接着修復|レジン強化型グラスアイオノマー・ワンボトル接着材・象牙質前処理
レジン強化型グラスアイオノマー(RmGIC)の象牙質接着を上げたい。前処理を変えれば伸びるのではないか——そう考えて、ブラジルの研究グループが、抜去ヒト第三大臼歯80本で4つの条件を比べました。各社の指示どおり、リン酸エッチング、そしてワンボトル接着材2種。結果は、同じ材料の中では4条件のあいだに有意差が出ませんでした。いっぽう2製品の差は、どの条件でも消えませんでした。著者らの結論は「接着強さは表面処理よりも材料に依存しているようだ」。ただしこの試験には「素の象牙質」の群が無いので、前処理そのものの要否を問うた研究ではありません。
①前処理を変えれば、接着は伸びますか
レジン強化型グラスアイオノマー(RmGIC)を象牙質に着ける。付属のプライマーやポリアクリル酸で前処理して盛る——それが指示どおりの手順です。
ただ、RmGICの象牙質接着は決して強くありません。硬化時の収縮もある。前処理をもっと積極的にすれば伸びるのではないかという発想は自然です。リン酸でしっかりエッチングする、あるいはワンボトルの接着材を挟む。
ブラジルの研究グループが、この問いを抜去ヒト第三大臼歯80本で正面から測りました。
②2製品 × 4条件
- 被着体:抜去ヒト第三大臼歯80本。8群・各10本。#320と#600の耐水研磨紙でスミヤー層を規格化した平坦な表層象牙質、接着面は直径3mm
- 材料:ビトレマー(3M/ESPE)とフジII LC Improved(GC)
- 前処理4条件:①各社の指示どおり(ビトレマー=専用プライマーを30秒スクラブし30秒光照射/フジII LC=GCデンティンコンディショナー(10%ポリアクリル酸)を20秒)②リン酸エッチング(ビトレマー=35%リン酸15秒のあとに専用プライマー/フジII LC=37%リン酸15秒のみ)③37%リン酸+Prime & Bond 2.1(Dentsply)④35%リン酸+Single Bond(3M/ESPE)
- 条件:37±1℃の脱イオン水に24時間保管後、万能試験機でせん断接着試験(クロスヘッド速度0.5mm/分)
- 解析:二元配置分散分析+Tukey検定(P<0.05)。破断面は実体顕微鏡40倍で観察
足しているのはどちらもワンボトル(1本入り)タイプの接着材です。ここが結果を読むうえで重要になります。
もうひとつ押さえておきたいのは、「何も前処理しない素の象牙質」の群が無いことです。①の「指示どおり」も、専用プライマーやポリアクリル酸を使っています。つまりこの試験が問うたのは「4通りの前処理のあいだに差があるか」であって、「前処理が要るか」ではありません。そしてリン酸の条件は、材料ごとに中身が違います——ビトレマーはリン酸のあとにプライマーを塗っており、フジII LCはリン酸だけ。表の同じ列に並んでいても、同じ処理ではないのです。
③前処理では動かなかった
ビトレマーは7.22/6.80/7.16/8.53 MPa。フジII LC Improvedは10.56/9.50/12.49/10.61 MPa。
同じ材料の中で、4条件のあいだに有意差はありませんでした(P>0.05)。ワンボトル接着材を足しても、統計学的には動いていない。数字としてはフジのPrime & Bond 2.1(12.49)が高めですが、そのばらつき(SD 3.48)を考えると差とは言えない範囲です。
ひとつだけ方向が見えるのは、リン酸のあとに接着材を組み合わせなかった条件です。ビトレマー6.80・フジ9.50と、どちらも4条件の中で最も低い。有意差ではありませんが、著者らも「リン酸を、その後の接着材と組み合わせずに用いたときに低い値になった」と書き、機序としてカルシウムの過剰な除去・深すぎる脱灰・象牙細管液の流出を挙げています。
④消えなかったのは、材料の差だった
フジII LC Improvedは、どの前処理条件でもビトレマーより有意に高い(P<0.05)。差は2.08〜5.33 MPaで、前処理を変えても縮まりませんでした。
著者らはこの材料差の説明を2つ挙げています。ひとつはHEMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)の濃度で、液での比較はフジII LCが40%、ビトレマーが20%。濡れ性の差につながる、という読みです。もうひとつはスミヤープラグの扱いで、ビトレマーのプライマーはスミヤー層は除去できてもスミヤープラグまでは除去できないのに対し、フジII LCは象牙細管の開口部にタグを作ると述べています。
破断様式も一貫していました。どちらの材料でも、どの前処理でも、接着破壊が優勢。混合破壊はビトレマー対照群の2試料とフジII LC対照群の1試料のみで、材料内の凝集破壊はひとつもありませんでした。常に界面が先に負けているという構図は、前処理を変えても変わらなかったわけです。
⑤明日の臨床へ
- ワンボトル接着材を「念のため」足すのは、この実験では報われなかった。工程が1つ増えるコストに対して、統計学的な裏づけは得られていません。
- リン酸で脱灰したあと、そこを埋める処理を省かない。リン酸のあとに接着材を組み合わせなかった2群が、それぞれ4条件の最低値でした。有意差ではありませんが、方向としては不利です。
- 製品選択のほうが効く可能性がある。この実験ではフジII LC Improvedが一貫して高い値でした。前処理を工夫するより、材料そのものを見直すほうが動く余地が大きい、という読み方ができます。
- ただし「ボンディングは無意味」と一般化しない。この研究が試したのはワンボトル型2種だけで、多ステップ型は含まれていません。著者ら自身も、結論の射程をこの2種に限っています。接着材の型が違えば、答えも変わりうると考えておくのが安全です。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
抜去ヒト第三大臼歯80本を8群(各10本)に分け、2種類のレジン強化型グラスアイオノマー(ビトレマー/フジII LC Improved)を4つの前処理条件で象牙質に接着し、37±1℃の脱イオン水に24時間保管したあとせん断接着強さを測った(クロスヘッド速度0.5mm/分)。前処理の中身は材料ごとに異なる。ビトレマーは①指示どおり=ビトレマープライマー30秒スクラブ+30秒光照射、②35%リン酸15秒+ビトレマープライマー、③37%リン酸+Prime & Bond 2.1、④35%リン酸+Single Bond。フジII LC Improvedは①指示どおり=GCデンティンコンディショナー(10%ポリアクリル酸)20秒、②37%リン酸15秒のみ、③④はビトレマーと同じ。せん断接着強さ(MPa)は、ビトレマーが7.22/6.80/7.16/8.53、フジII LC Improvedが10.56/9.50/12.49/10.61。二元配置分散分析とTukey検定の結果、フジII LC Improvedはどの条件でもビトレマーより有意に高かった(P<0.05)。いっぽう同じ材料の中では、前処理どうしに有意差は無かった(P>0.05)——ただしリン酸のあとに接着材を組み合わせなかった2群(ビトレマー6.80・フジ9.50)は、それぞれ4条件の最低値だった。破断様式は接着破壊が優勢で、混合破壊はビトレマー対照群の2試料とフジII LC対照群の1試料のみ、凝集破壊はゼロ。著者らの結論は「今回試したワンボトル接着材は、RmGICの象牙質接着強さを改善しなかった」「接着強さは表面処理よりも材料に依存しているようだ」。考察では、フジII LCのほうがHEMA濃度が高い(液で40%対20%)ことに加え、ビトレマープライマーはスミヤー層は除去できてもスミヤープラグを除去できないこと、フジII LCは象牙細管開口部にタグを作ることが材料差の説明として挙げられている。なお素の象牙質と比べた群は無い。


