1問1答 論文 虫歯

2歳でミュータンス菌がいた5人が、集団の虫歯の6割を引き受けた——2歳から4歳までの追跡

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|ミュータンス菌の定着時期・乳前歯のプラーク・う蝕リスク

「早く菌が住みつくと虫歯が多くなる」。この言い方の出どころのひとつが、この論文です。ヘルシンキ大学のAlaluusuaとRenkonenが、2歳の子ども39人を4歳まで年1回追いかけ、乳前歯のプラークからミュータンス菌を採り続けました。結果はきれいに分かれます——ただし、5人と26人を比べた話であることは、忘れずに持っておく必要があります。

論文
Streptococcus mutans establishment and dental caries experience in children from 2 to 4 years old
著者
Alaluusua S, Renkonen OV
掲載
Scand J Dent Res. 1983;91(6):453-457
種類
縦断観察研究(ヘルシンキ近郊・39名を2歳から4歳まで年1回・24か月)
PMID
6581521

「早く菌が住みつくと、虫歯が多くなる」の出どころ

2歳児健診で、私たちはよくこう言います——「今の時期に菌が定着すると、あとが大変になります」

この言い方には出どころがあります。1983年、ヘルシンキ大学のAlaluusuaとRenkonenが、2歳の子どもを4歳まで年1回追いかけ、乳前歯のプラークからミュータンス菌を採り続けた研究です。

当時わかっていなかったのは、「いつ定着したか」が結果を分けるのかどうかでした。年長児や大人では「菌がいる=リスクが高い」ことが示されていましたが、乳幼児の口の中の細菌叢は年長児とはかなり違うため、その指標をそのまま持ち込めるとは限らなかったのです。

先に結論: 2歳の時点でミュータンス菌がいた5人は、4歳でdfs 10.6±5.3。2〜4歳の間に定着した8人3.4±1.8(p<0.005)、最後まで検出されなかった26人0.3±1.1(p<0.0003)。この5人が、集団全体のう蝕病変の約6割を占めていた

唾液も採ったが、決め手は乳前歯のプラークだった

  • 対象:ヘルシンキ郊外の2つの地区から、社会経済的に多様な集団を選び45名を登録。開始時生後23〜25か月。転居や疾病により39名で解析
  • 追跡12か月間隔で3回(計24か月)。2歳・3歳・4歳の3時点
  • 採取部位上顎乳前歯の唇側隣接面のプラークと、第二乳臼歯の咬合面小窩裂溝のプラーク。2歳時点では第二乳臼歯がまだ萌出していないため、前歯のプラークのみ。同時に非刺激全唾液も採取
  • 培養:MS寒天とMSFA寒天。コロニーはSHKLAIR & KEENEの生化学的分類で同定し、総ストレプトコッカスに占める割合(%)として数えた
  • う蝕診断:ミラーと探針。エックス線写真は撮っていない。臼歯は裂溝の探針の引っかかり、前歯は象牙質う蝕が見えるもの

プラークと唾液の両方を採ったうえで、指標になったのはプラークのほうでした。理由は後で効いてきます。

定着した時期で、2年後がきれいに分かれた

0 4 8 12 4歳時点のdfs(う蝕+充填の歯面数) 10.6 3.4 0.3 2歳前に定着 (5名) 2〜4歳に定着 (8名) 検出されず (26名) 平均±SDは 10.6±5.3/3.4±1.8/0.3±1.1。4歳時点で 1群 対 2群 p<0.005、1群 対 3群 p<0.0003
4歳時点のdfs(う蝕+充填の歯面数)。定着した時期によって3群に分けている

研究期間中にミュータンス菌が検出されたのは39人中15人(38%)(※原著は本文で15人、Table 2の群分けでは13人=5+8と、記載が一致していません)。時点別では2歳で5人(13%)、3歳で12人(31%)、4歳で13人(33%)でした。

集団全体のう蝕は2歳でdfs 0.05±0.3(う蝕のある子1人)→ 3歳で1.0±2.5(9人)→ 4歳で2.3±4.0(16人)と増えていきます。39人中23人は4歳まで無う蝕でした。

0 4 8 12 dfs(う蝕+充填の歯面数)の平均 0.4 0 0 5.4 1 0.1 10.6 3.4 0.3 2歳 3歳 4歳 3群の分かれ方は2歳時点ではほとんど見えず、3歳・4歳と進むにつれて開いていく
3群のdfsの推移。2歳時点ではほとんど差が見えず、3歳・4歳と進むにつれて開いていく

そして定着時期で分けると、こうなります。

  • 2歳より前に定着(5名):2歳 0.4±0.9 → 3歳 5.4±4.2 → 4歳 10.6±5.3
  • 2〜4歳の間に定着(8名):0 → 1.0±2.1 → 3.4±1.8
  • 最後まで検出されず(26名):0 → 0.1±0.4 → 0.3±1.1

4歳時点で、1群 対 2群 が p<0.0051群 対 3群 が p<0.0003

もう一つの数字が印象的です。この5人だけで、集団全体のう蝕病変の約60%を占めていました。残りの34人が40%です。病変の内訳を見ると、5人が4歳までに経験した53病変は小窩裂溝16・隣接面28・平滑面9。34人の36病変は小窩裂溝13・隣接面19・平滑面4——どちらの群でも隣接面が最も多いのは、乳歯列を見るうえで押さえておきたいところです。

唾液では、まだ拾えなかった

この論文のもう一つの発見は、唾液が使えなかったことです。

  • プラーク検体189のうち、ミュータンス菌が分離できたのは41検体。うち11検体では総ストレプトコッカスの50〜100%を占めていた
  • 一方唾液検体113のうち、検出できたのはわずか8検体。しかもそのうち7検体では割合が1%未満

年長児や大人では、刺激唾液中のミュータンス菌がリスクの指標として使えます。しかし幼児から刺激唾液を採るのは難しく、この研究の非刺激唾液では菌量が低く、必ずしもリスクを反映しませんでした(ただし著者らは「高度に感染した児では唾液からも検出される傾向はあった」とも書いています)。著者らの言い方は控えめです——「幼児では、唾液よりプラークを評価するほうが実際的で信頼できそうだ」

なお、分離された52株はすべてc/e/f血清型群に属していました。

明日の臨床へ

  • 2歳という時期を、ただの節目にしない。この研究では2歳での定着の有無が、4歳の姿を大きく分けました
  • ただし著者ら自身が、条件を付けてこう書いています——「哺乳瓶う蝕を含む、よりう蝕活動性の高い集団では2歳では遅く、最初の評価を1歳か1歳半に置くべきかもしれない」と。日本の1歳半健診の位置づけを考えるうえで、この一文は重い
  • 乳歯列では隣接面が多い——両群とも隣接面が最多でした。前歯部の唇側だけを見て「きれいですね」と言わない
  • ハイリスクは集中する。39人中5人が病変の6割。限られた予防の資源をどこへ置くかという問いに、この分布はそのまま答えています
ここだけ、冷静に補助線5名 対 8名 対 26名という、非常に小さな群での比較です。4歳のdfs 10.6±5.3という標準偏差の大きさが、そのばらつきを物語っています。エックス線写真を撮っていないので、とくに隣接面のう蝕は過小に数えられている可能性があります(それでも隣接面が最多だった、という読み方もできます)。採取は年1回と間隔が長く、著者ら自身、「う蝕の進行につれてミュータンス菌の割合が増えるという既報を、今回は確認できなかった」と書いています。またこれは観察研究であって介入研究ではありません——菌の定着を遅らせれば結果が変わるかどうかは、この研究からは言えません。さらに1983年当時と現在では、フッ化物の普及も食生活も違います。「2歳で菌がいる子はハイリスクとして扱う」という運用上の指標としては今も生きていますが、「菌を移さなければう蝕は防げる」という因果の主張には、この論文は届いていません

今日のひとこと

2歳の時点で乳前歯のプラークにミュータンス菌がいた5人は、4歳でdfs 10.6±5.3。2〜4歳の間に定着した8人は3.4±1.8(p<0.005)、最後まで検出されなかった26人は0.3±1.1(p<0.0003)。この5人が、集団全体のう蝕病変の約6割を占めていた。

Alaluusua S, Renkonen OV. Streptococcus mutans establishment and dental caries experience in children from 2 to 4 years old. Scand J Dent Res. 1983;91(6):453-457. PMID: 6581521
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。