咬合面の50%以上を失った重度のエロージョン患者11名の臼歯を、超薄型CAD/CAMオクルーザルベニアで修復し、セラミック(e.max CAD・6名24本)と間接修復用コンポジット(Lava Ultimate・5名36本)を患者単位で無作為に割り付けて最長3年追跡したランダム化臨床試験(Schlichting 2022・J Prosthet Dent)
咬耗が進んだ臼歯を、クラウンにせずに救えないか——そう思っても、実際に0.5mmの薄い板を咬合面に貼るとなれば、割れる予感のほうが先に立ちます。ブラジルとアメリカのグループが、その予感を3年かけて確かめました。
①咬耗した臼歯を、削らずに救えないか
エロージョンで咬合面がすり減った臼歯。知覚過敏があり、進行の所見もある——治療に踏み切るとなったとき、選択肢はそう多くありません。
直接修復で追いつく範囲を超えていれば、次はオンレーかクラウン。ただし、それらは「厚みを確保するために、残っている歯質をさらに削る」ことを意味します。すでに失った歯にさらに削る、という矛盾があります。
ならば薄い板を咬合面に貼るだけではどうか——理屈は分かりますが、0.5mmのセラミックが咬合力に耐えるとは、直感的には思えません。ブラジルとアメリカのグループが、その直感を3年かけて確かめました。
②11名・60本を、患者ごとに材料へ無作為に割り付ける
組み入れ条件でひとつ大事なのが、「修復治療の完了後にオクルーザルデバイスを装着する意思があること」です。この研究は「ナイトガードを使う人」の中で行われています。
ここで押さえておきたいのは、割り付けの単位が「歯」ではなく「患者」だったことです。セラミック6名・コンポジット5名——コンポジット群で起きた5件のチッピングは、わずか5名の中から出ています。
③結果——3年で、外れたものは1本もなかった
まず、いちばん大きな結果から。3年間で脱離した修復物は1本もありません。
Kaplan-Meier法による生存率は、セラミック 100%、コンポジット 84.7%(標準誤差0.065%)。両群の差は統計学的に有意ではありませんでした(P=.124)。全体では 88.4%です。
コンポジット群で起きた5件は、すべて辺縁のチッピングでした(USPHSスコア4=部分的失敗)。最初は8.3か月後の下顎左側第一小臼歯の頬側辺縁。13か月後には別の1名で、同一象限に2件(下顎右側第一大臼歯の遠心頬側咬頭と、第一小臼歯の遠心辺縁隆線)。4件目は23.5か月後に別の患者の上顎左側第二大臼歯、5件目が30.8か月後の下顎右側第二小臼歯です。いずれもラバーダム下で直接修復用コンポジット(IPS Empress Direct)により補修され、最終評価まで機能しました。ただし1本(下顎右側第一大臼歯)だけは、30.8か月時点で同じ遠心頬側咬頭を再度補修する必要がありました。
ここは大事なところで、「失敗」の中身が「作り直し」ではなく「補修で済んだ」という点です。著者らの結論の2番目も「修復物の喪失はなかった。失敗はすべて部分的で、容易に補修でき、最終評価まで成功していた」と書かれています。
そしてこの結果が、この厚みで得られていることに注目したいところです。中心溝部 0.55mm、咬頭内斜面 0.89mm、咬頭頂 1.00mm、辺縁隆線 0.78mm。従来のオンレーやクラウンとは、削除量の桁が違います。
④差がついたのは、生存率ではなく表面だった
USPHS基準の各項目を比べたところ、ベースラインと最終評価のあいだで両群に有意差がついたのは1項目だけ——表面粗さでした(Mann-Whitney U=230, P=.003)。
コンポジット群では、咬合接触部の粗さが増していました。Lava Ultimateの8本がスコア3(粗さの増加)と判定されています。表面・辺縁の着色や色調適合はセラミック群のほうがやや良い傾向でしたが、有意差はありません(P=.809、P=.280)。
臨床的な含意は、著者らが本文でこう要約しています——「CAD/CAMのコンポジットとセラミックの超薄型オクルーザルベニアは、最適でよく似た臨床成績を示す。コンポジットを選ぶなら、より多くのメインテナンスが予想されるかもしれない」。
そのほかの所見も添えておきます。術後の知覚過敏は装着時に8歯、最終評価で7歯に認められました。エロージョンの再発や二次う蝕は検出されていません。ただしセラミック群の1歯が不可逆性歯髄炎を起こし、根管治療が必要になっています(この歯はもともと大きなNCCLと1級窩洞を持っていました)。根管へのアクセスはオクルーザルベニアを貫通して行われ、その修復物は後に交換されており、生存解析上は「打ち切り」として扱われています——つまり「セラミック100%」は、この1本を除いた上での数字です。なお最終評価を受けたのはセラミック23本・コンポジット31本で、USPHSの群間比較は生存している修復物どうしの比較です。
破折についても、著者らは示唆的な観察をしています。中心溝部のクラックの発生が少なかったことから、極端な咬合力(たとえば600Nを超えるような)はかかっていなかったと推定される——in vitro研究で1400Nまでかけたものとは条件が違う、と。そしてチッピングを起こした患者の1人はブラキシズムの既往があり、13か月経ってからナイトガードを使い始めたことにも触れています。
⑤明日の臨床へ
持ち帰れるのは、3つです。
①「厚みを確保するために削る」以外の道がある。0.55mmという厚みで、3年間ひとつも外れませんでした。接着(イミディエイト・デンティン・シーリング+加温コンポジットによる合着)が成立していれば、薄さは即座に脆弱さを意味しない——この研究が示したのはそこです。
②材料の選択より、条件づくりのほうが重い。セラミックとコンポジットに有意差はつきませんでした。それに対して、形成はトライアルレストレーション基準、IDS併用、内面処理と支台歯処理を規定どおり、合着は加温コンポジット——プロトコルの側は緻密に固められています。この結果は材料の性能ではなく、手順の産物と読むほうが実態に近いはずです。
③コンポジットを選ぶなら、メインテナンスを前提に説明する。チッピングは5件ともコンポジット群で、表面粗さも有意に劣化しました。ただしすべて補修可能です。「壊れない」ではなく「壊れても直せる」という説明のほうが、この材料には合っています。なお、この研究で使われたLava Ultimateは、その後メーカー自身が適応を部分修復(インレー・アンレー)に限定し、接着による合着のみを推奨するよう改めています——著者ら自身が考察で触れている点です。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
咬合面の半分以上を失った臼歯に、平均0.55mm(中心溝部)の薄い板を接着する——3年間で、外れたものは1本もなかった。生存率はセラミック(e.max CAD)100%、コンポジット(Lava Ultimate)84.7%で、両者に統計学的な差はない(P=.124)。全体では88.4%である。コンポジット群で起きた5件はすべて辺縁のチッピングで、いずれも直接修復用コンポジットで補修されて最終評価まで機能した(うち1本は30.8か月に同じ部位を再補修)。差がついた唯一の項目が表面粗さで、コンポジット群では咬合接触部が荒れていた(P=.003)。ただし参加者はわずか11名、割り付けは患者単位(セラミック6名・コンポジット5名)で、しかも「治療後にオクルーザルデバイスを装着する意思がある」ことが組み入れ条件——参加者を11名集めるのに3年半かかったと著者らが書いているほど厳しい選択である。例数設計も「生存率に70%の差」を見込んだもので、小さな差を検出する設計ではない。それでも、削って被せるしかないと思っていた歯に、0.55mmという選択肢が示された意味は小さくない。


