1問1答 論文 虫歯

う蝕影響象牙質では、どのボンディングを使っても差が消えた——製品で伸ばせるのは健全象牙質だけだった

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|う蝕影響象牙質・接着・セルフエッチングプライマー

深いう蝕を除去したあと、窩底に残るのは健全象牙質だけではありません。う蝕影響象牙質が露出し、深い症例では感染象牙質も残ります。そこに接着するとき、製品の差はどのくらい効くのか。岡山大学が3種類のセルフエッチングプライマー系接着材で測ったところ、健全象牙質では41.2〜27.2MPaと製品差がありましたが、う蝕影響象牙質では21.5〜19.6MPaとほぼ横並びになり、統計学的な差が消えました。

論文
Micro-tensile bond strength of self-etching primer adhesive systems to human coronal carious dentin
著者
J. Doi, T. Itota, Y. Torii, S. Nakabo, M. Yoshiyama(岡山大学大学院医歯学総合研究科 保存修復学分野)
掲載
Journal of Oral Rehabilitation 2004;31(10):1023-1028
種類
in vitro 研究(ヒト抜去大臼歯・微小引張試験+SEM観察)
PMID
15387844

窩底が健全象牙質でないとき、製品の差は効きますか

深いう蝕を除去したあと、窩底に残るのは健全象牙質だけではありません。う蝕影響象牙質(caries-affected dentin)が露出し、露髄を避けるためにう蝕感染象牙質(caries-infected dentin)を残すこともあります。

ところが接着材の接着強さは、ほとんどが「う蝕の無い歯の健全象牙質」で測られています。臨床で接着する相手とは条件が違う。この研究は、その差を測りにいきました。

先に結論: 健全象牙質では 41.2 / 35.0 / 27.2 MPa と製品差があったのに、う蝕影響象牙質では 21.5 / 20.2 / 19.6 MPa とほぼ横並びになり、統計学的な差が消えた。感染象牙質でも同じだった。製品で伸ばせるのは健全象牙質だけだった。

どう測ったか

  • 試料:歯冠部にう蝕のあるヒト抜去大臼歯15歯(接着材ごとに5歯)。SEM観察用に別途9歯
  • 接着材:セルフエッチングプライマー系3種——クリアフィルSEボンド(クラレ)/マックボンドII(トクヤマ)/ユニフィルボンド(GC)
  • 象牙質の分類:ダイヤモンドソーで削り出して600番の研磨紙で平坦にし、う蝕検知液を10秒塗布して水洗。染まらない=健全/薄いピンク=う蝕影響象牙質/鮮やかな赤=う蝕感染象牙質と判定。その後、象牙質はいっさい除去していない
  • 接着:各製品の指示どおりにプライマー20秒→エアブロー→ボンド→10秒照射→コンポジットレジンを築盛して40秒照射
  • 試験:37℃水中24時間 → 0.8mm厚に連続切断 → 接着界面が約1.0mm²になるよう砂時計型にトリミング → 1mm/分で微小引張試験。破断面はSEM観察

設計の要は「同じ1本の歯の中に、3種類の象牙質が並んでいる」ことです。切片ごとに染色の程度で3群に振り分けているので、個体差の影響を受けにくい構造になっています。

結果①:製品差は、健全象牙質にしか現れない

0 16.7 33.3 50 微小引張接着強さ μTBS (MPa) 41.2 35 27.2 21.5 20.2 19.6 13.2 10.4 14.1 健全象牙質 う蝕影響象牙質 う蝕感染象牙質 棒が淡いほど後の製品。健全象牙質ではクリアフィルSEボンドがユニフィルボンドより有意に高かったが、う蝕影響象牙質・感染象牙質では3製品に有意差なし。標準偏差は10.0/5.3/5.1、8.9/5.8/1.6、3.9/6.0/4.5
3種類のセルフエッチングプライマー系接着材の、象牙質の状態別の微小引張接着強さ
  • 健全象牙質:クリアフィルSEボンド 41.2±10.0/マックボンドII 35.0±8.9/ユニフィルボンド 27.2±3.9クリアフィルSEボンドはユニフィルボンドより有意に高かった(P<0.05)。マックボンドIIはどちらとも有意差なし
  • う蝕影響象牙質:21.5±5.3/20.2±5.8/19.6±6.0。3製品に有意差なし。なお健全象牙質と比べると、3製品とも有意に低い(P<0.05)
  • う蝕感染象牙質:13.2±5.1/10.4±1.6/14.1±4.5。ここも有意差なし
  • う蝕影響象牙質と感染象牙質のあいだでは、影響象牙質のほうが高い傾向はあったが有意ではなかった
0 33.3% 66.7% 100% 健全象牙質を100としたときの割合 (%) 52.2% 32% 57.7% 29.7% 72.1% 51.8% クリアフィル SEボンド マックボンドII ユニフィルボンド 本文の平均値から計算した相対値(21.5÷41.2など)。淡い棒がう蝕感染象牙質。う蝕影響象牙質では、健全象牙質で最も高かった製品ほど目減りが大きい。感染象牙質ではこの傾向は当てはまらない
健全象牙質での値を100としたときの、う蝕象牙質での相対値(本文の平均値から計算)

相対値にすると、構図がはっきりします。健全象牙質で最も高かったクリアフィルSEボンドが、う蝕影響象牙質では52.2%まで落ちるのに対し、最も低かったユニフィルボンドは72.1%を保つ。落差の大きさが逆転しているわけです。ゴールが同じ高さなので、当然そうなります。

結果②:SEMが示した「なぜ差が消えるのか」

  • 健全象牙質:3製品とも均一なハイブリッド層と多数のレジンタグが観察された
  • う蝕影響象牙質ハイブリッド層が多孔性になり、レジンタグは短く不整になった
  • う蝕感染象牙質:ハイブリッド層は影響象牙質よりさらに多孔性で、レジンタグの形態もより不整だった
  • そして重要なのは、この形態変化に製品間の違いが無かったことです——「象牙質の状態によって構造は変わったが、接着材による構造・形態の違いは無かった」と著者らは記述しています
破断の場所も変わっている。健全象牙質ではクリアフィルSEボンドの破断が主にレジンと象牙質の混合凝集破壊だったのに対し、他の2製品では界面での接着破壊が主だった。ところがう蝕影響象牙質では、健全象牙質では見られなかった「象牙質の凝集破壊」が一部の試験片に現れ、感染象牙質ではその割合がさらに増えた——著者らはこれを、う蝕象牙質の軟らかさ・低い硬さを示唆する所見として扱っています。

では、なぜ差が消えるのか。著者らの答えは「う蝕象牙質に多孔性のハイブリッド層が形成されるから」です——抄録の結論そのままの言い方をすれば、「う蝕影響象牙質・感染象牙質への接着強さがセルフエッチングプライマー系接着材の種類に左右されなかったのは、う蝕象牙質における多孔性のハイブリッド層の形成による」。レジンモノマーが均一に浸透できない以上、どの製品を使っても同じところで頭打ちになる、ということです。なお著者らが実験前に立てていた仮説は「う蝕影響象牙質と感染象牙質では、接着材のあいだに差が出ないだろう」というもので、データはそれを支持しました。

考察でひとつ、注意して読みたいところ

著者らは考察で、別の文献を引きながら「クリアフィルSEボンドのセルフエッチングプライマーは酸性度(pH)が他の2製品より低い」「したがって、3製品のうち最も酸性度が低いクリアフィルSEボンドが健全象牙質で高い接着強さを示したと考えられる」と書いています。⚠️ ただしこの一文は原著のなかで用語の扱いが揺れています——pHが低いなら酸性度は高いはずで、直前に引用されている先行研究(より強い酸のほうが硬化象牙質への接着に有利)とも噛み合いません。本研究が酸性度を測定したわけでもありません(外部文献を引いた考察上の推測です)。ここは「そういう考察が置かれている」以上には読まないでおくのが安全です。

一方で確かなのは、著者らが先行研究(う蝕の無い歯の健全象牙質を使ったもの)ではこの3製品に有意差が無かったことに触れている点です。同じ3製品でも、う蝕のある歯の健全象牙質を使うと差が出た。「健全象牙質」という言葉が指す対象も、実は一様ではないということです。

明日の臨床へ

  • 窩底の条件は、製品では変えにくい。この試験条件では、う蝕影響象牙質での値は3製品とも20MPa前後にそろいました。少なくともこの3製品のあいだでは、「もっと良いボンディングに変える」という発想で伸ばせる余地は見えていません
  • だからこそ、健全歯質での封鎖を確保する。窩底に頼りきらず、エナメル質と健全象牙質の辺縁で封鎖を稼ぐ設計が効いてきます
  • 接着強さの数字は「どの象牙質で測ったか」を確認して読む。カタログの40MPaは、う蝕の無い歯の健全象牙質での数字であることがほとんどです
  • う蝕影響象牙質を残す選択そのものは否定されていない。この研究は接着強さを測っただけで、残した場合の臨床成績を見たものではありません。近年の低侵襲な考え方と矛盾するわけではなく、「残すなら、接着の期待値も下げて設計する」という読み方が妥当です

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線in vitro の微小引張試験で、24時間しか水中保存していません(長期の耐久性は範囲外)。試料は接着材あたり5歯、試験片数は各群5〜8本と小さく、標準偏差も大きめです(クリアフィルSEボンドの健全象牙質で ±10.0)。象牙質の分類はう蝕検知液の染色のみで行っており、組織学的・細菌学的な検証はしていません——検知液の染色が何を見ているかについては議論があります。製品は2000年代前半の日本製3種で、現在のユニバーサルアドヒーシブは含まれていません。また窩洞ではなく平坦面での接着なので、C-factorや窩洞形態の影響は入っていません(この点は別の論文が扱っています)。それでも「う蝕象牙質での接着は、接着材ではなく象牙質側の性状で頭打ちになる」という骨格は、接着強さの数値・SEM像・破断様式という3つの角度から同じ方向を指しており(同一試料からの観察なので独立ではありませんが)、材料が新しくなっても効き続ける読み方だと思います。

今日のひとこと

3種類のセルフエッチングプライマー系接着材の微小引張接着強さ(MPa)は、健全象牙質でクリアフィルSEボンド41.2/マックボンドII 35.0/ユニフィルボンド27.2。う蝕影響象牙質では21.5/20.2/19.6、う蝕感染象牙質では13.2/10.4/14.1。健全象牙質ではクリアフィルSEボンドがユニフィルボンドより有意に高かったが、う蝕影響象牙質・感染象牙質では3製品に有意差が無くなった。SEMでは、う蝕象牙質のハイブリッド層が多孔性で、レジンタグも短く不整だった。著者らの結論は「う蝕象牙質での接着強さが接着材の種類に左右されなかったのは、う蝕象牙質に多孔性のハイブリッド層が形成されるためである」。事前の仮説(製品間で差は出ないだろう)どおりの結果だった。製品を変えても、窩底の条件は変えられない——健全なエナメル質・象牙質での封鎖を確保する設計が効いてくる。

Doi J, Itota T, Torii Y, Nakabo S, Yoshiyama M. Micro-tensile bond strength of self-etching primer adhesive systems to human coronal carious dentin. J Oral Rehabil. 2004;31(10):1023-1028. PMID: 15387844. DOI: 10.1111/j.1365-2842.2004.01339.x
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。