1問1答 論文 虫歯

唾液検査は、1,763人の実地でう蝕を言い当てられなかった

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|唾液検査・う蝕リスク評価・診療室基盤研究

唾液の流量、安静時pH、緩衝能、粘稠度。う蝕リスク評価の教科書に必ず載る4つの指標を、63の一般歯科診療室・1,763人という規模で、過去2年のう蝕経験と突き合わせた研究があります。結果は控えめでした。関連が出たのは安静時pHの低下(率比1.6)と、65歳以上の刺激時流量の低下(率比2.4)だけ。しかも緩衝能が低い児童・思春期(9〜17歳)では、う蝕がむしろ少なかったのです。著者らは「現実の診療でう蝕リスク判定に使うことを支持しない」と明記しています。

論文
Salivary Characteristics and Dental Caries: Evidence from General Dental Practices
著者
Cunha-Cruz J, Scott J, Rothen M, Mancl L, Lawhorn T, Brossel K, Berg J(ワシントン大学ほか/Northwest PRECEDENT)
掲載
Journal of the American Dental Association 2013;144(5):e31-e40
種類
診療室基盤研究ネットワークによる横断研究(進行中の縦断研究のベースライン評価)。登録1,763人・解析1,387人
主題
唾液の性状(流量・pH・緩衝能・粘稠度)と、過去24か月の象牙質う蝕経験との関連

研究室で通用したものが、診療室でも通用するとは限らない

唾液の流量が少ないとう蝕が増える。緩衝能が低いと酸が中和されずう蝕が増える。教科書に書かれ、私たちが患者さんに説明してきた理屈です。

この研究が面白いのは、その理屈を大学の研究室ではなく、63の一般歯科診療室で、歯科医師とスタッフ自身が測って確かめたことにあります。米国北西部の診療室基盤研究ネットワーク(Northwest PRECEDENT)による、系統的無作為抽出の1,763人が登録され、そのうち解析対象となったのは1,387人です(唾液に影響する疾患19人、通院24か月未満357人を除外)。日常の診療の中で集められたデータです。

先に結論: 4つの唾液指標のうち、う蝕の多さと素直に結びついたのは「安静時pHの低下」と「高齢者の刺激時流量の低下」だけでした。残りは、関連が無いか、あるいは予想と逆向きでした。

1.0の線をまたいだのは、4つだけ

0 1 2 3 調整後の率比(1.0が基準) 1.6 2.4 0.3 0.6 安静時pH≦6.0(全体) 刺激時流量≦0.6(65歳以上) 緩衝能0〜3点(9〜17歳) 粘稠度が高い(成人) 1.0より上=う蝕が多い/下=う蝕が少ない。橙は増加、ティールは減少(従来の予想と逆向き)。年齢群は児童・思春期9〜17歳/成人18〜64歳/高齢者65歳以上の3つ
唾液の性状と、過去24か月の象牙質う蝕との調整後の率比(1.0が基準)

統計的に有意だった関連を並べます。

  • 安静時pH ≦6.0(全体):率比 1.6(95%CI 1.1–2.2)
  • 刺激時唾液流量 ≦0.6 mL/分(65歳以上):率比 2.4(95%CI 1.5–3.8)
  • 緩衝能が低い(0〜3点)・児童および思春期(9〜17歳):率比 0.3(95%CI 0.1–0.7、P<.01)
  • 粘稠度が高い・粘つく・泡状(成人18〜64歳):率比 0.6(95%CI 0.4–1.0、P<.05)

原著の年齢群は児童・思春期(9〜17歳)/成人(18〜64歳)/高齢者(65歳以上)の3つです。抄録は「それ以外の唾液指標は、全体でも各年齢群でも統計的に有意ではなかった」としています。

緩衝能が低いほうが、う蝕は少なかった

ここが本稿のいちばんの見どころです。緩衝能が低い児童・思春期(9〜17歳)のほうが、う蝕が少なかった。原著の本文は「低緩衝能の児童・思春期では、平均う蝕本数が70%少なかった」と書いています。

ただし、著者らはこの推定の精度に自ら釘を刺しています。低緩衝能に該当したのは9〜17歳のうち30人(8.6%)にすぎず、「この所見は精確ではない」と限界に明記されています。緩衝能検査そのものの再現性の低さにも触れられています。

成人の粘稠度も同じ向きでした。粘つく唾液・泡状の唾液は、う蝕が増える方向のはずが、率比0.6——減る方向に出ています。

著者らはこの矛盾を説明していません。論文は「相反する結果を理解するために、この集団でのさらなる検討が必要である」と書いて、そこで止めています。説明できないことを、説明できないまま報告した——研究として、これは誠実な態度だと思います。

読み方の注意: これは横断研究です。測ったのは「今の唾液」と「過去2年のう蝕」。因果の向きは、この設計からは決められません。唾液が悪いからう蝕になったのか、う蝕の治療を受けた結果として何かが変わったのか——区別できないのです。

それでも、高齢者の流量は見る価値がある

この研究のなかで、唯一しっかり残った所見が65歳以上の刺激時唾液流量です。0.6 mL/分以下で率比2.4(95%CI 1.5–3.8)。信頼区間の下限が1.5ですから、偶然では説明しにくい。

高齢者の口腔乾燥は、服薬・全身疾患・唾液腺の加齢変化が重なって起こります。ここは「唾液検査」というより問診と観察の領域——服薬歴を確認し、口腔乾燥の訴えを拾い、必要なら流量を測る。少なくともこの年齢層では、関連が最も一貫していました(ただし原著自身は、唾液検査をう蝕リスク判定に用いることを支持していません)。

明日の臨床へ

  • 唾液検査の数値だけでリコール間隔を決めない。この研究は、その使い方を支持していません
  • 65歳以上では、刺激時流量と服薬歴を確認する。ここだけは一貫した関連がありました
  • 緩衝能の低値を、それだけで「危険信号」として患者さんに伝えない

唾液検査を捨てる必要はありません。前稿(Guo 2013)は、唾液の細菌検査が「低リスクを裏づける」方向に強みを持つと整理していました。ただし「この人はう蝕になる」と言い当てる道具としては、実地のデータが支えてくれない——それがこの1,387人の答えでした。

ここだけ、冷静に補助線横断研究であり、見ているのは「過去2年のう蝕経験」との関連です。唾液の測定は各診療室で行われたため、測定条件を完全には揃えられません(それこそが「実地のデータ」である証でもあります)。3つの年齢群で一貫した傾向が得られなかったこと自体、この分野の難しさを表しています。なお本研究の指標は計数モデル(log-linear GEE)から出た率比で、オッズ比は使われていません。原著は本文で、平均う蝕本数の増減として安静時pH低値で60%増、高齢者の低流量で140%増、成人の粘稠度で40%減、児童・思春期の低緩衝能で70%減とも書いています。唾液という窓は確かに存在する。ただし、そこから見える景色はまだぼやけている——続報を待ちたいところです。

今日のひとこと

唾液検査は、研究施設を出て一般診療室に置かれると、期待されたほどの働きをしなかった。登録1,763人・解析1,387人で有意な関連が出たのは4つだけ——安静時pH≦6.0で率比1.6(95%CI 1.1–2.2)65歳以上で刺激時流量≦0.6 mL/分なら率比2.4(95%CI 1.5–3.8)、そして成人で粘稠度が高いと率比0.6(95%CI 0.4–1.0)=う蝕は少なかった。さらに驚くのは緩衝能で、児童・思春期(9〜17歳)で率比0.3(95%CI 0.1–0.7)=平均う蝕本数が70%少なかった——緩衝能が低いほうが、う蝕が少なかったのです(ただし低緩衝能に該当したのは30人=8.6%で、著者らは「精確ではない」と断っています)。従来の予想と逆向きのこの結果を、著者ら自身も説明できていません。「唾液検査の結果は、実際の臨床でう蝕リスクを判定する用途を支持しない」——結論はここまではっきりしています。ただし65歳以上の刺激時流量だけは一貫して強い関連を示したことは、覚えておく価値があります。

出典:Cunha-Cruz J, Scott J, Rothen M, et al. Salivary characteristics and dental caries: evidence from general dental practices. J Am Dent Assoc 2013;144(5):e31-e40. PMID: 23633704
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。