ペリオ|Phase4 メインテナンス
SPT(サポーティブ・ペリオドンタル・セラピー)では、3か月ごとに歯肉縁上の清掃と口腔衛生指導を行い、そこへ縁下の器具操作を加えるのが通例です。この「縁下」の部分は、本当に毎回必要なのか。2019年、62名を2年間追った無作為化臨床試験が、正面から比べました。
①3か月ごとの「縁下」は、毎回必要か
SPTの中身は、多くの医院でほぼ決まっています。歯肉縁上のプロフィラキシス、口腔衛生指導、そして縁下の器具操作。治療前のレベルへ歯周病原細菌がリバウンドするのを防ぐため、繰り返しの器具操作と縁下プラークの機械的除去が不可欠だと提唱されてきました。
一方で、反対方向の知見もあります。Gomesら(2007)は、未治療の歯周炎患者で、縁上プロフィラキシスのみを行い6か月間毎週の口腔衛生チェックを続けたところ、PPD 6mm以上の部位でもPPDとBOPの有意な減少と臨床的アタッチメントの獲得が得られたと報告しています。さらに、縁下器具操作の繰り返しは時間とコストがかかり、歯肉退縮・アタッチメントロス・知覚過敏を引き起こしうるという指摘もありました。
Jenkinsら(2000)は、SPTを縁上プラークコントロールのみで行う群と縁下デブライドメントを併用する群を比べた最初の研究で、12か月時点で2mm以上のアタッチメントを失った部位はそれぞれ16.1%と14.4%であり、群間差はなかったと報告しています。
この論文は、そこから2年間の無作為化試験として設計されました。
②62名を、3か月ごとに2年
対象は、CDC分類で中等度〜重度の歯周炎と診断され、非外科的プロトコルで治療を終えた患者。治癒3か月後に62名が連続サンプルとしてSPT研究に入りました。選択基準は35歳以上、12歯以上の残存、歯周予後に影響する全身疾患がない、直近3か月に全身的抗菌薬を使っていない、固定式矯正装置がない、妊娠・授乳中でない。
喫煙習慣で層別したうえで、4名・6名のブロックでウェブベースの無作為化を行い、不透明な封筒で割付けを隠蔽しています。
- テスト群(31名):全期間を通じて、全顎の縁上プロフィラキシスと口腔衛生指導のみ。歯肉縁までの縁上デブライドメント、研磨、そして毎回の来院時に評価したプラークと辺縁の出血に基づく個別指導
- 対照群(31名):上記に加えて、全部位への縁下器具操作(局所麻酔なし)。先行する非外科治療で縁下歯石はほぼ消失していたため、この操作の目的は縁下バイオフィルムの除去・破壊
両群とも歯ブラシ・歯間清掃器具(フロス、歯間ブラシ)・フッ化物配合歯磨剤が提供され、洗口剤は使わないよう指示。器具は歯周キュレットとファイル。校正済みの4名の歯周病専門医が、割付けを知らされないまま7時点の臨床評価を担当し、術者と評価者は分離されています。
57名が2年間を完遂(脱落5名:転居2名、うつ状態1名、来院なし2名)。疾患進行による除外はゼロでした。
③2年後、両群は同じところに着地した
BOPはテスト群17.2%→12.9%、対照群18.3%→14.2%。いずれも群内で有意に減少しましたが(それぞれP<0.001、P=0.006)、群間差はありませんでした(P=0.973)。
VPIはテスト群26.2%→15.5%、対照群24.2%→15.2%。こちらも群内で有意に減少し(ともにP<0.001)、群間差なし(P=0.890)。著者らは「SPT期間の開始時に約25%だったVPIが、研究終了時には両群とも15%まで徐々に低下した」ことを、この研究のもうひとつの成果として書いています。
他の指標も同様です。
- PPD:テスト群2.32→2.23mm、対照群2.17→2.15mm。群内で有意に減少(ともにP<0.001)、群間差なし(P=0.289)。なおベースラインのPPDはテスト群のほうが有意に大きかった(2.32 vs 2.17、P=0.03)
- CAL:両群とも約0.1mmの小さいが有意な増加(テスト群P=0.001、対照群P<0.001)、群間差なし(P=0.224)
- GBI(歯肉出血指数):両群とも同程度に有意に増加した
- PPD 4mm以上・5mm以上の部位数にも、群間で有意差はなかった
そして、細部にだけ差が出ます。
- PPD 5mm以上の部位では、PPD減少の可能性がテスト群のほうが大きかった(性別・喫煙習慣によらずP=0.034)
- CAL 5mm以上の部位では、対照群でCALが経時的に増加し(P<0.001)、テスト群では増加が見られなかった(群間 P=0.024)
- ±2mmのアタッチメント獲得・喪失部位の分布は両群で同様。獲得した部位数が喪失した部位数を上回っていた
著者らはこの「テスト群優位」に見える所見の解釈に慎重です。ベースラインでテスト群のPPDが大きかったこと、深い部位の数がそもそも非常に少なかったことを挙げ、「テストが対照より優れているという強い結論を出すことはほとんどできない。せいぜい、2つの治療法の効果に臨床的に意味のある差はない、と結論できる」と書いています。
④差が出なかった理由と、喫煙の影響
なぜ縁下器具操作を足しても変わらなかったのか。著者らの説明は、縁上に軸足を置いています。
「患者は3か月ごとに全顎の縁上プロフィラキシスを受け、そのたびに”ゼロからのプラーク形成”という状況に置かれた。先行する非外科治療での口腔衛生指導と、SPT時の頻回な縁上プロフィラキシスの組み合わせが、縁下細菌に有益な影響を与えた可能性がある」。そして「改善された口腔衛生と頻回な縁上プロフィラキシスの組み合わせが、縁下の細菌叢に有益な効果をもたらしたのかもしれない」と述べます。
もうひとつ重要なのが喫煙です。両群に12名ずつの喫煙者が含まれていました。ベースラインでPPD 4mm以上および5mm以上の部位において、喫煙者は非喫煙者に比べ、経時的にPPD増加とアタッチメントロスを生じやすかった(PPD 4mm以上でP=0.027・P=0.012、PPD 5mm以上でP=0.020)。これは、6年間のメインテナンスを調べた研究で累積喫煙曝露が歯周炎の再発と有意に関連したという報告とも一致します。
また、BOPの頻度(2年8回の検査のうち5回以上陽性)は、アタッチメントを失った部位のほうが獲得した部位より常に高かった——ただし著者ら自身が、アタッチメントを失った部位数がごく少ないためこの解釈は限定的であり、頻回のBOPはアタッチメントを獲得した部位にも見られたと付記しています。
⑤明日の臨床へ
第一に、SPTの主役は縁上と口腔衛生である。著者らは「本研究は、患者と専門家の努力の総和である適切な縁上プラークコントロールの重要性を浮き彫りにする」と書いています。この治療法は縁下への専門的介入より一見簡単に見えるが、良い結果を得るには専門家と患者の双方に理解と特別な技術を要する——という補足も添えられています。
第二に、適用範囲を見誤らない。この研究の対象は、非外科治療によく反応し、SPT開始時の平均PPDが2.32mm・2.17mmまで下がった患者です。著者らは「非外科治療前の平均ポケット深さが4mm程度あるような、より重症の集団では、縁上プロフィラキシス+口腔衛生指導だけでは適切なSPTにならないかもしれない」と明記しています。一方で「疫学研究のデータからは、本研究集団の疾患レベルは50歳の歯周炎患者の大多数に当てはまりうる」とも述べています。
第三に、喫煙者は別枠で見る。同じSPTを受けていても、喫煙者では深い部位のPPD増加とアタッチメントロスが起きやすい。禁煙支援を含めた設計が要ります。
今日のひとこと
テスト群(31名)は歯肉縁上のプロフィラキシス+口腔衛生指導のみ、対照群(31名)はそれに加えて全部位への縁下器具操作(縁下バイオフィルムの除去・破壊が目的、麻酔なし)を受けた。2年間で両群ともプラーク指数(VPI)・PPD・BOPが有意に減少し、CALは約0.1mm増加したが、群間に有意差はなかった(VPI P=0.890、PPD P=0.289、BOP P=0.973)。VPIは開始時の約25%から、両群とも15%まで低下した。PPD 5mm以上の部位では、PPDの減少がテスト群のほうが大きかった(性別・喫煙習慣によらずP=0.034)。一方、CAL 5mm以上の部位では対照群でCALが増加し(P<0.001)、テスト群では増加が見られなかった(群間 P=0.024)。±2mmのアタッチメント獲得・喪失部位の分布は両群で同様だった。喫煙者は、ベースラインでPPD 4mm以上の部位においてPPD増加とアタッチメントロスを生じやすかった(それぞれP=0.027、P=0.012)。著者らの結論は「非外科治療に反応した中等度〜重度歯周炎患者では、縁上プロフィラキシス+口腔衛生指導は、縁下器具操作を加えた場合と同程度に2年間、獲得した歯周状態を維持できた」。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


