1問1答 論文 虫歯

唾液検査で、ガムを噛む前を測っていますか──安静時唾液が根面の脱灰のばらつきを説明した

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|う蝕の病因(唾液)

唾液検査ではたいていガムを噛んでもらいます。刺激時唾液のほうが測りやすいからです。では安静時唾液——何もせずに流れている唾液——を測ったことは、どれくらいあるでしょうか。25人の義歯に根面の試料を埋めて62日間過ごしてもらったこの研究は、安静時唾液分泌速度だけで、根面病変の表層ミネラル含有量のばらつきの45%が説明できることを示しました。しかもその関係は、刺激時唾液より一貫して強いものでした。

論文
Effect of Unstimulated Saliva Flow Rate on Experimental Root Caries
著者
Bardow A, ten Cate JM, Nauntofte B, Nyvad B
掲載
Caries Research 2003;37(3):232-236(Short Communication)
種類
in situ研究(義歯に根面試料を装着して62日間・フッ化物なし)
対象
下顎に部分床義歯を装着した25人(男性8・女性17、平均67.3±9.4歳)

唾液検査で、あなたはどちらを測っているか

唾液検査をするとき、たいていはガムを噛んでもらいます。刺激時唾液のほうが、量も測りやすく、緩衝能も見やすいからです。

では安静時唾液——何もせずに、ただ流れている唾液——を測ったことは、どれくらいあるでしょうか。

2003年の Caries Research に載ったこの短報は、安静時唾液分泌速度が、根面の脱灰の深さと量をどれだけ説明するかを、人の口の中で実際に測った研究です。

先に結論: 安静時唾液分泌速度だけで、根面病変の表層ミネラル量の45%が説明できました(調整R²=0.45・p<0.001)。しかも、この関係は刺激時唾液より一貫して強かった。そして低分泌の領域ほど、悪化の傾きが急になっていました。

本当は縦断研究をしたい。しかし、できない

唾液分泌の低下や口渇感は、人口の10%以上に見られると報告されています。高齢者ではもっと高い。原因は服薬、シェーグレン症候群などの慢性疾患、頭頸部への放射線治療です。

こうした人たちに重篤なう蝕が起きることは、臨床では周知の事実でした。しかし「唾液が少ないほど、どれくらい病変が深くなるのか」を数値で示すのは難しかった

理由は倫理です。唾液分泌が低い人を、予防処置をせずに何年も追いかけるわけにはいきません。著者らはこう書いています——だからこそin situ研究(口の中に試料を入れて観察する設計)が有用な代替になる、と。

義歯に、歯の欠片を埋めて62日

設計はこうです。

  • 対象は25人(男性8人・女性17人、平均67.3±9.4歳)。全員が下顎に部分床義歯を装着しており、登録時点で活動性う蝕はなし
  • 外科的に摘出した未萌出の下顎第三大臼歯から、セメント-エナメル境に隣接する根面を5×5×3mmの角片に切り出す
  • これをコンポジットで囲い、義歯の頬側フランジの窪みに装着。昼夜つけたまま62日間過ごしてもらう
  • 試料は磨かない。天然歯はフッ化物無配合の歯磨剤で清掃する(=フッ化物の影響を排除する)
  • 62日後に取り出し、マイクロラジオグラフィでミネラル喪失量・病変深さ・表層と体部のミネラル含有量を測る

安静時唾液分泌速度は0〜0.65 ml/minのあいだにほぼ均等に分布していました。ばらつきの原因は服薬の違いと、もともとの個人差です。

この設計の巧いところ: 全員が同じ形・同じ由来の根面試料を、同じ期間フッ化物なしで口に入れています。ふつうの臨床研究なら「歯の部位も、清掃状態も、フッ化物曝露もバラバラ」で埋もれてしまう唾液の効果が、ここでは裸で見えるわけです。

唾液の量だけで、表層ミネラル量のばらつきの45%が読めた

0 0.2 0.4 0.6 調整済みR二乗(説明できた分散) 0.22 0.29 0.32 0.43 0.45 0.52 ミネラル喪失 病変深さ 表層のミネラル量 濃い棒=安静時唾液分泌速度のみのモデル/淡い棒=性別とMFSスコアを加えたモデル。病変体部のミネラル量だけは、重回帰では有意な効果が出なかった
重回帰分析で説明できた分散(調整R²)。濃い棒=安静時唾液分泌速度のみのモデル、淡い棒=性別と過去のう蝕経験(MFSスコア)を加えたモデル

結果はこうでした。

  • ミネラル喪失量:調整R²=0.22(p<0.05)→ 性別とMFSスコアを加えて0.29
  • 病変深さ:調整R²=0.32(p<0.01)→ 加えて0.43
  • 表層のミネラル含有量:調整R²=0.45(p<0.001)→ 加えて0.52
  • 病変体部のミネラル含有量:重回帰では有意な効果が出なかった(ただし順位相関では0.50・p<0.05で有意)

唾液の分泌量というたった1つの変数で、表層ミネラル含有量のばらつきの45%が説明できたことになります(R²が説明するのは量そのものではなく分散です)。性別と過去のう蝕経験を足すと半分を超えました。

一方で、糖の摂取回数と年齢を加えても、説明力はほとんど上がりませんでした。この集団では、それらより唾液のほうが効いていたということです。

安静時のほうが、刺激時より強く効いていた

0 0.3 0.5 0.8 順位相関係数の絶対値 0.66 0.51 0.69 0.47 0.72 0.52 ミネラル喪失 病変深さ 表層のミネラル量 Spearmanの順位相関。符号は省いて絶対値で並べた(ミネラル喪失・病変深さは負、表層ミネラル量は正の相関)。濃い棒=安静時/淡い棒=刺激時。病変体部のミネラル量も安静時0.50・刺激時0.38で、同じ向きの差がある
Spearmanの順位相関係数の絶対値。濃い棒=安静時唾液分泌速度、淡い棒=刺激時唾液分泌速度。実際の符号は、ミネラル喪失・病変深さが負、表層ミネラル量が正

ここが臨床的にいちばん効く所見です。

相関行列を見ると、すべての脱灰指標について、安静時唾液分泌速度との相関が最も強いのです。

  • ミネラル喪失:安静時 −0.66(p<0.001) 対 刺激時 −0.51(p<0.05)
  • 病変深さ:安静時 −0.69(p<0.001) 対 刺激時 −0.47(p<0.05)
  • 表層のミネラル量:安静時 0.72(p<0.001) 対 刺激時 0.52(p<0.01)

緩衝能(安静時・刺激時)や重炭酸イオン濃度も脱灰と相関していましたが、いずれも安静時唾液分泌速度との相関のほうが強く、著者らは「唾液のの重要性について推論するには慎重であるべき」と釘を刺しています。多重共線性が高いためです。

そしてもう一点。著者らは、低い分泌速度の領域ほど効果がはっきりする=非線形の関係を示唆すると述べています。ただし同時に、図に見える「頭打ちの折れ点」は二次曲線を当てはめたことによる見かけ上のものだとも明記しています。「少ないほど不利」の向きは確かですが、どこかに閾値があるとまでは読めません。

性別と、過去のう蝕経験も効いていた

モデルに変数を足していくと、2つの因子が浮かびました。

  • 女性は、男性よりミネラル喪失量と病変深さが大きく、表層ミネラル量が低かった。著者らは「理由は推測の域を出ない」としつつ、女性は一般に安静時唾液分泌速度が低いことを挙げています
  • MFSスコア(過去の欠損歯面・充填歯面)が高い人ほど、同じく脱灰が大きかった

著者らの提言は明快です。「成人でう蝕予防法を検討する実験研究は、安静時唾液分泌速度・性別・過去のう蝕経験の3つで層別化すべきである」——交絡を避けるために。

明日の診療で、何を1つ変えるか

唾液検査で「ガムを噛む前」を測る: 刺激時唾液は測りやすいですが、この研究では安静時のほうが脱灰と強く結びついていました。何もせずに出る唾液を溜めてもらう工程を1つ足す——それだけで、根面う蝕リスクの見立てが変わる可能性があります。

具体的には、こう使えます。

  • 服薬が多い高齢者、部分床義歯の患者さんで、まず安静時唾液を測る。この研究の対象そのものです
  • 安静時分泌が低い側の人ほど不利になる。同じ「少ない」でも、その中での高低に意味があると考える(著者らの先行研究では0.16 ml/min以下の群でミネラル喪失が大きかった)
  • この研究の病変はフッ化物なしで62日——2か月で測れるほどの速さで進んでいます
  • この研究では糖の摂取回数を加えても説明力が上がりませんでした。ただし25人の重回帰で有意にならなかっただけであり、糖の指導が要らないという意味ではありません(そもそもフッ化物も清掃も、この設計では意図的に排除されています)

ここだけ、冷静に補助線

きれいな所見です。ただし読み方に3つ注意: まず25人のin situ研究であり、生体の根面う蝕そのものではありません(試料は磨かず、フッ化物も当てていない=実際の口腔内より不利な条件)。次に、被験者は唾液分泌速度をもとに部分的にリクルートされているため、著者ら自身が「この相関係数を他の集団にそのまま当てはめることはできない」と明記しています。最後に、唾液の各指標どうしの相関が強く(多重共線性)、「緩衝能が効いた」「重炭酸が効いた」と個別に言い切れない。それでも、倫理的に縦断研究ができない領域で、量的な関係を初めて示したという価値は大きく、「唾液が少ない人ほど根面が危ない」という臨床の実感に、数字の裏づけを与えてくれる研究だと感じます。

今日のひとこと

唾液分泌が低い人を予防処置なしで何年も追う縦断研究は倫理的に行えない。そこで著者らは義歯の頬側フランジに未萌出第三大臼歯由来の根面試料を埋め込み、62日間フッ化物なしで過ごしてもらうin situ設計を用いた。安静時唾液分泌速度は0〜0.65 ml/minにほぼ均等に分布。結果、安静時唾液分泌速度だけで、ミネラル喪失量のばらつきの22%(p<0.05)、病変深さの32%(p<0.01)、表層ミネラル含有量の45%(p<0.001)が説明できた。性別と過去のう蝕経験(MFSスコア)を加えると、それぞれ29%・43%・52%まで上がる。一方糖の摂取回数と年齢を加えても説明力はほとんど上がらなかった。さらに重要なのは、すべての脱灰指標で、安静時唾液分泌速度との相関が刺激時唾液より強かったこと(ミネラル喪失 −0.66対−0.51、病変深さ −0.69対−0.47、表層ミネラル量 0.72対0.52)。著者らは低い分泌速度の領域ほど効果がはっきりする非線形の関係を示唆しつつ、図に見える折れ点は二次曲線の当てはめによる見かけ上のものだと明記している。著者らは「成人でう蝕予防法を検討する実験研究は、安静時唾液分泌速度・性別・過去のう蝕経験で層別化すべき」と述べている。ただし25人のin situ研究であり、被験者は唾液分泌速度をもとに部分的にリクルートされているため、相関係数を他集団にそのまま当てはめることはできない。

出典:Bardow A, ten Cate JM, Nauntofte B, Nyvad B. Effect of unstimulated saliva flow rate on experimental root caries. Caries Res 2003;37(3):232-236. PMID: 14758797
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。