カリオロジー|修復物の寿命・二次う蝕・失活歯のリスク
「ゴールドは長持ちする」——これは経験として共有されていますが、では何年で、何が原因で壊れるのか。チューリッヒ大学が、1950年以降に装着した鋳造ゴールドインレー・アンレー303装置を平均18.7年追跡し、Kaplan-Meier法で生存率を出しました。30年生存率は73.5%。そして失敗42件の中身を開けると、上位2つは二次う蝕(17件)と脱離(13件)で、全体の71%を占めていました。さらに、失活歯に入れたものだけが統計学的に有意な危険因子でした。
①「ゴールドは長持ちする」の、長持ちって何年ですか
患者さんに材料の説明をするとき、ゴールドの話は必ず出ます。「長持ちしますよ」と言う。言いながら、何年もつのか、何が原因で壊れるのかを数字で言えているかというと、案外あいまいです。
この論文は、そこを埋めにいきます。チューリッヒ大学と、そこで教育を受けた開業医2名が1950年以降に装着した鋳造ゴールドインレー・アンレー303装置を、1996〜1997年に呼び戻して診査した後ろ向きコホート研究です。平均観察期間18.7年(SD 9.5年)。86%が15年以上、30%が20年以上、機能していました。
②この研究の前提を、先に押さえておく
数字を読む前に、どんな条件下の303装置なのかを確認します。ここを飛ばすと、あとで自分の診療室の数字と比べたときに混乱します。
- 患者選択:歯周組織が健康・口腔衛生レベルが高い・う蝕活動性が低い患者のみ。乳頭出血指数が20を超える患者、顎関節症のある患者は除外(組入れは20以下)
- 合着:全例が非接着性(296装置がリン酸亜鉛セメント、6装置がグラスアイオノマー、1装置が仮着のまま)
- 内訳:インレー153・アンレー150。大臼歯166(55%)・小臼歯131(43%)・前歯6(2%)
- 歯髄:生活歯274(90%)・失活歯29(10%)
- 判定:改変USPHS基準。A・B判定=成功、C・D判定=失敗。バイトウイングX線を2.0倍に拡大して二次う蝕・歯根膜腔・骨欠損まで見ている
つまりこれは、「条件のいい患者に、丁寧に作って、非接着で着けた場合」の上限に近い数字です。低く見積もった数字ではありません。
③生存曲線——30年で73.5%
全体の失敗率は13.8%(42/303)。生存率は2年99.0%、5年97.6%、10年96.1%、15年92.2%、20年87.0%、25年87.0%、そして30年で73.5%でした。
20年から25年で数字が動いていないのは、その間に新しい失敗イベントが起きていないためです。グラフの平らな部分は「安定」を意味しますが、同時に「観察数が減っている」ことも意味します。30年時点でリスク集合に残っていたのは31装置だけで、95%信頼区間の下限は62.9%まで下がります。ここは正直に読んだ方がいい部分です。
④ゴールドは、割れて負けたのではない
ここがこの論文の一番おいしいところです。失敗42件を分解すると、こうなります。
- 二次う蝕 17件(40%)——最多。生物学的理由の中心
- 脱離 13件(30%)——技術的理由の中心
- 破折 4件(9%)/過度の咬耗 3件(7%)/根管治療 2件(5%)/一次う蝕 1件/歯周 1件/ブリッジ新製に伴う撤去 1件
この読み方が効いてくるのは、材料を選ぶときではなく、術式を選ぶときです。二次う蝕と脱離が失敗の7割なら、伸ばすべきは材料の強度ではなく辺縁封鎖と維持だからです。著者らも結論で「接着性合着法を用いれば、この生存率はさらに改善できるだろう」と書いています。全例が非接着だった研究の著者が、自分でそう言っている。
なおインレー(19.0%失敗)とアンレー(8.7%失敗)の差は、見た目には2倍以上の開きですが統計学的に有意ではありません(Breslow検定 P=0.17、Cox回帰 P=0.64)。小臼歯か大臼歯かも影響しませんでした(P=0.88)。
⑤唯一の危険因子は、失活歯だった
Cox比例ハザードモデルにかけたところ、有意だった因子は「支台歯が失活歯かどうか」の1つだけでした(P=0.0048)。
- 生活歯:失敗 30/274=10.9%
- 失活歯:失敗 12/29=41.4%
- リスク比 約3.8(本文の実数から計算)。著者らは考察で「観察期間10年から20年にかけてハザードが3倍になった」、結論で「20年経過後の失敗リスクが3倍」と記述しています
失活歯が不利な理由は、この論文の中では議論されていませんが、臨床的には想像がつきます。失活歯はもともと歯質欠損が大きく、残存壁が少なく、維持形態を取りにくい。加えて痛みという警告系を失っているので、二次う蝕が進んでも患者が気づかない。失敗の1位が二次う蝕、2位が脱離だったことと、きれいに符合します。
⑥明日の臨床へ
- 「20年は9割弱、30年で7割強」を数字として持っておく。10年で96%という数字は、比較対象を持つと意味が立ち上がります。同論文が引用する高銅系アマルガムの13年生存率は85%、当時のセラミックインレーの4.5〜6.5年生存率は76〜95.6%でした
- 失活歯にインレー・アンレーを入れるときは、設計を一段変える。失敗率が4倍近くになる集団だと分かっているので、維持形態の追加、被覆量の見直し、接着性合着の選択——どれかを積み増す理由になります
- リコールで見るべきは「辺縁」。失敗の40%が二次う蝕でした。そして失敗42件のうち86%は、再評価アポではなくカルテの記録から拾われていました=日常のリコールで見つかっていた。バイトウイングを撮る意味がここにあります
- この数字は「条件のいい患者」の数字。う蝕活動性が高い患者、清掃状態の悪い患者では、二次う蝕が失敗の4割を占めるという構造上、生存率は下がると考えられます(本研究に高リスク集団のデータは含まれていません)
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
鋳造ゴールドインレー・アンレーの累積生存率は10年96.1%・20年87.0%・30年73.5%。失敗42件の内訳は二次う蝕17件(40%)と脱離13件(30%)で、この2つで71%。つまりゴールドは「材料が割れて」負けたのではなく、辺縁からの再発と、合着の失敗で負けている。そして失活歯に入れた装置の失敗率は41.4%で、生活歯の10.9%に対しリスク比 約3.8(本文の実数から計算・Cox回帰で P=0.0048)。著者自身が「接着性セメントを使えば、この数字はさらに改善しうる」と結んでいる。全例が非接着性セメント(296装置がリン酸亜鉛)だったことを忘れずに読みたい。


