1問1答 論文 虫歯

「フロス、使ってくださいね」の根拠を聞かれたら──6試験808人が示した、思ったより厳しい答え

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|う蝕の病因(隣接面清掃)

毎日のように口にする一言です。「歯ブラシだけだと、歯と歯のあいだが磨けませんから」。ではこう聞かれたら、どう答えるでしょうか——「フロスを使うと、隣接面のむし歯はどれくらい減るんですか」。2006年のこのシステマティックレビューは、その問いに正面から答えようとして、思っていたより厳しい答えを持ち帰りました。効果が確認できたのは、専門家が学校のある日ごとに通した場合だけだったのです。

論文
Dental Flossing and Interproximal Caries: a Systematic Review
著者
Hujoel PP, Cunha-Cruz J, Banting DW, Loesche WJ
掲載
Journal of Dental Research 2006;85(4):298-305
種類
システマティックレビュー・メタ解析(対照臨床試験のみ。検索は2004年12月まで)
対象
4〜13歳の子どもを対象とした6試験・解析対象808人(成人の試験は1件も存在しなかった)

「フロス、使ってくださいね」の根拠を聞かれたら

毎日のように口にする一言です。「歯ブラシだけだと、歯と歯のあいだが磨けませんから」

ではこう聞かれたら、どう答えるでしょうか。「フロスを使うと、隣接面のむし歯はどれくらい減るんですか」

2006年に Journal of Dental Research に載ったこのシステマティックレビューは、その問いに正面から答えようとして、思っていたより厳しい答えを持ち帰りました。

先に結論: 専門家が学校のある日にフロスを通した子どもでは、う蝕リスクが40%低い(リスク比0.60・95%CI 0.48〜0.76・P<0.001)。しかし3か月に1回の専門家フロスでは差がなく(リスク比0.93)、子どもが自分で行うフロスでも差がありませんでした(リスク比1.01)。そして成人での試験は1件も見つからなかった——これが2006年時点の全証拠です。

「もっともらしい」ことは、確かめられていなかった

フロスの利益を説く記述は、19世紀初頭までさかのぼります(Parmly 1819)。歯のあいだの刺激物が歯科疾患の源だ、という考えです。

その後の微生物学がプラークをう蝕の原因として位置づけ、隣接面のプラークは他の部位より酸産生性が高いことも報告されました(Igarashi 1989)。そしてフロスは、隣接面のプラークを壊して取り除ける(Waerhaug 1981)。

ここまで並べば、「フロスは隣接面う蝕のリスクを下げるはずだ」という推論はきわめてもっともらしく見えます。

著者らがやったのは、このもっともらしさを、対照臨床試験の証拠だけで検証することでした。

見つかったのは、6試験・808人だけ

MEDLINE、コクラン中央登録(CENTRAL)、Web of Science、controlled-trials.com を2004年12月まで検索し、参考文献リストも辿った結果、集まったのは次の6試験です。

  • いずれも4〜13歳の子どもを対象(合計808人が解析対象)
  • 3試験はスプリットマウス(同じ口の中で片側だけフロス)、3試験は平行群
  • 期間は1.7〜3年
  • フロスの方法は専門家が行う(学校のある日/3か月ごと)本人が行うに分かれる
質の評価はきびしい: ベースラインのう蝕を報告した4試験すべてで、フロス群のほうが最初からう蝕が少なく、まとめるとその差は有意でした(P<0.05)。1試験は評価者が盲検化されておらず、どの試験も信頼区間を報告していません。スプリットマウトの3試験は患者内の相関を調整していませんでした。2試験は企業から支援を受けています。

効いたのは、たった1つの条件だけ

0 0.4 0.9 1.3 リスク比(1.00=差なし) 0.6 0.93 1.01 専門家が学校のある日 専門家が3か月ごと 自分でフロス 1.00より低いほどう蝕が少ない。有意なのは左だけ(95%CI 0.48〜0.76)
フロスの方法別に見た、対照と比べたう蝕リスク(リスク比)。1.00が「差なし」の線。灰色の2本は信頼区間が1.00をまたぐ

方法別に分けると、結果ははっきり分かれました。

  • 専門家が、学校のある日に、1.7年間(2試験・主に乳歯):リスク比0.60(95%CI 0.48〜0.76、P<0.001)=40%のリスク低下。リスク差 −0.05(95%CI −0.07〜−0.03)
  • 専門家が、3か月に1回、3年間(2試験):リスク比0.93(95%CI 0.73〜1.19)——差なし
  • 子どもが自分で、2年間(2試験・学校での監督下を含む):リスク比1.01(95%CI 0.85〜1.20、P=0.93)——差なし

6試験すべてを統合すると、固定効果モデルでリスク比0.86(95%CI 0.76〜0.97、P=0.01)=14%低下。ただし試験間のばらつきが大きく(I²=70%)、より適切とされる変量効果モデルではリスク比0.79(95%CI 0.61〜1.01、P=0.06)となり、統計的な有意性を失います

「効かなかった」試験に、共通していたもの

0 10.7% 21.3% 32% 隣接面う蝕リスク(%) 7% 14% 25% 25% 8% 12% 10% 14% 8% 10% 28% 27% Wright 1979 Granath 1979 Wright 1980 Gisselsson 1983 Gisselsson 1988 Gisselsson 1994 濃い棒=フロス群/淡い棒=対照群。差が出たのは左端と3本目の2試験だけ
6試験それぞれの隣接面う蝕リスク。濃い棒=フロス群、淡い棒=対照群。差がはっきり出たのはWrightらの2試験だけ

著者らは、何が効果を左右したのかを調べています。ここが、この論文のいちばん重要な部分です。

フロスが効いたのは、フッ化物が乏しい条件だった: 局所フッ化物の投与、またはフッ化物曝露・コンプライアンスの評価を報告した4試験では、フロス群のほうがわずかにう蝕リスクが高かった。逆に、それらを報告しなかった2試験(Wrightら)で、強い有意な利益が出ています(P<0.001)。著者らはこう書きます——「特に、局所フッ化物が存在する状況でフロスが有効だという証拠はなかった」

もう一つの効果修飾因子は、集団のう蝕リスクの高さでした。う蝕リスクが高い集団ほど、フロスは効かない(P<0.002)。隣接面う蝕リスクは、2試験で約25%、残る4試験で10〜14%でした。

一方、口腔清掃の指標は効果と有意に関連しませんでした(P=0.31)。

効果が出たWrightらの2試験は、水道水のフッ化物が0.1ppm未満の地域で、他の口腔清掃の手順も指導も提供されていない子どもたちが対象でした。著者らは「口腔清掃が不良で、フッ化物への曝露が最小限という状況でなら、フロスは有効かもしれない」と述べています。

40%の裏付けは、54病変の差だった

著者らは、自分たちが見つけた「40%減」の脆さも、率直に書いています。

  • 効果を示した2試験は同じ研究者らによるもので、真に独立ではない
  • 1試験には企業からの資金支援があり、その支援には材料・費用・給与が含まれていた
  • 口腔清掃とフッ化物曝露のデータはごくわずかしかない
  • そして——2試験を合わせた病変数の差は54普遍的なフロス推奨の根拠にするには小さい数字だと著者ら自身が書いています

さらに感度分析まで示しています。スプリットマウス試験で調整されていなかった患者内相関が、Wright 1979で0.96を、Wright 1980で0.39を超えていれば、この有意差は消える——と。

明日の診療で、何を1つ変えるか

「フロスは意味がない」ではありません。「この証拠だけでは、う蝕予防を根拠にできない」です: このレビューが扱ったのは隣接面う蝕という1つのアウトカムだけ。歯肉炎・歯周組織への効果は対象外です。そして成人での試験は1件も存在しませんでした

説明の言葉としては、次のように整理できます。

  • 「毎日、確実に、隣接面に届く」ことが条件——効果が出たのは学校のある日ごとに専門家が通した群だけ。3か月に1回では差がありませんでした
  • 自分で行うフロスでう蝕が減ったという証拠は、この時点では無い。理由として著者らは、フッ化物の存在、フロス手技の拙さなどを挙げています
  • だからこそ手技の指導に時間を使う価値があります。「使っていますか」ではなく「どう使っていますか」
  • そしてフッ化物をきちんと使っている患者さんでは、フロスの上乗せは小さい可能性がある——これは患者さんに正直に伝えられる話です
  • う蝕予防以外の目的(歯肉の炎症、隣接面の食渣、補綴物周囲の清掃)は、この論文の射程外です

ここだけ、冷静に補助線

誠実で、居心地の悪いレビューです: 著者ら自身が、このレビューの弱点を明記しています——組み入れ基準の設定、研究上の問いの絞り方、要約推定値の統計的な不確実性、そして病変の重症度が解析で考慮されていないこと。さらに「著者らが対象試験に精通していたため、厳密な事前の組み入れ基準の設定は不可能に思われた」とまで書いています(事前に妥当な基準を立てれば、利用可能な証拠のほとんどが除外されてしまうから)。組み入れられた試験のベースラインが揃っておらず、フロス群のほうが最初から健康だった点も、効果を過大に見せる方向に働きます。それでも——「もっともらしい」と「確かめられている」は違うということを、これほど丁寧に示した論文は多くありません。フロスを勧めること自体を否定するのではなく、何を根拠に勧めているのかを自覚するために読む価値があります。

今日のひとこと

フロスが隣接面う蝕を減らすという、19世紀から続く「もっともらしい」主張を、対照臨床試験の証拠だけで検証したレビュー。集まったのは6試験・808人(4〜13歳)だけだった。方法別に見ると結果ははっきり分かれる:専門家が学校のある日に1.7年間通した2試験ではリスク比0.60(95%CI 0.48〜0.76、P<0.001)=40%のリスク低下。しかし専門家が3か月に1回・3年間ではリスク比0.93(95%CI 0.73〜1.19)で差なし子どもが自分で2年間行った場合もリスク比1.01(95%CI 0.85〜1.20、P=0.93)で差なし。6試験全体では固定効果モデルでリスク比0.86(95%CI 0.76〜0.97)だが、異質性が大きく(I²=70%)、変量効果モデルではリスク比0.79(95%CI 0.61〜1.01、P=0.06)と有意性を失う。効果修飾がきわめて重要:局所フッ化物の投与やフッ化物曝露・コンプライアンスの評価を報告した4試験ではフロス群のほうがわずかにリスクが高く、それらを報告しなかった2試験でのみ強い利益が出た(P<0.001)。著者らは「特に、局所フッ化物が存在する状況でフロスが有効だという証拠はなかった」と明記している。う蝕リスクが高い集団ほどフロスは効かなかった(P<0.002)。さらに40%減の裏付けは2試験合計で54病変の差にすぎず、著者ら自身が「普遍的なフロス推奨の根拠にするには小さい」と書いている。ベースラインで全4試験ともフロス群のほうがう蝕が少なく(P<0.05)、成人での試験も、実地の(監督なしの)条件での試験も存在しなかった。なおこのレビューが扱ったのは隣接面う蝕という1つのアウトカムだけで、歯肉炎・歯周組織への効果は対象外である。

出典:Hujoel PP, Cunha-Cruz J, Banting DW, Loesche WJ. Dental flossing and interproximal caries: a systematic review. J Dent Res 2006;85(4):298-305. PMID: 16567548
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。