接着修復|二次う蝕・接着界面・酸塩基抵抗層(ABRZ)・う蝕影響象牙質
修復物のまわりに二次う蝕ができる。接着で封鎖しているはずなのに、なぜ起きるのか。東京医科歯科大学のグループが、クリアフィルSEボンドで接着した界面を人工的な酸で攻めたあと、アルゴンイオンで削り出してSEMで見ました。すると、ハイブリッド層の「下」に、酸にもアルカリにも溶けずに残る層があった。これが酸塩基抵抗層(ABRZ)です。しかもう蝕影響象牙質では、この層が健全象牙質より厚く出ていました。ただし象牙質そのものの硬さは低い。
①封鎖しているのに、なぜ二次う蝕ができるのか
接着修復は、窩洞辺縁を封鎖して二次う蝕から守る——そう習います。それでも二次う蝕による再修復は、いまだに減っていません。
では界面では実際に何が起きているのか。接着層の下の象牙質は、酸に対してどう振る舞うのか。東京医科歯科大学のグループが、接着界面を人工的な酸で攻めてから、断面を削り出して覗きました。
②どうやって「見えない層」を見たか
この研究の面白さは、方法にあります。
- 材料:クリアフィルSEボンド(2ステップ・セルフエッチングプライマー系。フッ素無配合)+レジンコンポジット(メタフィルFlo)
- 被着体:抜去したヒト第三大臼歯——う蝕のないもの6本と、象牙質う蝕のあるもの6本。1mm厚のディスクにしてサンドイッチした標本を作る。う蝕影響象牙質は視診・探針の硬さ・う蝕検知液の3つを組み合わせて判定し、比較的硬く淡く染まる層を残して実験側とした
- 酸塩基チャレンジ:CaCl₂・NaH₂PO₄・酢酸を含むpH4.5の緩衝脱灰液に90分(人工的な二次う蝕を作る)→ 5%次亜塩素酸ナトリウムに20分(脱灰したコラーゲンを溶かして構造を見やすくする)
- 描出:研磨面をアルゴンイオンビームで7分エッチングしてハイブリッド層を浮き上がらせ、金蒸着してSEM観察
- 硬さ:酸塩基チャレンジを受けていない別の標本をナノインデンテーション(荷重5gf・圧痕点数n=10)で、象牙質側からコンポジット側へ順に測定。SEM側・硬さ側とも各群3標本
研磨中に接着層の縁が欠けてしまう問題があったため、酸塩基処理のあとにスーパーボンドC&Bを表面に置いて保護してから研磨しています。細かいけれど、これで界面がきれいに観察できるようになった、と著者らは書いています。
③ハイブリッド層の「下」にあった層
酸塩基チャレンジによって、象牙質の表面には10〜15μmの脱灰層(外側病変)ができました。ここは健全とう蝕影響で差がありません。
接着した部分を見ると、レジンコンポジットとボンディング材の上面は、酸塩基チャレンジで変化していませんでした(ボンディング層の厚みは約10μm)。ハイブリッド層は約1μmで、その上面も傷んでいない。ただし考察では「う蝕影響象牙質のハイブリッド層はやや厚かった」とも書かれており、ここは原著の中で記述が揺れています。
そしてハイブリッド層のさらに下に、溶けずに残っている層が見えた。これがABRZです。健全象牙質で約1μm、う蝕影響象牙質ではより厚い——う蝕影響象牙質のほうが厚いという、直感に反する結果でした。
ただし数値は正直に読む必要があります。う蝕影響象牙質のABRZの厚みを、原著は結果の項で「約2μm」、考察で「約1.5μm」と書いており、同じ論文の中で一致していません。いずれにせよSEM像から読み取ったおおよその値で、統計的な比較は行われていません。
著者らの解釈はこうです。SEボンドの酸性モノマー(MDP)が、従来報告されていたよりも深くまで浸透している。ABRZは、浸透したモノマーと象牙質からできていると述べられています。そしてう蝕影響象牙質のほうが健全象牙質より深くモノマーが入る——ただし著者らがそこから明示的に導いているのは「う蝕影響象牙質のハイブリッド層が厚くなる」という結論のほうで、ABRZが厚くなる理由としては書かれていません。
④厚いけれど、軟らかい
ナノ硬さを測ると、別の顔が見えます。なおこの測定は酸で攻めていない標本で行われており、ABRZは「この位置にあるはずだ」と推定して測っている点に注意が要ります。
象牙質そのものは、健全57 MPa に対しう蝕影響36 MPaと有意に低い(p<0.05)。ハイブリッド層の2μm下、つまりABRZが想定される位置でも、健全のほうが有意に高いという結果でした。
ただしう蝕影響象牙質の中だけで見ると、話は逆になります。著者らは「う蝕影響象牙質では、ハイブリッド層の2μm下の領域が、同じう蝕影響象牙質の他の部位より高いナノ硬さを示した」と書いています。軟らかいはずのう蝕影響象牙質の中に、硬い帯がある——これが、ABRZの実在を硬さの面から裏づける所見になっています。
いっぽうハイブリッド層そのものでは、健全とう蝕影響のあいだに差がありません(p>0.05)。レジンコンポジット(35 対 37 MPa)とボンディング材(29 対 25 MPa)にも差はありません(いずれもp>0.05)。二元配置分散分析では、ナノ硬さが象牙質の種類(F=61.80)と測定位置(F=28.01)の両方から影響を受けていました(いずれもp<0.05)。
まとめると、う蝕影響象牙質のABRZは、健全象牙質のそれより厚いが、健全象牙質と比べれば軟らかい。ただし、う蝕影響象牙質そのものよりは硬い。著者らの結論は「モノマーは深く浸透してハイブリッド層を作っているが、その物性は象牙質の状態に依存する」です。厚さと強さは別の話だ、ということになります。
⑤明日の臨床へ
- 「封鎖できているか」を、辺縁だけで考えない。この研究が見せたのは、接着界面の下に酸に耐える帯ができうるという構造です。二次う蝕の話を、辺縁の隙間だけで語らなくてよい根拠になります。
- う蝕影響象牙質を残す判断の、補助線として使える。残した層の上でもABRZは形成されていました。むしろ厚く、しかもその位置は周囲のう蝕影響象牙質より硬かった。ただし健全象牙質と比べれば軟らかいので、そこに健全と同じ強さは期待しない。
- これは2ステップ・セルフエッチングプライマー系で、フッ素無配合の材料での所見。SEボンドはフッ素を含みません。つまりフッ素の徐放ではない仕組みで、酸に耐える帯ができていたことになります。フッ素徐放性の材料と混同しない。
- 厚さを効果の指標にしない。う蝕影響象牙質のABRZが厚かったからといって、そちらが強いわけではありませんでした。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
抜去したヒト第三大臼歯(う蝕のないもの6本・象牙質う蝕のあるもの6本)の健全象牙質とう蝕影響象牙質にクリアフィルSEボンド(2ステップ・セルフエッチングプライマー系・フッ素無配合)とレジンコンポジットを接着し、片方の標本群を人工的な二次う蝕を作る緩衝脱灰液(pH4.5)に90分浸漬したうえで5%次亜塩素酸ナトリウムに20分入れ、アルゴンイオンビームで7分エッチングしてSEM観察した。もう片方の群はナノインデンテーションで硬さを測った。酸塩基チャレンジで作られた外側の脱灰層は10〜15μmで、健全とう蝕影響のあいだに差は無かった。ハイブリッド層の上面は酸塩基チャレンジで傷んでいなかった。厚みは結果の項では両群とも約1μmと書かれているが、考察では「う蝕影響象牙質のほうがやや厚い」とされている。そしてハイブリッド層の下に酸塩基抵抗層(ABRZ)が観察され、健全象牙質では約1μm、う蝕影響象牙質ではより厚かった——ただしその値は結果の項が約2μm、考察が約1.5μmと、原著の中で記述が割れている。ナノ硬さは、酸塩基チャレンジを受けていない別の標本で測っている。象牙質そのものは健全57 MPa 対 う蝕影響36 MPaで有意差あり(p<0.05)。ただしう蝕影響象牙質の中で見ると、ハイブリッド層の2μm下(ABRZに相当する位置)は、同じう蝕影響象牙質の他の部位より硬かった——著者らはこれをABRZの実在を硬さの面から裏づける所見としている。ハイブリッド層では両者に差が無く(p>0.05)、レジンコンポジット(35 対 37 MPa)とボンディング材(29 対 25 MPa)にも差は無かった。二元配置分散分析では、ナノ硬さが象牙質の種類(F=61.80)と測定位置(F=28.01)の両方に影響を受けていた(いずれもp<0.05)。著者らは、SEボンドのモノマーが従来報告されていたより深く浸透してハイブリッド層を作っているが、その物性は象牙質の状態に依存する、と結論している。


