接着修復|間接修復・IDS(即時象牙質シーリング)・仮封・微小引張接着
インレーやアンレーの形成で象牙質が広く露出したとき、ボンディングをいつ行うか。伝統的には、仮封期間を経てセットのときにまとめて接着します。ところが南カリフォルニア大学が測ったところ、この「後日シール」の微小引張接着強さは11.58 MPaにとどまりました。形成直後にシールしてから印象を採った群は58.25 MPaで、直接修復のコントロール55.06 MPaと差がありません。2週間の仮封をはさんでも、先に塞いでおけば接着は落ちなかったのです。
①ボンディングは、いつ塗りますか
アンレーやオーバーレイの形成で、象牙質が大きく露出する。ここに接着するのは分かっている。問題はいつ塗るかです。
伝統的な手順はこうです。形成 → 印象 → 仮封 → 技工 → セットの日に、仮封を外してそこでボンディングと合着をまとめて行う。これを後日象牙質シーリング(DDS)と呼びます。象牙質を早く塞いでしまうと、その厚みの分だけ修復物が浮くのではないか——そんな懸念もあって、これが標準でした。
それに対して即時象牙質シーリング(IDS)は、形成した直後、印象を採る前にボンディングを済ませてしまう考え方です。南カリフォルニア大学のMagneらが、この2つを実験室で正面から比べました。
②3つの群を、どう作ったか
新鮮なヒト抜去大臼歯15歯を、5歯ずつ3群に。接着材は全群でOptiBond FL(3ステップ・エッチ&リンス型/フィラー入りの接着レジン)です。
- コントロール:形成直後にそのまま接着し、Z100を1.5mmずつ積層充填。仮封期間なし=接着の理想条件
- IDS群:形成直後に接着(エッチ→プライマー→ボンド→重合)。さらにグリセリンジェリーで空気を遮断して10秒追加照射し、酸素阻害層まで重合させる。ワセリンで隔離して仮封を2週間、生理食塩水中に保管。その後、仮封を外しシールされた象牙質をエアアブレーションで清掃して修復
- DDS群:先に仮封を2週間、生理食塩水中に保管。仮封を外してエアアブレーションで清掃してから接着(エッチ→プライマー→ボンド)し、修復
2週間の仮封と、仮封除去後のエアアブレーションによる清掃はIDSとDDSで共通です。主要な違いはボンディングを仮封の前にやるか後にやるか——ただしIDS群にはグリセリンによる追加重合とワセリンによる隔離が加わり、合着直前の処理も両群で異なります。
試験はノントリミング型の微小引張試験。1歯から11本のビーム(0.9×0.9×11mm)を切り出し、24時間の水中保管後に測定しました。
③即時シールは、後日シールの約5倍だった
コントロール55.06 MPa、IDS 58.25 MPa、DDS 11.58 MPa。Kruskal-Wallis検定で3群に差があり(P=.0081)、Mann-Whitney検定ではDDSだけが他の2群より有意に低い(P=.008)。コントロールとIDSのあいだに差はありませんでした。
ここが大事なところです。IDS群は2週間の仮封を経験しているのに、仮封をまったく経験していない直接修復と同じ強さを保っている。先に塞いでおけば、仮封期間は接着を損なわないということになります。
④平均値より、ばらつきのほうが恐ろしい
DDS群の標準偏差は11.19で、平均値11.58とほぼ同じ大きさです。歯ごとに見ると理由が分かります。26.52/1.00/17.81/0.36/12.20 MPa——5歯のうち2歯が1 MPa未満、つまりほとんど荷重をかけないうちに壊れたのです。
いっぽうIDS群は56.54/61.96/53.61/60.43/58.69で、標準偏差は3.28。全部が高い値にきれいにそろっています。著者らは、この「ほぼゼロ荷重での破断」がDDS群の大きなばらつきの原因で、他の群にはそうした例が無かったと書いています。
臨床の言葉に翻訳すると、DDSは「平均が低い」のではなく「ときどき決定的に失敗する」ということです。平均11.58という数字より、こちらのほうが重い。
⑤どこで壊れたか
DDSは98%が界面破壊でした。ただしこの論文の「界面破壊」は、接着材と象牙質のあいだで完全に割れた場合だけでなく、接着材から象牙質やコンポジットへ進展した混合破壊も含む分類です。それでも、歯質だけで壊れた例が2%しかないことは、接着面が弱い側だったことを示しています。
対してIDSは界面49%・象牙質内49%。半分は歯質の中だけで壊れている——接着界面より歯のほうが先に負ける状態です。コントロールも界面62%・象牙質内34%と、同じ方向の分布でした。
SEMの所見も一致します。どの群でも3〜5μmの整ったハイブリッド層とレジンタグは形成されていました。つまりハイブリッド層ができていないわけではない。違ったのはその上で、DDSではハイブリッド層と上のレジンのあいだに隙間が頻繁に見られ、明らかな断裂を示していたのです。コントロールとIDSでは、そうした不連続はまれでした。
⑥なぜDDSは負けるのか
著者らが挙げる理由の筆頭は「新鮮切削面こそが象牙質接着の理想の被着体である」ことです。形成直後の象牙質と、2週間仮封の下に置かれた象牙質は、別物になっている。仮封材の成分による汚染は、さまざまな仮着セメントで接着強さの有意な低下を起こすことが知られています。
この研究ではDDS群もエアアブレーションで清掃してから接着しています。それでも11.58 MPaでした。清掃では取り戻せないということです。
著者らがDDSの低値についていちばん強く挙げている機序は別にあります。後日シールでは、合着のときに未重合のハイブリッド層が修復物を圧接する力で潰れてしまう——これがDDS群の低い接着強さと、SEMで見えた「ハイブリッド層と上のレジンのあいだの断裂」の両方をうまく説明する、というものです。
もうひとつは時間の使い方です。IDSでは修復物の装着が後ろ倒しになるぶん、接着が応力のかからない状態で成熟し、残留応力が散逸できると著者らは述べています。先に塗るから収縮応力を遮れる、という話ではありません——実際、IDSでも合着直前に塗る接着レジンは未重合のままにします(重合させると修復物が完全に適合しなくなるため)。
加えて著者らは、シーラントの膜厚に関する懸念も解消されると述べています。重合済みの接着層60〜80μm、凹面では200〜300μmという厚みが完全な適合を妨げうるのですが、先に塞いでから印象を採ればその厚みは最初から模型に写るからです。
⑦明日の臨床へ
- 象牙質が広く露出した形成では、その日のうちに塞ぐ。印象の前に済ませておけば、2週間の仮封を経ても接着は落ちませんでした。
- 酸素阻害層まで重合させる。この研究のIDS群は、グリセリンジェリーで空気を遮断して10秒追加照射しています。塗って重合して終わり、ではありません。
- セット時にはシール面を清掃する。IDS群も仮封除去後にエアアブレーションを行っています。塞いだ面をそのまま合着しているわけではない。
- 「後日シール」の怖さは平均値ではなく、ばらつきにある。5歯のうち2歯が1 MPa未満でした。うまくいく日といかない日がある、という性質のほうを警戒する。
- 仮封材との接着に注意する。著者らが明記している実務上の注意です。シールした象牙質面はレジン系の仮封材や仮着材と接着してしまうため、ワセリンを厚く塗るなどの分離材で確実に隔離し、レジン系の仮着材は避ける。塞いだあとに仮封が外れなくなる、という事故がここにあります。
- ただしこれは接着材の指定つきの結果。著者らが推奨しているのは3ステップ・エッチ&リンス型でフィラー入りの接着レジンです。すべてのボンディング材で同じ結果になるとは書かれていません。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
新鮮なヒト抜去大臼歯15歯を5歯ずつ3群に分け、3ステップ・エッチ&リンス型の象牙質接着材(OptiBond FL)を全群で用いて、微小引張接着強さ(μTBS)を比べた。コントロールは直接修復として形成直後に接着。IDS(即時象牙質シーリング)群は形成直後に接着し、グリセリンジェリーで酸素阻害層まで重合させてから仮封を2週間置き、生理食塩水に浸漬。DDS(後日象牙質シーリング)群は先に仮封を2週間置き、そのあとで接着した。両群とも仮封除去後にアルミナ/シリカのエアアブレーションで清掃している。24時間後のμTBSは、コントロール55.06 MPa、IDS 58.25 MPa、DDS 11.58 MPa。Kruskal-Wallis検定で3群に差があり(P=.0081)、DDSのみが有意に低かった(P=.008)。コントロールとIDSのあいだに差は無い。DDS群のばらつきが大きかった理由は、5歯のうち2歯が1.00 MPa・0.36 MPaとほぼ荷重ゼロで壊れたためで、他群にこうした例は無かった。破断様式は、DDSが界面破壊98%に対し、IDSは界面49%・象牙質内49%。SEMではどの群も3〜5μmの整ったハイブリッド層が見られたが、DDSではハイブリッド層と上のレジンのあいだに明らかな断裂と隙間が頻繁に観察された。著者らは、測ったのは初期接着強さであり耐久性については何も言えない、と明記している。


