1問1答 論文 保存修復

ひびを追い、接着で作り直す——クラックの入った歯を残すための基準と手順

ウェビナー解説

Dr.勉強会 クラック(2026年10月26日開催)

ひびの入った歯を前にすると、「どこまで削ればいいのか」で手が止まる。削りすぎれば露髄する。残せばひびは進むかもしれない。

開催
2026年10月26日(月)
形式
Dr.勉強会(講義+質疑)
テーマ
クラックの除去と咬頭被覆/接着・ライニング・光照射・IDS・ディープマージンエレベーション
対象
プライムデンタルネット会員

ひびを追い、接着で作り直す——クラックの入った歯を残すための基準と手順

はじめに

ひびの入った歯を前にすると、「どこまで削ればいいのか」で手が止まる。削りすぎれば露髄する。残せばひびは進むかもしれない。

講師の臨床上の方針は最初に示された。ひびは可能な限り取る。ただし歯髄と歯根膜を傷つけない範囲で。そのうえで、取りきれない所を接着で封じ、弱った歯は覆う。言葉にすると単純だが、それを支えるのは一つずつの接着の操作である。講義の後半は、これまでのう蝕除去や接着の回の復習を兼ねて、接着の基礎をもう一度たどる構成だった。

以下の手順・数値の多くは、講師が自分の臨床で選んでいる方法や使用材料での操作例、または講義で紹介された研究の内容であり、一般的な診療指針として定まったものではない。適用する条件は、材料・機器・症例によって変わる。

この記事で分かること

  • ひびをどこまで追い、どこで止めるか
  • 咬頭を覆うかどうかを決める目安
  • ひびの入った歯を接着で作り直すための、切削・接着・充填・光照射・IDS・ディープマージンエレベーションの要点

①歯に倣って直す——バイオミメティックという考え方

バイオミメティック・レストラティブ・デンティストリーは、生体に倣って直す保存修復の考え方である。「ミメティック」は、まねる(mimic)から来ている。

歯の形をそっくりに作ることは、その一部でしかない。講義では「形をまねるのは4分の1くらいの理解」と表現され、それより大事なものとして、力の受け方と分かれ方、壊れ方、生体の環境、接着の釣り合いが挙げられた。

ゴールはひびを「治す」ことではない。ひびを進ませずに、歯を使い続けること。

エナメル質はドーム、辺縁隆線は輪

エナメル質は、硬い殻が力を受け流すドームにたとえられる。石のドームは上から押されると下のほうが外へ広がろうとして縦に割れ、それを下部の「テンションリング」が締めて防ぐ。歯では、辺縁隆線や咬頭どうしのつながりがこの輪の役目をする、というのが講義の類推である。歯で測ったものではなく、考え方の手がかりとして使う。

だから削る時は、辺縁隆線を安易に断ち切らない。たとえば大臼歯の斜走隆線を、形成の都合で最初に分断してしまわない。

(編注:上顎第一小臼歯の有限要素モデル〔Magne と Oganesyan 2009〕では、150Nの荷重をかけた時の頬舌の咬頭どうしの開きは、健全歯で2.7µm、MO窩洞で5.0µmだったが、辺縁隆線を両方失うMOD窩洞では179.4µmに達した。)

象牙質はひびを止めようとする

象牙質には、ひびをそのまま走らせない仕組みがある。ひびが曲がったり枝分かれしたりして、勢いが分散される。ところが年齢とともに象牙細管が詰まり、透明象牙質になると、ひびは止まりにくくなる。表層と深部では細管の数や太さが違い、割れ方も変わる。

象牙質の粘り強さを支えているのは水である。水を含んだ象牙質は粘り強く、乾いた象牙質は脆い。歯髄のない歯にひびが多い理由の一つとして、この違いが考えられる。

長いひびほど、先端に力が集まる

ひびは長くなるほど、先端にかかる負担が大きくなる。この考え方から、講師は臨床上の方針として、ひびをなくすか、短くして開かないようにすることを目指している。ひびには細菌が入り込み、歯髄の炎症や壊死の原因にもなる。

②まず、歯髄を残せるかを診る

噛んだ時にしみるような症状があっても、それが可逆性の歯髄炎なら、まず保存的な処置を考える。

初診時にひびに伴う可逆性歯髄炎と診断された100本のうち、80本は根管治療が要らなかったという報告がある。

(編注:Abbott と Leow 2009。15本は初診時に根管治療となり、残る85本を、修復物・う蝕・ひびを除去して鎮静的な裏層と暫間修復を置く手順で治療した。長期の再診ができたのは85本中46本で、結果には長く再診していない歯も含まれる。)

患者さんへの説明は、シールドレストレーションの説明と同じ形でよい、と講師は言う。「多くは神経を残せるが、ひびが神経まで達していれば根の治療が必要になることがある」と先に伝えておく。

③覆うか、残すか——咬頭被覆の目安

ここは以前のテーブルトップの回の復習でもある。

フルクラウンは歯質を削る量が多い。歯質を残して覆えば、マージンをエナメル質に置ける。MODのように咬頭が孤立した形では歯がたわむため、適切な設計・材料・接着による被覆で、歯質への負担やひびを開く変形を抑えることを目指す。

幅と深さ

  • 幅:窩洞の幅が広いほど破折しやすく、ひびも入りやすい。講義では「窩洞の幅が3mmを超えたらオーバーレイを考える」を一つの目安にしていた
  • 深さ:講義では、深さ3mmまでは健全歯とあまり変わらないが、5mmになると強度は半分以下になり、幅に余裕があっても割れやすくなると紹介された。根管治療をした歯は、髄腔を開けた時点で中が6mm以上削られている

(編注:2〜4mmといった線は教育資料で教えられている目安で、破折を予測できると確かめた研究はない。咬合や残っている歯質を見て判断する前提の数字である。)

「接着は完璧だから覆わなくても大丈夫」と考えたくなる。だが実験の結果はそうは言っていない。I級の窩洞で歯質を残したくなる時ほど、失敗の可能性を考えに入れる。

窩洞として残す場合に講師がSFRCを勧める理由

それでも窩洞として残す場合に、講師は短繊維強化コンポジット(SFRC・everX)で補強することを勧めている。講義で紹介された研究では、破折強度が上がり、修復できない割れ方(致命的な破折)が減った。ただし健全歯の強さに戻るわけではない。講師は基本的には覆った方が強いと考え、大臼歯で根管治療をした歯は原則オーバーレイにしている。

CRで直した歯が欠けてジルコニアクラウンになるなら、まだいい。ひびが歯肉縁下まで入って抜歯、インプラントとなれば元も子もない。MIのつもりの選択が、MIでなくなる可能性まで考える。

講師が咬頭被覆を考える基準

条件 判断
形成を終えた段階でMOD以上、かつ隔壁が作れずCRが難しい 覆う
残った咬頭の厚みが2mm未満 覆う
窩洞の深さが4mmを超える 覆う
MOやO窩洞でも、ひびがある 覆う方がよい
大臼歯の根管治療歯 O窩洞でもテーブルトップが選択肢に入る

正解はない。咬合を見ながら、こうした基準を自分の中に持っておくことが大事だ、というのが講師の考えである。

講義では、根管治療後の歯1,273本を調べた1984年の報告(Sorensen と Martinoff)も紹介された。前歯は歯冠を覆っても成功率が変わらなかったが、上下の小臼歯・大臼歯では覆った方が良かった。テーブルトップのない時代の研究だが、臼歯は覆った方が予後が良い可能性を示している。

④ひびをどこまで追うか——講師の臨床上の方針

ひびを残すと、噛む力で先端が広がり、進む可能性がある。このため講師は、臨床上の方針として原則は完全に削り取るとしている。

ただし例外がある。

  • 削ると露髄しそうな場合
  • 歯根膜(生物学的幅径)を侵して、歯周病になるリスクが高い場合

この時はそこまで追わず、その手前で止めて、接着でしっかり覆う。削ること自体が新しいひびを作ることもある。利益と害を見比べて、範囲と方法を選ぶ。

周りを封じ、中央で止める

ここで、深いう蝕を取る時の考え方(選択的う蝕除去)がそのまま使える。

  • ペリフェラルシールゾーン:エナメル象牙境から2mmの帯は、完全に健全な象牙質を出す。ここが修復物の封鎖を担う
  • 帯に囲まれた中央は、う蝕象牙質や着色した象牙質を残して封じることがある

健全な象牙質なら接着強さは約50MPa出るが、う蝕影響象牙質や感染象牙質では半分以下になる、と講義では紹介された。周りの帯を健全にする理由はここにある。

さらに、セントラルストップゾーンという考え方がある。講義では、エナメル象牙境から歯髄までは約3mm、咬合面から歯髄までは約5〜6mmと説明され、露髄を避けるため、う蝕もひびも咬合面から深さ5mm、エナメル象牙境から3mmを目安に止めるとした。

(編注:Alleman ほか〔2017〕は、エナメル象牙境から2mm以内の帯のひびは完全に取り、帯に囲まれた中央の深い所は咬合面から5mm・軸壁から3mmを目安に止めて露髄させない、と提案している。比較試験で確かめた基準ではない。)

講師の臨床上の方針は、原則としてひびの先端を残さないこと。ただし、歯髄と歯根膜を傷つけるところまでは追わない。

⑤失った象牙質を、接着で作り直す

ここからが後半である。バイオミメティックの中心は、失った象牙質を接着で作り直すことにある。

修復した歯でも、上の部分を「バイオドーム」、歯頸部の帯を「バイオリム」、その間で支える接着の土台を「バイオベース」と呼ぶ。バイオベースは間接修復の下に作る接着の土台で、残る応力を減らすことを目指す。IDSとレジンコーティング、CRによる象牙質の置き換えを基本にし、深い歯肉縁下にはディープマージンエレベーションを組み合わせ、必要に応じて繊維で補強する。

講師はここで、接着の基礎を一つずつ復習した。

同じ材料を使っても、差を生むのは知識、技術、そして時間のかけ方である。

切削面の仕上げ

  • 粗いバーで削ったまま終えると、エナメル質に細かいひびが残る。カーバイドバーでも、粗いダイヤモンドバーでも表面にひびが入る。エクストラファインのダイヤモンドで仕上げると面が整い、講義で示されたデータでは接着強さが3割近く高かった
  • 粒度の呼び名はメーカーで違う。あるメーカーの「エクストラファイン」が、別のメーカーの「ファイン」と同じこともある。名前で安心せず、実物の粗さで確かめる
  • 象牙質も、スーパーファインで仕上げる方がよい可能性がある。削った後のスメア層が薄くなり、プライマーが溶かしきれる

う蝕除去の止めどき

「歯髄の近くでどこで止めればいいか」には、厳密な基準がない。硬さや色での判断は、実際には見分けられないことも多い。エキスカベーターは安全と言われるが、それで露髄させた経験は誰にでもあるはずだ、と講師は言う。歯髄のない歯では、歯髄を守るために除去を控える必要がないので、う蝕は徹底的に取る。

リン酸エッチング

リン酸エッチングでエナメル質の表面が粗くなり、そこにボンディング材が入り込んで、機械的な嵌合と化学的な接着で強く付く。

  • エナメル質への処理は15秒が基本。ただし切削したエナメル質なら3秒程度でも十分に接着強さが上がる、と講義では紹介された
  • 非う蝕性歯頸部病変(NCCL)に選択的なエナメル質エッチングをすると、辺縁の不適合と着色が少ないという報告がある
  • エナメル小柱の向きでも接着強さは変わる
  • 講師が使う2ステップのセルフエッチ(メガボンド2)では、隣接面や歯頸部の薄いエナメル質にはリン酸エッチングをしない。牛の歯で40%リン酸を10秒当てると、歯頸部のエナメル質に亀裂が多く見られたという報告が紹介された。咬合面はベベルを付けて処理する
  • 講師のメガボンド2(2ステップのセルフエッチ)での操作では、象牙質にリン酸を当てない。講義では、象牙質にリン酸が当たるとコラーゲン線維が露出し、象牙質の中の酵素(MMP)がコラーゲンを分解して、長期的に接着が落ちるという報告が紹介された。当たってしまったら、すぐに洗い流す(3秒以内なら影響は小さいとされた)
  • エナメル象牙境もリン酸に弱い。講師が使う2ステップのメガボンド2での操作例では、窩洞の外側のエナメル質だけに当て、内側には入れない

プライマーとボンディング——ここが一番差が出る

リン酸エッチングとプライマー・ボンディングの操作が、最も接着強さに差を生む。

講義で示された操作では、エッチングしたエナメル質は擦らない。象牙質を擦る方法は、1ステップでの研究と、講師のメガボンド2での操作例として紹介された。

エッチングしたエナメル質の粗い面は、擦ると壊れる。一方、象牙質にはスメア層があるので、擦った方がスメア層が取れて長期の接着が良い、という研究がある(1ステップのボンディングでの研究)。樹脂含浸層を作ることを意識する。

  • 1ステップ(講義で扱った材料の操作):擦ってモノマーを入れ、エアで水とアルコールを飛ばし、光を当てる。水とアルコールを含むため、講師はマイルドで長いエア(5秒以上)を勧めている。講義で扱った待ち時間0秒の製品でも、エアはマイルドに長く当てるという説明である
  • 2ステップ(講師のメガボンド2での操作例):プライマーで象牙質を擦り、しっかり乾かし、ボンディング材は乗せてマイルドなエアで伸ばす

1ステップの接着強さも上がってきているが、講師は2ステップ(メガボンド2)の方が強いと見る。牛の歯の実験では、象牙質ごと取れるほどの接着強さだという。

ただし、同じ材料・同じ照射でも、操作で差が出る可能性があるが、紹介された比較では有意差はなかった。講師は、メガボンド2ではボンディング層を薄くしすぎると接着が落ちると説明し、強く吹かずに伸ばし、液溜まりを作らない操作を勧めている。

防湿・清掃・止血剤

  • 口の中はスチームサウナのようなもの。湿度が高いほど接着強さが落ち、重合収縮応力も増え、着色もしやすくなる。エアで乾かしても約60秒で元の湿度に戻る、と講義では紹介された。ラバーダムで接着強さは上がる。講師は簡易防湿の器具(ZOO)も多く使う
  • 直接修復で唾液が付いたら、講師はもう一度削り直す。間接修復ではそうもいかないので、清掃材やサンドブラストを使う。サンドブラストは接着強さを上げるというより、接着を妨げるものを取る目的で使う。粒子が象牙質に残ることもある
  • 講師は、止血剤は塩化アルミニウムを含まないものを選んでいる。止血剤が象牙細管に残ると接着が落ちる。付いてしまった時はリン酸を15秒当てると水洗だけより良いと紹介されたが、そもそも付けない方がよい

⑥接着を長持ちさせる工夫と、KISSの法則

当日の接着が良くても、数年たつと接着強さは落ちていく。原因として挙げられたのは3つ。

  1. 充填直後に残った重合収縮応力
  2. 象牙質の中の酵素(MMP)によるコラーゲンの分解
  3. レジンの劣化

SLDP法——スメア層の有機質を処理する

象牙質は体積でおよそ5割が無機質、3割が有機質で、プライマーで処理できるのは無機質の側である。そこで、スメア層の有機質を次亜塩素酸で処理する方法がある(SLDP:Smear Layer Deproteinization Pretreatment)。

6%の次亜塩素酸ナトリウムを30秒作用させて水洗し、還元剤(スルフィン酸塩)で処理する。次亜塩素酸で残る酸化の影響を還元剤で打ち消し、レジンモノマーがスメア層の下の象牙質へ入りやすくなる。講義では、う蝕象牙質は有機質が多いので前処理で接着が上がるが、やりすぎると下がり、それを還元剤で戻すと紹介された。

同じ考え方で、講師は、ウォーキングブリーチの直後にスルフィン酸塩で還元処理をして接着を戻し、その日のうちに充填する方法を紹介した。

クロルヘキシジン

象牙質のMMPは、プライマー処理やリン酸で活性化して、長い時間をかけてコラーゲンを壊していく。クロルヘキシジンはこの酵素の働きを抑える目的で使われる。実験室では接着の低下が少ないが、臨床ではあまり差が出ていない。

(編注:臨床試験11件のメタ分析〔Bourgi ほか 2026〕でも、脱離のリスクに差はなかった。)

KISSの法則

ここで講師が持ち出したのが、KISS(Keep It Simple, Stupid)の法則である。不必要な複雑さを避け、誰でもできるシンプルな設計が成功の鍵になる。

SLDPは、時間を守り損ねる、還元剤を忘れる、処置が長くなって患者さんが苦しくなる、といった操作の誤りが起きやすい。

治療上の利益が確実に出るものでないなら、今で十分な所に無理に足さない。

高濃度の次亜塩素酸ゲルも、作用時間の根拠が乏しい。日常の窩洞には使わず、ダイレクトクラウンのように「この歯をどうしても残す」場面の必殺技として使う、というのが講師の線引きだった。

⑦1層目を薄く——ライニングと積層充填

プライマー操作の次に大事なのが、ライニングと積層充填である。

5×5×5mmの窩洞で充填の方法を比べた実験が紹介された。一括で埋めると、ほとんど接着していない。3回に分けるのがよく、2回に分けても1回目が厚いと接着強さは半分近くに落ちる。

深さ3mmはプローブで測ると深く感じない。だが講義で紹介された実験では、3mmを一括で充填して光を当てると、窩底が剥がれることがあった。

充填後に「噛むと痛い」と言われたら、それが起きているのかもしれない。

講義では、1層目を薄くすると、接着していない面(自由面)が広い状態で固まり、重合収縮応力が緩和されると説明された。これを踏まえ、講師はなるべく自由面を多く保つ順で積む方法を勧めている。

  • バルクフィルは重合収縮率が低い(従来の約3.5%から2%台)。それでも講義で紹介された研究では、1層目を薄くして分ける方がよく、1層目が厚いと窩底が剥がれることがあった
  • 講師が勧めるのは、窩底、象牙質の側壁、エナメル質の窩縁を分けて固める方法である。象牙質とエナメル質では接着の強さが違うためである

1層目の後に講師がSFRCを選ぶ理由

講師はライニングの後、象牙質の代わりにSFRC(everX)を使っている。講義で紹介された実験では、ひびが入っても粘りがあって一気には割れず、ひびの伝わりを抑える様子が示された。破折強度が上がり、致命的な破折が減るという研究も紹介されたが、健全歯に戻るわけではなく、臨床で割れないことを保証するものではない。

根管治療をした歯では、ガッタパーチャをCEJ付近で切ってその上をCRにするより、CEJから下5mmまでデュアルキュアのCRで埋める方が破折荷重が高く、そこをSFRCにするとさらに高い、という研究が紹介された。SFRCは補修にも強く、補修した所から壊れにくいという。

⑧光は思ったほど届いていない

  • 照射器の先端から離れると、光は大きく落ちる。高出力のLEDでも、距離が12mmになると半分ほどになる、と講義では紹介された。高出力の3秒照射は、距離があると全く足りなかった
  • 窩洞は歯髄まで約5mm、根管治療歯ならさらにその下まで削る。10mm以上離れることは普通にある。隣接面のボックスは5〜7mmの深さがあり、講義で示された目安では、底まで届かせるには2倍ほどの時間が要る。必要な時間は照射器・距離・材料で変わる
  • 傾けると届く光が減る。垂直に当てる
  • 講義で紹介された実験では、高出力の3秒照射は不十分で、標準的な照射器(1,200mW/cm²級)の20秒照射が最も深くまで硬化した
  • 講師は、使っている接着材(メガボンド2)の添付文書の「800〜1,400mW/cm²なら10秒」を、先端を近づけた条件の話と見ている。院内の照射器の設定で8mm先なら、10秒では足りないと考えている
  • 表示の出力どおりとは限らない。先端の汚れや電池の劣化で落ち、ある実習では1,600と表示された照射器が900だった。講師は、出力が落ちていれば、時間を延ばしても十分に固まらない可能性があると指摘した
  • 先端に付いたレジンや保護カバーでも光は落ちる。セラミックの下のレジンセメントには、光がごく一部しか届かない

「弱く長く」とCRの量についての講師の考え方

講義では、強い光ほど重合収縮応力が大きくなり、すき間ができやすいと説明された。講師は、紹介した照射の強さと時間の比較を踏まえ、同じ量の光なら、強く短くより弱く長く照射する方針を説明した。ただし、光量をそろえても同じ重合率になるとは限らず、材料・機器にかかわらず照射を弱めて時間で補えるという意味ではない。重合収縮は照射の後も続く。

講師は、重合収縮応力には光の量(強さ×時間)とCRの量が関わり、重合率のために光の量は減らせないと説明した。そのため、CRの量を減らす、つまり1層目を薄くする方法を勧めている。

ボンディング層の表面は酸素に触れて未重合になっている。1層目のCRが薄いと、そこまで光がよく届いて樹脂含浸層がしっかり固まる。1層目を確実に固めることで、その上に積んでいける。講師は、1回で10秒照射でき出力も高い照射器(スマートライトプロ)を使い、ボックスと1層目は2回当てている。

5分待つ(Decoupling with time)

講師は、1層目を薄く(0.5mmほど)ライニングして光を当てたら、5分待つことを勧める。重合収縮応力がかなり緩むからという。(編注:Alleman ほか〔2017〕の提案では待つ時間は5〜30分で、どの症例でも最適な時間として確かめられたものではない。)その間にカルテを書き、写真を撮り、隔壁やマトリックスを準備して時間を稼ぐ。

講師は、非常に深い窩洞ではデュアルキュアのレジンを使う方がよいと考えている。講義で紹介された実験では、光重合のバルクフィルは、2ステップのメガボンド2を使っても、光を当てた瞬間に窩底が剥がれることがあった。一方、デュアルキュアでは化学重合で樹脂含浸層が固まってから光を当てることで、剥がれにくくなると説明された。

術後に噛むと痛む症状は、窩底の接着が原因になっている可能性がある。噛んだ時に象牙細管の中の液が動いて痛む。深い窩洞ほど象牙質が薄く細管が太いので、接着はより慎重にする。

改良版の手順(講師の例)

講師が、使っている照射器(スマートライトプロ・1回10秒)で示した手順である。必要な照射時間は、照射器・材料・距離で変わる。

順 操作 照射
1 窩底に0.5mmのライニング 10秒
2 窩底から象牙質の側壁へ0.5mmのライニング 10秒(窩底は計20秒)
3 エナメル質の窩縁へ0.5mmのライニング 10秒(窩底は計30秒)
4 5分待ち、重合収縮応力が緩むのを待つ ―
5 象牙質の部分をSFRC(everX)で置き換えて積層充填 ―

⑨IDS——削った象牙質を、その日のうちに封じる

IDS(Immediate Dentin Sealing・即時象牙質封鎖)は、象牙質を削った直後にレジンで覆ってしまう方法である。

通常は「形成→印象→仮封→装着」と進み、その間象牙質は露出したまま、仮着材やセメントが象牙細管の中に入る。講義では、象牙細管に入った仮着材などの汚れは、装着の日にエアフロー等で清掃しても元に戻らないと説明された。

IDSでは、印象の前にボンディング材とフロアブルレジンで象牙質を封じる。印象材も仮着材もCRにしか触れない。講義では、CRの表面ならサンドブラストやグリシンのパウダーでほぼきれいになるので、間接修復でも直接修復とほぼ同じ接着強さが出ると説明された。一方、IDSで覆わず仮着材などで汚れた象牙質では、接着強さが大きく落ちるという。

以下は、講師が使用するメガボンドとフロアブルレジンで実践している手順の例である。

  • 講義では、本来のIDSはボンディング材を固めて終えると説明された。講師は、メガボンドの場合はフィラーが少なく、清掃や仮着材の除去で剥がれやすいと考え、フロアブルレジンを0.5mmほど重ねている(レジンコーティング)
  • 当日:ラバーダムか簡易防湿の下で形成→ボンディングとコーティングレジン0.5mm→エナメル質だけ仕上げの形成(エナメル質にはボンディング材を残さない)→グリセリンで覆って仮封
  • 装着の日:仮封を外し、仮着材をエアフローかアルミナで除去→ボンディング→接着
  • レジン系の仮着材はCRとくっつくので、分離材を塗る。ワセリンはムラになる

講師は以前、エナメル質が残らない歯頸部のマージンは象牙質のままにしていた。レジンのマージンになるのが嫌だったからだ。だがIDSの考え方に沿って、今は0.5mmのレジンマージンを許容して、そこもレジンで覆っている。

ただし、IDSと従来法(DDS)で臨床の成績にどれだけ差が出るかは、まだ研究が進んでいない。講義では、1年ほどではあまり差がないと紹介された。

  • 講師は、使っていたシラン配合の1本タイプの接着材について、ボトルの中のシランが十分に働かないと判断し、使うのをやめた
  • 講師は、仮着材の除去にエアフローを使う場合、グリシン系のパウダーを勧めている。講義では、粗いパウダーでは接着強さが落ち、アルミナのサンドブラストは良かったという研究が紹介された

講師はテーブルトップでIDSをする時、ラバーダムの前に咬合面を1.5mm落としてから、0.5mmのレジンコーティングを作っている。先に落としておかないと、後の形成でコーティングを全部削ってしまうためだと説明した。

⑩歯肉縁下へ——ディープマージンエレベーション

ひびを追っていくと、歯肉縁下へどんどん進むことがある。どこまで行けるのか。

マトリックスの工夫

  • トッフルマイヤーのリテーナーにディープマトリックスを組み合わせる。締めるほど下に入っていき、立ち上がりの形もちょうどよい
  • すき間ができないよう、テフロンテープやウェッジで圧接する
  • 一部分だけ特に深い時は、0.1mmの銅板(カッパーバンド)を差し込み、ディープマトリックスとの間にテフロンテープを入れて圧接する

講義で示された症例では、余分な歯肉を取り除き、まず下の部分をディープマトリックスで作り、その上をコンタクト用のマトリックスで作るという、2段階で立ち上げる方法が示された。

生物学的幅径との関係

骨の上の付着(生物学的幅径)は平均約2mmで、ここにマージンが入ると炎症や支持組織の喪失につながる。歯肉が薄ければ歯肉退縮に、厚ければ骨の吸収と深いポケットになりやすい。形成の前に、麻酔下で骨頂まで測っておく。

CRには上皮が付着しないと考えられてきたので、CRの下端から1mmの上皮性付着と1mmの結合組織性付着を見込み、骨は2mm下がるはずだとされていた。ところが講義では、CRのマージンから骨頂まで1mmを12か月後も保っていたという報告が紹介された。CRの表面に上皮が付着している可能性を示す書き方で、生体外の実験でもCR表面への上皮細胞の付着が起きているという。

骨頂から1mmまでなら、外科処置なしでディープマージンエレベーションができるかもしれない。これは講師の見解で、確立した安全基準ではない。

ただし、隣接面では歯肉退縮より骨の欠損になりやすい。ポケットを定期的に測り、炎症が続くようならクラウンレングスニングを考える。

まとめ——クラックの追い方

  1. 歯髄の炎症が不可逆でないことを確かめる
  2. 弱った歯を覆うかを考える
  3. 講師は、象牙質に入ったひびを原則として取りきる方針である。ただし歯髄の方向は、講義の目安(咬合面から5mm・エナメル象牙境から3mm)より先へは攻めない
  4. 歯肉縁下は、骨頂から1mmくらいまでならディープマージンエレベーションで対応できるかもしれない(講師の見解)
  5. 失った象牙質を、確実な接着で作り直す。そして経過を見る

質疑応答

Q. ディープマージンエレベーションの後、研磨はできますか?

A. 歯肉縁下は研磨できません。ただ、マトリックスバンドが接して酸素を遮っている部分は、研磨しなくても一応大丈夫と考えています。隣接面はストリップスでしっかり研磨します。

Q. 維持形態のあるクラウンにも、IDSは要りますか?

A. 接着の強さを最大にする目的は「取れないようにする」ことです。支台の高さが4mmあるクラウンなら、そもそも取れにくく、接着にそこまでこだわる理由は小さいと思います。理論上は接着強さが上がりますが、臨床で意味のある差が出るかは別の問題です。テーブルトップは接着に頼る修復なので、IDSの意味が大きくなります。

Q. インレーでIDSをしても、最終の形成で象牙質が出てしまいませんか?

A. その通りで、インレーでは完全には難しいです。ただインレーはもともとエナメル質に囲まれた窩洞なので、そこまでこだわらなくてもよいと考えています。できる範囲でレジンコーティングはしています。

Q. エナメル質だけのひびも追いますか?

A. 追いません。エナメル質だけのひび(クレーズライン)は治療の対象ではなく、追うのは象牙質に入ったひびです。切削したエナメル質の面にひびが入っていても、象牙質に入っていなければ追いません。もちろん、隣接面などで支えを失ったエナメル質は除去します。

Q. マージンの近くに象牙質のひびがある時はどうしますか?

A. 悩ましい所で、追うと縁下へ進み、かえって弱くなるのではという迷いがあります。ただ頬舌側の歯頸部寄りのひびは、力のかかり方からあまり進行しないと考えています。近遠心のひびなら、追ってもよいと思っています。研修で見た症例でも、頬舌側のひびは追わずに、その上にテーブルトップを載せていました。追えば、ほとんどクラウンになってしまいます。

Q. ひびの原因(開咬など)はどう考えますか?

A. 原因によって、咬頭を覆う可能性が上がっていくと考えます。きれいに分類できるものではありません。

Q. 普段の充填で、どこまでこの手順をやっていますか?

A. 5分は待っていませんが、ほぼ全部やっています。MO窩洞なら、窩底にCRを置き、窩底から象牙質の側壁、エナメル質の窩縁と順に固め、マトリックスとリングを入れ、コンタクトの部分を一括で作り、象牙質の部分をeverXで置き換えます。コンタクトの準備をしている間に3〜4分は経ちます。ラバーダムがなくても、簡易防湿(ZOO)でできます。

テイクホームメッセージ

  • ゴールはひびを治すことではなく、ひびを進ませずに歯を使い続けること
  • 講師は、象牙質に入ったひびを原則として取りきる方針である。ただし歯髄と歯根膜を傷つけるところまでは追わない
  • 可逆性歯髄炎なら、まず保存的な処置を考える(100本中80本が根管治療を要しなかった報告がある)
  • 幅が広い・深い・ひびがある・大臼歯の根管治療歯は、咬頭を覆うことを考える
  • 講義で示された操作では、エッチングしたエナメル質は擦らない。象牙質を擦る方法は1ステップでの研究として紹介され、講師はメガボンド2でもプライマーで象牙質を擦り、ボンディングにはマイルドなエアを使っている
  • 講師は1層目を薄くし、窩底・側壁・エナメル窩縁を分けて固め、5分待つ手順を勧めている
  • 光は距離・傾き・汚れで大きく落ちる。垂直に、十分な時間
  • 治療上の利益が確かでない工程は足さない(KISSの法則)

理解度チェッククイズ(全10問)

第1問 講義で紹介された報告で、初診時にひびに伴う可逆性歯髄炎と診断された100本のうち、根管治療が要らなかったのは何本か。
A. 50本 B. 80本 C. 95本 D. 30本

第2問 ペリフェラルシールゾーンは、エナメル象牙境からどの範囲の帯か。
A. 0.5mm B. 1mm C. 5mm D. 2mm

第3問 失った象牙質の部分を支える、間接修復の下の接着の土台を、講義では何と呼んだか。
A. バイオベース B. バイオドーム C. バイオリム D. テンションリング

第4問 IDS(Immediate Dentin Sealing)とはどのような方法か。
A. 印象の後に象牙質へ仮着材を塗る方法 B. 装着の日にだけボンディングする方法 C. 象牙質を削った直後にレジンで封じる方法 D. 歯肉縁下のマージンをCRで持ち上げる方法

第5問 ひびの除去の原則として、講義の考え方に合うものはどれか。
A. 症状がなければ削らない B. 原則として取りきるが、露髄や歯根膜を侵すリスクがあれば手前で止めて接着で覆う C. エナメル質だけのひびも必ず追う D. 歯肉縁下まで必ず追いきる

第6問 講義で示されたリン酸エッチングとボンディングの操作として正しいものはどれか。
A. エッチングしたエナメル質は擦らず、象牙質は擦る B. エッチングしたエナメル質も象牙質も強く擦る C. 隣接面のエナメル質ほど長くエッチングする D. 1ステップのボンディングは強いエアで短く飛ばす

第7問 深さ3mmの窩洞をCRで充填する。講義の考え方に最も合うのはどれか。
A. 浅いので一括で充填してよい B. バルクフィルなら1層目の厚さは気にしなくてよい C. 窩底を厚めに一度で固めて時間を節約する D. 1層目を薄くライニングし、窩底・側壁・エナメル窩縁を分けて固める

第8問 照射器の先端からボックスの底まで7mmある。講義の考え方に最も合うのはどれか。
A. 高出力モードの3秒照射で足りる B. 添付文書の10秒を守れば距離は関係ない C. 照射時間を延ばし、先端を垂直に当てる D. 斜めから当てて広く照らす

第9問 SLDP法のような追加の工程について、講師が引いた考え方はどれか。
A. KISSの法則(治療上の利益が確かでない工程は無理に足さない) B. 全症例で必ず行う C. 1ステップのボンディングとだけ組み合わせる D. 次亜塩素酸の作用時間は長いほどよい

第10問 講師がIDSの考え方を取り入れてから変えたことはどれか。
A. 歯頸部のマージンは象牙質のまま残すようにした B. エナメル質が残らない歯頸部のマージンも、0.5mmのレジンマージンを許容してレジンで覆うようにした C. IDSはボンディング材だけで終えるようにした D. 仮着材の分離材にワセリンを使うようにした

解答と解説

第1問 B(80本)
15本は初診時に根管治療となり、残りを保存的な手順で治療して、100本中80本が根管治療を要しなかった。講師は、根管治療が必要になる可能性も併せて、先に患者さんへ説明している。

第2問 D(2mm)
エナメル象牙境から2mmの帯は、完全に健全な象牙質を出す。ここが修復物の封鎖を担う。

第3問 A(バイオベース)
上の部分がバイオドーム、歯頸部の帯がバイオリムで、その間で支える接着の土台がバイオベースである。

第4問 C(象牙質を削った直後にレジンで封じる方法)
印象材や仮着材が象牙細管に入る前に封じるので、講義では間接修復でも直接修復とほぼ同じ接着強さが出ると説明された。Dはディープマージンエレベーションの説明。

第5問 B
講師は、ひびの進行を抑えるため原則は取りきるが、露髄や歯根膜を侵すリスクがあれば手前で止め、接着でしっかり覆う方針である。エナメル質だけのひびは追わないとしている。

第6問 A
講義では、エッチングしたエナメル質の粗い面は擦ると壊れるため、擦らないと説明された。象牙質を擦る方法は1ステップのボンディングでの研究として紹介され、講師もメガボンド2のプライマーで象牙質を擦っている。

第7問 D
講義で紹介された実験では、3mmでも一括で充填すると窩底が剥がれることがあった。講師は、バルクフィルでも1層目を薄くし、窩底・側壁・エナメル窩縁を分けて固める方法を勧めている。

第8問 C
光は距離と傾きで大きく落ちるので、ボックスの底まで届かせるには時間を延ばし、垂直に当てる。講師は、使っている接着材の添付文書の時間を先端を近づけた条件と見ており、必要な時間は材料・照射器・距離で変わる。

第9問 A
時間の超過や還元剤の忘れといった操作の誤りを考えると、治療上の利益が確実でない工程は、今で十分な所に無理に足さない。

第10問 B
講義では、象牙細管に入った仮着材などの汚れはエアフロー等で清掃しても元に戻らないと説明され、講師はエナメル質が残らない所も0.5mmのレジンマージンを許容してレジンで覆うようにした。メガボンドではフロアブルを重ね、分離材はワセリンだとムラになる。

今日のひとこと

講師は、象牙質に入ったひびを歯髄と歯根膜を傷つけない範囲で原則として取りきり、取りきれない所を接着で封じて覆う方針を採っている。接着の差は材料だけでなく、一つずつの操作と時間のかけ方からも生まれる、というのが講師の考えである。

本記事は、プライムデンタルネット会員向けの勉強会「クラック」(2026年10月26日開催)の内容を、参加できなかった方向けに再構成したものです。講義中に紹介された研究の数値は発表者の解説に基づく概要で、一部は原著で確かめて編注を付けました。判断にあたっては必ず原著をご確認ください。製品名は開催時点のものです。

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