ペリオ|歯周病の診断・予後評価
「タバコは吸っていません。加熱式に替えたので」。問診でこう答える患者さんが、ここ数年で一気に増えました。私たちはそのとき、なんと返すべきでしょう。「それなら安心ですね」でよいのか。クロアチアの研究チームが、加熱式・紙巻き・非喫煙の3群を同じ土俵で並べて、口の中を見比べました。
①「加熱式に替えたので、タバコは吸っていません」
問診票の喫煙欄に「なし」と書きながら、「加熱式には替えました」と話す患者さん。この数年で、本当に増えました。私たちもつい「紙巻きよりはいいですね」と返してしまいがちです。
加熱式タバコ(THS=tobacco heating system)は、葉を燃やさず加熱することで有害物質の発生を減らすハームリダクション(害の低減)を掲げた製品です。理屈としては、燃焼由来のタールや一酸化炭素は確かに減ります。
では口の中はどうなのか。減った有害物質のぶんだけ、粘膜も唾液も口臭もマシになっているのか。クロアチア・リエカ大学のチームが、加熱式・紙巻き・非喫煙の3群を各20人ずつ並べて、同じ検査を行いました。
②何を、どう測ったか
対象は加熱式喫煙者20人・紙巻き喫煙者20人・非喫煙者20人の計60人。全員に問診票(既往歴・喫煙習慣・口腔症状)に答えてもらい、次を実施しています。
唾液分泌量(SFR):5分間の吐唾法で安静時唾液を採取。0.1mL/分未満を唾液分泌低下(hyposalivation)と定義。
口臭:官能検査でRosenbergスケール(0=感知できない〜5=非常に強い)を判定。
粘膜所見:臨床診査で萎縮・炎症・びらん・舌苔などを記録。
カンジダ:粘膜スワブをChromagar Candidaで培養・同定。
官能検査という主観的な指標を含みますが、口臭研究では標準的な方法です。
③結果:加熱式と紙巻きが、ほとんど重なった
もっともはっきり出たのが口臭です。
非喫煙者は20人全員が口臭なし。これに対して加熱式は20人中10人、紙巻きも20人中10人に口臭が認められました。ちょうど半数ずつです。
ただし中身を見ると、強度には差の兆しがあります。加熱式はスコア1(かすかに感じる)が8人、スコア2が2人で、スコア3以上はゼロ。紙巻きはスコア1が3人、2が5人、3が2人と、強い側に寄っています。「頻度は同じ、強さは紙巻きのほうがやや上」という読み方ができます(ただし群間の有意差はつきません)。
唾液分泌量も、両方の喫煙群で非喫煙者より有意に低下していました(p<0.001、効果量ε²=0.331)。低下の程度は紙巻きのほうが大きい傾向でしたが(相関係数 r=0.690 対 0.445)、加熱式と紙巻きの間には有意差なしです。
口渇の自覚は非喫煙者1人、加熱式4人、紙巻き8人(p=0.030)。粘膜病変は3群で差がなく、カンジダは紙巻き1人に C. glabrata が検出されただけで、解析対象になりませんでした。
④なぜ「燃やしていないのに」こうなるのか
加熱式が減らせるのは、主に燃焼で生じる物質です。一方、口の中で起きていることの多くは、燃焼だけが原因ではありません。
唾液腺への影響にはニコチンそのものが関わります。加熱式もニコチンは届けるため、この経路は残ります。さらに、加熱されたエアロゾルが口腔粘膜を通過するという事実は変わらず、温度と乾燥の刺激も受け続けます。
口臭についても、唾液が減れば自浄作用が落ち、揮発性硫黄化合物は溜まりやすくなります。唾液が減る → 口臭が出るという道筋は、燃焼の有無を問わず成立してしまうのです。
⑤明日の臨床へ
1.問診の「吸っていません」を掘る。「加熱式も含めてどうですか」と一言足す。歯周治療の反応や口腔乾燥の説明に直結します。
2.「替えたから大丈夫」とは言わない。かといって全否定もしません。「燃やさないぶん減る害はありますが、唾液が減ることと口臭は、加熱式でも同じように起きていました」——これが今のところ正確な言い方です。
3.口臭を主訴に来た患者さんの背景に加熱式を疑う。本人は「タバコはやめた」と思っているので、原因候補から外れがちです。
4.最終目標は禁煙。加熱式への切り替えは、禁煙への通過点として扱うのが現実的でしょう。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
加熱式タバコ(THS)でも、唾液分泌量は非喫煙者より有意に低く、口臭は50%の人に認められました。いずれも紙巻きタバコと有意差なし=「替えても口の中の所見は変わらなかった」という結果です。各群20人のパイロット研究なので断定はできませんが、問診で「加熱式だから大丈夫」と流さない理由にはなります。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


