カリオロジー|2017年に日本で初めてフッ素1,000ppm超〜1,500ppmの歯磨剤が承認されたことを受け、日本口腔衛生学会フッ化物応用委員会が、濃度・年齢別の量・使い方をまとめた学会の見解(2018年)。※現在の推奨は2023年の4学会合同版
先にお伝えします。この記事で紹介する2018年の文書の年齢別の数字は、現在の推奨ではありません。2023年1月に日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会の4学会が合同で出した推奨では、歯が生えてから5歳までが1,000ppm(2018年版は500ppm)、6歳以上が1,500ppm(2018年版は6〜14歳が1,000ppm)に変わっています。そのうえで、2018年版が何を提言し、何を根拠に置き、何を課題に残したかを読むと、今の推奨がなぜこの形になったのかが見えてきます。2018年版の柱は3つ。1,500ppmの歯磨剤の承認を「遅すぎた」と歓迎したこと、吐き出したあとのうがいは1回だけ、という使い方を示したこと、そして濃度表示の普及を求めたことです。
2023年1月1日、日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会の4学会合同で「フッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法」が出され、年齢別の推奨が変わりました。
・歯が生えてから2歳:500ppm → 1,000ppm(量は「切った爪程度」→「米粒程度(1〜2mm)」)
・3〜5歳:500ppm → 1,000ppm(量は5mm程度のまま。「グリーンピース程度」と表現)
・6〜14歳:1,000ppm → 1,500ppm(量は1cm程度 → 歯ブラシ全体(1.5〜2cm))
・1,500ppmを使い始める年齢:15歳以上 → 6歳以上
患者さんへの指導には、2023年の4学会合同の推奨を使ってください。この記事は、その一つ前の段階で学会が何を考えていたかを読む記事です。
①1,450ppmの歯磨剤、何歳から使っていい?
ドラッグストアの棚に「フッ素1450ppm配合」の歯磨剤が並ぶようになって、もう何年も経ちます。パッケージには「6歳未満の子供への使用は控える」。では6歳の子には? 2歳の子には何ppmを、どれだけ? 仕上げみがきのあと、うがいは何回?
こうした疑問に、1,500ppmの承認を受けて学会としてまとめた答えが、日本口腔衛生学会フッ化物応用委員会の「フッ化物配合歯磨剤に関する日本口腔衛生学会の考え方」(2018年)です。きっかけは、2017年3月に日本で初めてフッ素1,000ppmを超え1,500ppmまでの歯磨剤が医薬部外品として承認されたことでした。
この文書は研究論文ではなく、学会委員会の見解です。そこでこの記事では「何を提言したか/根拠に何を置いたか/何が課題として残ったか」の3つで読んでいきます。そして最後に、5年後の2023年にどこが書き換えられたかを並べます。
②背景:日本は長く「1,000ppmまで」だった
日本の薬用歯みがき類の承認基準では、フッ化物の配合はフッ素として1,000ppm以下と決められていました。一方で、欧州は0.15%(1,500ppm)以下、国際規格のISOもすでに上限を1,500ppmとしていました(原文の表2)。文書は2017年の承認を「大いに歓迎すべきではあるが、遅すぎたともいえる」と書いています。
普及の面では、日本のフッ化物配合歯磨剤の市場占有率は1980年代中期に10%まで低迷していました(図1では1985年12%、1986年10%)。その後伸び続け、2010年に90%、2015年に91%。欧米では1990年代にすでに90%を超えていました。
文書はまず、歯磨剤に対する考え方が変わったことを表1にまとめています。
・う蝕予防への寄与:歯ブラシ>歯磨剤 →歯ブラシ<歯磨剤(ブラッシングテクニック重視 → 歯磨剤の使い方重視)
・みがき始める年齢:うがいができる年齢 →乳歯の萌出直後(0〜1歳)
・使う年齢:永久歯の萌出が終わるまで →生涯にわたって
・量と濃度:特に規定なし →0歳から成人まで年齢に即して
・みがいた後のうがい:歯磨剤が口から消えるまで何回も →5〜15mlの水で1回のみ
③提言①:1,000ppm超の歯磨剤には「6歳未満は控える」と濃度を表示
2017年3月17日、厚生労働省は承認と同時に、フッ素1,000ppm(0.1%)〜1,500ppm(0.15%)の薬用歯みがき類について通知を出しました。文書はその内容と、日本歯磨工業会の自主基準をそのまま載せています。
・容器に「6歳未満の子どもの手の届かない所に保管する」旨を記載する(記載スペースが足りなければ省略可。自主基準では内容量10g以下で省略可)
・フッ素としての濃度を容器に記載する(自主基準では50ppmまたは0.005%単位で丸める。表示例は「フッ素1400ppm配合」)
文書は、濃度が表示されることで歯磨剤を「より確実に」選べるようになると期待し、ISOの勧告にならって子ども用を含む従来品にも濃度表示を広げてほしいと求めています。
④提言②:使い方は「うがい1回」まで決める
ここからは2018年版の手順です(現在の推奨は⑧で)。文書は、歯磨剤のう蝕予防の仕組みを、みがき終わったあとに歯面・歯垢・粘膜・唾液に残ったフッ化物イオンによる再石灰化と酸産生の抑制と説明しています。だから効果は、量・作用時間・うがいの回数で大きく変わる。そこで推奨される使い方を8つの手順で示しました(原文の図5)。
5. 10〜15mlの水を口に含む(表3では6歳以上。3〜5歳は5〜10ml) 6. 5秒ほどブクブクうがい 7. うがいは1回だけ。吐き出した後はうがいをしない 8. その後1〜2時間は飲食をしないのが望ましい
回数は1日2〜3回と頻度が高いほうが望ましい、としています。
※2023年の推奨では、回数は就寝前を含めて1日2回。うがいは「するなら少量の水で1回」で、水の量や秒数、飲食を控える時間は書かれていません。
そして、年齢別の量と濃度が表3です。ここが、2023年に大きく書き換えられた部分です。
2018年版の考え方はこうです。歯が生えた直後から低濃度(500ppm)を積極的に使う(泡状の歯磨剤なら1,000ppm)。3〜5歳は量を5mmに絞って500ppm(泡状またはMFP歯磨剤なら1,000ppm)。6〜14歳は従来の1,000ppm。新しく承認された1,000ppm超の歯磨剤は15歳以上で、量は2cm程度(約1g)。本文には「フッ化物イオン濃度が1,000ppmを超える歯磨剤の使用は、15歳未満の小児期には適さないと考えられている」とあります。
2023年の4学会合同の推奨は、ここを変えました。歯が生えてから5歳までを1,000ppm、6歳以上を1,500ppmに上げ、2歳までは量を「米粒程度(1〜2mm)」に絞り、歯みがきの後にティッシュなどで歯磨剤を軽く拭き取ってもよいとしています。3歳以上は、歯磨剤を軽く吐き出し、うがいをする場合は少量の水で1回のみです。解説では、国際歯科連盟(FDI)や世界保健機関(WHO)の推奨を参考に、歯のフッ素症のリスクとう蝕予防のメリットのバランスを考えたと説明しています。
⑤根拠に置いたもの:WHOの報告と、国全体の推移
濃度を上げる根拠として文書が挙げたのは、WHOの専門委員会の報告(1994年)です。1,000ppm以上では、500ppm高くなるごとに6%のう蝕予防効果の上昇がみられる。また、100ppmなど500ppm未満の歯磨剤にはう蝕予防効果が認められていないことも、同じ報告を引いて書いています。だから乳幼児にも「低濃度=500ppm」であって、それより薄いものではない、という組み立てです。
乳幼児に歯磨剤を使う根拠としては、スウェーデンが生後6か月からのフッ化物錠剤に代えて500ppmの歯磨剤を推奨していることを挙げています。水道水フロリデーションのある米国では2歳までの使用を推奨していないが、全身応用がまったく無い日本でも萌出直後から使うべきだ、という論理です。
もう1つの柱が、国全体の数字です。世界でフッ化物配合歯磨剤を使う人は1990年の5億人から2000年の15億人に増え、今日のう蝕減少の「主役」とされている。日本でも、歯磨剤の市場占有率が上がるのに合わせて、12歳児のDMFTが下がってきた(原文の図4)。
1987年に4.93だった12歳児のDMFTは、2011年には1.4。同じ期間に市場占有率は12%から90%になりました。文書は「市場占有率に反比例して12歳児のDMFT指数は減少している状況がよく把握できる」と書いています。ただしこれは国全体の推移を並べた図で、歯磨剤以外の変化(食生活、歯科受診、塗布や洗口など)とは切り分けられていません。
⑥成人・高齢者:根面う蝕には「重ねる」
文書が1,500ppm承認の意味を最も強く語ったのは、実は子どもではなく大人です。1,500ppmは「これからの歯根面う蝕を主とした成人のう蝕予防には欠かせないもの」になる、と書いています。
15歳以上はエナメル質の形成も終わり、体格も成人並み。日本には水道水フロリデーションなどの全身応用も無い。だから組み合わせてよい、として、根面う蝕の予防の基本をこう示しました(原文の表4と本文)。
・歯科医院:フッ化物バーニッシュ(22,600ppm)を3週間〜1か月間隔で
・職場:昼食後のフッ化物洗口
・将来:1,500〜5,000ppmの高濃度歯磨剤の普及が、根面う蝕の効果的な予防を進めるだろう
2023年の4学会合同の推奨も、根面う蝕の予防が必要な成人には5,000ppmの歯磨剤のう蝕抑制効果が認められているとし、当時の日本では市販されていないため認可が望まれる、と書いています。この部分の方向性は、2018年版から続いています。
⑦課題として残ったこと
文書を読むと、学会が「まだ足りない」と見ていたことがいくつも出てきます。
・使い方の指導:日本の歯みがき習慣の定着率は95%を超えるのに、12歳児のDMFTは欧米より高い。理由は普及の遅れと、効果的な使い方の指導が無かったこと
・他のフッ化物応用:フッ化物歯面塗布は2016年に62.5%(2011年63.6%。文書の記載のまま・対象集団の記載なし)、フッ化物洗口は2016年にようやく10.4%。全身応用は実施されていない
このうち濃度表示は、2023年の推奨でも「多くの市販される歯磨剤で、配合されるフッ化物濃度が記載されておらず、今回の推奨を守る上でもこのことは大きな問題」と繰り返されています。あわせて、子ども向けの1,450ppmの製品が少ないので販売が望まれる、とも書かれています。
⑧明日の臨床へ
この文書から持ち帰れるのは、年齢別の数字ではなく「考え方」の部分です。数字は2023年の推奨で指導します。
・うがいをするなら少量の水で1回(3歳以上)。2歳までは、歯みがきの後にティッシュなどで軽く拭き取ってもよい。「うがいを1回に」は2018年版でも打ち出されていた考え方で、「すっきりするまで何回も」は、残したいフッ化物を流してしまう
・歯磨剤は「予防剤」として選ぶ。パッケージのppm表示を患者さんと一緒に見る。表示が無い製品では推奨を守れているか分からない
・保管の声かけ。子どもの手が届かない所に置き、チューブごと食べるような大量の飲み込みに注意する(2023年の推奨にも明記)
・根面う蝕のハイリスクの大人には、歯磨剤に医院での応用を重ねる
⑨ここだけ、冷静に補助線
12歳児のDMFTと市場占有率の図は、国全体の推移を並べたものです。歯磨剤の普及と同じ時期に起きた他の変化とは切り分けられていないので、「歯磨剤がDMFTをここまで下げた」とまでは言えません(ここは筆者の補足です)。
成人の組み合わせについて、文書は全身応用の無い日本では「フッ素症歯その他の慢性毒性の問題はない」と書いていますが、ここも委員会の判断で、この文書の中で新たなデータが示されているわけではありません。原文は章番号が「3」から「5」に飛んでいるなど、体裁が整いきっていない箇所もあります。
そして何より、年齢別の濃度と量は2023年の4学会合同の推奨で置き換わっています。2026年9月29日時点で、この2018年の文書は学会サイトの「声明/提言」一覧には載っていません(PDFは同じURLで取得できます)。
それでも、1,500ppmの承認を「遅すぎた」と言い切り、うがいを1回に、濃度を表示に、と使い方まで踏み込んだのがこの文書です。2023年の推奨がなぜ今の形になったのかを知る、一つ前の足場として読む価値があります。
今日のひとこと
2018年の「考え方」がはっきり示したのは、フッ化物配合歯磨剤は「歯みがきの補助剤」ではなく、歯が生えた直後から生涯使う「予防剤」だという立場と、吐き出したあと、うがいで流しすぎないという使い方です。2023年の推奨も全年齢への利用を勧め、3歳以上は「うがいをするなら少量の水で1回」、2歳までは「ティッシュで軽く拭き取ってもよい」としています。一方、年齢別の濃度と量は変わりました。今、患者さんに伝えるのは2023年の4学会合同の推奨——歯が生えてから5歳までは1,000ppm(2歳までは米粒程度、3〜5歳はグリーンピース程度)、6歳以上は1,500ppm(1,400〜1,500ppmF)を歯ブラシ全体に、就寝前を含めて1日2回。2018年版の「500ppm」「15歳から1,500ppm」をそのまま指導に使わないでください。


