちです。では、私たち歯科医師の仕事は、その減少にどれだけ関わってきたのか。そして、減った病気に合わせて、歯科医療の形は変わってきたのか。デンマークのFejerskovらが、厳しい問いを歯科界に投げかけた論文です。

論文
A functional natural dentition for all – and for life? The oral healthcare system needs revision
著者
O. Fejerskov, G. Escobar, M. Jøssing, V. Baelum(デンマーク オーフス大学/コロンビア アンティオキア大学/デンマーク オッダー市)
掲載
Journal of Oral Rehabilitation 2013;40:707-722. doi:10.1111/joor.12082. PMID: 23855597
種類
総説(Review Article)・意見論文。系統的レビューではなく、著者らが既存の研究・国の統計を引いて論じる形式。根拠の一つとして、デンマーク・オッダー市(人口約21,500人、0〜18歳約5,000人)の公的歯科サービスの取り組みの事例(対照群のない前後比較、市と国の統計)を示している。研究資金はBagger-Sørensen財団の一部助成、利益相反の申告なし
PMID
23855597

むし歯が減ったのは、フッ化物のおかげ?

著者らは、う蝕とその結果(痛み・歯の喪失・無歯顎)が、世界の各地域で口の病気の負担の93〜98%を占めると推計されている(1996年の世界疾病負担の推計を引用)一方で、多くの国でう蝕が減り続けていることから話を始めます。

歯科の側は、この減少を自分たちの予防、とくにフッ化物の普及の成果と考えがちです。著者らは「それだけではない」と言います。たとえばデンマークでは、フッ化物配合歯磨剤は1963年に発売され、1年で市場の30%、1968年に80%、1980年ごろに95%を占めましたが、その普及を後押ししたのは主にメーカーの大規模な広告だった、と著者らは述べています。歯磨剤の効果そのものは十分に示されているとしつつ、社会経済の変化も大きく関わりうる、としています。

そのうえで著者らが歯科医師の貢献として挙げるのが、「削る判断の基準」が変わったことです。

この論文は何を主張し、何を根拠にしているか

論文の種類:総説(Review Article)・意見論文。新しい実験や試験の結果ではなく、著者らが既存の研究や国の統計を引いて論じている(系統的レビューではない)。
主張:多くの地域で、歯科医療は「かつての病気のパターン」に合わせた形のまま、今では妥当でない診断・治療の考え方に基づいている。削って詰める修復は、病気のコントロールにはならない。歯科医療の担い手と仕組みを作り直すべきだ。
根拠:(1) デンマーク・ノルウェーの若年者で、修復に踏み切る基準が変わった研究 (2) 修復が再修復のサイクルを生むとする研究 (3) デンマーク・オッダー市の公的歯科サービスの事例(著者の1人Jøssingはオッダー市の所属) (4) フィンランドの子どもで、カリエスコントロールの考え方が従来の歯科医師中心・修復中心のやり方より良く、費用対効果も高かったとするランダム化試験(著者らの引用。この論文に数値は載っていない) (5) 具体的な目標を掲げ、予防に力を入れた歯科部長のいる自治体ほどう蝕の減少が大きかったとする、デンマークの生態学的研究(著者らの引用)。
未解決(筆者の整理):オッダー市のどの取り組みが効いたのか、ほかの地域・制度でも同じことが起きるのか、提案する新しい専門職が実際に機能するのかは、この論文では検証されていない。

根拠その一——削る基準が変わり、修復は以前の基準の20%未満に

著者らが引く2つの研究では、バイトウィングはほぼ毎回撮られていました。デンマークの17歳(1978〜79年と1984〜85年の2コホート)と、ノルウェー・オスロの15歳(1979・1989・1996年の記録から約5%を無作為抽出)です。

どちらでも、エックス線写真で同じ深さの脱灰に対して修復する割合が、時代とともに下がりました。エナメル質にとどまる脱灰への修復はほぼなくなり(著者らは「やんだ」と表現)、象牙質の外側までの病変への修復も、ノルウェーでは大きく減り、デンマークではほぼなくなりました。その結果、1978〜1996年の記録で、修復の量は、以前の基準のままなら行われていたはずの量の20%未満(推計)になった、と著者らはまとめています。

ここで大事なのは、DMFSのFは詰めた歯面の数だという点です。削る基準が緩むだけで、数字は下がります。著者らはこれを「見かけの」う蝕減少(apparent caries decline)への大きな影響と表現し、1980年ごろにデンマークの2つの歯学部が公的歯科サービスの歯科医師へ診断と治療の集中講習を行ったあと、12歳の平均DMFSが下がっていった国の統計(Fig. 5)を示しています(講習との因果関係を確かめたデータではありません)。

著者らはさらに、1980年代半ばの研究で、エックス線写真で象牙質まで達する脱灰のうち実際に窩洞があったのは半数に満たなかったこと、適切な視診・触診の基準を使えばバイトウィングを足しても得るものがなく、写真に頼るとむしろ過剰治療になるとした2012年の研究を挙げています。

著者らが述べる「修復のサイクル」初めての修復大きさに関わらずサイクルが始まる詰め替えのたび窩洞が拡大二次う蝕や辺縁の不適合を理由に歯髄・根尖へ根管治療や冠・ブリッ抜歯インプラントへ原著本文の記述(引用研究に基づく著者らの主張)を筆者が図にしたもの。数値を示した図ではない
著者らが述べる「修復のサイクル」(原著本文の記述を筆者が図にしたもの)

そして、一度詰めると、その大きさにかかわらず再修復のサイクルが始まる、と著者らは述べます。修復物の寿命は限られ、二次う蝕や辺縁の不適合を理由に詰め替えるたびに窩洞は広がり、やがて歯髄・根尖に及び、根管治療や冠・ブリッジ(これも長期の予後は控えめ)へ、隣の歯を傷つける危険も重ねながら、最後は抜歯とインプラントに向かいうる——という流れです(それぞれ引用研究に基づく著者らの主張)。

根拠その二——オッダー市は、担い手を入れ替えた

オッダー市は人口約21,500人の中流層が中心の自治体で、公的歯科サービスの主な対象は0〜18歳の約5,000人です。職員は歯科医師3.3人年、歯科衛生士3.3人年、歯科助手10.1人年でした。

2004年より前、この市の18歳のう蝕経験は全国平均を大きく上回っていました。新しく着任した歯科部長(着任・取り組み開始の年は原著に明記がない)が、う蝕経験の最も多い子どもたちの記録を調べると、ほとんど修復だけで対応され、口腔清掃指導・食事指導・フッ化物配合歯磨剤の助言の記録がなかったといいます。最もう蝕の多い子の記録から著者らが挙げた例では、16歳でDMFS 24の女の子は受診90回のうち38回が修復、乳臼歯2本が9回ずつ修復されたあと抜歯されていました。

そこで、チームの役割が決め直されました。

歯科医師:チームリーダー・相談役。修復は必要なときだけ行う。
歯科衛生士:診査の大部分を担当。視診・触診でごく初期の病変を見つけてリスクを評価し、生活習慣の見守りに重きを置く。乳臼歯の隣接面を削って磨きやすくする処置も任された。
歯科助手:自分の担当患者を持ち、口腔清掃指導・フッ化物塗布・必要な小窩裂溝の封鎖・歯科恐怖のある子の対応を担う。
流れ:1歳半〜2歳で初回面接(親子で、フッ化物配合歯磨剤での歯みがきとフロス、食習慣)。親の同席は12歳ごろまで。診査は20か月ごとで、毎回リスク評価(染め出しでの清掃状態、エナメル質の初期病変、過去のう蝕経験、きょうだいのう蝕経験、萌出の段階)をして個別の計画を立てる。リスクが低い子は20か月後まで呼ばない。18歳で離れるときは、本人に説明し、選んだ開業医へ経過とバイトウィングを引き継ぐ。
0 2 4 6 18歳の平均DMFS 5.5 5.1 1.7 3.7 オッダー市2005年 全国平均2005年(約) オッダー市2012年 全国平均2012年 原著本文p.715の値(Fig. 8・10に対応。全国2005年はFig. 8の図から読み取った概数)。対照群のない1市の前後比較。オッダー市は2004年時点で既に約5.3まで下がっており、取り組みの開始年は原著に明記がない
オッダー市と全国の18歳の平均DMFS(原著本文p.715の値。全国2005年はFig. 8から読み取った概数)。同じ期間に全国平均も約5.1から3.7に下がっている

結果について、著者らは18歳の平均DMFSが2005年の5.5から2012年の1.7に下がり、2012年の全国平均3.7を下回ったと報告しています。ただし原著のFig. 8を見ると、全国平均も2005年の約5.1から下がっており、オッダー市の値も1999年の約7.3から2004年には約5.3まで既に下がっていました(図からの読み取り)。2012年には18歳の半数以上が健全な歯列で公的サービスを離れ、DMFSが4を超えたのは12%でした。15歳の平均DMFSは2005年の約3から2012年に1未満になり、2015年の目標だったDMFS 1には2011年に届き、その年の15歳のう蝕のない子の割合は60%を超えました。質問票の調査では、親と子の満足度は97〜99%でした。

著者らの提案——担い手を2種類に分ける

著者らが提案する2つの専門職OHCP(大多数を占める)根拠に基づく診断と病気のコントロール公衆衛生・医療経済・マネジメント地域でチームを率いて計画を立てる一般の医療に組み込まれた門番必要なら簡単な修復も行うOCS(複雑な治療を担う)医学の教育を受けた人口腔リハビリテーション口腔外科・口腔内科矯正慢性疾患・多剤服用の人の治療原著本文の記述を筆者が図にしたもの。提案であり、実際に機能するかは検証されていない
著者らが提案する2つの新しい専門職(原著本文の記述を筆者が図にしたもの)

著者らは、「全部できる歯科医師」という考え方を終わらせ、2種類の専門職に置き換えるべきだと提案します。

OHCP(oral healthcare provider)は歯科専門職の大多数を占め、根拠に基づく診断と病気のコントロールを中心に、公衆衛生・医療経済・マネジメント・コミュニケーションにも通じ、地域でチームを率いて、今は歯科医療が届いていない人々も含めた計画を立てる。一般の医療に組み込まれ、高度な治療への「門番」となり、必要なら簡単な修復もする。

OCS(oral clinical specialist)は、慢性疾患があり多くの薬を飲んでいる高齢者などの複雑な治療を担う。医学の教育を受け、口腔リハビリテーション/口腔外科・口腔内科/矯正のいずれかの卒後研修を積んだ人、としています。

著者らはまた、低所得国が欧米の修復中心の歯科医療をそのまま真似ることは避けるべきだとも述べています。

明日の臨床へ

①「写真で脱灰が見える」を、そのまま「削る」理由にしない視点。著者らは、象牙質に達して見える脱灰でも窩洞があるのは半数未満だったという研究や、視診・触診の基準を使えばバイトウィングを足しても追加の価値がなかったという研究を引いている。削るかどうかの判断を見直す材料になる。
②一度詰めると、再修復のサイクルが始まる。これは著者らの主張の芯で、初回の修復の判断を慎重にする理由として患者さんへの説明にも使える(使い方は筆者の読み)。
③リスク評価と指導をチームで担う設計。オッダー市では、歯科衛生士・歯科助手が診査や指導を担い、リスクの低い子は20か月ごと、という形をとった。ただし日本とは制度(歯科衛生士・歯科助手の業務範囲、保険の仕組み、健診の間隔)が違うので、そのまま持ち込めるわけではない(この点は筆者の補足)。
④オッダー市の数字は、1市の取り組み全体の結果。どの要素が効いたのかは分からず、オッダー市の取り組み自体は比較試験で確かめられていない(考え方そのものについては、著者らはフィンランドのランダム化試験を引いている)。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、これは総説・意見論文で、文献を系統的に集めて評価したものではありません。著者らが自らの主張に沿って研究を選んで引いている点は、差し引いて読む必要があります。第二に、オッダー市の数字は対照群のない1市の前後比較で、原著のFig. 8を見ると、同じ期間に全国平均も(約5.1から3.7へ)下がっています。市の値は1999年の約7.3から2004年には約5.3まで既に下がっており、起点の2005年(5.5)は前年より高い年でした。取り組みを始めた年も書かれていません。対象人数やDMFSの診査基準・診査者、満足度調査の方法は書かれていません。第三に、著者の1人はオッダー市の所属で、取り組みの当事者側からの報告です(利益相反の申告はなく、研究はBagger-Sørensen財団の一部助成)。第四に、図の説明文では「1999〜2011年」とあるのに、グラフは2012年まで描かれているなど、細部の表記が揃っていません。第五に、1978〜1996年と2005〜2012年のデンマーク・ノルウェーの若年者の話で、公的歯科サービスの形も、う蝕の多さも、今の日本とは違います(この点は筆者の補足)。それでも、「修復は病気のコントロールではない」という視点と、担い手を入れ替えて地域のう蝕を減らした具体例を並べて示した点は、自分たちの診療の形を振り返るきっかけになります。

今日のひとこと

著者らは、う蝕の減少への歯科医師の貢献は控えめで、主に「削る判断の基準」が変わったことによると論じている。1978〜1996年のデンマーク・ノルウェーの若年者の研究では、エナメル質にとどまる脱灰への修復はほぼなくなり、修復の量は以前の基準のままなら行われていたはずの量の20%未満(推計)に減った。DMFSのFは詰めた歯面の数なので、著者らはこれを「見かけの」う蝕減少への大きな影響と表現している。オッダー市では、歯科衛生士・歯科助手が診査や指導を担うカリエスコントロールに切り替え、著者らの報告では18歳の平均DMFSが2005年の5.5から2012年の1.7に下がり、全国平均3.7を下回った。著者らはこれらと、フィンランドのランダム化試験などを根拠に、疾患のコントロールを担う専門職(OHCP)と、複雑な治療を担う専門職(OCS)の2本立てへの再設計を提言している——ただし総説・意見論文で、オッダー市の数字は対照群のない1市の前後比較であり、同じ期間に全国平均も約5.1から3.7に下がり(図からの読み取り)、市の値は2004年時点で既に約5.3まで下がっていた。

Fejerskov O, Escobar G, Jøssing M, Baelum V. A functional natural dentition for all – and for life? The oral healthcare system needs revision. Journal of Oral Rehabilitation. 2013;40:707-722. doi:10.1111/joor.12082. PMID: 23855597
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。