エンド|同じNiTiファイルでも「往復(レシプロケーティング)運動」と「連続回転」で何が変わるのか。①繰り返し曲げによる疲労破折への強さ(周期疲労抵抗)②根管の偏位(トランスポーテーション)③根尖からの削片押し出し ④象牙質のクラック——の4点について、両方の動きを比べた実験室研究を集めて整理したシステマティックレビュー(Ahn 2016・Journal of Endodontics)
WaveOneやReciprocのような1本で仕上げるレシプロと、何本かを順に使う連続回転。どちらを選ぶかは、ファイルの好みやコストで決まることも多いと思います。著者らは、両方の動きを1つの研究の中で比べた実験室研究をMEDLINE・Cochraneと手検索で集め(2015年7月まで・英語論文)、4つの論点ごとに結果を数え上げました。周期疲労の12件のうち11件でレシプロが有利(残る1件は有意差なし)。一方、根管の偏位は19件中9件がレシプロ有利・7件が差なし・3件が不利、根尖からの削片押し出しは14件で4件・6件・4件、象牙質のクラックは13件で6件・5件・2件と割れました。結論は「折れにくさではレシプロに分がある。残りの3点はまだ議論が続いている」。集めたのはすべて実験室の研究で、患者さんでの成績を比べたものではありません。
①レシプロにするか、連続回転のままか
NiTiファイルを入れ替えるとき、WaveOneやReciprocのような「1本で仕上げるレシプロ」にするか、何本かを順に使う連続回転のままにするか——迷ったことのある先生は多いと思います。
レシプロは「折れにくい」とよく言われます。では、根管の形は?根尖から押し出す削片は?象牙質のクラックは?「折れにくい」以外の点でも本当に上なのか。
このレビューは、両方の動きを1つの研究の中で比べた実験室研究を集め、4つの論点ごとに「どちらが有利だったか」を数え上げたものです。結論を先に言うと、折れにくさ(周期疲労への強さ)ははっきりレシプロ優位。残りの3点は結果が割れていて、まだ決着がついていません。
②なぜレシプロが登場したのか——期待と心配
NiTiの回転切削器具は1988年に登場し、しなやかさと切削力で、ステンレスのファイルより元の根管の形を保ちやすくなりました。2008年には、ProTaper F2を1本だけ、往復運動で使って根管を仕上げる方法が提案されます。狙いは、作業時間・コスト・交差汚染のリスクを減らし、形成を安全にすることでした。
・折れにくい:回転の向きを周期的に逆転させることで、ファイルにかかるねじれの負担が減ると考えられた
・元の根管の形を保つ:曲がった根管で形を崩しにくいバランスドフォース法の発展形とされた
・削片の押し出しが減る:使うファイルの本数が減るぶん、根尖から押し出す削片が減り、術後の痛み(症状のある根尖性歯周炎)も減るのでは、という見方
一方で心配もありました。1本で最後まで削るぶん、多本数で段階的に削るより象牙質に大きな負担がかかるのではないか。実際、1本で仕上げるレシプロのほうが象牙質の欠損が増えた、という報告も出ていました。期待と心配が入り混じったまま、評価が定まっていなかった——これがこのレビューの出発点です。
③今回の一手:同じ研究の中で両方の動きを比べた実験室研究だけを集める
・評価した4つの論点:①周期疲労への強さ(繰り返し曲げで折れるまでの時間や回転数)②根管の偏位(トランスポーテーション)③根尖からの削片押し出し ④象牙質の欠損・クラック
・探し方:MEDLINE(1966〜2015年7月・英語論文)、Cochrane、学術誌・参考文献の手検索
・採用数:周期疲労12件・根管の偏位19件・削片押し出し14件・象牙質のクラック13件。削片押し出しの1件は別の総説で、それ以外はすべて実験室の研究
・まとめ方:各研究の結果を「レシプロ有利/有意差なし/連続回転有利」に振り分けて数えた。数値を1つに統合するメタアナリシスは行っていない
ポイントは、「同じ研究の中で両方を比べたもの」に絞ったことです。別々の研究の数字を並べると、根管の模型や測り方の違いが混ざってしまうからです。
④結果①:4つの論点を並べると、はっきりしているのは「折れにくさ」だけ
周期疲労は12件中11件でレシプロが有利、残る1件も有意差なしでした。これに対して根管の偏位は19件中9件・7件・3件、削片押し出しは14件中4件・6件・4件、象牙質のクラックは13件中6件・5件・2件。周期疲労以外は、「レシプロ有利」がいちばん多い論点でも、差なしや逆の結果が同じくらい並んでいます。
⑤結果②:周期疲労——同じファイルで動きだけ変えても、レシプロが折れにくい
周期疲労の研究はすべて人工根管(曲率45°や60°など)で行われ、動き以外の条件をそろえやすい設計でした。著者らはこれを2つに分けて見ています。
・各ファイルをメーカー推奨の動きで使った研究(5件):4件で、ReciprocやWaveOneをレシプロで使ったほうが連続回転のファイルより折れにくかった。残る1件では、Reciprocと連続回転のMtwo・Twisted Fileに有意差はなく、WaveOneは有意に折れやすかった。著者らはこれを、WaveOneの断面積が大きい設計のためと説明している
※8件+5件で13件になりますが、Pedullàらの1件は両方の見方に含まれているため、周期疲労の研究は全12件です
動きだけを変えた比較でもレシプロが有利だったことから、著者らは「動きそのものが周期疲労に影響し、レシプロのほうが強い」と結論しています。ただし、ファイルの設計によってはレシプロ専用品でも差が出ない・逆転することがある点は、上の例外が示しています。
⑥結果③:根管の偏位——模型ではレシプロ有利、抜去歯では差なしが多い
樹脂の根管模型を使った5件では、5件ともレシプロで偏位が少なかった。ところが抜去したヒトの歯を使った14件では、レシプロで少ない4件・有意差なし7件・連続回転で少ない3件と、結果がばらけました。
著者らの説明はこうです。樹脂の模型は、本物の根管の不規則な形を再現できない。本物の歯では、1本で仕上げるレシプロより、ファイルを段階的に使う連続回転のほうが根管の中心を保ちやすい場面があるのかもしれない、と。
⑦結果④:削片の押し出しとクラックは、結果が割れたまま
根尖からの削片押し出し(14件)は、レシプロで多い4件・連続回転で多い4件・有意差なし6件。根尖から押し出される削片には象牙質・壊死した歯髄・細菌が含まれ、歯根膜の炎症の主な原因とされています。
・レシプロで増える方向:往復運動の中の「切削しない向き」への回転が、削片を押し出すおそれがある
・レシプロで減る方向:使うファイルの本数が少ないぶん、押し出しが減る可能性がある
・連続回転で減る方向:連続回転は「スクリューコンベア」のように削片を歯冠側へ運び出す
同じファイルを両方の動きで比べた2件でさえ、Reciprocを使った研究では連続回転で多く、Twisted Fileを使った研究ではレシプロで多いと、正反対でした。
著者らの総括は「レシプロのほうが削片をやや多く押し出す傾向はあるが、結果が食い違っていて、さらに研究が必要」。実験室では根尖周囲の組織がなく、本来なら組織が押し返して押し出しを抑えるはずの条件が再現されていない、という点も指摘しています。
象牙質のクラック(13件)は、レシプロで少ない6件・有意差なし5件・レシプロで多い2件。回転の向きを周期的に逆転させることで象牙質にかかる力が減る、という説明がある一方、クラックのできやすさにはファイルの断面・サイズ・テーパー・製法・素材も関わり、素材の影響は動きより大きいとする研究もあります。さらに、見つかった微小クラックがすべて歯根破折につながるかどうかは分かっていない——著者らは、根管治療の失敗のうち歯根破折による割合は低いと報告されていること、歯根破折には外傷・咬合力・歯ぎしりなどの癖・吸収・根管充填やポスト形成など多くの要因が絡むことも挙げています。
⑧なぜ「折れにくさ」だけがはっきりしたのか
周期疲労の試験は、人工根管の中でファイルを回し続け、折れるまでを測るという条件のそろえやすい実験です。しかも同じファイルで動きだけを変えた研究が8件あり、「動きの違い」を取り出して比べられました。
一方、根管の偏位・削片・クラックは、歯の形・根管の曲がり方・洗浄液の量・観察の方法などの条件が研究ごとに違い、比べているファイルの設計や合金も揃っていません。著者らは、研究どうしの食い違いはこうしたファイルの特性の違いによるものと考え、動きの影響だけを見るには、両方の動きに使える標準化したファイルで比べる必要があるとしています。
⑨明日の臨床へ
・ただしレシプロ専用品でも設計しだい。メーカー推奨の動きで比べた研究では、WaveOneが連続回転のファイルより折れやすかった例もある
・根管の形を保つ力は、どちらでも大差なし。抜去歯では差なしが最多で、偏位はどの研究でも0.3mmを下回っていた
・削片の押し出しは、著者らは「レシプロでやや多い傾向」と総括しつつ、結果の食い違いを理由に結論を保留している
・クラックも結果が割れていて、「レシプロにすれば減る/増える」とは言えない。ファイルの形や素材の違いも関わる
・慣れた連続回転のシステムを、形成の質だけを理由に急いで替える根拠は、このレビューからは出てこない
なお、このレビューが見たのは曲げの繰り返しで折れる「周期疲労」です。根管に食い込んでねじ切れる破折(ねじれ破折)や、患者さんでの破折率は評価の対象に入っていません。
⑩ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
レシプロと連続回転を比べた実験室研究では、周期疲労(繰り返し曲げによる破折)への強さは12件中11件でレシプロが有利でした。根管の偏位は、樹脂の模型5件ではすべてレシプロで少なかったものの、抜去歯14件では差なしが7件と多く、しかもどの研究でも偏位は封鎖に影響するとされる0.3mmを下回っていました。根尖からの削片押し出し(4件・6件・4件)と象牙質のクラック(6件・5件・2件)は結果が割れたままです。削片について著者らは「レシプロでやや多い傾向」と総括しつつ、結果の食い違いを理由に結論を保留しています。「折れにくさ」を重く見るならレシプロに分がある。ただし形成の質・術後の痛みとの関係が指摘される削片・クラックでは、どちらかが明らかに優れるとは言えない——これがこのレビューの持ち帰りです。集めたのはすべて実験室の研究で、ファイルの形や合金の違いも結果に混ざっています。


