ペリオ|Phase4 メインテナンス
「PPDが減った」「アタッチメントが獲得できた」——治療の成功をこう語ります。しかし患者にとって、その数字は何を意味するのか。2020年、欧州歯周病学会のワークショップに向けて書かれたポジションペーパーが、この問いを正面から扱いました。
①「PPDが減りました」は、患者にとって何なのか
再評価で数字が良くなると、こちらは安心します。ポケットが4mmに収まり、BOPも下がった。治療は成功した、と。
ただ、著者らはここで立ち止まります。「エンドポイントとは、ある介入が有益かどうかを判断するために客観的に測定できるイベントまたはアウトカムである」。そして「真のエンドポイント」と「代替エンドポイント」を区別します。ポケット深さの減少と臨床的アタッチメントレベルの獲得を含む代替エンドポイントは、その治療が具体的な患者利益をもたらすという明確な証拠を与えるとは限らない。
歯周治療の専門家によるデルファイ調査では、痛みがないこと・受け入れられる審美・患者満足が、成功した歯周治療のきわめて重要なアウトカムとして挙げられました。英国の233の一般歯科診療所・14,620名を対象とした研究では、患者報告アウトカム(口腔の痛みや不快感、食事の制限、歯の見た目)が、ポケットの深さ・骨吸収・BOPの増加という悪い歯周状態と正の関連を示しています。
一方で、歯科専門職が測定する口腔の状態と、患者が判断する口腔の健康との関係は弱いことが以前から指摘されており、患者が感じる口腔の健康は従来の臨床検査では捉えられていない——これがこの論文の出発点です。
②94論文を、4つの問いで読む
著者らが立てた問いは明快です。「個々の患者について、活動期治療の終了時に記録された歯周プロービングの指標は、①臨床的アタッチメントレベルの安定 ②歯の生存 ③再治療の必要性 ④口腔健康関連QOL とどう関係するのか」。
検討したプロービング指標は、浅いポケット(4mm以下)の広がり、残存ポケット(5mm以上)、ポケット深さの変化、臨床的アタッチメントレベルの変化、そしてBOP。Ovid MEDLINEを1946年から2019年6月7日まで検索し、94論文が得られました。データは3〜12か月の短期と12か月以上の長期に層別されています。
そして、結果の大半は「見つからなかった」という報告です。
- アタッチメントの安定:この関係を調べた系統的レビューは1本のみ(Renvert & Persson 2002)。しかもその中で採択できた研究は、47の候補のうち1本(Claffey & Egelberg 1995)だけだった
- 歯の生存:同じ系統的レビューが残存ポケットとBOPで歯の生存を評価しようとしたが、該当する論文は見つからなかった
- 再治療の必要性:短期・長期のいずれの研究も、プロービング指標との関係を調べたものは現れなかった
- 口腔健康関連QOL:同じく、該当する研究は現れなかった
著者らは「臨床研究では部位レベル・歯レベルのプロービング指標が数多く示されているにもかかわらず、活動期治療の完了後にそれらを新たなベースラインとして4つの患者エンドポイントを検討した報告は、驚くほど存在しない」と書いています。
③それでも見えている、いくつかの数字
限られた研究から、次のことが言えるとされています。
アタッチメントの安定について。Claffey & Egelberg(1995)では、活動期治療から3か月後の時点で6mm以上の残存ポケットを持つ部位の患者平均割合と、その後のアタッチメントレベルの安定との間に、有意な逆相関が認められました。つまり深い残存ポケットの割合が低い患者ほど、12か月以上のフォローでアタッチメントが安定しやすい。一方、同じ研究でBOPはアタッチメントの安定と有意な関連を示しませんでした。172名の長期追跡(Matuliene 2008)も同じ方向で、6mm以上の残存ポケットの存在が、その後の歯周病進行のリスク因子でした。
歯の生存について。Matulieneらは、活動期治療の後に6mm以上の残存ポケットと全顎の出血スコア30%以上があることが、患者にとって歯の喪失のリスクを表すと同定しました。ただし、多変量回帰分析で歯の喪失と統計的に有意だった患者レベルの因子は、全顎の出血スコア30%以上・ベースラインの疾患分類・メインテナンス年数であり、5mm以上の残存ポケットの数は歯の喪失リスクと有意に関連しませんでした。6mm以上の数は有意に近い水準でした(P=0.053)。
さらに同じサンプルの別解析では、6mm以上の残存ポケットがある場合、複根歯を失うオッズが6mm未満と比べて3を超えました(P=0.0007/Salvi 2014)。
メインテナンス期の全体像も示されています。
- メインテナンスに入った患者のうち、数年のフォローで歯の喪失に至る明らかな疾患進行を示したのは5%のみ
- メインテナンス中に歯を1本も失わなかった患者の割合は、開業医ベースの研究で50〜89%、大学ベースで36〜80%
- 9.5±4.5年の長期追跡では、メインテナンス中の患者の約50%が1本も歯を失わなかった
④なぜ「浅くする」ことに意味があるのか
著者らは、この20〜25年で歯周炎の病態理解が変わったと述べます。
「歯周炎は炎症性疾患であり、人口の一部が感受性を持つ。感受性のある患者は、おそらくエピソード的に、特定の部位で一時的な疾患活動につながる異常な免疫応答を示す」。だから、ポケットの閉鎖(4mm以下)・残存ポケット(5mm以上)・ポケット深さの変化・アタッチメントレベルの変化・BOP部位の割合は、いずれも「本質的に一次元的」であり、「せいぜい軽度に有益」でしかない。
そのうえで、深い残存ポケットを減らす生物学的な根拠を説明します。「深い残存ポケットは、糖非分解性・タンパク分解性・嫌気性のパソバイオントが優勢なバイオフィルムにとって好都合なニッチを形成する。それらは宿主の免疫・炎症成分、漏出した血漿タンパク、赤血球を栄養源とする」。「治療後の深い残存ポケットにおけるこの縁下のディスバイオティックな微小世界が、すでに異常な免疫応答を示した患者を再び攻撃する」。
だから「病原微生物叢にとって不利な生態学的ニッチを作るという観点から、歯周治療とその後のメインテナンスの目標は、患者の抵抗性とレジリエンスを高く保ちながら、残存するプロービング深さを減少あるいは除去することであるべきだ」——これが著者らの到達点です。
もうひとつ、興味深い指摘があります。「歯の喪失は、臨床医の主観的な判断による抜歯を反映しており、現在のインプラント治療の人気によって選ばれやすくなっている可能性がある。抜歯は必ずしも、その歯が長期に生存できないことを意味しない」。「歯周的に問題があってもよく管理された歯は、インプラントより長持ちし、しかも安価である」というエビデンスがあるにもかかわらず、であると付言しています。
⑤明日の臨床へ
第一に、再評価の目標値を明確に持つ。著者らが引くのは、出血部位15%以下・PPD 4mm以下・排膿なし(Sanz 2015、Tonetti 2017)。「浅く、出血しないポケットを達成することが、歯周アタッチメントの安定の最も高い可能性と、歯の喪失の最も低いリスクをもたらす」——研究基盤は量・強度ともに限られているが、ガイドライン作成者への最も妥当な推奨はこれだ、と述べています。
第二に、患者に伝える言葉を、数字から生活へ翻訳する。患者にとってのアウトカムは、歯が残ること・再治療が要らないこと・QOLが保たれること。ポケットの数字はそこへの道標であって、目的地ではありません。
第三に、リスク評価ツールを使う。著者らは、現代の予防実践は妥当性が検証されたリスク評価ツールを用いて個人のリスクを同定することに焦点を当てるべきだと引用し、系統的レビューでこれらのツールが歯周炎の進行と治療後の歯の喪失を異なる確率で予測できる個人を同定できると結論されたことを紹介しています。
今日のひとこと
著者らは「真のエンドポイント」と「代替エンドポイント」を区別する。PPDの減少やアタッチメントの獲得は代替エンドポイントであり、患者にとって実感できる(tangible)アウトカムではない。患者にとって意味を持つのは、歯の保存、再治療を要しないこと、口腔健康関連QOLの維持である。活動期治療後に深い残存ポケットの割合が低い患者は、1年以上のフォローで臨床的アタッチメントレベルが安定しやすい。患者レベルでは、6mm以上の残存ポケットと全顎の出血スコア30%以上が歯の喪失のリスクだった(Matuliene 2008)。ただし多変量解析では、5mm以上の残存ポケットの数は歯の喪失と有意に関連せず、6mm以上の数が有意に近かった(P=0.053)。6mm以上の残存ポケットがあると複根歯喪失のオッズが3を超えた(<6mmとの比較、P=0.0007/Salvi 2014)。活動期治療の目標として提唱されているのは、出血部位15%以下、PPD 4mm以下、排膿なし。メインテナンス中に明らかな疾患進行を示すのは約5%にとどまり、歯を1本も失わなかった患者の割合は開業医ベースの研究で50〜89%、大学ベースで36〜80%と幅がある。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


