ペリオ|ペリオ論文100選
ブラッシングが上達し、染め出しもきれいになった。歯肉の色も良い。これで歯周病は止まるのか——重度の患者さんを前にしたとき、この問いは切実です。1998年、Westfeltらは同じ口の中を左右に分け、片側は「縁上のプラークコントロールだけ」、反対側は「縁上+縁下SRP」で3年間追いました。プラークスコアは両側とも1割前後まで下がった。それでも縁上だけの側では、9.4%の部位でアタッチメントロスが進行していた。
①「よく磨けています」——それで安心していいのか
重度の歯周炎の患者さんが、ブラッシングを本当に頑張ってくれた。染め出しはほとんど染まらない。歯肉の色も引き締まってきた。
ここで手を止めていいのか。縁上のプラークが徹底的にコントロールできていれば、縁下の病気も止まるのか。
1998年、イエテボリ大学のWestfeltとLindheが、この問いに真正面から答えました。方法が実に鮮やかです。同じ患者さんの口の中を左右に分け、片側は縁上のプラークコントロールだけ、反対側は縁上+縁下SRP。同一人物の中で比べるので、喫煙も、全身状態も、免疫応答も、清掃の熱心さも揃います。これを3年間続けました。
②同じ口の中を、左右で分ける
対象は40〜65歳、進行した歯周炎(Hugoson & Jordan分類のgroup 4)をもつ12人。全身疾患がなく、各顎に10歯以上残っており、3年間通院できることが条件でした。12人のうち9人が喫煙者(1日10〜45本)というのも、実臨床に近い集団です。
ベースラインの検査ののち、次のように進めました。
- 全4象限に縁上スケーリングと個別の口腔衛生指導を実施
- 各患者で左右どちらか2象限を「テスト側」=縁上プラークコントロールのみに設定
- 対側2象限を「コントロール側」=出血のある全部位に縁下SRP(局所麻酔下で4〜5回のセッション)
- 口腔衛生指導とプラークコントロールの練習は最初の3か月は2週ごと、その後は3か月ごとに3年間
再評価は12・24・36か月。途中で2mm以上のアタッチメントロスが起きた部位は、テスト側であっても縁下SRPを行い、そこで観察を打ち切る——という倫理的な配慮も入っています。
つまりこの試験の「テスト側」は、放置されたわけではありません。3年にわたり、2週〜3か月ごとに専門的なプラークコントロール指導を受け続けた側です。条件としてはかなり恵まれています。
③プラークは同じように落ちた。しかしBOPは落ちなかった
まずプラークです。開始時はテスト側64.3%、コントロール側63.5%の歯面にプラークがありました。3年後はテスト側8.5%、コントロール側12.3%。
どちらも見事に落ちています。そして両群の差は、どの再評価時点でも統計的に有意ではありませんでした。むしろ数字の上ではテスト側のほうがきれいなくらいです。
ところが、歯肉の反応は違いました。
- BOP陽性部位:テスト側 63.4% → 32.5%/コントロール側 63.3% → 10.3%(P<0.001)
- 3mmを超えるポケット:テスト側 54.4% → 38.1%/コントロール側 54.5% → 23.8%(P<0.001)
- 6mmを超えるポケット:テスト側 8.0% → 5.3%/コントロール側 11.0% → 0.3%(P<0.01)
コントロール側では深いポケットがほぼ消えました(11.0%→0.3%)。一方テスト側は、8.0%から5.3%へ——3年かけて、わずかしか減っていません。
④そして、3年で9.4%の部位が失われた
この論文の核心はここです。3年間で2mm以上のアタッチメントロスが起きた部位(loser sites)を数えました。
- テスト側:628部位中59部位(9.4%)
- コントロール側:668部位中13部位(1.9%)
これを開始時のポケットの深さ別に分けると、構図がはっきりします。
- 4mm未満:テスト 2%/コントロール 0%
- 4〜6mm:テスト 13%/コントロール 3.8%
- 6mm超:テスト 32%/コントロール 2.7%
3mm以上という、より厳しい基準で見ても同じです(テスト 2.9% vs コントロール 0.1%)。そしてテスト側の「進行した部位」はすべて、4mm以上のポケットで起きていました。
さらに、失われた59部位のうち42部位は単根歯、17部位は臼歯。根分岐部だけの問題ではないということです。
⑤なぜ、縁上だけでは足りないのか
細菌のデータが、その理由を示しています。
総菌数(TVC)は、テスト側で10.8×10⁶から4.1×10⁶へ減りました(約60%減)。縁上のプラークコントロールは、確かに縁下の細菌量も減らしています。
しかし菌の顔ぶれは変わりませんでした。P. gingivalisが明確に減ったのはコントロール側だけ(9.6→0.4)で、テスト側は8.3→6.8とほとんど動いていません。他の4菌種は、どちらの側でも臨床所見と対応する変化を示しませんでした。
著者らはこの結果を、先行研究との違いから説明しています。縁上プラークコントロールが縁下の細菌叢を変えたと報告した研究(McNabb 1992、Dahlén 1992、Hellström 1996など)の対象は軽度〜中等度の歯周炎でした。一方この試験の対象は複数の骨縁下欠損をもつ進行例です。
ポケットが深ければ、ブラシの毛先も、縁上の環境変化も、そこまで届かない。歯肉縁から数ミリ下は、縁上とは別の世界だということです。
⑥明日の臨床へ
この論文から持ち帰れることは、はっきりしています。
- プラークスコアの良さを、治療の到達点にしない。テスト側はプラーク8.5%という優秀な数字を保ちながら、9.4%の部位を失っている。清掃状態と歯周組織の安定は、別の指標
- 4mm以上のポケットが残っているなら、縁下に手を入れる。この試験で進行した部位は、すべて4mm以上のポケットで起きた。逆に言えば、浅い部位は縁上のコントロールでよく守られている
- 「指導を続けているから大丈夫」とは言えない。テスト側は3年間、2週〜3か月ごとに指導を受け続けていた。それでも進行した。頻度や熱心さでは代替できない
- BOPは正直な指標。プラークスコアが同じでも、BOPは32.5%対10.3%と3倍以上の差がついた。縁下で何が起きているかは、BOPのほうがよく映す
患者さんへの説明としても使えます。「歯磨きは本当に上手になりました。ただ、ブラシの毛先が届くのは歯肉の縁から1〜2mmまでです。そこから深い場所は、器械で触らないときれいにできません」。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
進行した歯周炎の12人で、同じ口の中の左右を分けて3年追った。片側は縁上のプラークコントロールだけ、反対側は縁上に加えて縁下SRP。プラークの付着面は両側とも64%前後から1割前後まで落ち、その差に統計的な意味はなかった。ところが結果は分かれた。3年間で2mm以上のアタッチメントロスが起きた部位は、縁上のみで9.4%、縁下SRPありで1.9%。6mmを超えるポケットに限れば32%対2.7%と差は決定的になる。BOP陽性部位も32.5%対10.3%、6mm超のポケットも5.3%対0.3%。著者らは「縁上プラークコントロールのみでは、進行した歯周病の患者において、さらなる歯周組織の破壊を防げない」と結論した。プラークスコアの良さは、深いポケットの中の安全を保証しない。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


