ペリオ|Phase2 歯周外科
歯肉退縮にくさび状欠損(NCCL)が重なった複合欠損。従来は根面まで全部を修復してから被覆し、修復物の50〜80%が軟組織に埋まりました。では、失敗したときにどう直すのか。2017年、Silveiraらは修復を「歯冠部分+根面1mm」に絞り、しかも外科の1週間前に済ませるという組み替えを試しました。
①くさび状欠損を伴う退縮を、どこまで詰めるか
上顎犬歯の唇側。歯肉が下がり、そこにくさび状欠損(NCCL)が重なっている——この「複合欠損」は珍しくありません。退縮症例のおよそ半分は、歯頸部の歯質欠損を伴うと報告されています。
厄介なのは、根面が健全な退縮とは戦略が変わる点です。従来の多分野アプローチは、NCCLの根面部分まで全部を修復してから、歯冠側移動弁(CAF)単独または結合組織移植(CTG)併用で被覆するという順序でした。治癒後には修復物の50〜80%が軟組織に覆われます。
ここに、いくつかの困りごとが残ります。修復物が失敗したとき、外科をやり直さないと再修復できないのではないか。NCCLの根尖側マージンは歯肉縁下にあることが多く、ラバーダム防湿のためにフラップを開けた術中に修復することになり、チェアタイムが伸びる。レジン強化型グラスアイオノマーで修復した長期報告では、変色率の高さも指摘されています。
②マージンを「推定CEJの1mm根尖側」に置く
この研究の肝は、修復の範囲をどこで切るかにあります。
先行するZucchelliらの提案は、修復物の根尖側マージンを「最大根面被覆ライン(=推定CEJの位置)」に一致させるというものでした。理屈は通っていますが、もし完全根面被覆に届かなかった場合、修復物と歯肉縁の間に根面が露出してしまう。二層法(bilaminar technique)の完全被覆率は研究によって10〜89%と幅があるため、これは現実的なリスクです。
そこで著者らはプロトコルを1mmずらしました。マージンを推定CEJのさらに1mm根尖側に置く——こうすれば、被覆が100%に届かなくても、露出面が生じにくい。歯肉が薄い、乳頭が薄いといった、完全被覆が難しい解剖学的条件では、とくに有用な修正だと述べています。
対象は10名(男性6・女性4、24〜58歳、平均36.26±9.2歳)。全員が非喫煙者で、上顎犬歯または小臼歯にClass I・IIの退縮+NCCL(B+欠損)を有する症例です。研究前にプラークコントロールプログラムを完了し、軟毛ブラシによる非外傷性のブラッシング指導と、酸性の飲食物を控える助言を受けています。
③修復してから、1週間おいて外科へ
手順はこうです。まず推定CEJの位置を隣在歯・対側歯と照合して決め、そこから1mm根尖側を修復のマージンとします。局所麻酔下でラバーダム防湿を行い、NCCLの切縁側に段差を減らすためのベベルを付与。37%リン酸で30秒エッチング、脱水を避けるため滅菌綿球で乾燥させ、ユニバーサル接着材を能動的に塗布して20秒光照射、コンポジットレジンで適切なエマージェンスプロファイルを与えて充填します。研磨は48時間後にダイヤモンドペーストとフェルトディスクで仕上げ。
外科は、修復の1週間後。台形のCAFで、口蓋から採取した薄く小さなCTGを完全に覆う設計です。露出根面は、NCCLの根尖側の縁が滑らかになるまで愛護的にスケーリング・ルートプレーニングし、CTGを修復マージンのすぐ根尖側に縫合、弁を歯冠側に移動して修復マージンより1〜2mm歯冠側まで被覆します。
術後は鎮痛薬と、30日間の術野ブラッシング中止、0.12%クロルヘキシジン1日2回。抜糸は7日目でした。
④6か月後、70%が覆われた
複合欠損の高さ(CDH)は平均3.00±0.8mm(範囲1.97〜4.59mm)。6か月後、相対的歯肉退縮は平均2.1±0.7mm減少し、複合欠損の高さの70.0%±20.2%が軟組織で覆われました。相対的アタッチメントレベルも9.4→8.4mmと有意に獲得(p<.05)しています。
臨床的にいちばん意味があるのは、次の一文でしょう。10症例すべてで、修復物の根尖側マージンが歯肉組織に覆われていました。1mm根尖側にずらす、という設計の狙いどおりの結果です。
歯周組織の健康も保たれました。修復マージンが歯肉縁の近く、あるいは歯肉溝内に位置しているにもかかわらず、全患者でプロービング時の出血はなく、プロービング深さも浅いままでした(全顎のプラーク指数・出血指数は研究期間を通じて20%未満に維持)。
審美満足度は4.7±2.5から9.0±1.0へ有意に上昇(p=.001)。一方で、正直に読むべき数字もあります。象牙質知覚過敏のVASは2.8±3.2から1.6±3.2へと下がったものの、統計学的な有意差はつきませんでした。ベースラインで6名にあった知覚過敏は、6か月後も2名に残っています。
⑤明日の臨床へ——利点と、引き換えに払うもの
この設計の利点は3つです。①修復物が軟組織に覆われる部分がごくわずかなので、修復物が失敗しても外科をやり直さずに再修復できる。②修復を外科の前に済ませるので、術中のチェアタイムが短くなり、修復時の汚染リスクも下がる。③コンポジットレジンなので、グラスアイオノマーで問題になった変色を避けられる。
引き換えに払うものも、著者らは明記しています。健全な歯質をある程度削るということです。エマージェンスプロファイルを整えるための歯冠部のベベルと、移植片を適合させるためにくさび状欠損の鋭角を削る根面のオドントプラスティ。この削除量が、症例によっては術後の知覚過敏の残存や増悪につながりうる——実際、本研究でも1名は知覚過敏のVASが悪化しています。
今日のひとこと
歯肉退縮とNCCLが重なった複合欠損に対し、NCCLの「歯冠部分+根面1mm」だけをコンポジットレジンで修復し、その1週間後にCTG併用の歯冠側移動弁で被覆した10症例のケースシリーズ。修復マージンを推定CEJの1mm根尖側に置いたのが要点で、完全根面被覆に届かなくても根面が露出しないようにする設計です(二層法の完全被覆率は研究により10〜89%と幅がある)。複合欠損の高さは平均3.00±0.8mm(範囲1.97〜4.59mm)。6か月後、相対的歯肉退縮は平均2.1±0.7mm減少し、複合欠損の高さの70.0%±20.2%が軟組織で覆われました。相対的アタッチメントレベルも9.4→8.4mmと有意に獲得(p<.05)。10症例すべてで修復物の根尖側マージンが歯肉に覆われ、修復マージンが歯肉縁近くや歯肉溝内にあるにもかかわらず、全患者でプロービング時の出血はなく浅いプロービング深さを保ちました。審美満足度(VAS)は4.7±2.5から9.0±1.0へ有意に上昇(p=.001)。一方、象牙質知覚過敏は2.8±3.2から1.6±3.2へ下がったものの有意差はつかず、術前6名のうち2名で6か月後も残存しました。著者らはこの設計の代償として、エマージェンスプロファイルのベベルと根面のオドントプラスティによる健全歯質の削除を挙げ、これが知覚過敏の残存や増悪につながりうると明記しています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


