1問1答 論文 歯周病

毎日フロスを使う人は3人に1人だった

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase4 メインテナンス

「フロス、使ってくださいね」と伝えて、患者は実際どれくらい使っているのか。アメリカの国民健康栄養調査(NHANES)から8,356名を解析した2018年の報告は、毎日使っている人が31.6%だと示しました。そして、使わない人の輪郭も描き出しています。

論文
Prevalence of daily flossing among adults by selected risk factors for periodontal disease—United States, 2011-2014
著者
Fleming EB, Nguyen D, Afful J, Carroll MD, Woods PD
掲載
Journal of Periodontology 2018;89(8):933-939
種類
横断研究(米国NHANES 2011-2012・2013-2014の全国代表サンプル/30歳以上・歯のある成人8,356名/自己申告による過去7日間のフロス使用日数を、人口統計学的要因と歯周病リスク因子で層別しロジスティック回帰で解析)
PMID
29644699

「フロス使ってますか」の答えは、どこまで本当か

歯間清掃の重要性は、ここまで見てきた予防プログラムの研究が繰り返し示してきたとおりです。歯ブラシではプラークを隣接面から完全には除去できず、フロスは米国歯科医師会が挙げる最も広く使われる歯間清掃法——ただし、実際にどれだけの人が使っているのかという問いに、全国規模で答えたデータは多くありません。

米国成人のほぼ半数が歯周病を有しており、年齢・性別・人種・所得・学歴・喫煙・コントロール不良の糖尿病がリスク因子とされています「歯周病のリスク因子を持つ成人が、どれだけフロスを使っているか」はほとんど分かっていなかった——著者らはそこに照準を合わせました。

使ったのはNHANES(米国国民健康栄養調査)です。1999年から継続的に収集され、高度に層別化された多段確率抽出により米国の非施設収容人口を代表するように設計された調査2011-2014年の30歳以上の面接・検査の回答率はそれぞれ65.7%・63.3%でした。

先に結論: 毎日フロスを使う成人は31.6%。週1〜6日が36.6%、まったく使わない人が31.9%使う割合が低いのは、若い人・男性・低所得・喫煙者調整後も、喫煙者は毎日使うオッズが低かった(オッズ比 0.82)

8,356名に「先週、何日使いましたか」と聞く

2011-2014年に30歳以上の9,379名がNHANESに参加。口腔健診データ欠測345名、無歯顎669名、フロスの質問データ欠測9名を除いた8,356名が最終解析対象です。除外された1,023名と解析対象の間に、社会人口統計学的特性・喫煙・糖尿病の診断で差はありませんでした

質問は具体的です。「歯ブラシで歯を磨くこと以外に、この7日間で、デンタルフロスや歯と歯の間を清掃する器具を何日使いましたか」——回答は0〜7日。0日=使わない、1〜6日=ときどき、7日=毎日、の3群に分けていますこの分析での「フロス」は、デンタルフロスに限らず歯間清掃に使うあらゆる器具を含みます

喫煙は「過去5日以内に紙巻きタバコ・葉巻・無煙タバコ・噛みタバコ・嗅ぎタバコを使ったか」で判定(電子タバコは歯肉疾患との関連の根拠がないため除外)糖尿病は「医師などから糖尿病と言われたことがあるか」で判定共変量は年齢・性別・人種/ヒスパニック系・貧困状態・学歴です。

3人に1人、そして3人に1人はゼロ

0 11.7% 23.3% 35% 成人に占める割合 (%) 31.9% 7.4% 9% 9% 5.4% 4.2% 1.5% 31.6% 0日 1日 2日 3日 4日 5日 6日 7日 米国30歳以上の成人8,356名。過去7日間にフロスや歯間清掃器具を使った日数。両端に人が集まり、中間は薄い
過去7日間のフロス使用日数の分布。両端(0日と7日)に人が集まっている

使用日数の分布は、両端に山ができる形でした。0日が31.9%、7日が31.6%。その間は1日7.4%、2日9.0%、3日9.0%、4日5.4%、5日4.2%、6日1.5%「まったくやらない人」と「毎日やる人」がほぼ同数で、中間は薄い——習慣の有無で二極化している構図です。

0 14% 28% 42% 毎日フロスを使う人の割合 (%) 26% 36.8% 27.2% 37.1% 23.6% 33.1% 男性 女性 30〜44歳 65〜74歳 現喫煙者 非喫煙者 年齢調整済みの割合。全体では31.6%。所得では貧困線130%未満25.3%に対し350%超35.5%
毎日フロスを使う人の割合。属性で20〜37%の幅がある

属性別に見ると、差ははっきりしています。

  • 性別:男性26.0%、女性36.8%
  • 年齢:30〜44歳27.2%、45〜64歳32.7%、65〜74歳37.1%、75歳以上34.4%。若い層ほど低い
  • 人種/ヒスパニック系:非ヒスパニック系アジア人38.4%、ヒスパニック系34.5%、非ヒスパニック系白人31.2%、非ヒスパニック系黒人28.7%
  • 所得(貧困線に対する家族所得比):130%未満25.3%、130〜350%30.4%、350%超35.5%
  • 学歴:高校未満24.5%、高校卒31.3%、一部大学31.5%、大卒以上35.3%
  • 喫煙:現喫煙者23.6%、非喫煙者33.1%
  • 糖尿病:診断あり29.5%、診断なし31.9%

そして調整後のオッズ比です(性別・年齢・人種・貧困・学歴で調整)。

  • 女性は男性に対し1.78(95%CI 1.46-2.16)
  • 45〜64歳は30〜44歳に対し1.24(1.01-1.52)、65〜74歳は1.67(1.18-2.35)、75歳以上は1.29(0.88-1.91)
  • 非ヒスパニック系アジア人は白人に対し1.63(1.22-2.18)、ヒスパニック系は1.54(1.19-2.00)、黒人は1.10(0.83-1.46)
  • 最高所得層は最低所得層に対し1.68(1.30-2.18)
  • 現喫煙者は非喫煙者に対し0.82(0.68-0.99)
  • 糖尿病の診断ありは0.75(0.52-1.08)で有意差なし
  • 学歴では、調整後は有意差が消えた(P=0.272)
数字の読み方について。ここに出てくるのはオッズ比であり、「1.78倍」と読み替えることはできません。フロスを毎日使う人は3割前後と決してまれではないため、オッズ比はリスク比よりも大きく出ます。実際の割合で見ると、女性36.8%対男性26.0%=リスク比 約1.4倍(本文の割合から計算)で、オッズ比1.78よりかなり小さい数字になります。

フロスそのものの効果については、著者らも慎重

この論文が誠実なのは、フロスの有効性論争に触れている点です。

「フロスの有効性と、フロスが歯周疾患の予防に果たす役割について、メディアでの議論が高まっている」と書いたうえで、Sambunjakらの2012年のコクランレビュー(12試験)を引用します——「フロスがプラークを減らすことを支持する、あるいは否定する根拠はない」ただし1か月・3か月時点でプラークのわずかな減少があり、レビューの著者らは「フロスはブラッシングに対する効果的な補助であり、重要な利益は潜在的な害を上回る」と結論しているとも併記しています。

本研究の著者らは「この系統的レビューの結果は、毎日のフロス使用の有効性を検討する追加研究が有用でありうることを示唆している」と述べるにとどめました。この論文が扱っているのは「効くかどうか」ではなく「誰が実際にやっているか」であり、その区別を明示しているのが読みどころです。

もう1点。この研究は非ヒスパニック系アジア人のフロス使用率を報告した初めての研究です。2011-2012年の歯周炎の有病率は非ヒスパニック系アジア人50%、ヒスパニック系63.1%、非ヒスパニック系黒人59.1%で、いずれも非ヒスパニック系白人(40.8%)より高いところがフロス使用率はアジア人・ヒスパニック系のほうが高く、歯周炎の分布と一致しない——この不一致は、行動だけでは疾患の格差を説明できないことを示しています。

明日の臨床へ

第一に、「使っています」という自己申告の重みを知っておく著者ら自身が限界として、自己申告データに伴う社会的望ましさバイアスを挙げています。それでも全国代表サンプルで3割という数字は、診療室での実感と照らす座標になります。

第二に、指導の焦点は「若年・男性・喫煙者」に置く30〜44歳27.2%、男性26.0%、喫煙者23.6%——この3つは重なりやすく、しかも喫煙は歯周病そのもののリスク因子です。調整後も喫煙者は毎日使うオッズが低い(0.82)ことは、禁煙支援と歯間清掃の指導を切り離さない理由になります。

第三に、高齢者には器具の選択肢を広げる著者らは「フロスの使用は身体的な制限のある高齢者にとって障壁になりうる」としつつ、「歯間ブラシや口腔洗浄器など他の清掃器具があり、高齢者のフロス使用頻度を高めうる」と書いています。この研究の質問自体が「フロスまたは歯間を清掃する器具」を含んでいる点も、指導の幅を示唆しています。

ここだけ、冷静に補助線。横断研究であり、自己申告に基づくデータです。過去1週間について尋ねているため、長期的なパターンを反映しない可能性があると著者らは述べています。また臨床的な歯周病データや歯の喪失データは含まれておらず、フロス使用と歯周病の関連そのものは検討されていません。それでも、全国代表サンプルで歯周病リスク因子別のフロス使用率を報告した最初の研究であり、喫煙を紙巻きタバコに限らず葉巻・無煙タバコ・噛みタバコ・嗅ぎタバコまで含めて定義した点は、この分野では珍しい強みです。

今日のひとこと

米国の30歳以上の成人で、毎日フロスを使う人は31.6%(SE 0.8)。週1〜6日が36.6%、まったく使わない人が31.9%だった毎日使う割合は、男性26.0%に対し女性36.8%年齢では30〜44歳27.2%、45〜64歳32.7%、65〜74歳37.1%、75歳以上34.4%と、若年層で最も低い収入では貧困線130%未満25.3%に対し350%超35.5%、学歴では高校未満24.5%に対し大卒以上35.3%喫煙者は23.6%、非喫煙者は33.1%共変量を調整したオッズ比では、女性1.78(95%CI 1.46-2.16)、65〜74歳1.67(1.18-2.35)、非ヒスパニック系アジア人1.63(1.22-2.18)、ヒスパニック系1.54(1.19-2.00)、最高所得層1.68(1.30-2.18)が毎日フロスを使うオッズが高かった現喫煙者は0.82(0.68-0.99)と低く、糖尿病の診断歴では有意差はなかった(0.75、0.52-1.08)調整後は学歴による有意差は消えた

出典:Fleming EB, Nguyen D, Afful J, Carroll MD, Woods PD. Prevalence of daily flossing among adults by selected risk factors for periodontal disease—United States, 2011-2014. J Periodontol 2018;89(8):933-939. PMID: 29644699
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。