歯周病と抗CCP抗体(長浜スタディ・9,554人)
「歯周病とリウマチが関係する」という話は、この十数年でよく聞くようになりました。ですが日本人の大規模なデータは多くありません。滋賀県長浜市の一般住民9,554人を調べた研究があります。歯周病と関連したのは、リウマチの自己抗体のうち一方だけ。もう一方とは、まったく関連しませんでした。この「片方だけ」が効いています。
①「歯周病とリウマチ、関係あるんですか」と聞かれたら
リウマチで通院中の患者さんから、あるいは内科の先生から、こう尋ねられることが増えました。「歯周病を治すとリウマチにいい、と聞いたんですが」。
関連を示す報告は確かに増えています。ですが「関連がある」と言うとき、何と何が、どのくらい結びついているのか——そこまで踏み込んだ日本の大規模データは、そう多くありませんでした。
②それまで:関連は言われていたが、切り分けが足りなかった
リウマチには代表的な自己抗体が二つあります。抗CCP抗体(ACPA)とリウマチ因子(RF)です。
この二つは性格が違います。抗CCP抗体はリウマチに非常に特異的で、発症の何年も前から陽性になることがあります。一方のリウマチ因子は、他の慢性炎症や感染症、加齢でも上がる——より非特異的な指標です。
ここが分かれ目になります。もし歯周病が両方と関連するなら、それは「慢性炎症があると自己抗体が出やすい」という一般的な話かもしれない。片方だけなら、話は変わってきます。
③今回の一手:健常者9,554人を、まとめて測った
滋賀県長浜市の一般住民コホート(長浜スタディ)から、9,554人の成人。リウマチの患者さんではなく、健康な人たちです。
全員で抗CCP抗体とIgM型リウマチ因子を定量し、歯周状態は3つの指標で評価しました——欠損歯数(MT)・CPI・付着喪失(LA)。そして歯周病・抗体それぞれと関連することが分かっている交絡因子で調整したうえで、関連を見ています。
④結果:関連したのは、抗CCP抗体だけだった
3つの歯周指標はいずれも、抗CCP抗体の陽性率と関連しました(欠損歯数 p=0.024、CPI p=0.0042、付着喪失 p=0.037)。さらに抗体価との関連はもっと強く、3指標とも p ≤ 0.00031 です。
ところがリウマチ因子とは、どの指標も関連しませんでした。
喫煙は歯周病のリスクであり、同時にリウマチのリスクでもあります。この研究では非喫煙者6,206人だけを取り出しても、同じ関連が残りました——喫煙が作った見かけの関連ではない、ということです。
⑤「片方だけ」であることの意味
この結果の切れ味は、数字の大きさではなく関連が絞られていることにあります。
もし歯周病が自己抗体全般と結びついていたなら、「慢性炎症があるといろいろな抗体が出る」という一般論で説明がついてしまいます。ですが実際には、シトルリン化されたペプチドに向けられた抗体とだけ結びついていました。
ここで、P. gingivalis がタンパク質をシトルリン化する酵素を持つ、という仮説が思い出されます。ただし注意が必要です——この研究はその機序を確かめたものではありません。示されたのは関連の「絞られ方」であって、絞られ方が仮説と噛み合うことと、仮説が正しいことは別です。
⑥明日の臨床へ
1)「歯周病を治せばリウマチが良くなる」とは、この研究からは言えません。健常者を一時点で調べた研究で、リウマチの発症も治療効果も見ていないからです。聞かれたら、ここは正直に線を引くべきところです。
2)それでも、口を診る理由にはなります。日本の一般住民で、喫煙を除いてもなお関連が残った。医科と話すときに使える、国内の数字です。
3)リウマチで通院中の方は、そもそも口腔ケアが難しい。手指の変形、薬剤による免疫の状態——関連の議論とは別に、実務上の配慮が要る患者さんたちです。
⑦ここだけ補助線
横断研究なので、前後関係は決められません。歯周病があるから抗体ができたのか、抗体ができやすい体質の人が歯周病にもなりやすいのか、この設計からは区別できません。
また対象は健常者で、リウマチを発症したかどうかは追っていません。抗CCP抗体が陽性でも発症しない人はいます。「抗体と関連した」は「発症と関連した」ではありません。
歯周状態の評価にCPIと欠損歯数を使っている点も、頭に入れておく価値があります。欠損歯数は歯周病以外の理由(う蝕・外傷)でも増えます。大規模研究では避けにくい割り切りですが、精密検査の6点法とは精度が違います。
今日のひとこと
歯周病の3指標(欠損歯数・CPI・付着喪失)すべてが、抗CCP抗体の陽性率と抗体価に関連した。ところがリウマチ因子とは、どの指標も関連しなかった。関連は「自己抗体一般」ではなく、シトルリン化に向けられた抗体に絞られていた。


