ペリオ|ペリオ論文100選
SRPを終えて、探針を走らせる。まだザラつく気がする。次の来院でもう一度なぞっておこうか——この判断を検証した研究があります。1996年、抜歯予定の35本を「1回だけSRP」「24時間以上あけて3回SRP」「何もしない」の3群に分け、抜歯後の根面を顕微鏡で数えました。結果は、3回やっても残る歯石は1回のときと変わらなかった。ポケットが深くても浅くても、どの面でも同じでした。
①「まだザラつく気がする」——もう一度なぞるか
SRPを終えて、探針を走らせる。滑らかになった、はずだ。でもこの遠心、まだ引っかかる気がする。
ここで手を止めるか、日を改めてもう一度なぞるか。回数を重ねれば、そのぶん歯石は減るのか。日々の診療で誰もが一度は迷う判断です。
1996年、AndersonらとCaffesseがこの問いを、いちばん直接的な方法で確かめました。SRPをした歯を抜いて、根面に残った歯石を顕微鏡で数える。臨床パラメータではなく、残存歯石そのものを測ったのがこの研究の強みです。
②抜歯予定の35本を、同じ口の中で3群に分ける
対象は、全部床義歯の予定、または歯周病で抜歯が決まっていた15人(男性10人・女性5人/27〜73歳)。全員から、歯石の量が同じ程度の歯を2本以上選びました。
この「同じ患者の中で比べる」設計が効いています。歯石の付き方も、清掃習慣も、唾液の性状も揃うからです。合計35本を、次のように割り付けました。
- A群(15本):SRPを1回だけ。10分以内、または根面が滑沢になるまで
- B群(15本):初回のSRPに加え、24時間以上あけて2回、5分以内の追加SRP(合計3回・最大20分)
- C群(5本):何もしない対照。器具を一切入れない
1本の患者につき2本の実験歯を用意し、2回目の来院時に、どちらをB群にするかを無作為に決めています。同じ基準を満たす3本目があった場合にのみ、それを対照としました(対照は無作為に割り付けられていません)。
3回目の器具操作が終わった直後、すべての歯をただちに抜歯。1%メチレンブルーで2分染色し、実体顕微鏡(6.3/12.5倍)で観察しました。接眼レンズには10×10=100マスの格子が入っており、歯肉縁から結合組織付着のラインまでの範囲で、歯石のあるマスを数えて割合を出すという手法です。近心・頬側・遠心・舌側の4面を、同一の検者が計測しました。
③3回やっても、残る歯石は減らなかった
数字ははっきりしています。
- A群(1回):残存歯石 25.0%(範囲11.6〜32.8%)
- B群(3回):23.7%(範囲11.5〜44.8%)
- C群(対照):70.0%(範囲55.6〜76.9%)
SRPをした歯は、対照と比べて明らかに歯石が少ない(A群 P<.0004、B群 P<.0015)。器具操作そのものは、確かに効いています。
一方で、1回と3回の差は有意ではありませんでした。歯石の「総カウント」で見ても同じで、1回 5.2 に対して3回 4.7、対照は 13.5 です。
面ごとに分けても結果は変わりません。近心 22.9% vs 22.6%(P=.9461)、頬側 29.2% vs 29.7%(P=.9120)、遠心 20.9% vs 18.8%(P=.5464)、舌側 26.8% vs 23.5%(P=.5031)。4面すべてで有意差なし、全体でもP=.4909でした。
ここで一つ、読み方の注意を挟んでおきます。「有意差なし」は「同等であることの証明」ではありません。この研究は各群15本で、非劣性を検証する設計にはなっていない。著者ら自身も結論で「取れない」とは書かず、「取り除かれそうにない(is not likely to be removed)」という控えめな表現を選んでいます。
④深いポケットでも、答えは同じだった
「浅いところはともかく、深いポケットなら繰り返す意味があるのでは」。そう考えたくなりますが、著者らはそこも分けて調べています。
1.0〜3.0mm、3.5〜6.0mm、6.5mm以上の3区分で比較したところ、ポケットが深くなるほど残る歯石の総カウントは増えました(1回SRPで4.5→5.1→7.0)。ここは臨床実感どおりです。
ところが「割合(%)」で見ると逆になります。1回SRPで28.0%→24.1%→22.7%と、深いポケットほど残存歯石の割合は下がっている。著者らはこれを「一見矛盾する結果」として1段落を割いて論じ、器具操作の時間制限が原因だろうと説明しています。深いポケットでは器具が触れる面積そのものが広いため、割合の分母が大きくなる。だから「量」を表す総カウントのほうが実態に近い、というのが著者らの見解です。
そして1回と3回の比較は、どの深さでも有意差なし(P=.9219 / .4805 / .5939)。深いポケットほど繰り返す価値がある、という期待は支持されませんでした。ただし6.5mm以上の区分は、1回群8面・3回群9面と非常に少ない。ここだけを取り出して結論とするには弱いデータです。
⑤なぜ、繰り返しても取れないのか
この研究が示したのは「SRPが効かない」ではありません。1回の丁寧なSRPで取り残されたものは、同じ条件でなぞり直しても取れないということです。
著者らは理由をいくつか挙げています。
- 器具が届いていない:ポケットが深い、根面に欠損や溝がある、根面の形態が複雑
- 取り残しに気づけない:Shermanらは、臨床的に残存歯石を検知する検者間・検者内の一致率が低いと報告している。「滑沢=きれい」とは限らない
- バーニッシュト・カリキュラス:器具でこすられて平滑になった歯石は、探針で引っかからない。滑らかさを指標にすると見逃す
つまり取り残しの原因は「回数不足」ではなく「アクセスと検知の限界」。同じアクセス・同じ検知能力でもう一度なぞっても、同じ場所が同じように残るわけです。
⑥明日の臨床へ
この研究には、見落とせない条件が1つあります。再SRPまでの間隔が24時間程度で、全工程が数日のうちに終わっていること。著者らも結論で「ポケット深さの減少が起こる余地を与えないまま」と明記しています。
ここから導けるのは、次のような整理です。
- 数日のうちに「念のため」なぞり足す意味は乏しい。時間をかけるなら、初回を丁寧にやり切るほうに配分する
- 再SRPは「治癒を待ってから」が筋。炎症が引いてポケットが浅くなれば、器具のアクセスという条件そのものが変わる。この研究が検証しなかったのは、まさにこの「条件が変わってからの再SRP」である
- それでも取り切れない部位が残る。25%前後という数字は、丁寧にやっても計測した範囲(歯肉縁から結合組織付着まで)の4分の1に歯石が残ることを意味する。再評価で改善しない深いポケットに対して、外科的アプローチという選択肢が視野に入る根拠がここにある
もう一点。この研究の1回SRPは10分以内、3回でも合計20分以内という時間制限つきでした。「じっくり時間をかけた1回」の価値までは否定していません。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
抜歯予定の35本を1回だけSRP・24時間以上あけて3回SRP・何もしない、の3つに分け、抜歯直後の根面を顕微鏡で計測した。残った歯石は1回で25.0%、3回で23.7%、器具を入れなかった歯では70.0%。SRPをすれば歯石は明らかに減る(P<.0004)が、3回やっても1回との間に有意差は出なかった。近心・頬側・遠心・舌側のどの面でも、ポケットが1〜3mmでも6.5mm以上でも同じである。著者らは「1回の十分なSRPで取り残された歯石は、器具操作を繰り返しても取れそうにない」と控えめに述べている。ただしこれは2〜3日のうちに繰り返した場合の話であり、組織が治ってポケットが浅くなるのを待つ再SRPは、この研究では評価されていない。短い間隔でなぞり足すより、初回を丁寧にやり切り、治癒を待って条件を変えるほうに意味がある。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


