ペリオ|Phase1 初期治療
動的治療を終え、SPCに乗せた。ここからは守りの局面です。では実際のところ、その後の何年かで歯はどれだけ失われるのか。そして失うとしたら、それは歯周病のせいなのか。ベルン大学が273人・6503歯のカルテを遡って数え上げた結果は、私たちの視線をもう一か所に向けさせます。
①SPCに乗せた。そこから先の話
初期治療を終え、必要な外科も済ませ、補綴も入った。ここからはSPC(サポーティブ・ペリオドンタル・ケア)で守っていく——歯周治療の一区切りです。
では、その先で歯はどれだけ失われるのでしょうか。そして失うとしたら、原因はやはり歯周病なのでしょうか。
臨床試験の多くはポケットの深さやアタッチメントレベルといった代用のアウトカムを見ます。ですが患者さんにとっての本当の結果は「歯が残ったかどうか」ただひとつです。ベルン大学の予防歯科クリニックが、その一点だけを数えました。
②273人・6503歯を、カルテから遡る
対象は、ベルン大学の予防歯科クリニックのSPCプログラムに通う患者から無作為抽出した273名。全員が包括的な歯科治療——動機づけ、口腔衛生指導、スケーリング・ルートプレーニング、必要に応じたアクセスフラップ手術、そして修復・補綴治療——を受け終えた人たちです。
SPCの参加期間は平均67±46か月(5〜278か月)。リコール頻度は年4.4±1.5回と、かなり丁寧に管理された集団です。1回のSPCは60分で、医療面接の更新・口腔清掃状態の評価・歯周組織検査とBOPの記録、そのうえで動機づけと口腔衛生指導、歯肉縁上のデブライドメントと研磨、そしてBOP陽性ポケットすべてのSRPを行っています。
ベースラインの内訳は、歯肉炎6.2%、軽度歯周炎20.5%、中等度48.4%、重度24.9%。現喫煙者が39.6%、元喫煙者が27.8%と、喫煙者比率の高い集団でもありました。
数えたのは、初診時に存在した6503歯のうち、動的治療期とSPC期にそれぞれ何本が失われたかです。
③失われた574歯。その割れ方
結果として抜歯されたのは574歯。内訳は動的治療期に311歯、SPC期に263歯でした。初診時に存在した歯のうち、最新のSPC時点で失われていたのは8.8%にとどまります。
SPC期に限れば、動的治療完了時点の歯数のうち失われたのは4.2%。集団全体でならすと、年間0.17±0.31歯という低い喪失率です。これは1088人・5研究をまとめた過去の報告(年間0.11歯)ともよく符合します。治療は効いている——ここは素直に受け取ってよい数字です。
ただし、この「平均」の読み方に落とし穴があります。
つまり「年間0.17歯」を全員に均等に配ってはいけません。6割の人はまったく失わず、4割の人がまとまって失う。ハイリスク者を見分けることが、そのままSPCの成否になるという意味です。
④メインテナンス期に、抜歯理由が入れ替わる
この論文のいちばん面白いところは、抜歯の理由を1歯ずつ分類したことです。歯周病・う蝕・歯内的問題・技術的問題(補綴物の破折など)の4分類で、動的治療期とSPC期を比べます。
全期間を通せば、歯周病のみが理由の抜歯は57%、歯周病と他の問題の合併が14%、歯周病以外だけが29%。歯周病はたしかに最大の原因ですが、3本に1本近くは歯周病以外の理由で抜かれていたことになります。
もうひとつ、重症度による違いも明確です。重度歯周炎(ADA type 4)では抜歯の86%に歯周病が絡んでいた一方、歯肉炎・軽度歯周炎の患者では、抜歯の主役はう蝕・歯内・技術的問題でした。
⑤どこまで骨が減ったら、抜くと判断されたか
歯周病だけを理由に抜かれた歯の平均骨吸収量は56±22%。単根歯では62±21%、複根歯では49±20%でした。複根歯のほうが浅い段階で抜かれており、実際そのうち75%に根分岐部病変がありました。
注目したいのは分布です。骨吸収80%超で抜かれた歯は14.6%にすぎず、41%は骨吸収50%未満の段階で抜かれています。自然脱落した歯は1本もありませんでした。
これは「抜けるまで待った」のではなく、包括的な治療計画の中で意図的に抜く判断をしたということです。残存歯周組織の量、口腔全体の破壊の程度、その歯の戦略的価値、う蝕や修復の問題の併存、審美、そして予知性とコスト——これらを勘案した結果としての抜歯だと著者らは説明しています。
⑥明日の臨床へ
3つ、持ち帰れるものがあります。
1つめ。SPCの成果は「集団平均」で語らない。 年間0.17歯という数字は心強いですが、これは6割の無失歯者に薄められた値です。SPCの現場で意味があるのは、この患者は残り4割に入るのかという問いのほうです。ベースラインの重症度が高い人ほど抜歯の頻度は上がり、重度歯周炎では48%、中等度では45%が期間中に抜歯を経験しています。
2つめ。SPCで見るのはポケットだけではない。 メインテナンス期の抜歯理由の36%は歯周病以外で、しかも技術的問題は倍近くに増えます。抜歯歯の35.5%は支台歯でした。つまりSPCの60分の中に、補綴物のマージン・二次う蝕・支台歯の失活と根尖病変を見る時間を確保しておく必要があります。BOPとPPDだけを追っていると、失う歯の3分の1を見逃す構図になります。
3つめ。抜歯の判断は動的治療の一部である。 46%の患者が動的治療の段階で抜歯を受けています。予後不良歯を治療計画の中で整理しておくことが、その後のSPCでの喪失を抑える——著者らはそう示唆しています。逆に、強く傷んだ歯を無理に維持すると、SPC中の喪失リスクを持ち越すことになります。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
包括的治療とSPCを組み合わせれば、大多数の患者では歯は保たれます。メインテナンス中の喪失は1年あたり平均0.17歯にすぎません。ただしこの平均は集団全体の話で、実際には41%の患者が抜歯を経験し、その人たちは平均2.35歯を失っています。そしてメインテナンス期の抜歯理由は、歯周病だけでは説明できません。う蝕・歯内・補綴技術的問題が36%を占めます。SPCで診るべきは、ポケットだけではないということです。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


