1問1答 論文 歯周病

プラークスコアが8.5%でも、深いポケットの中では病気が進んでいた

1問1答 論文 歯周病

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ブラッシングが上達し、染め出しもきれいになった。歯肉の色も良い。これで歯周病は止まるのか——重度の患者さんを前にしたとき、この問いは切実です。1998年、Westfeltらは同じ口の中を左右に分け、片側は「縁上のプラークコントロールだけ」、反対側は「縁上+縁下SRP」で3年間追いました。プラークスコアは両側とも1割前後まで下がった。それでも縁上だけの側では、9.4%の部位でアタッチメントロスが進行していた

論文
The effect of supragingival plaque control on the progression of advanced periodontal disease
著者
Westfelt E, Rylander H, Dahlén G, Lindhe J
掲載
Journal of Clinical Periodontology 1998;25(7):536-541
種類
3年間のスプリットマウス比較試験。進行した歯周炎の12人で、同一患者内の2象限を「縁上のみ」、対側2象限を「縁上+縁下SRP」として比較した
PMID
9696252

「よく磨けています」——それで安心していいのか

重度の歯周炎の患者さんが、ブラッシングを本当に頑張ってくれた。染め出しはほとんど染まらない。歯肉の色も引き締まってきた。

ここで手を止めていいのか。縁上のプラークが徹底的にコントロールできていれば、縁下の病気も止まるのか

1998年、イエテボリ大学のWestfeltとLindheが、この問いに真正面から答えました。方法が実に鮮やかです。同じ患者さんの口の中を左右に分け、片側は縁上のプラークコントロールだけ、反対側は縁上+縁下SRP。同一人物の中で比べるので、喫煙も、全身状態も、免疫応答も、清掃の熱心さも揃います。これを3年間続けました。

先に結論: プラークスコアは両側とも64%前後から1割前後まで落ち、その差に統計的な意味はなかった。それでもアタッチメントロスが進行した部位は、縁上のみで9.4%、縁下SRPありで1.9%6mmを超えるポケットに限れば32%対2.7%という開きになりました。

同じ口の中を、左右で分ける

対象は40〜65歳、進行した歯周炎(Hugoson & Jordan分類のgroup 4)をもつ12人。全身疾患がなく、各顎に10歯以上残っており、3年間通院できることが条件でした。12人のうち9人が喫煙者(1日10〜45本)というのも、実臨床に近い集団です。

ベースラインの検査ののち、次のように進めました。

  • 全4象限に縁上スケーリングと個別の口腔衛生指導を実施
  • 各患者で左右どちらか2象限を「テスト側」=縁上プラークコントロールのみに設定
  • 対側2象限を「コントロール側」=出血のある全部位に縁下SRP(局所麻酔下で4〜5回のセッション)
  • 口腔衛生指導とプラークコントロールの練習は最初の3か月は2週ごと、その後は3か月ごとに3年間

再評価は12・24・36か月。途中で2mm以上のアタッチメントロスが起きた部位は、テスト側であっても縁下SRPを行い、そこで観察を打ち切る——という倫理的な配慮も入っています。

つまりこの試験の「テスト側」は、放置されたわけではありません。3年にわたり、2週〜3か月ごとに専門的なプラークコントロール指導を受け続けた側です。条件としてはかなり恵まれています。

プラークは同じように落ちた。しかしBOPは落ちなかった

0 13.3% 26.7% 40% 3年後の値(%) 8.5% 12.3% 32.5% 10.3% 5.3% 0.3% プラークのある歯面 BOP陽性の部位 6mm超のポケット 開始時はプラーク64.3% / 63.5%、BOP 63.4% / 63.3%と両群ほぼ同じだった。3年後、プラークの落ち具合に差はない(有意差なし)のに、BOPと深いポケットには大きな差がついた(それぞれP<0.001、P<0.01)
3年後の状態。プラークの落ち具合に差はないのに、BOPと深いポケットには大きな差がついた

まずプラークです。開始時はテスト側64.3%、コントロール側63.5%の歯面にプラークがありました。3年後はテスト側8.5%、コントロール側12.3%

どちらも見事に落ちています。そして両群の差は、どの再評価時点でも統計的に有意ではありませんでした。むしろ数字の上ではテスト側のほうがきれいなくらいです。

ところが、歯肉の反応は違いました。

  • BOP陽性部位:テスト側 63.4% → 32.5%/コントロール側 63.3% → 10.3%(P<0.001)
  • 3mmを超えるポケット:テスト側 54.4% → 38.1%/コントロール側 54.5% → 23.8%(P<0.001)
  • 6mmを超えるポケット:テスト側 8.0% → 5.3%/コントロール側 11.0% → 0.3%(P<0.01)

コントロール側では深いポケットがほぼ消えました(11.0%→0.3%)。一方テスト側は、8.0%から5.3%へ——3年かけて、わずかしか減っていません。

そして、3年で9.4%の部位が失われた

0 12% 24% 36% 3年間で2mm以上のアタッチメントロスが起きた部位(%) 9.4% 1.9% 13% 3.8% 32% 2.7% 全部位 4〜6mmのポケット 6mmを超えるポケット 同一患者内で2象限ずつを比較したスプリットマウス試験(12人・3年)。深いポケットほど差が開き、6mmを超えるポケットでは縁上のみの群の32%でアタッチメントロスが進んだ
3年間で2mm以上のアタッチメントロスが起きた部位の割合。深いポケットほど差が開く

この論文の核心はここです。3年間で2mm以上のアタッチメントロスが起きた部位(loser sites)を数えました。

  • テスト側:628部位中59部位(9.4%)
  • コントロール側:668部位中13部位(1.9%)

これを開始時のポケットの深さ別に分けると、構図がはっきりします。

  • 4mm未満:テスト 2%/コントロール 0%
  • 4〜6mm:テスト 13%/コントロール 3.8%
  • 6mm超:テスト 32%/コントロール 2.7%

3mm以上という、より厳しい基準で見ても同じです(テスト 2.9% vs コントロール 0.1%)。そしてテスト側の「進行した部位」はすべて、4mm以上のポケットで起きていました

さらに、失われた59部位のうち42部位は単根歯、17部位は臼歯。根分岐部だけの問題ではないということです。

なぜ、縁上だけでは足りないのか

細菌のデータが、その理由を示しています。

総菌数(TVC)は、テスト側で10.8×10⁶から4.1×10⁶へ減りました(約60%減)。縁上のプラークコントロールは、確かに縁下の細菌量も減らしています。

しかし菌の顔ぶれは変わりませんでしたP. gingivalisが明確に減ったのはコントロール側だけ(9.6→0.4)で、テスト側は8.3→6.8とほとんど動いていません。他の4菌種は、どちらの側でも臨床所見と対応する変化を示しませんでした。

著者らはこの結果を、先行研究との違いから説明しています。縁上プラークコントロールが縁下の細菌叢を変えたと報告した研究(McNabb 1992、Dahlén 1992、Hellström 1996など)の対象は軽度〜中等度の歯周炎でした。一方この試験の対象は複数の骨縁下欠損をもつ進行例です。

ポケットが深ければ、ブラシの毛先も、縁上の環境変化も、そこまで届かない。歯肉縁から数ミリ下は、縁上とは別の世界だということです。

明日の臨床へ

この論文から持ち帰れることは、はっきりしています。

  • プラークスコアの良さを、治療の到達点にしない。テスト側はプラーク8.5%という優秀な数字を保ちながら、9.4%の部位を失っている。清掃状態と歯周組織の安定は、別の指標
  • 4mm以上のポケットが残っているなら、縁下に手を入れる。この試験で進行した部位は、すべて4mm以上のポケットで起きた。逆に言えば、浅い部位は縁上のコントロールでよく守られている
  • 「指導を続けているから大丈夫」とは言えない。テスト側は3年間、2週〜3か月ごとに指導を受け続けていた。それでも進行した。頻度や熱心さでは代替できない
  • BOPは正直な指標。プラークスコアが同じでも、BOPは32.5%対10.3%と3倍以上の差がついた。縁下で何が起きているかは、BOPのほうがよく映す

患者さんへの説明としても使えます。「歯磨きは本当に上手になりました。ただ、ブラシの毛先が届くのは歯肉の縁から1〜2mmまでです。そこから深い場所は、器械で触らないときれいにできません」。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの注意: 対象はわずか12人で、しかも進行した歯周炎の患者に限られています(うち9人が喫煙者)。軽度〜中等度の歯周炎では、縁上プラークコントロールだけでも縁下の細菌叢が変化したという報告が複数あり、この結論をすべての患者に広げることはできません。またスプリットマウス法には、片側の処置が対側に影響しうるという原理的な限界もあります。それでも、同一人物の中で3年間追いかけ、プラークスコアが同等でも結果が分かれることを示した設計の切れ味は格別です。「縁上をどれだけ頑張っても、深いポケットは別問題」——この一文の根拠として、今も引用され続けている理由がよく分かります。

今日のひとこと

進行した歯周炎の12人で、同じ口の中の左右を分けて3年追った。片側は縁上のプラークコントロールだけ、反対側は縁上に加えて縁下SRPプラークの付着面は両側とも64%前後から1割前後まで落ち、その差に統計的な意味はなかった。ところが結果は分かれた。3年間で2mm以上のアタッチメントロスが起きた部位は、縁上のみで9.4%、縁下SRPありで1.9%6mmを超えるポケットに限れば32%対2.7%と差は決定的になる。BOP陽性部位も32.5%対10.3%、6mm超のポケットも5.3%対0.3%。著者らは「縁上プラークコントロールのみでは、進行した歯周病の患者において、さらなる歯周組織の破壊を防げない」と結論した。プラークスコアの良さは、深いポケットの中の安全を保証しない

出典:Westfelt E, Rylander H, Dahlén G, Lindhe J. The effect of supragingival plaque control on the progression of advanced periodontal disease. J Clin Periodontol 1998;25(7):536-541. PMID: 9696252
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。