1問1答 論文 歯周病

日を空けて3回なぞっても、取り残した歯石は減らなかった

1問1答 論文 歯周病

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SRPを終えて、探針を走らせる。まだザラつく気がする。次の来院でもう一度なぞっておこうか——この判断を検証した研究があります。1996年、抜歯予定の35本を「1回だけSRP」「24時間以上あけて3回SRP」「何もしない」の3群に分け、抜歯後の根面を顕微鏡で数えました。結果は、3回やっても残る歯石は1回のときと変わらなかった。ポケットが深くても浅くても、どの面でも同じでした。

論文
Effectiveness of Subgingival Scaling and Root Planing: Single Versus Multiple Episodes of Instrumentation
著者
Anderson GB, Palmer JA, Bye FL, Smith BA, Caffesse RG
掲載
Journal of Periodontology 1996;67(4):367-373
種類
ヒト抜去歯を用いた臨床研究。抜歯予定の35本(15人)のうち、同一患者内の2本を無作為に1回SRP群・3回SRP群へ割り付けた(条件を満たす3本目があれば対照とした=対照は無作為化されていない)
PMID
8708961

「まだザラつく気がする」——もう一度なぞるか

SRPを終えて、探針を走らせる。滑らかになった、はずだ。でもこの遠心、まだ引っかかる気がする。

ここで手を止めるか、日を改めてもう一度なぞるか。回数を重ねれば、そのぶん歯石は減るのか。日々の診療で誰もが一度は迷う判断です。

1996年、AndersonらとCaffesseがこの問いを、いちばん直接的な方法で確かめました。SRPをした歯を抜いて、根面に残った歯石を顕微鏡で数える。臨床パラメータではなく、残存歯石そのものを測ったのがこの研究の強みです。

先に結論: SRPをすれば歯石は明らかに減る。しかし24時間以上あけて3回繰り返しても、1回のときと残る量に差は出なかった。面を問わず、ポケットの深さを問わず、同じでした。

抜歯予定の35本を、同じ口の中で3群に分ける

対象は、全部床義歯の予定、または歯周病で抜歯が決まっていた15人(男性10人・女性5人/27〜73歳)。全員から、歯石の量が同じ程度の歯を2本以上選びました。

この「同じ患者の中で比べる」設計が効いています。歯石の付き方も、清掃習慣も、唾液の性状も揃うからです。合計35本を、次のように割り付けました。

  • A群(15本):SRPを1回だけ。10分以内、または根面が滑沢になるまで
  • B群(15本):初回のSRPに加え、24時間以上あけて2回、5分以内の追加SRP(合計3回・最大20分)
  • C群(5本)何もしない対照。器具を一切入れない

1本の患者につき2本の実験歯を用意し、2回目の来院時に、どちらをB群にするかを無作為に決めています。同じ基準を満たす3本目があった場合にのみ、それを対照としました(対照は無作為に割り付けられていません)。

3回目の器具操作が終わった直後、すべての歯をただちに抜歯。1%メチレンブルーで2分染色し、実体顕微鏡(6.3/12.5倍)で観察しました。接眼レンズには10×10=100マスの格子が入っており、歯肉縁から結合組織付着のラインまでの範囲で、歯石のあるマスを数えて割合を出すという手法です。近心・頬側・遠心・舌側の4面を、同一の検者が計測しました。

3回やっても、残る歯石は減らなかった

0 26.7% 53.3% 80% 根面に残った歯石の割合(%) 25% 23.7% 70% 1回だけSRP 3回SRP(24h間隔) 何もしない(対照) 抜歯後にメチレンブルーで染色し、実体顕微鏡の格子で計測した残存歯石の平均。1回 vs 3回は有意差なし。1回・3回とも対照との差は有意(P<.0004 / P<.0015)
根面に残った歯石の割合。器具を入れなかった歯は70%、SRPをした歯は25%前後。しかし1回と3回の間に差はない

数字ははっきりしています。

  • A群(1回):残存歯石 25.0%(範囲11.6〜32.8%)
  • B群(3回)23.7%(範囲11.5〜44.8%)
  • C群(対照)70.0%(範囲55.6〜76.9%)

SRPをした歯は、対照と比べて明らかに歯石が少ない(A群 P<.0004、B群 P<.0015)。器具操作そのものは、確かに効いています

一方で、1回と3回の差は有意ではありませんでした。歯石の「総カウント」で見ても同じで、1回 5.2 に対して3回 4.7、対照は 13.5 です。

面ごとに分けても結果は変わりません。近心 22.9% vs 22.6%(P=.9461)、頬側 29.2% vs 29.7%(P=.9120)、遠心 20.9% vs 18.8%(P=.5464)、舌側 26.8% vs 23.5%(P=.5031)。4面すべてで有意差なし、全体でもP=.4909でした。

ここで一つ、読み方の注意を挟んでおきます。「有意差なし」は「同等であることの証明」ではありません。この研究は各群15本で、非劣性を検証する設計にはなっていない。著者ら自身も結論で「取れない」とは書かず、「取り除かれそうにない(is not likely to be removed)」という控えめな表現を選んでいます。

深いポケットでも、答えは同じだった

0 2.7 5.3 8 残った歯石の総カウント(1面あたり平均) 4.5 4.4 5.1 4.5 7 6 1.0〜3.0mm 3.5〜6.0mm 6.5mm以上 ポケットが深いほど残る歯石は増える。ただし1回と3回の差は、どの深さでも有意差なし(P=.9219 / .4805 / .5939)
ポケットの深さ別に見た残存歯石の総カウント(濃い棒=1回SRP、淡い棒=3回SRP)。深いほど歯石は多く残るが、1回と3回の差はどの深さでも出なかった

「浅いところはともかく、深いポケットなら繰り返す意味があるのでは」。そう考えたくなりますが、著者らはそこも分けて調べています。

1.0〜3.0mm、3.5〜6.0mm、6.5mm以上の3区分で比較したところ、ポケットが深くなるほど残る歯石の総カウントは増えました(1回SRPで4.5→5.1→7.0)。ここは臨床実感どおりです。

ところが「割合(%)」で見ると逆になります。1回SRPで28.0%→24.1%→22.7%と、深いポケットほど残存歯石の割合は下がっている。著者らはこれを「一見矛盾する結果」として1段落を割いて論じ、器具操作の時間制限が原因だろうと説明しています。深いポケットでは器具が触れる面積そのものが広いため、割合の分母が大きくなる。だから「量」を表す総カウントのほうが実態に近い、というのが著者らの見解です。

そして1回と3回の比較は、どの深さでも有意差なし(P=.9219 / .4805 / .5939)。深いポケットほど繰り返す価値がある、という期待は支持されませんでした。ただし6.5mm以上の区分は、1回群8面・3回群9面と非常に少ない。ここだけを取り出して結論とするには弱いデータです。

なぜ、繰り返しても取れないのか

この研究が示したのは「SRPが効かない」ではありません。1回の丁寧なSRPで取り残されたものは、同じ条件でなぞり直しても取れないということです。

著者らは理由をいくつか挙げています。

  • 器具が届いていない:ポケットが深い、根面に欠損や溝がある、根面の形態が複雑
  • 取り残しに気づけない:Shermanらは、臨床的に残存歯石を検知する検者間・検者内の一致率が低いと報告している。「滑沢=きれい」とは限らない
  • バーニッシュト・カリキュラス:器具でこすられて平滑になった歯石は、探針で引っかからない。滑らかさを指標にすると見逃す

つまり取り残しの原因は「回数不足」ではなく「アクセスと検知の限界」。同じアクセス・同じ検知能力でもう一度なぞっても、同じ場所が同じように残るわけです。

明日の臨床へ

この研究には、見落とせない条件が1つあります。再SRPまでの間隔が24時間程度で、全工程が数日のうちに終わっていること。著者らも結論で「ポケット深さの減少が起こる余地を与えないまま」と明記しています。

ここから導けるのは、次のような整理です。

  • 数日のうちに「念のため」なぞり足す意味は乏しい。時間をかけるなら、初回を丁寧にやり切るほうに配分する
  • 再SRPは「治癒を待ってから」が筋。炎症が引いてポケットが浅くなれば、器具のアクセスという条件そのものが変わる。この研究が検証しなかったのは、まさにこの「条件が変わってからの再SRP」である
  • それでも取り切れない部位が残る。25%前後という数字は、丁寧にやっても計測した範囲(歯肉縁から結合組織付着まで)の4分の1に歯石が残ることを意味する。再評価で改善しない深いポケットに対して、外科的アプローチという選択肢が視野に入る根拠がここにある

もう一点。この研究の1回SRPは10分以内、3回でも合計20分以内という時間制限つきでした。「じっくり時間をかけた1回」の価値までは否定していません。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの注意: 対象は抜歯が決まっていた歯で、15人・35本と規模は小さめです(対照はわずか5本)。歯周組織の治癒やポケットの変化といった臨床アウトカムは評価しておらず、見ているのは「根面に残った歯石の量」だけです。そして「有意差なし」は「1回と3回が同等である」ことの証明ではありません。原著には使用した器具の種類(手用か超音波か)の記載もなく、現在の器材にそのまま当てはめられるかは分かりません。それでも、抜歯して顕微鏡で直接数えたという設計の強さは今も色あせず、Baderstenらが臨床パラメータで示した「反復に上乗せ効果なし」という結果とも一致しています。2つの異なる方法が同じ答えに辿り着いた——そこにこの論文の価値があります。

今日のひとこと

抜歯予定の35本を1回だけSRP・24時間以上あけて3回SRP・何もしない、の3つに分け、抜歯直後の根面を顕微鏡で計測した。残った歯石は1回で25.0%、3回で23.7%、器具を入れなかった歯では70.0%。SRPをすれば歯石は明らかに減る(P<.0004)が、3回やっても1回との間に有意差は出なかった。近心・頬側・遠心・舌側のどの面でも、ポケットが1〜3mmでも6.5mm以上でも同じである。著者らは「1回の十分なSRPで取り残された歯石は、器具操作を繰り返しても取れそうにない」と控えめに述べている。ただしこれは2〜3日のうちに繰り返した場合の話であり、組織が治ってポケットが浅くなるのを待つ再SRPは、この研究では評価されていない。短い間隔でなぞり足すより、初回を丁寧にやり切り、治癒を待って条件を変えるほうに意味がある。

出典:Anderson GB, Palmer JA, Bye FL, Smith BA, Caffesse RG. Effectiveness of subgingival scaling and root planing: single versus multiple episodes of instrumentation. J Periodontol 1996;67(4):367-373. PMID: 8708961
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。