カリオロジー|光重合・照射時間・重合深度
コンポジットレジンを詰めて、20秒照射して、表面をなぞって硬いことを確認する。そこで手を止めています。しかしテルアビブ大学が6種類のレジンを2mm厚で固め、表面と窩底の両方でKnoop硬さを測ったところ、メーカー推奨時間で「窩底が表面の80%以上」に届いたのは6種類中2種類でした。残る4種類は推奨の2〜3倍照射してようやく届き、前歯用マイクロフィラーの1種は3倍でも届いていません。
①表面が硬いことは、窩底の保証になりますか
コンポジットレジンを詰めて、光を当てて、探針で表面をなぞる。硬い。よし、次へ。——この確認で見ているのは表面だけです。
問題は、臨床的に確認できない窩底の面が、修復物の予後を大きく左右することです。窩底が硬化不足だと、未反応成分が溶出して二次う蝕のリスクを上げ、残留した未重合材料が歯髄への化学的刺激になり、そして硬い表層と軟らかい深層というヤング率の違う2つの材料でできた修復物になってしまう。この論文はそこを測りにいきます。
②何を、どう測ったか
- 試料:厚さ2mm・直径5mmの真鍮製モールドにレジンを充填し、上下をマイラーストリップで挟む。光照射器の先端をマイラー越しに当てて照射
- 材料:前歯用マイクロフィラー2種(Silux Plus・Visio-Dispers)/前歯用ブレンド1種(Valux)/前歯用フリー粒子1種(Visio-RI)/臼歯用ブレンド2種(P-50・Visio-Molar)
- 照射:20秒と40秒。40秒でも表面と窩底の硬さの差が20%を超えた材料は、60秒でも測定
- 測定:Knoop微小硬さ。25gの荷重を10秒(表層だけを測るために、他の研究より軽い荷重を意図的に選択)。照射直後、30分、60分、120分、1日、2日、3日後
- 保存:37℃・湿度100%の遮光容器。測定時の照明はカンファーキノンを励起しない510nm以上の緑色光
「窩底が表面の80〜90%の硬さ」が十分な重合深度の目安として複数の先行研究に支持されている、というのがこの研究の判定基準です。
③結果①:硬さは、照射が終わったあとも上がり続ける
まず全材料に共通していたことから。
- 照射後1時間で急速に硬さが上がり、その後24時間まで緩やかに上がって、そこで頭打ちになる。1日目と3日目のあいだに変化は無かった
- この「照射後の硬化の続き」は、すべての材料で統計学的に有意だった(P<0.001)
- 表面のほうが窩底より硬いのも全材料で有意(P<0.001。Visio-RIのみ P=0.031)
- 照射時間を延ばすと、表面も窩底も硬くなった。そして変化の幅は窩底のほうが大きかった
照射直後の窩底の硬さは、表面よりもはるかに照射時間に依存していました。P-50では、60秒照射した窩底の直後硬さが、20秒照射のときより103.7%高い——つまり2倍以上です。
④結果②:推奨時間では、多くが届かなかった
- 推奨時間で0.80に届いた:Visio-RI(推奨20秒で0.81)とP-50(推奨30〜60秒のうち60秒で0.91)の2種類
- 推奨の2倍で届いた:Visio-Molar(推奨20秒→40秒で0.84)とValux(推奨20秒→40秒で0.87)
- 推奨の3倍でようやく:前歯用マイクロフィラーのSilux Plus(推奨20秒→60秒で0.50→0.80)とVisio-Dispers(0.55→0.74)。Visio-Dispersは60秒でも0.80に届いていません
⑤結果③:最大の硬さを決めたのは、粒径ではなく体積分率
- 最大硬さはフィラーの体積分率と強く相関した(20秒 r=0.867・P=0.025/40秒 r=0.919・P=0.01)
- 一方平均粒径との相関は有意ではなかった(P=0.108/P=0.213)
- そして「照射後にどれだけ硬くなるか(72時間/直後の比)」は、体積分率とも粒径とも相関しなかった——重合反応の速度論そのもので決まっているのだろう、と著者らは考えています
もう一つ、統計的に興味深い所見があります。照射時間と「照射後の時間経過」の交互作用は、どの材料でも有意ではありませんでした。つまり光の強さと照射時間が決めるのは「反応の始動」と初期の硬さだけで、そこから先の伸展・停止の段階は、照射時間に関係なく同じように進む——という読み方になります。
⑥明日の臨床へ
- メーカー推奨時間を下限として扱う。この研究では、推奨時間で目安に届いたのは6種類中2種類でした。「推奨どおりに当てた」は「十分に固めた」と同義ではありません
- 積層と、多方向からの照射。原著が補償手段として挙げているのはこの2つです。照射直後の窩底の硬さは表面よりはるかに照射時間に依存していたので、1層あたりの厚みを抑え、当てる方向を変えることが理にかないます
- この数字はライトシェードでのもの。判定はすべてライトシェード(P-50はエクストラライト)で行われています。重合深度が色調と透明度に左右されることは原著も導入部で触れていますが、本研究はシェードを検証していません——濃いシェードでどうなるかは、この研究の外の話です
- 直後の硬さで判断しない。硬さは1時間で大きく、24時間まで緩やかに上がり続けます。ここからはぼくの推論ですが、研磨や咬合調整を直後に行うなら、そこはまだ最終の硬さではないということになります(原著は処置のタイミングには触れていません)
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
照射から3日後の「窩底/表面」の硬さ比は、Visio-RI 0.81/Visio-Molar 0.75/Valux 0.72/P-50 0.69/Visio-Dispers 0.55/Silux Plus 0.50(いずれも20秒照射)。十分な重合深度の目安とされる0.80に、メーカー推奨時間で届いたのはVisio-RI(推奨20秒)とP-50(推奨30〜60秒のうち60秒で0.91)の2種類。Visio-MolarとValuxは推奨の2倍、前歯用マイクロフィラーの2種は3倍でようやく0.74〜0.80に近づき、Visio-Dispersは60秒でも0.74で目安に届かなかった。硬さは照射後1時間で急速に、24時間まで緩やかに上がり、そこで頭打ちになる。そして最大硬さと相関したのはフィラーの体積分率(r=0.867〜0.919)であって、平均粒径ではなかった。1992年の材料での話だが、「表面が硬いことは窩底の保証にならない」という骨格は今も動かない。


