1問1答 論文 虫歯

同じ228ppmでも、プラークに届いたフッ素は2倍違った

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|う蝕の病因(フッ素)

歯磨剤の裏面を見ると、フッ化ナトリウム(NaF)と書かれているものと、モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)と書かれているものがあります。同じ1450ppmなら、どちらでも同じなのか——2000年、Vogelらは12人に228ppmの洗口液で両方を経験させ、プラークの内側のフッ素を2時間追いました。唾液の値はどちらも2時間で元に戻る。ところがプラークの中ではNaFのほうが一貫して高く、プラークを丸ごと測れば30分後で23対10.7μg/gと2倍以上の開きがついていた

論文
Fluoride in Plaque Fluid, Plaque, and Saliva Measured for 2 hours after a Sodium Fluoride/Monofluorophosphate Rinse
著者
Vogel GL, Mao Y, Chow LC, Proskin HM
掲載
Caries Research 2000;34(5):404-411
種類
12人のクロスオーバー試験。同一被験者がNaF洗口とNaMFP洗口の両方を1週間以上あけて経験し、プラーク液・プラーク全体・唾液のフッ素濃度を洗口前と30・60・120分後に測定
対象
27〜56歳の成人12人(男性10・女性2)。義歯も未処置の窩洞もなく、フッ化物添加水道水の地域在住

「フッ素1450ppm」の、その先を聞かれたら

歯磨剤を勧めるとき、たいていは濃度の話で終わります。「1450ppmのものを選んでください」。

ところが裏面の成分表示を見ると、フッ化ナトリウム(NaF)と書かれているものと、モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)と書かれているものがあります。同じ1450ppmなら、どちらでもいいのか。患者さんに聞かれて、答えに詰まったことはないでしょうか。

この2つは、フッ素の届け方がそもそも違います。NaFは口に入った瞬間からフッ化物イオンとして働く。一方MFPは、フッ素がリン原子と結合した状態で入っていて、酵素で分解(加水分解)されてはじめてフッ素が出てきます。

2000年、米国歯科医師会の研究財団に所属するVogelらが、この違いがプラークの内側でどう出るのかを測りました。唾液ではなく、プラーク液——脱灰と再石灰化が実際に起きている、歯面に接した液体のほうです。

先に結論: 同じ228ppmで洗口しても、プラーク液のフッ素はNaFのほうが一貫して高く、30分時点で148対99μmol/l。プラークを丸ごと測れば23対10.7μg/gと2倍以上の開きになります。ただしMFP側には「まだ分解されていないMFP」が相当量残っており、それが後から効く可能性を著者らは指摘しています。

唾液ではなく、プラークの中の液を測る

この論文の値打ちは、測定対象の選び方にあります。

フッ化物の臨床試験は、たいてい唾液のフッ素濃度で比べます。採りやすいからです。しかし歯が溶けたり治ったりしているのは唾液の中ではなく、プラークと歯面のあいだにある、ごく薄い液体(プラーク液)の中です。この論文は、そこを直接測りました。

参加したのは27〜56歳の成人12人(男性10・女性2)。義歯も未処置の窩洞もなく、フッ化物添加水道水の地域に住み、ふだんからフッ素入り歯磨剤を使っている人たちです。

  • 48時間ブラッシングとフロスを中止し、プラークを溜めてもらう
  • 一晩絶食のうえ来院し、洗口前のプラーク・唾液を採取
  • 12mmol/l(228ppm F)のNaF洗口液、またはNaMFP洗口液で1分間洗口
  • 30分後・60分後・120分後に、上下の臼歯・小臼歯からプラークを採り、唾液も採取
  • 同じ被験者が、1週間以上あけてもう一方の洗口も経験する(クロスオーバー)

採ったプラークは油の中で遠心分離して、液体部分(プラーク液)と固形部分に分けます。プラーク液は5〜15ナノリットル——マイクロピペットで扱う極小の世界です。固形部分は酸で抽出して、プラーク全体のフッ素量を出しました。

228ppmという濃度は、1000〜1500ppmの歯磨剤で1分間ブラッシングした30秒後に観察された最大値に近く、市販の洗口液の濃度ともおおむね一致します。同じ人の中で比べているので、唾液の量も、プラークの性質も、食生活も揃っているのが強みです。

プラーク液の中では、NaFが一貫して勝った

0 56.7 113.3 170 プラーク液中のフッ素濃度(μmol/l) 11.8 12.2 99 148 31 43 16.6 25 洗口前 30分後 60分後 120分後 同一の12人が両方の洗口を経験(228ppm F・1分間)。30分・60分・120分のいずれもNaFが有意に高い(p<0.05)。値は上下臼歯部位を合わせた平均

プラーク液中のフッ素濃度。30・60・120分のいずれもNaFが有意に高い(p<0.05)

洗口前は両群とも12μmol/l前後で、差はありません。ところが洗口後は差がつきました。

  • 30分後:NaMFP 99±73 / NaF 148±77μmol/l
  • 60分後:NaMFP 31±21 / NaF 43±25μmol/l
  • 120分後:NaMFP 16.6±7.5 / NaF 25±13μmol/l

いずれもNaFが有意に高い(p<0.05)。プラークを丸ごと測った値でも同じで、30分後は23対10.7μg/gと2倍以上の開きがありました。

0 9 18 27 プラーク全体のフッ素量(μg/g) 1.9 1.8 10.7 23 10.1 21 5.8 11.6 洗口前 30分後 60分後 120分後 プラークを丸ごと酸抽出して測ったフッ素量。120分後もベースラインの約6倍が残る(NaF)。洗口後の全時点でNaFが有意に高い(p<0.05)

プラーク全体のフッ素量。120分後もベースラインの約6倍が残っている(NaF)

もう1つ、臨床的に効いてくる観察があります。唾液のフッ素は120分でほぼ元の値に戻るのに対し、プラーク液とプラーク全体は上がったままだったことです。NaFでは、プラーク全体のフッ素が2時間後もベースラインの約6倍を保っていました。

プラークは、フッ素をいったん抱え込んで手放さない貯蔵庫として働いている——そう読めます。実際、プラーク液のフッ素濃度は唾液よりはるかに高く、下顎臼歯部では120分時点で唾液の7.9倍(NaF)にもなっていました。

MFPは「まだ分解されずに」残っていた

ではMFPは単に劣るのか。ここからが、この論文のもう一つの読みどころです。

著者らはフッ化物イオンだけでなく、分解されていないMFPそのものも測りました(酵素を加えて強制的に分解し、増えた分から逆算する方法)。すると、NaMFP洗口の後には相当量のMFPが未分解のまま残っていたのです。

  • プラーク液中の総フッ素に占める未分解MFPの割合:30分後 28%、60分後 20%、120分後 14%
  • 唾液では 34%、26%、20%

ここは慎重に読む必要があります。未分解のMFPを足した「総フッ素」で比べても、NaMFPがNaFを上回った時点はありません。総フッ素で有意差が残ったのは120分のプラーク液だけで、そこでも高かったのはNaFのほうでした。未分解MFPを足すと差が縮まる、というのが正確な言い方です。

それでも著者らがこの観察を重く見たのは、プラークの中にMFPがそのまま残っているという事実そのものにあります。先行研究の拡散・加水分解モデルは、プラーク内に相当量のMFPが残ると予測していました。そしてMFPの加水分解は、プラークの中やエナメル質の微小な孔の中でも起こりうる。もしそこで遅れてフッ素が放たれるなら、フッ化物イオンの濃度を測るだけでは見えない働きがあることになります。著者らが「NaMFP歯磨剤の効果を高める新しい機序があるかもしれない」と結んでいるのは、この可能性を指しています。

一方でプラーク全体(固形部分)を見ると、NaMFP洗口30分後に未分解MFPとして残っていたのは10%未満でした。プラーク液には残るが、プラークの固形成分には取り込まれにくい。両者の振る舞いは、場所によっても違うということです。

明日の臨床へ

  • 「同じ濃度なら同じ」とは言い切れない。フッ化物イオンとしてプラークに届く量は、洗口後のどの時点でもNaFのほうが多かった。未分解MFPを足しても、NaMFPがNaFを上回る時点はない
  • この論文だけでどちらかを勧める根拠にはならない。これは2時間の濃度測定であって、う蝕がどれだけ減るかを見た試験ではない。実際、著者らも「この測定値と臨床成績のあいだに明確な相関がない」と正直に書いている
  • 唾液のフッ素濃度で製品を比べる議論は、割り引いて聞く。唾液は2時間で戻るのに、プラーク側は残る。しかも下顎臼歯部の120分値で見ると、プラーク全体と唾液の比はNaFで2.8、NaMFPで1.3と製剤によって違った。唾液の値からプラークの値は推測できない
  • フッ素が長く残る場所はプラークである。この試験が示したのは濃度の推移までですが、プラークが貯蔵庫として働くのなら、洗口後に強くうがいをしすぎない・就寝前に使うといった工夫を考える手がかりになります(この試験自体がそれを検証したわけではありません)

ここだけ、冷静に補助線

読むときの注意: 対象はわずか12人で、しかも義歯も未処置の窩洞もない成人に限られます。標準偏差が平均を上回る項目さえあり(120分後のプラーク全体、NaFで11.6±12.3)、個人差はかなり大きい。何より、これはフッ素の濃度を測った研究であって、う蝕の発生を比べた研究ではありません。「プラーク液のフッ素が高い=う蝕が減る」という橋渡しは、この論文の中では証明されていません。それでも、唾液という測りやすい代用品ではなく、脱灰と再石灰化が実際に起きている場所を直接測ろうとした姿勢と、「効かないように見えるMFPが、実は形を変えて留まっていた」という発見は、製品選択の議論をひとつ深いところへ連れて行ってくれます。

今日のひとこと

同じ228ppmのフッ素濃度で、NaF洗口とNaMFP洗口を同じ12人が経験した。再石灰化の現場であるプラーク液の中では、洗口後のすべての時点でNaFのほうが有意に高かった(30分後 148 対 99μmol/l、60分後 43 対 31、120分後 25 対 16.6)。プラークを丸ごと測った値でも同じ傾向で、30分後は23対10.7μg/gと2倍以上の開き。一方唾液のフッ素は120分でほぼベースラインに戻るのに、プラーク側は上がったままで、NaFでは開始時の約6倍が残っていた。そしてNaMFPでは、分解されないままのMFPがプラーク液に残っており、30分後のフッ素の28%を占めていた。ただし未分解MFPを足した総フッ素で比べても、NaMFPがNaFを上回る時点はない(有意差が残った120分のプラーク液でも高いのはNaF)。それでもプラーク内にMFPがそのまま留まるという観察自体が、フッ化物イオンの濃度だけでは見えない働きの存在を示唆している——著者らはそう考察している。

出典:Vogel GL, Mao Y, Chow LC, Proskin HM. Fluoride in plaque fluid, plaque, and saliva measured for 2 hours after a sodium fluoride/monofluorophosphate rinse. Caries Res 2000;34(5):404-411. PMID: 11014907
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。