カリオロジー|フッ化物洗口・濃度・アドヒアランス
フッ化物洗口といえば、学校で監督下に行うのが王道です。では家庭で、その5分の1の濃度で、毎晩ひとりでやったらどうなるか。1978年、仙台市の3小学校で行われた2年間の比較は、濃度でも監督でもなく「続いたかどうか」で結果が割れることを、これ以上ないほどはっきり示しました。家庭で0.01%NaF液(フッ化物イオンにして約45ppm)を毎晩使い切った子は、DMFが28.6〜32.0%減少。ところが途中でやめた子には、ほとんど効果がありませんでした。一方、学校で監督下に0.05%NaF液(約225ppm)を使った群は14.5〜29.6%の減少——濃度は5倍でも、成績は上回っていません。
①フッ化物洗口は、学校でやるものなのか
日本のフッ化物洗口は、学校単位・監督下という形で広まってきました。理由ははっきりしています。子どもは、家では続けないからです。
では、こう考えたらどうでしょう。濃度を思い切り下げて、飲み込んでも心配のない液にすれば、家庭で毎晩できるのではないか。
1978年、仙台市の3小学校で行われた2年間の比較は、まさにこれを試しています。しかも結果は、予想とは少し違う場所を照らし出しました。
②3つの小学校を、3つの群に
対象は仙台市内の3小学校の学童(6〜10歳)。学校ごとに群を割り当て、2年間追跡しました。
- A群=対照群:洗口なし
- B群=監督なしの家庭洗口:家庭で毎晩、0.01%NaF液10mLで30秒洗口するよう指導
- C群=監督下の学校洗口:毎学校給食後、学校教師の監督下で0.05%NaF液(約225ppmF)7〜10mLで30秒洗口
- 参加人数は対照群429名・家庭洗口群316名・学校洗口群439名
- ⚠️ここが大事です。家庭洗口群は「毎晩、就寝前に歯を磨いて残った歯磨剤を十分に出してから洗口する」よう指導されています。つまりB群にだけ「毎晩の就寝前ブラッシング」という別の介入が乗っている
開始前の3群のう蝕状況は、おおむね均衡が取れていました。ただし原著は偏りの向きまで書いています——対照群のDMF状況がわずかに低く、家庭洗口群の男子は平均年齢が他群より高いためDMF有病状況も高い、という傾向です。
評価は歯科診査により、新生DMFT率(実験期間内の新生DMFT数 ÷〔開始時健全永久歯数+期間内萌出永久歯数の半分〕)と新生DMFS率を算出。歯の生え替わりを分母で補正する、丁寧な指標です。
③そして、群が割れた
ここからがこの研究のいちばん興味深いところです。予定どおりに事は運びませんでした。
B群(家庭洗口)では、途中で脱落する子がきわめて多く、しかもその多くが短期間でやめていました。そのため著者らは、B群を完了群と中止群に分けて解析せざるを得なくなります。
その内訳が強烈です。完了群は男34名・女22名の計56名。中止群は男135名・女125名の計260名——つまり316名のうち2年間やり通せたのは56名(17.7%)だけでした。この記事の看板である「28.6〜32.0%の減少」は、この56名の数字です。
幸い、この2群のあいだに開始時の平均年齢・平均永久歯数・DMF状況の差はありませんでした。少なくとも「もともとう蝕が少ない子だけが続けた」という説明では片づかないということです(ただし測られていない習慣の違いまでは否定できません)。
そしてC群(学校洗口)でも、2年間を振り返る質問紙で「よくできなかった」と答えた子が半数以上いました。理由を教師を通じて調べると——
- 低学年:洗口がうまくできなかった
- 高学年:丁寧にしなかった、ときどきサボった
監督下でも、この有様だったわけです。C群も協力良群と協力不良群に分けて検討されました。
④45ppmで、約30%減った
- B群の完了群:DMF減少率 28.6〜32.0%(統計学的に有意)
- B群の中止群:減少率 4.2〜−1.6%——いずれの指標にも統計学的有意差はなく、事実上無効
- C群:DMF減少率 14.5〜29.6%(統計学的に有意)
B群の完了群と中止群のあいだのDMF増量の差も、統計学的に有意でした。同じ指導を受け、同じ液を渡された子どもたちのあいだで、続けたかどうかだけで結果が割れたということです。
そしてB群完了群の減少効果は、C群のそれより大きかった——ただし著者らは慎重で、新生DMFS率以外では両者の差は統計学的に有意ではなかったと明記しています。「低濃度のほうが優れている」とまでは言えず、「5倍の濃度差があっても、成績で負けていない」と読むのが正確です。
ここで、著者らがこの差をどう説明しているかが重要です。洗口の回数がまるで違うのです。
- 家庭洗口の完了群:週4.99回、2年間で平均520回(0.01%NaF)
- 学校洗口:2年間で合計340回(0.05%NaF)
原著の総括はこうです——「0.05%NaFで洗口回数340回の学校洗口群より、0.01%NaFで洗口回数が平均520回の家庭洗口完了群の減少率が大きかった」。そして結論として「洗口回数の多いことが大切と思われた」。著者らは濃度ではなく「回数」で説明している——ここを取り違えないようにしたいところです。
著者らの結論は簡潔です。「0.01%NaF液による毎日1回の洗口でのDMFの減少は約30%で、統計学的に有意」。
⑤なぜ、低濃度でも届いたのか
フッ化物のう蝕予防作用の主役は、歯面とプラーク中に低濃度のフッ化物イオンが「居続けること」にあります。高濃度を短時間ぶつけることではありません。
- 頻度:毎晩=2年で約520回。学校洗口の340回を大きく上回る。著者らが挙げている説明も、この回数です
- (以下は一般論であり、原著が述べている機序ではありません)就寝前は唾液分泌が落ち、口腔内にフッ化物が残りやすい。また45ppmでも、脱灰・再石灰化の平衡を再石灰化側へ傾けるには足りうる
低濃度にはもう一つ、実務上の利点があります。飲み込みへの不安が下がることです。家庭で、保護者の目の届かないところで毎晩やらせる——この設計は、濃度が低いからこそ成立しています。
⑥明日の臨床へ
- 「濃度が足りないから意味がない」と決めつけない。約45ppmの毎晩1回で、約30%の減少が報告されている
- 差を作るのは、続くかどうか=回数。同じ液・同じ指導で、完了群と中止群のあいだに有意差が出た。著者らの結論も「洗口回数の多いことが大切」
- 「監督下だから大丈夫」でもない。学校洗口群でも半数以上が「よくできなかった」と答えている
- 低学年には手技そのものが難しい。うまくできなかった、という声が実際に出ている。分注や姿勢の指導を省かない
- 続けられる形を、濃度より先に設計する。この研究がいちばん強く示しているのは、そこだと思います
今日のひとこと
濃度を5分の1に下げても、続けさえすれば効果は落ちなかった。落ちたのは、続かなかった子のほうだった。仙台市内の3小学校の学童(6〜10歳)を学校別に3群へ分け、2年間追跡しました。A群=洗口なしの対照群、B群=監督なしの家庭洗口(毎晩0.01%NaF液10mLで30秒)、C群=監督下の学校洗口(毎学校給食後に0.05%NaF液7〜10mLで30秒)。開始前のう蝕状況は3群でよく均衡していました。ところがB群では途中で中止する子がきわめて多く、完了群と中止群に分けざるを得ませんでした(両群の開始時の年齢・永久歯数・DMF状況に差はなし)。結果は、B群の完了群でDMF減少率 28.6〜32.0%(単純平均30.8%・統計学的に有意)、B群の中止群は 4.2〜−1.6% でいずれの指標にも有意差なし。ただし316名のうち2年間やり通せたのは56名(17.7%)だけです。C群では14.5〜29.6%の減少(有意)。B群完了群の減少効果はC群のそれより大きかったものの、新生DMFS率以外では両者の差は有意ではありませんでした。洗口回数は家庭洗口の完了群が2年間で平均520回、学校洗口は合計340回。著者らはこの差を濃度ではなく回数で説明し、結論も「洗口回数の多いことが大切と思われた」です。また著者らは「家庭洗口群における就寝前の刷掃励行による効果の関与を否定することはできない」「プラセボ対照を置けず、二重盲検でも盲検記録でもなかった」と明記しています。なおC群でも、質問紙で「よくできなかった」と答えた子が半数以上——低学年は「うまくできなかった」、高学年は「丁寧にしなかった・時々サボった」。著者らの結論は「0.01%NaF液による毎日1回の洗口でのDMFの減少は約30%で、統計学的に有意」。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


