1問1答 論文 歯周病

ICUの口腔ケアで、人工呼吸器関連肺炎は26%から18%へ

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase4 メインテナンス

人工呼吸器関連肺炎(VAP)は、48時間以上の人工呼吸を受けた患者に生じる肺炎です。すでに重篤な患者にとって、深刻な合併症になります。口腔ケアはこれを防げるのか——2020年更新のコクランレビューが、40のRCT・5,675名を集めて答えました。

論文
Oral hygiene care for critically ill patients to prevent ventilator-associated pneumonia
著者
Zhao T, Wu X, Zhang Q, Li C, Worthington HV, Hua F
掲載
Cochrane Database of Systematic Reviews 2020;12:CD008367
種類
コクラン系統的レビュー+メタ解析(2020年12月版・結論更新/Cochrane CENTRAL・MEDLINE・Embase等を2020年2月25日まで検索/ICUで48時間以上の人工呼吸を受ける重症患者を対象としたRCT 40本・5,675名を採択)
PMID
33368159

口腔ケアは、肺炎を防げるのか

歯科が病棟へ関わる根拠として、最もよく引かれるのがこのテーマです。人工呼吸器関連肺炎(VAP)は、48時間以上の機械的人工呼吸を受けた人に生じる肺炎すでに重症の患者にとって、潜在的に深刻な合併症であり、健康状態の悪化と死亡リスクの上昇を招きます

機序は分かりやすい。人工呼吸器は、口や鼻を通した管、あるいは首の前の孔から酸素を供給する。細菌がその管を通って肺に入れば、VAPにつながりうるだから口腔を清潔に保つ口腔ケア(洗口液、消毒薬のゲル、スポンジブラシや歯ブラシ、吸引器具)が、VAPのリスクを減らすかもしれない——という仮説です。

このレビューは2020年12月に検索を更新し、結論が変更された版として公表されました。前版から何が変わったかを含めて、いま参照すべき数字がここにあります。

先に結論: クロルヘキシジンを含む口腔ケアは、VAPの発生率をおそらく26%から約18%へ下げる(確実性「中」)12名にケアを行えば1名のVAPを防げる計算(NNTB 12)ただし死亡率・人工呼吸期間・ICU滞在日数には差が見られなかった歯磨きもVAPを減らす可能性があるが、確実性は「低い」

40のRCT、5,675名

Cochrane Oral Healthの情報専門家が、Cochrane Oral Health試験登録・CENTRAL・MEDLINE(1946年〜)・Embase(1980年〜)・LILACS・CINAHLを2020年2月25日まで検索さらにVIPデータベース、ClinicalTrials.gov、WHOの国際臨床試験登録プラットフォームも検索し、言語や出版年の制限は設けていません

採択されたのは40のRCT(5,675名)。中国10・ブラジル6・米国6・イラン5をはじめ、各国で実施されたものですほとんどが成人を対象としており、1本が小児、1本が新生児を扱っています

比較は5つに分類されました

  • ①クロルヘキシジン(CHX)の洗口液またはゲル vs プラセボ/通常ケア
  • ②CHXの洗口液 vs 他の口腔ケア薬剤
  • ③歯磨き(消毒薬の有無を問わない) vs 歯磨きなし
  • ④電動歯ブラシ vs 手用歯ブラシ
  • ⑤その他の口腔ケア薬剤どうしの比較

二値アウトカムはリスク比(RR)、連続アウトカムは平均差(MD)で報告し、4試験以上のデータを統合する際はランダム効果モデルを用いていますバイアスリスクは、31試験で高く、2試験で低く、残りは不明と評価されました

26%から18%へ、しかし死亡率は動かない

0 10% 20% 30% VAPの発生率 (%) 26% 18% プラセボ/通常ケア CHXを含む口腔ケア 13 RCT・1,206名、確実性「中」。リスク比 0.67(95%CI 0.47-0.97、P=0.03、I²=66%)、NNTB 12(95%CI 7-128)
CHXを含む口腔ケアによるVAP発生率。13 RCT・1,206名、確実性「中」

13のRCT(1,206名、92%が成人)による確実性「中」のエビデンスは、CHXの洗口液またはゲルを口腔ケアの一部として用いると、プラセボ/通常ケアと比べてVAPの発生率がおそらく26%から約18%へ低下することを示しています(リスク比 0.67、95%CI 0.47-0.97、P=0.03、I²=66%)

これはNNTB 12(95%CI 7-128)に相当します。ICUで人工呼吸を受ける患者12名にCHXを含む口腔ケアを提供すれば、1名のVAP発症を防げるという意味です

0 0.5 0.9 1.4 リスク比(1.0=差なし) 0.7 0.6 1 0.8 VAP発生(CHX) VAP発生(歯磨き) 死亡(CHX) 死亡(歯磨き) 1.0を下回るほど良い。VAPは両方とも有意に低下(P=0.03/P=0.01)、死亡率はいずれも有意差なし(P=0.86/P=0.12)。確実性はVAP-CHXが「中」、他は「低い」
他のアウトカムに差は認められなかった。リスク比1.0の線をまたぐ

ただし、そこから先が動きません。

  • 死亡率:差なし(リスク比 1.03、95%CI 0.80-1.33、P=0.86、I²=0%/9 RCT・944名・確実性「中」)
  • 人工呼吸期間:差なし(平均差 −1.10日、95%CI −3.20〜1.00、P=0.30、I²=74%/4 RCT・594名・確実性「非常に低い」)
  • ICU滞在日数:差なし(平均差 −0.89日、95%CI −3.59〜1.82、P=0.52、I²=69%/5 RCT・627名・確実性「低い」)

有害事象について記載した研究はほとんどありませんでした。1本がCHX群と対照群で同程度の頻度の軽微な有害事象を報告し、もう1本は有害事象なしと報告しています

歯磨きについても結果が出ています。

  • VAPの発生率を減らす可能性(リスク比 0.61、95%CI 0.41-0.91、P=0.01、I²=40%/5 RCT・910名・確実性「低い」)
  • ICU滞在を短縮する可能性(平均差 −1.89日、95%CI −3.52〜−0.27、P=0.02、I²=0%/3 RCT・749名・確実性「非常に低い」)
  • 死亡率の低下は示されなかった(リスク比 0.84、95%CI 0.67-1.05、P=0.12、I²=0%/5 RCT・910名)
  • 人工呼吸期間にも差なし(平均差 −0.43日、95%CI −1.17〜0.30、P=0.25、I²=46%/4 RCT・810名)

「確実性」という言葉の重み

このレビューを読むときに大事なのは、リスク比の数字そのものより、それぞれに添えられた確実性の評価です。

著者らの結論はこうです。「クロルヘキシジンの洗口液またはゲルは、口腔ケアの一部として、重症患者がVAPを発症する発生率を、プラセボまたは通常ケアと比較して26%から約18%へおそらく減少させる。死亡率、人工呼吸の期間、ICU滞在期間には差を認めなかったが、エビデンスの確実性は低かった」

そして「消毒薬と歯磨きの両方を含む口腔ケアは、消毒薬のみの口腔ケアよりも、VAPの発生率とICU滞在期間を減らすうえで効果的である可能性があるが、こちらもエビデンスの確実性は低い」「評価された介入のいずれかが有害事象と関連するかどうかを判断するにはエビデンスが不十分である」

確実性が下がる理由も明示されています。「結果が不精確または一貫していない」「結果に誤差をもたらしやすい方法で実施された」「報告された情報が少なすぎる」実際、採択40試験のうち31試験でバイアスリスクが高いと評価されました

もうひとつ、平易な要約に添えられた一文が、この分野の限界を端的に表しています。「CHXが患者の人工呼吸器装着期間に影響するか、有害作用につながるかは分からない」。効果があると言えることと、言えないことが、明確に分けられています。

明日の臨床へ

第一に、病棟と話すときの数字を正確に持つ「26%から約18%」「NNTB 12」「確実性は中」——この3点セットで話せば、過大にも過小にもなりません。死亡率が動かなかったことも、同時に伝える必要があります

第二に、歯ブラシを外さない歯磨きはVAPの発生率を下げる可能性があり(リスク比 0.61)、ICU滞在の短縮も示唆されました著者らは「消毒薬と歯磨きの両方を含む口腔ケアは、消毒薬のみより効果的である可能性がある」と述べています。洗口液だけで完結させない理由になります。

第三に、確実性の言葉をそのまま使う。「効果がある」ではなく「おそらく減らす(確実性・中)」。この言い回しは、医科の同僚と話すときにこそ効きます。

ここだけ、冷静に補助線。採択40試験のうち31試験でバイアスリスクが高く、低かったのは2試験のみでした。CHXのVAP減少についても異質性が高く(I²=66%)、95%信頼区間の上限は0.97と1.0にかなり近い位置にあります。歯磨きの効果は確実性「低い」、ICU滞在短縮は「非常に低い」です。それでも、コクランが40試験・5,675名を集めて確実性を1つずつ格付けし、「言えること」と「分からないこと」を分けて示したこの仕事は、口腔ケアを病棟に位置づけるうえで最も信頼できる土台です。なお本レビューは結論が更新された版であり、引用の際は2020年12月版であることを明記するのが正確です。

今日のひとこと

クロルヘキシジン(CHX)の洗口液またはゲルを口腔ケアの一部として用いると、プラセボ/通常ケアと比べてVAPの発生率がおそらく26%から約18%へ低下する(リスク比 0.67、95%CI 0.47-0.97、P=0.03、I²=66%/13 RCT・1,206名・確実性「中」)これはNNTB 12(95%CI 7-128)に相当し、ICUで人工呼吸を受ける12名にCHXを含む口腔ケアを行えば1名のVAP発症を防げる計算になる死亡率には差が見られなかった(リスク比 1.03、95%CI 0.80-1.33、P=0.86、I²=0%/9 RCT・944名・確実性「中」)人工呼吸期間(平均差 −1.10日、95%CI −3.20〜1.00、P=0.30/確実性「非常に低い」)とICU滞在日数(平均差 −0.89日、95%CI −3.59〜1.82、P=0.52/確実性「低い」)にも差は認められなかった歯磨き(消毒薬の有無を問わない)は、歯磨きなしと比べてVAPの発生率を下げる可能性がある(リスク比 0.61、95%CI 0.41-0.91、P=0.01、I²=40%/5 RCT・910名・確実性「低い」)歯磨きはICU滞在を短縮する可能性も示された(平均差 −1.89日、95%CI −3.52〜−0.27、P=0.02、I²=0%/3 RCT・749名・確実性「非常に低い」)採択40試験のうち31試験でバイアスリスクは高く、低かったのは2試験のみだった

出典:Zhao T, Wu X, Zhang Q, Li C, Worthington HV, Hua F. Oral hygiene care for critically ill patients to prevent ventilator-associated pneumonia. Cochrane Database Syst Rev 2020;12:CD008367. PMID: 33368159
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。